常色山記
28.空木岳 2864m
2004.9.19

  空木岳は私にとってリベンジの山である。95年の5月の連休のこと、木曽殿山荘に電話を入れると「頂上の雪は風で吹き飛んでますよ」とのことだった。「へぇー、じゃ登れるんだ」と思って麓に宿を取ったところ、宿の親父さんから「アイゼン、ピッケルがないと登れませんよ」とあきれられた。まだ、登山を始めたばかりで何も知らない私だった。せっかく来たのだからとりあえず登れるとこまで登って引き返すことにした。小地獄まで来たところ氷の塊の中に鉄梯子が埋まっていた。なすすべなく引き返した。
  2回目は上松のスキー場のコースから木曽駒を目指し、空木へ縦走する計画だった。木曽駒についたとき大雨となり、翌日は宝剣山の通行禁止となったので千畳敷から下山した。以来、山行きの計画のたびに候補のひとつとして考える山となっていた。

 今回は初回と同じく駒ヶ根から頂上を目指す。休みは2日しかないので、日帰りを目標とし、もし、体力が続かなければ、あるいはトラブルがあれば小屋泊まりの計画としたので、ザックは重くなった。行き帰りの標準時間は10時間10分になる。はたして日帰りできるだろうか。

   
池山小屋への分岐の水場 真新しい新池山小屋 マセナギのあたり、左がナギになる

   例によって、登山口を探しているうちに時間がたったので林道を車で上ってズルした。適当なところで車を置いて、登山を開始(7:15)。ところが、以前と違って林道の最終地点には立派な駐車場が整備され車が溢れている。百名山へわれもわれもと押し掛けると登山口も上へ上へと押し上げられるのだ。ちょっとがっかりである。草が青々とした池山の周囲を左に巻く。早くも小雨が降ってきたので雨具を着る。「旧池山小屋」におりてみると、小屋は畳まれて材木が積んであった。ここで水を補給する。しかし、もう少し登ったところに新池山小屋が出来ており、コンコンと水が湧く水場が二つもあった。ここで朝飯(8:31)。小屋はきれいで明るく、広い。雨の日に食事と身繕いを丁寧に出来るのは身にしみてありがたい。

   
最初の鉄梯子 グループで休憩できる

 池山尾根の右に取り付き、高度を上げて稜線に至りマセナギに達する(9:13)。ここのナギ(崩壊地)をはじめて見たとき怖かったのを思い出す。怖いのはナギの側だけではない。反対側も急角度にそげ落ちており、滑落したときトウヒ、シラビソにぶち当たってけがするか、下まで転がり落ちるかの違いだけである。いったん、おりきったところで、鉄梯子が見え始め、大地獄、小地獄を過ぎるまで梯子、木橋が連続する。危険、滑落注意と立て札がたっているが、この間登った傾山に較べて梯子、橋などが整備されているだけ、気は楽である。小地獄を過ぎたときは感慨深かった(10:00)。未踏の石ころだらけの稜線に早く出たいと思った。ヨナ沢の頭に近いと思われるところで休憩地点にいい場所を見つける(10:55)。ここまで道は狭く、山を降りる人をよける場所や座る場所もなかったので印象に残った。その後、植生は明るく黄色に色づくダケカンバに変わった。森林限界が近づいていると思うとうれしい。再び稜線に出たところが、駒石コースと空木平コースの分岐であった。

   
空木平の避難小屋は駒ヶ根市が運営する。私にしてはめずらしく、協力金1000円を置いていった。 空木平の南の稜線。ハイマツの緑がすがすがしい

  空木平全体は非常に浅い渓谷になっており、もしかするとカールだったのかも知れない。行く手に折り重なるダケカンバの黄色が騒然としているとさえ感じる。今回はこの紅葉を見るだけでも来た価値があった。渓流がありその向こうに避難小屋がある(12:20)。この小屋も非常に清潔で居心地のいいものだった。ここで休憩した後、渓流沿いに登り詰める。あいにく左膝の側面のスジが痛くなった。脚を引きずりながら尾根すじに出る。そこが駒石コースとの合流点。すぐ近くにある空木岳駒峰ヒュッテさえ、霧でぼやけている。空木岳避難小屋にザックを置いて登ることに決めていたが、駒石コースは霧で景色が見えなかったので、これは正解だった。そこから頂上まではわずか100m、間もなく、頂上に着いた(13:24)。砂とハイマツの景色は写真で見たとおりであったが、眺望はない。高山であれば2回に1回はこんなことになる。

  避難小屋に引き返すと、半分がた人で埋まっていた。みんな明日の晴れを待って登るらしい。その中に登りのときから後になり先になりした人がいた。キノコ採集が好きでサイトを作っている野原森夫 さんである。この方の空木岳のページ はぜひご覧になって下さい。降りる間、霧が晴れて来て、クリーム色に染められた伊那平野が見えて来た。檜尾の稜線も望めるようになったのに、デジカメのフィルムが一杯になってしまったのは残念だった。

     
渓流は上方でかえって川幅をましていく 頂上の道標。池山までちょうど10kmだ。 証拠だ、証拠。私は登ったぞ。
 
  分岐部からはほぼ下るばかり(15:05)。問題は左脚のすじだ。降りるときにはいっそう痛みがまして、段差のあるところは左脚を踏み出せない。池山を過ぎる頃には既に真っ暗でライトを付けなければならなかった。さいわい池山からのほぼ平坦な部分では思い切りとばすことが出来たから体力自体は問題はなかったようである。駐車場についたときはホッとしたが、登山道の道標が見あたらない。というよりも、段差のある登山道はもう一歩たりとも降りる気がしなかったから真面目に探さなかった。車を置いたところは林道のループ一つ分下のはずで、このまま林道を降りていけばよいと判断したのだ。ところが、林道は思い切り右に振れていて、歩いても歩いても駐車場のところから離れるばかりである。もしかして車を置いたのは別の道ではなかったか、と不安に駆られた。ループを左に返してからは、ライトの狭い視野の中で車を探しながら歩いた。車が見つかったときの気持ちは安堵したなどと言うものではなかった(18:45)。
 すじを痛めたのは、段差のある坂道をザックを背負って登る訓練が足らなかったためだろう。12時間近くを歩き通したとはいえ、標準時間をオーバーした事実は残念だった。
 
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