常色山記 |
芸北方面へは度々足を伸ばしている。私にとって未登のもっとも有名な山が、このふたつの山になってしまった。国道196号を深入山を過ぎてしばらくして左折すると聖湖畔にで出る。ダムの堰堤に駐車場があり、すぐに登山道は見つかった。なだらかな林道に遠くのせせらぎが聞こえるが、さらさらという大きな音はいったい何であろうか。熊よけの鈴の音を止めるため立ち止まった。その大きな音はコナラ、クヌギ、カシワなどの大量の落葉が風に舞いつつ木々にまつわる音であった。麓の木々は晩秋、頂ではすでに冬景色であろう。
林道を西に向かって巻いたところで陽の当たる場所に出た。そこが十文字峠、聖山への山道はここから始まる。苦しい登りを覚悟したのだが、高岳への分岐にもあっけなく着いてしまった。山の植生はもう青い大きな葉の熊笹と落葉した樹々だけになった。そこからさらに5分ほど登ると眺望のない5mほどの円形の裸地に出た。周りの木にいろんなグループのプレートがつるしてあるのでここが頂上とわかる。西の方で笹をかき分ける音と人声がするので入ってみるとその道は展望地に通じており、中年の3人連れが弁当を食べていた。徳山から来られているらしい。私も岩に座って話しているうちに次々とグループが入ってきた。みな額に汗しており、そろって高岳から来たらしい。高岳と聖山を結ぶルートは熟練者のものなどとガイドブックに書いてあったので、遠慮していたのだが、たいしたことはないらしい。弁当を食ってすぐに高岳へのルートを目指した。
落葉した木々とクマザサ |
間近の高岳 |
山頂から見る聖湖 |
八幡高原方面 |
分岐に着くと後から後から高岳からの縦走グループが登ってきた。下り道は勾配がきついのと、落葉で足もとがおぼつかない。そこを長尺の杖で踏ん張りながら、一気に駆け下りる。どうやら、まともな登山らしくなってきた。谷あいの、かなり高度を下げたかなと思ったところで、登山客に行き会う。ここからは上がる一方ですか、と問うと哀れむような口調でまだまだいくらもという。なるほどそれから登っては下り、登っては下りの繰り返しであった。もはや登山客にも行き会わず、ひとり駆けめぐった。ときどき景気づけ、熊払いに杖でもって白っぽい、硬そうな木を選んでは幹をカンカンと叩く。澄んだ音がこだましていく。2時を回った所だというのに陽の角度はやけに低く黄色く灼けている。いくつめかのピークを越したところで真正面に土饅頭のような高岳の姿が現れた。最後の坂を上りきると360度の眺望が得られる、高岳のピークに立った。東方には湖と山々の織りなす美しい風景が一望の下である。私は近頃、ダムの新設は自然破壊をもたらすだけと思ってすっかり嫌いになっているが、ダムによって昔はなかった美しい景観が得られるのも場合によっては悪くないなと思った。帰り道も脇目も降らず、杖で踏ん張りつつ駆け降りた。この日は気温は平年より上で上天気だった。ところが翌日は寒波が襲い今年初めての吹雪が吹き荒れた。湖では寒さをおして殺人事件の遺体捜索が行われ、潜水作業員が遺体を発見した。世の中一寸先は何が起こるかわからない。