| 限界値(閾値)検査と治療摂取の手引き −−耐性導入法 の実際 |
2008.4.24(version 9.0)
これまでアトピー性皮膚炎をはじめとする食物アレルギーに対しては原因食物の除去という消極的な治療法しかありませんでした。アトピー性皮膚炎は治ったが食べられないものが残った、いつ食べられるようになるかわからない、こういう人たちが大勢残されてしまいました。
平成11年、私は食物アレルゲン食物を早く、安全、確実に食べられるようになる治療法、自己血注射による耐性導入法の開発に成功しました。耐性導入法の原理は除去をしているとき、適当な量のアレルゲンを食べたときだけ食物の限界値(食べても症状が出ないギリギリの量)が上がるということです。自己血注射は注射の後一時的に食物の限界値を上げることで耐性導入の効率を高めています。限界値が上昇して通常摂取量まで上がったなら、もうアレルゲンはアレルゲンでなくなります。
また限界値が上がるときにはアレルギーを起こしている有害な免疫反応を抑える仕組みが働いて湿疹も著明に改善します。
この治療法を実施するためには患者さん(患者さんのお母さん)がこの治療法の仕組みを理解し、医師の指示を確実に実行しなければなりません。治療は限界値決定、自己血注射、治療的摂取の順に進めます。自己血注射は医師が病院ですることですが、限界値決定と治療的摂取は患者さんに家庭でしてもらうので、以下この2つについて解説します。
1.限界値(閾値)検査
a.除去
限界値検査の前には5−7日間の除去をしておかなくてはなりません。除去の目的は微量なアレルゲンに対しても敏感な体の状態にしておくことです。
また限界値検査の間も他の食物の制限はきっちり守って下さい。例えば牛乳、卵のアレルギーがあるひとが、牛乳の限界値決定のときに卵を含む食品を食べてしまえばどちらで症状が出たのかわからなくなります。
b.連日倍増法
限界値の検査は連日倍増法で家庭で行います。
アレルゲン食物を「これなら絶対大丈夫、食べても誘発症状が出ない」と思われる極く少量から食べはじめ、毎日倍量に増やしていきます。例えば卵なら1/1024個からはじめ、1/512,1/256,1/128,1/64,1/32,1/16,1/8,1/4,1/2,1個と増やして行きます。牛乳なら1さじ、2さじ、4さじ、8さじ、16さじというように増やしていきます。
(#アレルギーの物差しは1,2,3,4,5...ではなく、1,2,4,8,..とついています。)
少量から倍々に増やしていくとはじめのうちは無症状ですが、どこかで誘発症状が出ます。このときの量を限界値(閾値)といいます。初回の摂取量は患者の年齢、症状、それまで食べて症状が出たときのエピソードや、RAST値などを参考にして決めます。
| 例)卵1/1024から始める場合 1日目 1/1024 症状(−) 2日目 1/512 (−) 3日目 1/256 (−) 4日目 1/128 (+) 少しかゆがる。 |
症状はフワッと赤くなるだけのことも、赤いブツブツのことも、かゆみだけのこともあります。概して誘発症状は皆さんが思っているよりはずっと軽いものです。ひどい症状になることはほとんどありません。症状が出たかなと思ったら、その前3−4日間の症状と頭の中で較べてみて下さい。湿疹の具合は毎日少しずつ良くなったり悪くなったりしています(日間変動)。当日新しく出た症状が日間変動の幅より頭ひとつ大きな変化なら、それは誘発症状です。
症状は食べて直ぐ5−10分で出ることもあれば、食べて1−2時間、3−4時間のこともあれば、1日以上後のこともあります。ただし、24時間以上たって出れば翌日の食物アレルゲンと見なす他はありません。
食べたのは何時か、食べて何分後、何時間後に症状が出たか。また、何時間後に症状が消えた、あるいは翌朝に症状が消えたのか、メモを付けて下さい。
c.食物の与え方、微量な食物の小分けの仕方
| イ.牛乳 |
牛乳は加熱しません。コーヒー牛乳、フルーツ牛乳は不可。
5ccの計量スプン/ティースプーン1さじを単位とします(以下すべて1さじというときは、ティースプンのこと)。
1/4096さじの牛乳からはじめることが多いです。1/4096さじの牛乳というのは1/4096濃度の牛乳の1さじという意味です。毎日倍増法で飲ませます。
1日目 1/4096さじ
2日目 1/2048さじ
3日目 1/1024さじ
4日目 1/512さじ
5日目 1/25さじ
・
・
・
のように続けます。
1/4096さじの
作り方はまず、水15さじを入れたお椀を三つ用意します。
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ひとつめのお椀に牛乳を1さじ入れます。 これで1/16の濃度の牛乳ができます。 牛乳1さじ + 水15さじ → 1/16濃度の牛乳 |
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続いて、ふたつめのお椀に1/16濃度の牛乳
の1さじを入れます。これで 1/256濃度の牛乳ができます。
その1さじ + 水15さじ → 1/256濃度の牛乳 |
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みっつめのお椀に、1/256濃度の牛乳の1さじを入れます。これで 1/4096濃度の牛乳ができます。 その1さじ + 水15さじ → 1/4096濃度の牛乳 |
これで1日目の1/4096濃度ができました。
2日目以降は下図のように作ります。
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第2日目 1/256濃度の牛乳1さじに水7さじを足せば1/2048濃度 |
第3日目 1/256濃度の牛乳1さじに水3さじを足せば1/1024濃度 |
第4日目 1/256濃度の牛乳1さじに水1さじを足せば1/512濃度 |
もし牛乳1/1024さじなら
牛乳1さじ → その1さじ → その1さじ →
その1さじ
水15さじ 水15さじ 水3さじ
‖
‖ ‖
‖ 1/1024さじ
1/16濃度 1/256濃度 1/1024濃度
| ロ.卵 |
乳児の場合、卵は1/32000個からはじめるのを標準とします。
卵1個を水で溶いて、100℃2分加熱した溶液を希釈します。
第1日目 1/32000個
第2日目 1/16000個
第3日目 1/8000個
第4日目 1/4096個
第5日目 1/2048個
第6日目 1/1024個
第7日目 1/512個
※1/256個以上は卵焼きでします。
| A. 攪拌した卵1個 (60cc) * なべに入れて混ぜた後、 お湯(60℃に加熱済み)580cc 沸騰したら弱火にして2分間加熱 ―――――――――――――― 計 640cc # あらかじめ泡立て器でよく混ぜる。
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第5日目からは卵焼きを使います。まず全卵をよくかき混ぜて卵焼き用のフライパンに入れ、普通より弱火で時間をかけて焼き上げます。ただし焦がさないよう。
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できあがった卵焼きを1/2カットを繰り返した図です。 カットを8回繰り返すと1/256が出来ます。 元の横幅が仮に12cmとすると1/256の横幅は7.5mm ということになります。 卵焼きは初めの日に焼いて各サイズに切り分けてラップで包んで冷凍しておき、食べる日にその大きさの卵焼きを取り出して電子レンジでチンすると楽です。 |
| ハ.大豆 |
乳児やアレルギーの強いひとはトーフを使い、トーフが食べられるようになったひとや1歳以上のひとは大豆油で揚げた揚げパンを使います。
トーフは乳児では1.25mm角から始めます。
1日目 1.25mm角1個
2日目 1.25mm角2個
3日目 1.25mm角4個
4日目 2.5mm角1個
5日目 2.5mm角2個
6日目 2.5mm角4個
7日目 5mm角1個
8日目 ・・・
トーフは5mm角までならナイフで切ることができますが、それ以下は正確にきれないので、1.25mm角の作り方を図示します。
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まず、トーフ1.25mm角の大きさを確認して下さい。 トーフ1cm角=5mm角 8個 =2.5mm角 64個 =1.25mm角512個 になります。ですから、1.25mm角は1cm角の約1/500と覚えて下さい。 |
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| トーフ1cm角を茶こしの中ですりつぶし、適量の水で溶いてボウルの中に洗い流します。水を足して総量500mlにします。この1mlを取り出せばその中にトーフ1.25mm角分がはいっているわけです。 | ただし、1mlを取り出すことができませんので、まず1さじ取りだして水4さじを足します。その中から1さじ取り出しますとその中に1.25mm角1個が入っていることになります。 |
1日目 1.25mm角1個(トーフ1cm角1個を入れる)
2日目 1.25mm角2個(トーフ1cm角2個を入れる)
3日目 1.25mm角4個(トーフ1cm角4個を入れる)
4日目 2.5mm角1個(トーフ2cm角1個入れる)
5日目 2.5mm角2個(トーフ2cm角2個入れる)
6日目 2.5mm角4個(トーフ2cm角4個入れる)
7日目 5mm角1個 (ここからは直接切り出す)
8日目 ・・・
,5mm角2個,5mm角4個,1cm角1個,1cm角2個,1cm角4個,2cm角1個....と進みます。1歳児では4cm2個くらいが終わりです。
大豆油はそのまま飲むわけにはいかないので、食パンを揚げパンにして使います。トーフ4cm角1個が揚げパン1/16枚に相当します。まず食パン6枚切りの1枚を耳を切り取ります。これは卵アレルギー対策です。ただし小麦アレルギーがあれば
、Aカットパンを使用します。揚げパン1枚を64gと換算しますので、揚げパン1/8枚から始めるとするとAカットパン8gを揚げて開始します。あるいは、小麦の食物耐性を先に付けて
する場合もあります。
| ニ.小麦 |
そうめんを使います。そうめんもいろいろのサイズがありますが、ほぼ1mmは1mgです。だいたい1.16〜1.18mmが1mgです。
さて、以前は限界値検査の開始量は1mgからのことが多かったのですが、次第により低い量から始めることが多くなってきました。そこで、1/16mg(≒1/16mm)から始めるようになりました。1/16〜1mmは次のようにして作って下さい。
そうめん64mm(6.4cm)を折って、すりこぎで粉々にする。
それを320ccのお湯で煮る。溶けて見えなくなる。
それを1さじ(5cc)すくって、お椀に入れる。1さじの中には1mmが入っています。
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第1日目 お椀の中に水15さじ を足します。 混ぜて1さじすくうと 1/16mgが入っています
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第2日目 お椀の中に水7さじ を足します。 混ぜて1さじすくうと 1/8mgが入っています |
第3日目 お椀の中に水3さじ を足します。 混ぜて1さじすくうと 1/4mgが入っています |
第4日目 お椀の中に水15さじ を足します。 混ぜて1さじすくうと 1/2mgが入っています |
5日目は薄めることなく、そのまま1さじ与えます。第1日目に5日目の分まで作って冷凍保存しておけばよい。
6日目は1mgのさじを2さじ与え、その後は物差しで測って切って食べさせればよい。
| ホ.米 |
米の単位は1さじとします。普通のご飯では1さじが約100−120粒のお米が入っています。2さじ、4さじとあげていって、お茶碗の大きさによりますが、32さじがこども茶碗一杯、64さじの間でおとな茶碗一杯になります。32さじからは茶碗半杯、1杯と数えます。
乳児のお粥の場合1さじはお米20−80粒くらいになりますが、これも作り方で違うので自分の場合は1さじが何粒か数えておいて下さい。
@ もっと敏感なひとは米1粒から始めます。ところで粒単位の限界値決定が必要な場合は本人や母乳を与えている母親もAカット米やケアライスをやめなくてはなりません。
2.治療的摂取
@ 自己血注射後に医師の出す指示をよく理解し、忠実に実行して下さい。ただし、基本的なことは知っておく必要があります。自己血注射後、アレルゲン食物の限界値は上がっています。その期間は5−48時間です。この時間の枠外ではそれまでに指示されていた除去を守って下さい。
A 誘発症状が出たら、食べて何分後、何時間後に出たか、何分後、何時間後に消失したか、あるいは翌日の朝に消失したか、それとも消えないで持続したかについて観察して下さい。ときには数日後からでる場合もあります。
B 治療的摂取後に誘発症状の観察ができるだけ継続的に観察出来るような時間帯に食べさせるようにしています。家庭で見ている児では朝食べるのが観察のためには一番よく、園や学校に通っている児では午後や夕食の方がいいときもあります。
C 熱性疾患のときは限界値が下がっていることがあります。自己血注射のあとで熱性疾患にかかれば、治療摂取は中止してください。下痢のときは指示通りに食べていても腸管からのアレルゲン吸収量が上がることがあります。治療摂取は中止して下さい。
C 限界値検査と治療的摂取を正しく実行するためにA6版くらいの大学ノートの連絡帳を作って下さい。医師が指示を書き、母親が実際に食べた記録と症状の観察、気づきを書いて持参します。
このファイルは当院にかかりつけの患者さん用に書かれたものです。もし、自分自身の判断でされるときは自己責任で行って下さい。