ティアックのDAコンバーター、D30を改造する
2002.3.1upload

はじめに
D30は正価で35万円するティアック=エソテリックブランドの高級DAコンバーターである。これを買おうと思ったのはステレオ誌の組み合わせ試聴記事で藤岡氏と貝山氏がCECのTL−2との組み合わせを両者の欠点が消えると評していたからである。一昨年になってようやくふたつを揃えた。TL−2はともかくD30はツンツンと硬く耐えられない音であった。何種類もある音質のセレクトスイッチをどう切り替えても、ほとんど変わらなかった。

この音調は初めからある程度予想をしていた。以前に買い求めた、VRDS方式のトランスポートの音と相通じるところがあるのである。このトランスポートに改造を試みた結果、ティアックのシャシー=筐体作りのせいでツンツンした硬い音が出ているのがわかった。いろんな雑誌記事を照らし合わせるとD30の持っている潜在的な力はものすごいはず。筐体を改造して持てる力をすべて出してやろうと、そういう目論見のもとに買ったのである。

しかし、シャシー=筐体の改造はなかなか手強かった。おびただしい数の部品が実装され、コネクターケーブルが電源部、入力部、出力部を繋いでおり、分解するのが困難であった。そこで、シャシー=筐体の改造は先送りされ、最初のうちは電磁波対策、磁気対策をしか出来なかった。

電磁波対策
1.IC対策、ICはてっぺんから多量の電磁波を出している。これを防ぐのにはアルミ箔、銅箔、防磁用のニッケル系の合金などが使える。今回はアルミ箔にトライガード・テープを積層したものをはった。この方法は神戸で薬局をやっていらっしゃる神戸の文ちゃんこと文勝男さんに教えて頂いたものだ。(図1−4)
2.電解コンデンサーの上側にもアルミ箔とトライガードの積層をはった。D30には120個以上も電解コンがあり、すべてに貼るだけでも大変である。(図1−2)
3.ケーブルのシールド、これはIC、電解コンが発生源対策であるのに対し、受信元対策である。
一番効くのが信号電流の部分であり、上側の入力部基板から、下側の出力側基板に向けて幅広のフラット・ケーブルが回っているのがそれである。これはDAC素子の近くにあるのですぐにそれとわかる。ここはトライガードテープを張り付ける(図1−7)。クロックを発生している水晶からのケーブルも比較的効果がある(図1−6)。このシールドはアルミ箔をテープ状に切って巻いた。他のケーブルにもそれなりに効果はあるが努力の割りには効果は少ない。
4.シャシーに銅箔をはる。もともと鉄板シャシーは銅メッキされているが、銅箔テープの方が厚いだけ効果が高い。
  電磁波対策総体として音のグレードははっきり上がるが、音がすっきり、くっきりする方向でツンツンする音の性質は変わらない。

   図1.入力部の対策
 1.基板取りつけネジのワッシャー
 2.電解コンデンサーの頭にアルミ箔・トライガードの積層を貼る
 3.パワー・トランジスターの取りつけネジをステンレスに換える
 4.DAC本体の上面をアルミ箔、トライガード積層でカバー
 5.シャシー中仕切り板の間のつっかい棒
 6.水晶クロックからの配線をシールド
 7.裏の出力部に向かう信号線をフラットケーブル、トライガードで包む
  ※ シャシーを覆う銅箔はこの状態では見えない

磁気対策
  磁気対策と銘打ってはいるが、非常に単純なことである。使われているネジはすべて鉄ネジであるので、電流がそばを流れる所では電流に応じて磁化し、電流の流れを妨げている。これをすべてステンレスネジに換える。入出力端子そばのネジは特に影響が大きい。もっとも効果が大きいものはパワー・トランジスターの取りつけネジである(図1−3)。この取りつけ方をもっと洗練したものにすればもっとすごい音が引き出せるはずだ。

筐体=シャシーのどこが悪いのか?
  ここでは天板、側板、底板、前面パネル、後面パネルを筐体と呼び、基板を取りつけている鉄板と基板を仕切っている鉄板を内部シャシー、略してシャシーと呼ぶことにする。筐体、シャシー、基板の一部を指で叩き、もう一方の手を他の筐体、シャシー、基板部分のどこかに置いてその振動を触知し、その音を耳で聴く。これを比較することによってどこが振動しやすいか、どこによく伝わるかを観察する。このテストでみるとティアック機の筐体=シャシーというのは振動が長く保存される作りである。ティアック=エソテリックのシャシー=筐体作りのどこが悪いのか。
1.外部筐体が響きやすい。響きやすさは側板>天板>底板の順である。
2.シャシーも叩くとカンカンとかガンガンとかうるさいほど響く。なぜなのか。
 @シャシー素材が鋼板である。表面硬度は高いが鳴きやすい。シャシーのスペーサーの真鍮も表面硬度が高いが鳴きやすい。
 A厚すぎる。厚いのはよさそうに思えるが、厚いと振動幅は小さくなるが、振動の減衰に時間がかかる。他の部材で制振するときも硬く思い材料が多く要る。
 B基本的に平面パネルの組み合わせで出来ている。逆にいうと、鳴きにくいL字型、コの字型パネルを使っていないということ。(図2,3参照)
 C平面パネルも組み立てて最終的にロの字型、日の字型の断面になればかなり鳴きにくくなるのだが、断面がH型のまま残っている部分がある(図7.)。

 図2.金属の平面板は叩くといつまでも鳴きがやまない。縦波、横波とも定在波を作る。  図3.L字型に曲げると曲げ縁で振動波は減衰する。

 

 図4.コの字型に曲げるとさらに振動に対して強くなる。  図5.一般に右図のコの字板と上図のコの字で筐体を形成することが多い。これは理に適っている。
 図6.平面板同士のネジ止めでは一体型のL字板ほどの強度は得られない。板と板の間はネジの周囲だけがキチッと接触しており、他はミクロの隙間があり、振動が制約されないからである。  図7.D30のシャシーから前面パネルをはずしたものところ。断面で見るとH型構造が並ぶ。内側の垂直の仕切り板は上方からネジ止めされていない。


対策
1.外部筐体:とりあえず側板、天板、底板をはずした。これらをはずすほど音はましになった。底板は止めネジが取りつけられる範囲の厚手のアクリル板に換えた。天板は見た目があまりよくないアピトン床材を取りつけた。側板は複雑な形状で精度の高い切り出しが出来ず、長い間裸のままだった。

2.シャシー:つっかい棒作戦(図1−5)
  内部シャシーのHの字型断面のところには垂直パネルの間につっかい棒を入れて日の字型にしてやる。これで内部シャシーの振動が抑制される。このとき気を付けなければならないのは棒の長さと切り出し精度である。少しでも長いとシャシーが変形するし、鉄板にストレスが加わる。ストレスが大きいと鉄の響きが音に乗ってくる。また、ごくわずかでも短いと振動抑制の力は急激に落ちる。鉄板と鉄板の間に上下・左右・前後方向とつっかい棒を増やしていく毎に効果は急激に上がるのだが、取り付けが難しい部分が多い。実際に取りつけることが出来たのは希望の1/3以下である。

3.基板アイソレート
  つっかい棒も思うように増やせないので改善はすくなかった。しかし、ここに当初から暖めてきた切り札的アイデアがあった。基板は鉄板に取りつけられた真鍮の柱の上端にネジ止めされている。真鍮の柱を介することなく、スペーサーによって基板をシャシーからフロートすれば、シャシーひいては筐体の振動からアイソレートされるわけである。そのために次のようなスペーサーを考えた。
 中心に真鍮柱がすっぽり入る穴が開いており、長さが0.1−0.2mmほど真鍮柱より長い木の円柱。これを真鍮柱にはめ、その上に基板をネジ止めすれば基板は直接真鍮に接触せず、真鍮の振動からアイソレートされる。ただ、基板をはずすのが何とも難しく、いつもとりかかる前であきらめていた。しかし、各種改造を繰り返すうちに次第に度胸がついてきて基板をはずすのも上手になってきた。とうとう基板をすっぽりと持ち上げ、採寸しスペーサーの開発にとりかかった。

 図8.穴が大きいのが基板の下に使うスペーサー、小さいのが基板を止めるネジのワッシャー。左の物体はパソコンのキーボード。


  スペーサーにあける穴のサイズは8mmと大きい。出来合いの円柱にドリルで穴を開けると割れるおそれがある。そこで板にあらかじめ数個の穴を開けておいてそれから円柱を切り出す手順を取った。この板はオーストラリア檜の柱材を約12mm厚に輪切りにしたものである。切り出した円柱は最終的に上下にRをとり、結局球状の木片に穴をくったような姿にするのである。真鍮棒は約40本ある。この部材を切り出すのに約二日を要した。この部材は木の中心と外側方向を区別して、基板上で電気信号が流れる方向にはめ込んだ。音を聴くとうれしや、思った通り金属性のツンツンが激減した。
 しかし、これで終わりではない。このスペーサーを補うもうひとつのアイデアがある。実はネジ止めしたときガラスエポキシの基板はネジ頭を介して真鍮さらに鉄板の振動を受けているのである。そこで基板とネジ頭の間に木のワッシャーを入れればいいということになる。このワッシャーも1−2mm厚では振動を減衰する力が小さいので、12mmくらいの厚みにする。するとこれも真鍮棒を通すスペーサーと同じ形状、すなわち球状のものに穴がくってあるものになる。ただし穴の直径が小さいので、ドリルによる穴あけは順調に出来る。ラミンの丸棒を買ってきて、カットしドリルで4mm穴を開けた。ちなみにこの厚手ワッシャーの切り出しのときには、あらかじめ木の根側から番号を振ってカットし、電気信号の流れる方向に番号の若い方から取りつけていった。このようなことでも音に影響する。さてすべてのネジをこの木製球状ワッシャーを通して締め付ける。すると基板は上下から木の部材で締め付けられ、金属性の振動はさらに激減する。やはり上下揃ったところで思った通りの効果が出た。ティアックが手をかけて作った電子回路の本来の音が出はじめた。


仕上げ
  基板アイソレートによって金属性の音質がなくなったので、はずしていたオリジナルの天板、側板、底板を再び装着してみた。すると再び金属性の音がかなり復活した。特に悪いのがアルミ製の側板である。この側板は外観上の厚みを稼ぐために何本かの桟が突き出ており、その桟の先端でシャシーの鉄板に接触している。この形状は非常に鳴りやすい構造である。これをつり下げてドライバーて叩くとチーンと澄んだ音がいつまで立っても鳴りやまない。取りつけるとわざわざ金属性の響きを再生音に負荷することになる。ティアックには面白いことを考えるひとがいるものである。これは木工屋さんに頼んでタモから精度の高い側板を切り出してもらった。木製の側板は金属性の響きを押さえる効果がある。天板もアルミでよく鳴るのだが、これは比較的広い面で受けているので薄い木の板を介してネジ止めをするだけでほぼ鳴らなくなった。以前の音を知っているオメガの会のメンバー二人に来て貰ったが、すごく良くなった!の一言であった。音質を金目で表せば、以前はシャシーの作りのまずさが足を引っぱって正価の3−4割方の音しか出てなかった。今は重量級、硬質の素材が活かされて正価の倍の音質になったと見る。

ティアックの音は筐体=シャシーを換えれば万全
 ティアック=エソテリックの音というのはみな同じ音がする。VRDSxxとかEsotericXXとかの兄弟は筐体、シャシー構造はほとんど一緒である。ところが、その作りに関してはことごとく手法を誤っている。名機と絶賛されるP−0などが中古市場からなくならないわけもハイエンドユーザーがそのツンツンした音に耐えきれずに手放すからだ。ジッター抑制、クロック制御、ハイカットフィルター、ディジタルノイズ抑制などの電子回路技術は優れたものがあるのだが惜しいことである。新鋭のP70、D70などいいものを持っているはずだから、改造すればどんな音になるのか楽しみなのだが。

附)金属と木
 以前、CDプレーヤーの筐体の鳴きを抑えるためにいろいろな材料を試してみた。異種金属、ガラス、セラミック、プラスチック、粘土、ゴムetc。異種金属は論外。ガラス、セラミックは結晶性の性質で金属に似たところがあるので不適格。プラスチックは金属性の振動をある程度止めるがその力は弱く、また音が悪くなる。粘土やゴムには振動を押さえる力はほとんどない。木はもっとも効果的である。また止めたい振動の方向に木の根−葉先方向の木片を押しつけるともっとも効果が高い。木の根−葉先の方向には木の繊維が通っていてその方向には密であり、意外に音速が早い。これは振動を早く逃がすのにいい。また柾目方向と板目方向にはかなり粗であり、この部分で振動が減衰するのだろう。この密な部分と粗な部分が方向性を持ちつつ入り交じっている構造がいいのだろう。振動の周波数からいうと金属の振動が特定の周波数帯に偏っているのに対し、木を叩いて出る音は周波数帯が極めてブロードである。金属に接した木は金属性の響きを幅広い周波数に分散させ、木の内部で熱に変換するとともに空気中に放出するのであろう。