常色山記 |
私は蒜山を長らく高原として捉え、山として意識したことはなかった。2年前の夏に登って、その眺めの痛快さと意外にタフな山であるのを「発見」した。このわかりやすさを妻に伝えたく誘って登る。登山道に足を踏み入れてすぐに「ウツギ」や「タニウツギ」の花を教えてもらった。美しい花を見ても名を知らないでは確かな思い出として残らない。家内と来るのは正解だった。登山道は牧場を通り抜ける。若いウシたちがのんびり草を喰んでいる。ウシが好きな家内は大喜びである。牧場は有刺鉄線が巡らされ、いくつかの区画に仕切られ、人だけが通り抜けられるよう特別の仕掛けがしてある。牧場を抜けるとしばし暗いスギ林に入るが、幸いにスギ林は長く続かない。自然林に抜けるが、これもまたすぐに尽きて一面の草原の上り坂になる。ぐいぐい登るとともに下の景色が少しずつ形を変えていく楽しさ。高度感を常に確かめながら登る面白さは他の山では味わえない。日光に直射されながらの登りは5月でも暑いが、一昨年の夏の登りに比べるとどうということはない。左手を見ると、つまり北のほうを見ると東から西に流れたような形に黒々とした森が固まっている。実は昔の溶岩流台地の上に出来た森なのであろう。その上に烏ケ山が覆い被さり、さらにその上に大山の岩稜が険しい表情をわずかに覗かせている。
ウツギ |
タニウツギ |
斜面を彩るヤマツツジ |
草原の遙かなピークの向こうの青空に飛行機雲が斜めにかかっている。そのピークさえ頂上のふたつ手前のピークに過ぎない。私たちが登り始めた時刻は遅い方なので幾人か降りてくるひととすれ違う。最初のピークを登りきると槍が岳のピークが目の前に現れる。目の前の草原と、下方の蒜山高原と北の大山の形が刻々と変わるの楽しみつつ、槍が峰に至る。このピークは細長い広場になっており大半の登山者がここで弁当を食べる。私たちもここで弁当にする。見下ろす山の斜面にはヤマツツジがいっぱい。ふたたび登りはじめる。左手が林になり、右手はまだ山あいを見下ろし、前方に中蒜山が広がる。山あいにはヤマボウシの白が点在する。この左手の林の樹木のいろんな形の葉、その葉の緑色は花よりも美しく感じられるが、家内も樹木名は得意分野ではない。両脇が樹木になり、涼しくなる。頂上近くの尾根には笹のタケノコがあり、生で囓ってもうまい。特に北側がブナの林になっている。どこの山にいってもブナだけは特別の生命力を感じさせてくれる。ここにに立つブナにはツルアジサイがまとわりつき別種の樹木のようにさえ見える。頂上についた。静やかな頂上は展望がなく、単なる中蒜山への中継地点である。中蒜山に寄ると時間がかかるし、車まで戻らなければならないので元来た道を帰る。
登山口近くから見た大山 |
ツルアジサイを身にまとったブナ |
頂上付近から見た大山 |
登山口の駐車場に戻って塩釜冷泉に直行する。この湧水は旭川の源流のひとつである。蒜山に来たからにはこのコースは欠かせない。登山のあとの水は格別であった。水筒とペットボトルに水を汲む。冷泉の近くには休憩所や高原野菜の店などがあり、新鮮な花、メロン、タマネギを買う。帰り道、登り口に近いところで蒜山を撮影する。なんと今登った山の全景を道から見ることが出来るのである。こんないたれりつくせりの山が他にあろうか。さらに高速に入る前に道の駅によって蒜山高原アイスクリームを買って食べる。べたついた甘みは皆無、新鮮な牛乳を口一杯に含んだような香りを感じた。眺めよし、水よし、アイスよし。至福の一日ではないか。
旭川源流の塩釜冷泉 |
上蒜山、中蒜山の全景 |