スギ花粉採集行2001 2002.2.25upload


 スギ花粉エキスは鳥居薬品から新に標準化された製品が1999年から発売されている。従来のスギ花粉エキスと力価を合わせたものが2ml(2万単位)で1600円する。2000年はこれをチビチビと大事に使った。しかし、耐性導入法にこれを使ったのではとても間に合わない。閾値を測るのにはまだしも、飲む方にはバンバン使うので大変な金額になる。そこでなんとかしてスギ花粉エキスを自前で作ろうと考えた。


   明日スギ花粉を取りに行く、と家内に宣言したところ「面白そう、私も連れてって」ということになった。さて考えるとスギってどこに行ったら採れるのか。遠くの山ならどこだってあるが、一番近いのはどこだろう、呉娑々宇山(ごさそうさん)の林道なら大丈夫だろう。特大のビニール袋を用意し、高枝鋏みを車に積んで出かけた。すぐ見つかると思っていたがいい樹になかなか出くわさない。途中見つけた花粉をいっぱいつけたスギの樹は、寄って見ると高枝鋏みが全然届かなかった。やっと茂みの中ではあるが、鋏みが届くスギの木を見つけた。時折り風が吹いて木の枝が揺れると花粉が淡い煙となって飛び散って行く。さあこれからスギの花粉を採るのだ。胸が高鳴る。葉末がいかにも黄色い枝をねらっては切り取っていく。
  ところでわれわれの格好といえば花粉が着衣に着かないようにということで、登山用のレインコートを着用し、マスクをかけている。雨も降らないのに登山用レインコートを身にまとい、フードで顔を隠しご丁寧にマスクまでかけたノッポとチビの二人連れ、異様といえば異様、怪しいといえばこの上なく怪しい。街なかであればサリンでも撒いているのじゃないか、と疑われても仕方がないところである。幸い、さっきから車は一台も通らないが、もし通りかかったら一体どういうふうに対応すればいいのだ。懸命に作業する内に若い男女が乗ったワゴン車が通りかかる。私は全身を耳にして背後の話を聞き取った。「なにしよるんじゃろ」「...まつぼっくりを採ってらっしゃる」。−ア、アホか、お前ら。彼らが走り去った後で家内がケラケラ笑った。

   切り落とした、スギの枝を拾い集めてビニール袋に入れる、花粉がはしからこぼれてもったいない。折角来たんだから、もう少し走ってみよう。するとそこからすぐのところにもっと採りやすい位置にスギがあった。なんだ、はじめからこちらにすればよかった、ということでもう一度採り始める。そこへおじさんが通りかかって、興味深そうに「なにしよるん」「スギ花粉症の治療を始めるんで花粉を集めよるんです」「フーン、気ぃつけんと花粉症になるで」とニヤニヤ、こちらはまともである。

   これはまだ採集途中、袋が曇っているのは静電気でポリ袋に花粉がくっついているため

 家に持ち帰ってスギの葉末の黄色い実のように見える部分を手でしごいて落とす。この作業は室内では出来ないし、通りでも出来ないので医院の屋上で行った。黄色い実のように見えるのは雄花序といって雄花にあたるものらしい。そうすると枝の中ほどに丸い実のように見えるものがあるが、これが雌花にあたるのか。しごいた雄花序を集めると1Lのビーカーに半分くらいになった。これを雄花序がやっと浸かるだけの水を入れるとスギ花粉エキスが出来る。雄花序を浸けた水をスライドガラスにを置いて低倍率の顕微鏡で覗くと水に触れた花粉は直ちに殻がパックリと開き、球状のものが出てくる。さらにその球にトゲのようなとがった部分があり、そこからヒゲ根のようなものが伸びてくる。つまり受粉したときにこのヒゲ根のようなものから雄性の遺伝子を送り込んでいるわけである。濃度を規定するために1ml中に何個の花粉が入ったものかを記録しておくためだが、見ているうちに殻が次々と開いていき、中身のない殻ばかりが増えてくる。殻と球状の格好は一昔前、テレビゲームで人気を博した「パックマン」にそっくりで見飽きない。パックマンではプレーヤーの持ち玉を次々に食べていくのだが、反対に次々と吐き出していくのだ。デジカメでは顕微鏡の視野を撮影できないのでお目にかけることが出来ないのが非常に残念だ。

 雄花序(右のビーカー)を水に浸けて取り出した液(左のビーカー)の底に花粉の殻が沈殿しつつある。同じ部屋にいるだけで気分が悪くなる。
このようにして作った粗エキスはドブのような緑色をしているが、遠心沈殿して不純物を取り除くと黄色になる。それをさらに目の細かいメンブランフィルターで濾過すると透明な琥珀色になる。匂いはスギそのものだ。しかし、ここに至るまでが大変である。屋上で夜までかかって雄花序をしごき落としたときは最初は手袋やマスクを殊勝にかけていたが、手袋では絶対的に能率が悪く、裸の手でしごきしまいにはマスクも捨てた。遠心沈殿や濾過のときはきつい匂いがする。それを吸っているうちに何とも言いようがなく体が不調になってくる。エキスから漂ってくる香りの中にも強いアレルゲンの成分があるのかもしれない。最終的にとれたエキスの濃度は鳥居薬品のエキスより少し濃いめのものだった。 花粉採集行はスギで2回、ヒノキで2回行った。どんどん減っていくエキスを見る度にもっともっと採っておけばよかったと思った。それからしばらくは登山に行く途中も車の中から雄花序が沢山ついた木がないかとキョロキョロしてしまう。スギ花粉症の患者さんには申し訳ないが、葉末が茶色に染まるほど雄花序が沢山ついたスギ、ヒノキを見るとなぜか嬉しくなってしまう私です。

 スギ:葉末の茶色いのが雄花序(雄花)、ボール状のが 雌花に当たる ヒノキ:茶色いのが雄花序、薄紫色のが雌花と思われる
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