| 自己血療法による食物耐性導入法 2000.9.21初稿 |
これまでアトピー性皮膚炎をはじめとする食物アレルギーに対しては原因食物の除去という消極的な治療法しかありませんでした。アトピー性皮膚炎は治ったものの、いつまで除去食を続けたらいいのかわからないという子どもたちが大勢残されてしまいました。 ところで、私がこの8年間アトピー性皮膚炎の治療に応用してきた自己血療法も皮膚症状を治すためには大いに役立ったものの食物アレルゲンを食べられるようにすることはできませんでした。ところが1999年からの研究の結果、自己血療法を利用して食物アレルゲンを食べられるようにする、世界で初の治療法を確立したのです。
この治療法は自己血治療直後に適当な量の食物アレルゲンを適当なタイミングで摂取すると食べても症状が出ない量(限界値)が上がっていくという事実を応用しています。しかもこの治療法は自己血療法の効果を倍加します。自己血療法単独では治らなかったアトピー性皮膚炎やアレルギー病が次々に治っています。これは限界値が上がるとき、同時にアレルギー症状を長引かせる免疫細胞の反応を抑えるためと考えられます。
| 1.治療の手順 |
Q:今まで聞いたことがない治療法なので読んでもピンと来ません。
A:そうでしょうね。具体的な治療の手順を説明した方がイメージがつかみやすいんじゃないかと思いますが。
Q:お願いします。
A:この治療法は(1)除去−限界値決定と(2)自己血注射と治療的摂取のサイクルから成ります。まず限界値決定は食物アレルゲンを最低でも5日間除去したあと、検査します。
Q:限界値というのは何ですか。
A:食物アレルゲンをごく少量から食べていって、段々量を増やしていくと、それ以上食べると症状が出る、それ以下なら症状は出ないという限界の量があります。これを限界値といっています(医師のかたへ:「閾値」のことです)。
Q:限界値は血液検査かなんかでしらべるのですか?
A:いいえ、自宅で食べて調べます。これだけ少量ならまず症状は出ないだろうと思われ
る量から食べ始めます。また毎日摂取量を倍増させながら、症状が出るまで食べ続けま
す。つまり、毎日倍増法です。卵を例にとると、
1日目 1/1024個 からはじめて、症状が出なければ
2日目 1/512個、
3日目 1/256個、
4日目 1/128個 というように食べてもらいます。
5日目 1/64個 で最初に紅いプツプツが出て、痒みが強くなったとしましょう。
その場合、1/64個が限界値です。このとき食べて何分後あるいは何時間後に症状が出たか、メモしてください。また、何時間後あるいは何日後に症状が消えたかメモして下さい。限界値が決まったところで病院に来てもらって自己血療法を開始します。
Q:それなら自宅でも出来ますね。ただし、卵の1/1024個というのはどうやって食べるのですか。
A:卵焼きを薄く焼いて2分の1カットを繰り返すと出来ます。他の食べ物でもいろいろ微量を食べる方法は考えています。実際に治療するときには詳しく教えますので、ここではこれまでにします。
さて、自己血注射をした6−48時間後は限界量の卵つまり1/64個の卵を食べても症状は出ません。
Q:不思議ですね。
A:自己血注射をしたあと、6−48時間はアレルギーをおこす有害な免疫反応が抑えられているのです。しかも、翌週に自己血注射をした後には1/32個の卵を食べても症状が出ません。その次の週は1/16個の卵が食べられるようになり、そのまた次の週は1/8個というふうに食べられるようになります。調子よく行けば5週間で32倍、10週間で64倍食べられる計算です。こうして、通常食べる量あるいは最大食べられる量まで自己血注射と治療摂取のサイクルを続けます。こうしてアレルゲンだった食べ物も食べられるようになります。
![]() 耐性導入法の概念図 |
Q:食べられるようになったときアトピー性皮膚炎はどうなりますか。
A:すべての食物アレルゲンが食べられるようになったときには全治しているはずです。ところで、自己血注射は単独でも湿疹を治す効果があります。しかし、この、耐性導入法を行うと湿疹の改善速度も速くなります。
Q:どうしてでしょう。
A:治療摂取して、それが「通る」ときにはアレルギーに関係する免疫を正常化するような仕組みが働いているようです。「通る」というのは限界値の量を食べても誘発症状が出なかったときのことを言っているのですが。
| 2. 効果について |
Q:耐性導入法のやりかたは段々わかってきました。
ところで、耐性導入法で治療するとアトピー性皮膚炎はみんな治るのですか。この治療
が合わないひとはいないのですか。
A:まず、耐性導入法をやってかえって悪くなるということは皆無です。耐性導入法は年少であるほど聴きがよく、年長になるにしたがって次第に効きが悪くなります。一気に効かなくなるというのではなく、段階があります。まず自己血注射をしても限界値の上がりかたが悪くなり、治療的摂取が1週では通らず、2回、3回と繰り返しチャレンジしてやっと通るようになります。その次の段階として、限界値は上昇したはずなのに症状の改善が見えにくくなります。最後には確かにアレルゲンであるはずなのに限界値が検出できなくなります。こうなるともはや、耐性導入法は実施不可能になります。年齢が上になればみんながそろって効かなくなるわけではなく、限られた数です。
Q:どの位の割合で効かなくなるのですか。
A:0歳代からはじめれば100%効きます。1−2歳代からはじめると限界値の上がりかたがおしなべて悪くなりますが、まだ効かないひとは少数です。3−4歳代からはじめた場合は数%が効かなくなります。それから5−10歳は非常に効きが悪いひとの率が上がるのですが、思春期、成人期には一部の重症者でまた耐性導入法が効果を示し始めます。
Q:先生はこれまで除去食療法と自己血療法をしてこられたそうですが、
そのふたつと較べるとどう違いますか。
A:私は除去食療法を1985年にからはじめ、自己血と除去食の併用を1992年からはじめて除去食単独より効果があることを確かめました。そして1999年に除去食と自己血を有機的に結合させたともいえる、耐性導入法を開発しました。そしてこれは私が知る限り、アトピー性皮膚炎の最高の治療成績を上げているのです。具体的にいうと、乳児の重症アトピー性皮膚炎が除去食単独では10人に1人くらいはまったく治らなかったのです。自己血を併用するようになってから、一時はもう治らない人はいなくなったのではないかと思いましたが、長くやっていると50人に1人か2人は治らないひとが出てきました。しかし、耐性導入法をはじめてまだ日は浅いのですが、自己血併用でも治らなかったと思われる症例が治ってきているのです。
また、もっと軽い方の症例を見回しても、肌がまったくつるつるになる、細かくみてもアレルギーのかけらもない、という患者さんは耐性導入法以前は意外に少なかったのです。いまは完全にきれいになります。アレルゲンそのものがなくなるのですから、当然です。
| 3.適応症について |
Q:耐性導入法は他の食物アレルギーには効かないでしょうか?
A:耐性導入法をするとアレルゲンがもはやアレルゲンでなくなるわけです。ですから、
他の食物アレルギーにも効くと思います。おとなの慢性蕁麻疹、運動誘発アナフィラキシー、口腔アレルギー症、食物アレルギー性の気管支喘息などが対象になると思います。
Q:聞きなれない病名がありますね。運動誘発アナフィラキシーというのはどんな病気ですか。
A:特定のアレルゲン摂取後に運動をすると蕁麻疹、呼吸困難、血圧低下などを起こす病気です。治療手段がまったくないので困る病気です。
Q:口腔アレルギー症とはどんな病気ですか。
A:果物が原因食物のことが多いのですが、もも、りんご、バナナ、メロン、キーウィなどを食べると唇や口の中やのどがむずがゆくなる病気です。最近多くなりました。口腔粘膜に起こる病気ですが、鼻腔粘膜に起こる病気である花粉症とかなり近い病気です。
Q:そういう病気も治るようになるのですか。
A:限界値をどうやって測るか、自己血−治療摂取のサイクルで摂取量をどう決めるかが、治療上の問題です。これがわからないと治療が出来ません。アトピー性皮膚炎の場合は摂取量が多すぎるとすぐ皮膚に出るのでわかるのですが、口腔アレルギー症を除いて摂取量の設定が困難です。しかし、これらもやっているうちに何か道が拓けるのではないかと思います。限界値の設定、摂取量の設定の面ではむしろ鼻アレルギーが容易です。
Q:食物アレルギーでも鼻アレルギーがあるのですか。
A:食物アレルギーでも鼻アレルギーはなくはないのですが、今申し上げるのは吸入性アレルゲンによる鼻アレルギーのことです。スギ花粉症ではすでに耐性導入法で限界値を大幅に引き上げることに成功しています。ただ、来年以降もスギ花粉症が出ないか、どうかは来年になってみないとわかりません。
Q:ほお、吸入性アレルゲンでもいいのですか。スギ花粉以外はどうですか。
A:まだこれからの課題ですが、ダニ・アレルゲンにもいずれ拡げたいとは思っているのです。ただ、独特の困難も待ち受けています。耐性導入法を広く認めてもらって、みんなで研究しなければ出来ないかもしれません。
| 4.治療の原理 |
Q:耐性導入法の治療の様子は段々わかってきましたが、元にもどってなぜ食べられるようになるのか、教えて下さい。
A:それにはひとの赤ちゃんはなぜ、お米や小麦、牛乳、卵などを食べられるようになる
のか、ということを考えてみなければなりません。
Q:えっ。それってあたりまえじゃないですか。
A:そうでもないのです。ひとの赤ちゃんというのは全員がいわば生まれながらのアレルギーともいえるのです。もっと正確にいうとアレルギーのもとは誰でも持って生まれているのです。お母さんのおなかの中で免疫を司るリンパ球が発生したとき、この世にありとあらゆる抗原に反応するリンパ球のフルセットを持っているのです。したがって過剰の抗原を与えらればだれでもアレルギーになるのです。
Q:うん、だから赤ちゃんのときには牛乳や卵を控えるのですよね。だけど、牛乳や卵を控えていてもアトピー性皮膚炎になってしまう子もいますよ。
A:実は将来アレルギーを起こさない健康な乳児でもはじめての食べ物を食べるときには高率にアレルギー症状を起こしているのです。乳児のおしめを連日点検しますとときどき点状の出血が見られ、その部分を顕微鏡で見ると好酸球が出現しています。
すなわち消化管アレルギーを起こしているのです。ところが健康乳児はその後すぐにその食べ物が食べられるようになる。ところがアレルギー保因者はそれがきっかけで明らかなアレルギー疾患を起こします。
Q:健康な乳児とアレルギー保因乳児との違いは何でしょうか。
A:アレルギー保因者というのをドンピシャと見分けるのは難しいのですが、生まれたときの臍帯血でIgEが高いひとを一応アレルギー保因者としますと、その時点ですでにヘルパー細胞の機能が高いことが分かっています。本来多量の抗原が腸管から入ってきたときはすぐに免疫の中枢司令部が「これは食べ物だな、これは免疫の対象から外しておこう」という判断をするのです。ところがヘルパー機能が高いとそれが邪魔をして「危険な抗原が体に入ってくるおそれがある。厳重に警戒体制を敷こう、入ってきたらやっつけよう」という判断になってしまいます。これがアレルギー病のはじまりです。
Q:ヘルパー機能というのが悪いわけですね。
A:えーっと、高すぎるヘルパー機能が悪いと言いかえて下さい。そしてヘルパー機能を押さえ込むのが自己血注射です。自己血注射をしたあと5時間から48時間の間はヘルパー機能が抑えられている。その隙に限界量の食べ物をそっと食べさせてやる。すると免疫の中枢司令部は「食べ物だ」という判断を下して限界値を上げるのです。
Q:つまり、免疫を強くしているわけですか。
A:いいえ、違います。かといって免疫を弱くしているとも言いにくい。余計な免疫反応を抑えているのです。もし、免疫が弱くなると細菌やウイルスに負けて重症の感染症になってしまう。逆に免疫を強くするとアレルギー病が重症になってしまう。ではどうするかというと食べ物は免疫の対象リストからはずそうという働きです。これは急には出来ないので徐々に限界値を上げるという形で対応しています。このことを医学用語で「免疫寛容」と呼んでいます。
Q:はあ。免疫寛容?
A:寛容の意味がわかりにくいでしょう。私が医学生のときも「寛容」と聞いてすぐには意味がつかめませんでした。わかりやすくいうと免疫解除です。もうこのアレルゲンには免疫反応は必要ないよ、って免疫の対象リストからはずすんです。健康な乳児ではこの免役寛容の現象が目にもとまらぬ早さで進行するので初めからアレルギーなどなかったようにみえるのですが、実は素早く免疫解除を済ませているのです。アレルギーになる子は最初に免疫解除に失敗するとあとあと、躓きっぱなしなのです。1回躓くと限界値は下がります。次ぎに同じ量を食べたとしても今度はより強い刺激として感じてしまうのでもっとひどく転ぶ、つまり症状が出てくる、限界値はいよいよ下がるという具合でなかなか立ち直れないのです。
Q:ふん、ふん。耐性導入法の仕組みと逆の道のりですね。
A:正解です。実にいい表現です。まさしく、アレルギーに転落し、アレルギーがどんどん強くなっていく過程の逆を行くのが、耐性導入法なのです。実はアレルギーはアレルゲンだけが原因ではないのです。アレルギーを起こしているのは過剰なヘルパー機能にも原因があるのです。しかし、原因がわかったら、治療はどうするのか。今まではアレルギーの原因がアレルゲンにあるとして、除去食だけを行ってきた。ところが、これだけではよくならなかったのです。もうひとつの原因である過剰なヘルパー機能をなくすためにはどうしたらいいのか。普通の医師、研究者ならただちに免疫の改造をすると言い出すでしょう。ところが、免疫の改造というのはいうのはやさしいが、ものすごく難しい。どこから手をつけていいかわからない。そこで私は余分なヘルパー機能を正常化する、自己血療法を取り入れたのです。しかし、自己血療法単独ではヘルパー機能の正常化する力には限りがある。最後にみつけたのが耐性導入法でした。これは限界値が上がると同時にヘルパー機能がどんどん下がっていくのです。
Q:よくわかりました。ありがとうございました。