湯来冠山
1004.4m
14.3.21
佐伯郡湯来町

  広島のひとは山頂がクイとしゃくれた山には残らず冠山と名前をつけた。そこで××冠山と呼ばなくてはわけが分からない。湯来冠山は先日登った阿弥陀山の北方に位置する。出発は遅かった。家を出たのが何と2時である。山に行きたいが行けない日が続いていたし、午前中天気がよくなかったので、気持ちが鈍っていた。2時頃になって「どうしても行く」と決心したのである。国道×号線から平行する川をまたいですぐのところに何気に登山道が始まっている。ゴミ焼却場までは車が通れる道であったので、しまった来れるとこまで車で来ればよかったと思ったが、すぐに焼却場についた。日の光が黄色っぽいのでついつい急いでしまう。しばらくは平坦な山道を行く。しばらくするとスギ林に入るが、こんな山奥にいくつもいくつも石垣がある。その昔は田や畑があったのだろう。隠し田であったのかもしれない。そういえば先日の阿弥陀山の下山のときも麓のかなり前から石段があった。この石垣の上にいまはスギが規則正しく植わっている。スギ林はいつしか渓流沿いの急坂になり、息が弾む。先日の花粉症に懲りて今日はなんとマスクをしているのである。時間は限られているので出来るだけ急いでいる。次第に息苦しく暑くなって、マスクをときどきはずす。しまいにはまったくかけずに登る。湿って風の気配もないのでどうともならなかった。

  


    クマザサの茂る頂上尾根
     中央の高みが頂上

  スギはずっと先の先の方まで林の向こうの空間を埋め尽くすように植わっている。尾根に達したところでスギはとぎれた。何の変哲もない自然林だが、スギがなくなっただけで思わずデジカメを撮るほど嬉しかった。木々を透かして北、東の山を望むと山の深さとひと気のなさは流石に1000m級の山の風格である。西へ西へと尾根を上り詰める。ここも急いだ。頂上手前は両手を使って這うほどの急坂だとガイドブックに書いてあった。そこで迷うことなく北への迂回路を選ぶ。頂上尾根への短い坂を上り詰めると眼前の景色に息を飲んだ。西側斜面が伐採された頂上尾根からは近くの黒々とした山影、薄紫に煙る芸北の山並みが一望であった。傾いた日差しの中、クマザサが光り、林が金色に燃える。あらためて遠景には西にこの山と同じ名を持つ吉和冠山がシルエットだけになって威風堂々と佇んでいる。西北には定規を引いたように平らな山頂を持つ十方山が見え、肉眼ではひとすじほどの雪を載せているのがロマンを誘う。笹原となった頂上尾根を伝って頂上に達したが、そこはよくある「展望のない四畳半の頂上」であった。頂上尾根を今度は出来るだけ北に行ってみるが、刈り込まれた明るい感じのする眺めだった。なによりほとんど人工物を目にすることがないのがよい。
 

      明るい尾根の林  遠く見える十方山、左上写真の右端部分

  この山にはまったく期待していなかった。体を動かす楽しみだけを思い浮かべ、日のあるうちに往って戻りさえすればいいと考えていた。ところが頂上の景色に胸を揺さぶられた。これはいわゆる「B級映画の名画」効果というやつであろう。期待してなかったら意外と面白かった。別名「タケシのいわゆる海水浴場のカレー屋」効果ともいう。みなさんもこの景色を楽しもうと思えば期待なんか露ほども持たず、奮闘して登って下さい。
  かえりはマスクをかけず堂々と下りた。雨が上がったばかりだったのでスギ雄花序も硬く口を閉じていたらしい。登山口に帰り着いたのは5時を回ったばかりだった。春分の日は思いもよらず日が長かった。

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