常色山記 9.笹が峰 |
前日、伊予西条市の湯の谷温泉に泊まり、翌朝7時過ぎに車で登山口を目指した。麓は曇り空だが、南の方を見やると四国の脊梁山脈の頂きは雨雲が風になびいている。下津池から林道に入ると薄暗く狭い道になり、吉居川をまたぐとさらに道幅の狭い砂利舗装の道になる。私は運転していて峡谷の下を見ていないが、家内は下を見ると怖かったという。9:39堰堤の手前にぬかるみ始めた裸地が広がり、数台の車がとめてあった。左の山道に何気ないように登山口と札が下がっていた。標高1000mくらいなので山の春は始まって間もない。樹々の間を見下ろすと緑色の粘板岩の岩面を走る滝が見え隠れする。次第に川筋を離れ、山腹を直登していく。この間季節と植生が次々に変わっていく。木々を透かしてみえる対岸の山は薄黄、淡赤、淡緑、焦げ茶色といろんな色のスプレーを吹き付けたかのようにきれいである。小雨が降り続き、ゴアテックスの靴を通して次第に靴下が濡れてきた。
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上左:国道194号線より山塊を望む。麓から山頂までが一望。 下左:吉井川対岸の峰、天が峠あたりの鋭い岩峰。 下右:山頂近く一面の笹原を歩く。霧で何も見えず。 |
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10:15丸山小屋にたどり着く。軒下で着替えをしていたら、小屋のおばさんが中に入るよう声をかけた。ストーブのある薄暗い部屋で私たちは濡れた靴下や服の手当てをした。小屋なしではとてもこんなにゆっくりとした休憩はとれない。20分も休んだだろうか。ようやく小屋を後にした。檜、杉林は小屋を境に姿を消し始めダケカンバなど高山性の植生に変わった。ジグザグ道で高度を高めて行くが、樹木も姿を消し、笹のみになる。すべてが見通せるはずであるが、霧のせいで何も見えない。頂上間近で道の曲がり際に大きな白い砂地が見えたと思ったが、それは雪渓であった。ここはまだ真冬である。笹原に深く刻み込まれた赤土の道が錯綜して寒風山への縦走路と分かれる。そこからはもう頂上が見えている。吹きすさぶ風のなか、笹も生えない頂上広場に達するともはや腰を低くしないと歩けない。雨粒がびしびし顔にあたって痛い。三角点にタッチすると風で北に向かって傾いてしまった、コンクリート作りの看板の陰で家内とお互いに写真を取るとすぐさま撤収した。私はレインコートのズボンもはいていたのでそうでもなかったが、家内は登山服のズボンのままだったので、布地を通して風が吹きこんで相当寒かったらしい。帰りはいつも軽い。真冬から早春へ飛び降りるように下っていった。丸山小屋で昼食、おばさんにすまないので、シチューを注文、暖かくておいしかった。
笹ヶ峰、寒風山、石鎚と続く四国の脊梁山脈は風の通い路であり、山々は体を張ってこの風をせき止めている。瀬戸の穏やかな気象はこの脊梁山脈のおかげであることを実感した。