| 「舌下減感作療法」と健康食品の「スギエキス」の類似点 2008.3.12 first upload |
スギ花粉症の治療として、医学界では「舌下減感作療法」
(SLIT)に注目が集まり、民間療法または、健康食品の業界ではスギエキスなどの摂取が注目されています。健康食品の方は副作用のため厚労省から規制がかかりました。しかし、この二つの動きは共通の欠陥を持つように思えます。
スギ花粉症の原因療法、根治療法としてすでに確立されているものに減感作療法があります。通院期間が長いことと、ときにアナフィラキシー、ショックを引き起こすことがあるのが難点です。英語圏では、
皮内注射で行う、減感作療法を含め、アレルゲンにだんだん体を慣らしていく治療を総称して「免疫療法、immunotherapy」と呼びます。
免疫療法にはこの他に、昔から、口から入れる、「経口療法」の試みがあります。ヨーロッパ諸国ではこの方法が盛んで、「舌下減感作療法」
、「サブリンガル・イムノセラピー(SubLingual ImmunoTherapy)」、略してスリット(SLIT)と呼ばれてます。日本で
もスギ花粉症の蔓延のため、この療法に対する期待が高まっています。しかし、・・・・。
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報道より 「舌下減感作療法」というのは、口から少しずつスギ花粉を体内に取り込んで、体をスギ花粉に慣れさせ、免疫作用により症状を軽減させていく。方法はスギ花粉エキスを含ませたパンを しばらく、舌下に入れておき、その後吐き出すものです。 「舌下減感作療法」は、2〜3年くらいの期間をかけて花粉症を根治しようという療法で、2010年に一般化させる予定で、日本医科大学と千葉大学で臨床中ということです。 |
■ 「2010年に一般化させる」と言いますが、これは治療法として確立する、という意味でしょうか。新しい治療法を確立するということは例えてみれば、地図も道もガイドもいない目的地に行くようなものです。週末に東京からロンドンに出張するとうようにスケジュールが組めるものではありません。だから、2010年に治療法が完成できるだろう、というような見通しは普通立てられないのですが・・・。
A.「舌下減感作療法」
「舌下減感作療法」という名の治療法の開発が進められているのを私が知ったのは数年前のことです。NHKの『クローズアップ現代』でその話題が取り上げられると知って、食い入るように見ました。なぜならば、私が
開発した耐性導入法も同じ経口投与だからです。この治療法今にも出来るというような報道がされたのですが、見
終わった後の感想はなんだ、その程度のものかというものでした。私の治療法の地位が脅かされることはないことでは安心しましたが、この程度のものだったことについてはむしろ、失望を覚えました。
私がすでに研究してきた経験からすれば、方法論において決定的な誤りがあります。
(1)閾値(限界値)を測定していない。
(2)投与量(濃度)の管理をしていない。
(3)投与方法が適当ではない。
(1)閾値(限界値)を測定していない。
アレルゲンには閾値というものがあります。ある量以下を投与したときには症状は出ない、アレルギー症状がひどくなるということもない(過小量)。ある量以上を投与すると症状が出る、ある量以上を1回、あるいは数回投与すればアレルギー症状はひどくなる、そういう量があります(過大量)。そして過小と過大の中間には投与しても症状は出ない、しかし、アレルギー症状が軽くなる、そういう量があります。これを「限界値」と言います。(ここのところは若干簡略化しています)。
「減感作」というのは大まかにいえば、”アレルゲンを少量からだんだん慣らしていく”という考え方です。しかし、少量とはどれくらいか、過量とはどれくらいかを測っていないことには、「少量からだんだん慣らしていく」ということも不可能です。いわば知らない道を行く旅のようなものです。
(2)投与量(濃度)の管理をしていない。
これは閾値を測定していないことと表裏の関係にあります。おそらく、投与量はなんらかのスケジュールで暫増しているのでしょうが、適当な投与量というのがわからなければ、投与量の管理もできないわけです。
(3)投与方法が適当ではない。
なぜ、舌下投与を選んだのか私にはわかりません。おそらく、舌下に短時間おいて後で吐き出せば、ごく少量しか吸収されないから安全だろうと考えたのでしょう。しかし、ごく少量与えた方がよい、と考えるのであればスギ花粉エキスをいくらでも希釈して服用させれば済むことです。
もともと経口免疫寛容は腸の粘膜の下層に免疫担当細胞がぎっしり詰まっていて、それらの細胞が大量に吸収される食物(基本的には体にとって異物であり、アレルゲンとなりうる)を安全に処理して免疫寛容を得るから構想されたものです。口腔粘膜は腸のような専門の消化吸収器官ではないので、免疫寛容には不向きではないかと思われます。
ヨーロッパで先に実用化された
という話があるので始めた、過大な量を与えてはまずいだろうから、舌下で、しかも後で吐き出せば大丈夫だろう、十分微量から少しずつ多くすれば大丈夫だろう。経口ならば大丈夫だろう。・・・という考えで開発を始めたのだろうと推測します。
私が実際に鼻粘膜の限界値(閾値)を測定してみたところ、そのレンジはものすごく広いことがわかりました。患者によってはスギ花粉エキス1滴をプールに落としたほどの濃度でも症状が出る人もいる反面、原液
濃度でも症状が出ないひとがいます。また、耐性導入法を施行した患者では一晩に1000倍も、100万倍も閾値があがることがある反面、濃度を失敗すると逆にさがることもあります。
とすれば、測定なしに早くエキスの濃度を上げれば危険に直面します。危険を避けてごく少量からはじめれば治療効果の域に達するまで非常に
時間がかかるということになります。
実際問題、このようなラフなやり方でもある割合のひとは症状が緩和することはあると思います。しかし、医師が行う治療法としては、ある程度高い治療成績が必要です。患者の身になって納得できるほどの効果がなければ広く受け入れられる治療法とはならないでしょう。現に最近でも、次のような評価が下されています。
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http://oshiete1.goo.ne.jp/qa1186671.html 下記論文では、症状スコアではっきりした効き目がない、としております。即効性があるかどうか否かもはっきりとはしてません。今後さらに改良が必要だと思われます。 スギ花粉症に対する舌下抗原特異的免疫療法 パイロットスタディー 大久保公裕(日本医科大学 耳鼻咽喉科), 後藤穣, 島田健一, 奥田稔, 八木聰明, 大力一雄 日本鼻科学会会誌41巻 1号 Page 30-35 (2002.4) |
B.スギ花粉症緩和米
「スギ花粉症緩和米」のニュースもスギ花粉症患者の熱い注目を浴びています。
| また、農林水産省の所轄の研究所では、「スギ花粉症緩和米」の開発にむけての研究が行われています。「スギ花粉症緩和米」というのは、米の遺伝子を組み替えることで、米の中にスギ花粉の抗 原を入れ込んだ米をつくり、「経口減感作治療法」のひとつで、食べるだけで花粉症の症状がよくなるのだそうですが、実用化は10年後を目途としているようです。 |
これも治療原理はアレルゲンを口から体内に入れ続けて「慣らす」という「経口免疫寛容」の試みです。「舌下減感作療法」と違うのは、花粉エキスの代わりに
米の中にアレルゲンの一部分を入れておくということです。ご飯の中に直接、スギ花粉エキス混ぜるのではなく、お米の遺伝子の中にスギ花粉アレルゲンのT細胞エピトープという部分だけを遺伝子組み替えで米の遺伝子に取り入れてい
ます。T細胞エピトープを使ったのはアレルゲンに「慣らす」ときに、もっとも危険な「アナフィラキシー」を起こしかねない、アレルゲンの他の部分を取り除いておく
ためです。
開発者側が
この治療で気をつけないといけないのと意識しているのは、スギ花粉の一部を遺伝子に組み混んだお米が完全に安全かということだけのようです。
しかし、それ以前に重要なことはまず、T細胞エピトープだけで「経口免疫寛容」を起こして、治療することが出来るかという「実証試験」です。
そのためには、いったいどのくらいの量から始め、どのくらいの速度で引き上げていくのがいいか、という基礎的な研究がないといけません。「微量」だったら大丈夫だろう、毎日少しずつ食べれば大丈夫だろうという安易な予測で
始めても必ず副作用や躓きに直面します。
そもそも、この事業で疑問に思うことはなんで、米なのだろうか、ということです。T細胞エピトープを作ったら、それはスギ花粉症の人に直接服用させればいいではありませんか。わざわざ、危険を冒して、米の遺伝子に組み込んで食べさせるということのどこに意義があるのでしょう。農水省の予算獲得のためとか、米作保護をひそかな目的とした余計な事業計画としか思えません。
C.「健康食品」のスギエキス
「健康食品」メーカーからはスギ花粉エキスをはじめとして、さまざまなスギ花粉症に効く食品が発売されています。「健康食品」の市場というのは、医学ではなかなか治らない病気や病気以下の体の異常があって、ひとびとが熱心に治る道を求めているときに成立します。そして、明らかに治療効果があると認められるものは医薬品として商品化されますから、治療効果が認められていない「健康食品」は効果がありそうだ、という期待感だけで売れているのです。例えば「はげを治すことが期待できる」商品などがそうです。健康食品に対するひとびとの期待感は非常に高く、健康食品メーカーの社長さんはそんじょそこらの病院の院長先生よりは高額の外車を何台も所有しています。
さて、健康食品メーカーからはスギ花粉入りの、「エキス・カプセル・錠剤・アメ・クッキー」などが発売されていました。そのひとつから下のような健康被害がの事例が報告されました。
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一時重体になるケースも事例 和歌山県で今年2007年2月に起こった事例。花粉症のある40代の女性がスギ花粉入りの健康食品(カプセル)を飲んだところ、30分ほどで蕁麻疹が出て、息苦しくなってきました。すぐに病院に行きましたが 、強いアナフィラキシーで、命は取りとめましたが一時重体となりました。 |
この事例を受け、厚生労働省は4月16日、スギ花粉入りのすべての食品に「スギ花粉症の人が摂取すると重篤なアレルギー症状を引き起こす」と表示するよう販売業者に指導
することを決めました。
スギ花粉入りの健康食品としては、「エキス・カプセル・錠剤・アメ・クッキー」などがありますが、このうちスギ花粉を主成分とする「エキス・カプセル・錠剤」などの販売を禁止し、スギ花粉を混ぜた飴やクッキーの場合はスギ花粉が入っていることを明記した上で、「重篤なアレルギー症状を引き起こす可能性がある」ことを表示させることとしました。
なお、スギ花粉を含み、花粉症の治療・予防に使用されることを目的とした製品は「薬事法上、医薬品に該当する」とし、そうした製品を発見した場合は、事業者等に販売中止、回収などの必要な措置を行わせるよう求めています。
厚労省のこれらの措置は当然のことです。ただし、それではスギ花粉エキスはまったく効かなかったのか、と言えばそんなことはないと私は思います。先ほども指摘したように、限界値(閾値)は非常に広い幅で分布していますから、たまたま市販のエキスの濃度
がよかった人もときにはいるでしょう。また、エキスの場合たまたまその人の薄め方がちょうどよかった人もいるでしょう。しかし、エキスがその人にとって濃いすぎた場合はアレルギー、症状をさらに強くすることがありますし、中にはこのような強い症状を起こすこともあるでしょう。
「舌下減感作療法」も市販のスギ花粉エキスで治すのも私にとってはほとんど同じようなものに見えます。「舌下減感作療法」もスギ花粉エキスも適当な摂取量がいくらであるか、ということには無知なまま進めており、スギ花粉エキスの飲用の方が平均的には非常に過大な量を飲んでいたというだけのことです。「舌下減感作療法」の方が少ない摂取量から始めているとは言え、もし、服用によって期待通り限界値(閾値)が上昇しなかった場合は、それから先、量を増やしていけばどんどん過大な量をあたえることになり、アレルギーを強くすることはもちろん、副反応の危険も大になるからです。
大事なことは常に、どれだけの量のアレルゲンをどのようなタイミングで投与すべきか、をモニターしつつ投与することなのです。
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