Yoshii9の秘密  2001.7.18 upload

  6月30日自宅の近くの住宅展示場でYoshii9の試聴会があり、オメガの会のメンバーを誘って一緒に聴いてきた。その後感想をお互いに言いあった。試聴するのは2回目になるが、前回江川工房で聴いたときの印象は基本的には変わらない。いい点は音に不自然な強調感がなく、部屋のどこで聴いても包み込むような音が聴ける点。不満に思うのは音が前に出てこない、対峙して聴くのには向かないという点である。しかし、CDプレーヤー、アンプ込みで30万円のシステムでこれだけの音を出しているのは驚くべきである。どこに秘密があるのか。

1.筒状キヤピネットと鋼棒、ゲル状リング
  8cm径、振動板半径でいうと6cm足らずのユニットでかなり低いところまで出している。この口径だと普通に箱に入れてバスレフにしても低音は出ないのにどうして低音が出るのか。パイプの共鳴管としての動作か。由井さんは共鳴管にしていないと否定している。この形状からすると共鳴管として働かそうとしなくてもその動作は残る。しかし、共鳴管で強調出来る帯域はもともとバスレフなどより狭い。このシステムは比較的フラットに伸びている。もう一つ考えられるのは低音を出すのではなく、ユニット上向きで中高音をアテニュエートしたので、相対的に低音を持ち上げたのではないか、ということである。しかし、この低音の出方はそんなことで説明出来るようなレベルではない。アンプで低音を増強したとは考えられないし、現にアンプだけ通常のアンプに換えたひともいるが、低音が出なくなったわけでもない。
  今回は近くに寄って見ることが出来たが、コーンの振幅が非常に大きい。低域の伸張は振動板の面積が少ない分を振幅で稼いでいるのだ。Yosii9を真似て筒状のスピーカーを作ったひとがいるが、低音はまったく出なかったそうだ。では、どうして振幅を大きく出来たのであろう。秘密はマグネットを支える鋼棒とゲル状のものにフレームを載せているという構造にあるのかも知れない。縦長の鋼棒は慣性質量大でマグネットの上下動をよく支える。逆にぶよぶよしたゲル状リングはコーンが沈み込んだときには圧迫され、コーンが跳ね上がるときには反発してコーンの持ち上がりを助ける、そうでも解釈しないとこの大振幅は説明出来ない。
  スピーカーの構造で大事なことのひとつは運動の支点の明確化である。一般のスピーカーユニットではコーンは動くが、マグネットとフレームは不動でなければならない。つまり支点は2つある。フレームやバッフルが剛体でない以上、支点の明確化は完全ではない。そこでマグネットのみを慣性重量の高い鋼棒に固定しこれのみを支点とした。これは低域を伸張するのに利用されたが、それ以上に音質に貢献している。しかし、ユニットを垂直方向に置いたことでコーンにかかる下向きの力である、重力が負荷され、コーンの動きの不対称性というものが新に生じた。これはフレームのゲルによる支持によって、どの程度緩和されたか、あるいは拡大したのか。もっと実験してみないと分からない。

2.点音源化
  点音源は昔からスピーカーの理想の一つに数えられてきた。点音源にはいろんなメリットがあるが、由井さんが採用したのはタイム・ドメインのコンセプトからであろう。つまり耳に届く音の時間差を無くすためである。複数のユニットが鳴れば必ず、時間差から干渉が起こる。またひとつのユニットにしてもバッフルに固定すれば必ずバッフルの鳴りが起こり時間的に遅れた音が重畳する。点音源にするためにはバッフルも排除しなければならない。バッフル音を消すためにフェルトバッフルを考案した人もいる。これにしたって、ユニット背面から回り込む位相の違う低音は前面の音と干渉する。バッフル面を極小にして背面からの音を隔離するためにはどうしても筒状のエンクロージュアにする必要がある。問題は背面からの音をどう処理するかである。共鳴管として低音を逃がすのが由井方式。逆バックロードとして耳に聞こえない低音で逃がすのが、B&W方式。大砲のような形状のスピーカーに仕立てて、吸音材ですべて吸ってしまうというのが大春方式である。由井さんは共鳴管にしてはいない、というのだが、構造からするとどうしてもそうなってしまう。またバッフルをなくしても口径の大きいユニットであれば、中心部とエッジの近くでの時間差が生じるが使用ユニットはギリギリの8cmである。その結果、パイプの下から出る低域の方向性は耳にはあまり感じられないので点音源という理想はほぼ実現し、それによるタイム・ドメインは成功している。

3.無指向性

  江川先生は「ユニットの軸を垂直方向にした構造は考えられないもので由井さんは発表するときには眠られないほど悩んだだろう」と雑誌に書いていた。しかし、これは昔からあった。催し物会場のBGMなどではスピーカーをYoshii9とは逆に天井に、下を向けて取り付けている。また、ツィーターに関しては軸を上向けにして、その上に球や半球円錐を配置して高域を反射させて、高域のロスを防いだものがあった。
  スピーカー・ユニットはツィーターからウーファーまで正面方向がボリュームが大で30度方向、60度方向と軸をそれるほど能率が低くなる。ところが実際の楽音ではほとんどが多少の指向性はあっても360度方向にほぼ均等に出ている。それにならってスピーカーの指向性をなくす、言い換えれば全方向に向ける試みは古くからあり、ユニットを多数使って球面に配置するビクターのスピーカーや、故長岡先生の前後側面にユニットを配置したスピーカーもあった。ただし、長岡先生のは隣あわせたユニットの干渉のため、f特はガタガタになったようだが、この試みに何度も挑戦していた。ハイファイオーディオ用ではないが、前述のBGMはまさしく無指向性であり、ツィーターを上向き、半球で反射させるのもそうである。由井さんのは反射半球のない分、高域はがたっと落ちている。
  ただし、スピーカーの音を360度に均等に音が広がる、無指向性にするのが理想の方式かというとそうとも限らない。録音のときに立てられた2本のマイクには指向性があり、それぞれ前方の音を主に拾っている。決して周囲の全方向の音を拾っているわけではない。マイクの立て方から考えるとマイクと同じ指向性を持つスピーカーをマイクと同じ間隔でセットするのが最善という考えかたも成り立つ。では無指向性スピーカーと指向性スピーカーの鳴り方のどこが違うのか。指向性が広かろうと狭かろうと二等辺三角形の頂点のリスニングポイントに座れば耳に到達する音は同じはず。リスニングエリアが広いか、狭いかの違いだけではないか。ところが、歴然と違う。これは間接音すなわちスピーカーからの一次音以外の室内反射音が定位、音像、音場の認識に格別の影響を与えているということなのだ。Yoshii9では録音マイクで捉えた前方からの音が360度方向に振りまかれる。そこで作られる音場はもし、ソースが残響の多い教会ホールでの演奏ならば最高のものが得られる。演奏会場のステージ上でのソロ・ボーカルならば歌手はスピーカーの高さあたりに大きく広がり、口は大きくなる。しかも、ホールの残響音のようなものが不当に付加される。しかし、これは演奏会場では聞こえていた、リアからの音を表現するので本当らしい面もある。
  逆に指向性の高いスピーカーではリスニングポジションは限られてくるが、ふたつのスピーカーの位相差情報が、スピーカーの前後方にも定位し、一点に定まる音像を作るし、そこから音は前へ飛んでくる。ホールの雰囲気のようなものは再現しにくい。しかし、微小音の再現性を高め、室内音響を調整し、セッティングを追い込むにしたがって雰囲気の再現性はどんどん上がって行く。
  本来、ホールの雰囲気まで再現出来るのは4チャンネル以上の多チャンネル録音の上で、リアスピーカーを含む4スピーカー以上のマルチスピーカーのシステムである。これは現在DVDなどで実現されているが、ピュア・オーディオに較べてソフトが少なく、システムも貧弱なものが多い。また、システムが種々の方式がある以上録音する側でも録音方法は確立されていない。

  Yoshii9はタイムドメインのコンセプトの元に作られた。一定のファン層を開拓したが、この方式はどこまで磨きをかけてもオーディオのメインストリームにはならない。それは従来ソフトの録音方式と本質的に異質な再生システムであるからだ。周波数ドメインよりタイムドメインが優先するというのは真実だ。しかし、擬似的な音場創設はタイムドメインとも無関係である。タイムドメインの実現にはもっと重要な純技術的課題があるように思うし、タイムドメインは従来の指向性スピーカーであっても生かせるコンセプトである。