常色山記 10.宮乃浦岳(屋久島)1935m 2001.5.4 |
読売旅行のツアーで屋久島に行く。私はツアーは初めて。食わず嫌いだったが、これは行こうか、行くまいか、決心がつきかねていたため旅行の準備が遅くなったので、やむなくツアーにしたのである。前日は島を時計回りに回って、千尋滝(せんぴろのたき)と大川滝(おおごのたき)などをバスで連れて行かれる。
5月4日はバスで6:25淀川入り口着。ここから歩く。ツアーのうち宮乃浦岳コースに回ったものは14名、それに山岳ガイドの日高さん、添乗員がつく。40分ほど歩いて淀川小屋につく(8:08)。小屋のそばでは川の流れがたゆたい、きれいなエメラルド色を見せている。ここで朝食をとった。9:34日高さんはつとコースからはずれて秘密の展望所に案内して高盤岳を見せてくれる。高盤岳から先、この当たりから山々はいずれも頂上に大きな石が置かれている。隆起した地層がはげしい雨に浸食されて大岩が残るらしい。
千尋滝は滝よりも左側の巨大な一枚岩が見物。 |
淀川の澄んだ水 |
ここはまだ標高1400mくらい、よく茂る樹木 |
小花之江河の出口あたり。 |
9:46小花之江河につく。ここは2600年前に形作られた湿地帯で泥炭層に褐色のこけ類、水草類が繁茂する。人が踏み込むと直ちに植生は消滅するので木橋が作られている。出口に2本のスギが門の用に並んでいる。ここら当たりの標高ではスギは上に上に伸びることなく、上端が平べったくなる。日本庭園の刈り込まれた樹木のようだ。その少し先にも湿地帯の花之江河があるが、凝縮された美しさでは小花之江河の方が上だ。黒見岳の上の面白い岩を日高さんは「アレはパンだ、パンに似ている、後ろに回ると切れ目が見える」と説明する。なるほど進んでいくと、ナイフが縦に3−4回入れてあるのがわかる。日高さんの第一印象は「無愛想でズケズケものをいう人」というものだったのだが、このへんから、正直で、飾らない、ユーモアのセンスをもった日高さんの人柄がみんなも段々わかってくる。ときどき脚を止めては岩の形、白骨樹を指さしては「何々に似ている」とか「ここで写真を撮りなさい」とかいう。彼が足を止めると面白いことを聞き逃すまいと列の後ろの人が寄ってくるが、道が狭いので途中からは口伝えで聞く。黒味岳を過ぎると投石岳、安房岳、翁岳の中腹を巻いて進む。栗生岳を見て誰しも宮乃浦岳が見えたと喜ぶが、実はもう一つ先である。栗生岳を過ぎるころに盛大にガスが出てきた。最後の登りにかかって、日高さんは不意にV字状のくぼみに皆を導き、ここに荷物を置き、水とカメラだけを持って登れと指示する。あまり重くもなかったがそれでも助かる。そこから約20分、ルートは右に曲がって12:08ほんとの宮乃浦岳山頂である。ああ、長かった。ホテルで同室だったツアー客と握手。ガスで周りは余り遠くまで見えない。でも誰もが今日の好天に感謝した。ここは一月に35日雨が降るとうたわれたところ(実は30日のうち5日だけ晴天となる)、しかもここの雨と来たら、レインコート2枚重ね着してもずぶ塗れになるといわれる。山頂までガスなしがよかった、と欲なことを言えば罰が当たる。山頂では記念写真、写真が延々と続く。
「山頂は弁当食う所じゃねえ」と日高さんは下りながら一くさり。「いっぱい来るんだからよう、次々開けてなくちゃ、おっこんなところに誰かうんこしてやがる」日高さんは笹原に乗っかったちり紙を見つけては手にしたポリ袋に回収する。道々、世界遺産になったけれど環境省の考えたかや登山客のマナーが追いついてないことを嘆く。「ちゃんと整備してから、世界遺産になりゃよかったんだが、順番が逆になっちゃった」。V字の避難所で弁当、休憩。下からはまだまだ登山客の列がいくつも続く。もうちょっと、と声をかけてもかえってくたびれたような顔になる。
トウフ岩 |
花之江河にて。後ろは黒味岳。 |
さて、下りにかかって栗生岳の手前で左手下には日高さんがトーフと呼ぶ奇岩がある。行きには冷や奴だったが、帰りには湯気をたてて湯豆腐になっていた。ついでだが、鹿児島弁ではトーフのことをオカベと言うらしい。
帰りにかけて、日高さんは遭難者の話を何回もした。昨年の11月のこと、花之江河から家族連れうちお母さんだけが、ちょっと黒味岳に行って来るといったきりいなくなってしまった話、「それからまだ帰って来ねーんだ」。捜索隊が花之江河の脇にテント泊をしたら夜中に多人数が回りを回るような音がし、そのうち足を押さえつけられて動けなくなった話、お金持ちのパチンコ屋が遭難して、100人体勢で1200万円かけて捜索した挙げ句、河口で足だけ出しているのが見つかったとか。昨年だけで12人いなくなったそうだ。道に迷うとたいてい沢の方に行く。雨が降ると河は増水して水かさが増し、アッという間に流される。尾根に上がって捜索を待てばいいのだが、動いて体力を消耗してしまうという。
日本アルプスなどに較べて一見易しい山のようだが、いったん天候が悪くなれば相当に怖い山である。また、環境を汚さないよう、細心の注意を払って登るべき山である。ハイキング気分で来てもらっては困るので、熟練したガイドについて屋久島の豊かな自然をお勉強させて頂くという気持ちで行くべき山かも知れない。
帰りも幸い天気は崩れず、16:40淀川入り口帰着。10時間の歩行は予定通りであった。