|
新年度が間近の時期にもなると、先生からお尻を叩かれていない子は、私と麻奈の二人しかいなくなってしまった。担任の桜井先生は、何かあるとすぐにお尻を叩くので、クラスメートのほとんどがその犠牲になったのだ。 中学生二年生にもなってお尻叩きをされるのは、女の子にとっては恥ずかしくてたまらないことだった。しかも、男子も含めたクラスメートが見ている中で、黒板に手を付いてスカートを捲り上げられるのだ。ブルマーを履いているとはいえ、桜井先生は若い男の先生だし、席に着いているみんなにお尻を突き出すような格好なので、女子はみんな死ぬほどお尻叩きを嫌っている。 それでも、忘れ物をしたり授業中に私語をしたりして、ほとんどの子が一度はブルマーの上からお尻を叩かれていた。最後まで残ったのは、優等生で通っている私と麻奈だけだった。 私と麻奈は、学業が優秀なだけでなく、容姿においても非凡なものを持っていたので、クラスではよく目立つ存在だった。二人とも、皆を仕切ったりする積極的なタイプではないけれど、ただいるだけで存在感があるような、そんなタイプだった。 自然、私達はよく話をするようになり、クラスが一緒になってからのこの一年は、ほとんど親友といってもいいくらいの付き合いをしてきた。 もっとも、成績も男子の人気も、僅かながら私より麻奈の方が勝っていたので、私は内心では彼女のことを妬んでいた。 麻奈の方はそんなことに気付きもしないので、私達はまだ少なくとも表面上は親友同士だった。 終業式の前日。 せわしなく鞄を探っている麻奈に、私は何気なく声を掛けた。 「麻奈、どうしたの? まさか、忘れ物?」 「な、なに言ってんの。そんなわけないでしょ」 「だよね。今さら忘れ物なんて、するわけないよね」 「あ、当たり前よ」 最近になってから何度となくしてきた会話だ。 今まで男子に恥ずかしい姿を晒してきた子たちを尻目に、私と麻奈は優等生然としてきた。あと少しで桜井先生の担任するクラスともお別れだ。新学年を目前にしてお尻叩きされるなんて、あまりにも馬鹿らしい。 そう言おうとした直後、桜井先生が教室に入ってきたので、私は慌てて席に戻った。 「さっさと席に着け! モタモタするな!」 桜井先生は今日も機嫌が悪いみたいだ。少し前に奥さんに逃げられて以来、毎日がこんな感じだ。いい加減ウンザリだけど、明日の終業式を迎えれば、もう毎日のように桜井先生の顔を見なくて済む。あとちょっとの辛抱だ。 昨日配られたプリントを、学級委員である麻奈が全員から回収して、桜井先生に渡した。先生がそれをチェックしている間、私達は背筋を伸ばして着席したまま黙っていなければならなかった。静まり返っている教室に、しばらく先生がパラパラとプリントを捲る音だけがした。 「……数が合わねえぞ、おい。誰だ、提出してねえ馬鹿は」 「…………」 名乗り出る者はいなかった。 黙っていても乗り切れるはずはないと思うけれど。 「全員出してるのか? ああ?」 先生は不機嫌そうにプリントを数えなおした後、もう一度ゆっくりとプリントを捲くっていった。一枚一枚、名前を確認しているのだろう。 やがて、桜井先生が低い声で言った。 「おい、麻奈」 麻奈は大袈裟なくらいビクッと震えた。 「お前のプリントがねえじゃねえか」 教室に緊張が走った。最近は先生の機嫌が悪いので、みんな刺激しないよう気を付けていたのだけれど、ついにこの時が来てしまったのだ。 それになによりも、プリントを出していなかったのは、今まで一度もお尻を叩かれたことのない麻奈だったという事実が、みんなに驚きを広げていった。 これから麻奈がみんなの前でお尻を叩かれるのかと思うと、私はまるで自分のことのように緊張した。胸が潰れそうなくらいのストレスを感じる。 麻奈はそれ以上に辛い状況なのだろうけど……。 「何とか言えよこの野郎! 舐めてんのか!」 ドォンと教卓が力強く叩かれ、教室中に怒号が響き渡った。 自分が怒られている訳でもないのに、何人かの子がビクリと反応した。 当の麻奈は、真っ青に蒼褪めてブルブルと小刻みに震えている。 「前に出て来い!」 「……は、はい」 泣きそうな声で麻奈は小さく返事をし、ぎこちない足取りで黒板の前まで歩いて行く。 最初に黙ってやり過ごそうとしていた分、桜井先生の怒りは大きくなってしまったようだった。先生は、いつもお尻叩きに使用している一メートル定規を、バチンと力強く黒板に叩きつけて、怯えきっている麻奈をさらに威嚇した。 「ケツを出せ!」 「うっ……うぅ……」 桜井先生の無慈悲な言葉に、麻奈はとうとう泣き始めてしまった。 「さっさとしろ!」 「は、はい……」 女の子の涙を見ても、桜井先生は全く動じることがなかった。生徒を泣かせることなんて、先生にとっては日常茶飯事のことなのだ。今まで桜井先生の手を煩わせたことのない優等生の麻奈に対してすら、何の手心も加えることなく体罰を行うつもりのようだ。 「う、うっ……ひっく……」 麻奈は嗚咽を漏らしながら黒板に手を付いた。彼女の膝はガクガクと震えており、酷く不安定な格好だった。 「もっと尻を突き出すんだろうが! モタモタするな!」 「うっ……」 桜井先生に強烈な怒号を浴びせられ、麻奈はグッと上半身を水平近くまで押し倒した。 「お前はプリントを忘れたことを誤魔化そうとしやがったからな。通常の三倍はブッ叩かれるくらいの覚悟はしとけよ?」 ニヤッと底意地の悪そうな笑みを浮かべ、桜井先生は一メートル定規で麻奈のスカートを捲った。控え目な肉付きをしたブルマ尻と、ほっそりとした白い太ももが、クラス全員の前に曝け出される。 「明日で卒業するからって、気ぃ抜いてんじゃねえぞ!」 桜井先生は大声で麻奈を怒鳴り付けながら、高々と掲げた定規を一気に振り下ろした。厚い木製の定規が、ビュオォッと風を切って、麻奈の尻にブルマーの上から叩き付けられる。 まるで肌に直接打ち込まれたかのように、バチィンと鋭く小気味良い音が鳴った。 見慣れている光景のはずなのに、叩かれる対象がいつもと違うというだけで、クラス中がシンと静まり返っていた。それも当然のことかも知れない。新年度になってクラス替えが行われれば、決して見ることが出来なくなるだろう優等生のお尻叩き。それが突然目の前で始まったのだ。男子などは、この瞬間を目に焼き付けようと、瞬きすら忘れて麻奈のブルマ尻に見入っている。 深々とブルマーにめり込んだ定規を、桜井先生はゆっくりと引き上げていった。 「は、はあっ……はああっ……はあっ……」 麻奈は荒い息を吐いて激痛に耐えていた。 本来ならばこの一発で終わっていただろう。これだけでも、男子は飛び上がりながらお尻を押さえ、女子でさえ恥ずかしさを忍んでお尻を擦る。私は味わったことがないので分からないが、それほどまでに痛いらしい。 けれど、麻奈は先生に指摘されるまでプリントを忘れたことを黙っていたので、きっとあと何発かは叩かれるに違いない。 おそらくそれが分かっているのだろう。麻奈は黒板に手を付いてお尻を突き出す姿勢のまま、シクシクと泣き濡れていた。 「泣けば許されると思ってんじゃねえぞ!」 ビシィッと再びブルマ尻に定規が打ち付けられた。 「うぐっ、うああっ!」 二発続けてお尻の丸みを強打されたのが効いたのか、麻奈は今度は耐えることが出来ずに黒板から手を離し、背中を反らせながらお尻に手をやった。 「何をしている!? さっさと尻を突き出さんか!?」 桜井先生が怒りに任せて麻奈の太ももを定規で打ち据える。 「きゃあっ。う、く……」 堪らず麻奈はその場に崩れ落ちた。 「ぐ、ううっ……ひっく……う、うぐっ」 「ちっ。お前が姿勢を保たないからだろうが……」 太ももを押さえながらボロボロと泣く麻奈を見て、さすがの桜井先生も若干興奮が醒めたようだった。 それでもお尻叩きをこれだけで終わりにする気はないようで、先生は再び麻奈にお尻を突き出す姿勢を取らせた。 突き出されたお尻は、ブルマに覆われているためどうなっているのか分からないが、さっき定規で打たれた太ももは、クッキリと赤い痕が浮き出ていた。 「世話を焼かせるんじゃねえ!」 今までよりもさらに強烈な一撃が、麻奈のブルマ尻に容赦なく襲い掛かる。 「んぐぅっ!」 麻奈は一発で腰が砕けて膝を着いたが、桜井先生に怒鳴られてへっぴり腰ながらもなんとか立ち上がった。 あまりにも惨めで情けない姿だった。ボロボロと泣きながらお尻を叩かれている姿は、とても優等生のそれとは思えない。クラスメートのみんなが思い描いていたであろう、麻奈の清楚で可憐なイメージは、完全に崩れ去ってしまっただろう。 ようやく先生に許された麻奈は、止め処なく涙を流しながら、フラフラと席に戻って行った。 「麻奈、大丈夫?」 放課になって桜井先生が教室を出て行くと、私は麻奈に駆け寄って心配そうな表情を作った。 「うっ……うっ、うう……」 優しい言葉を掛けられて感極まったのか、麻奈は泣き腫らして赤くなった目に再び涙を浮かべた。 「わ、わたし、プリント、ちゃんと持ってきたのに……。うう……朝、鞄から出して、机の中に入れたはずなのに……うっ、ひっく……」 麻奈は溢れる涙を手の甲で拭いながら、悔しそうにすすり泣いた。 「そうなの? じゃあ、そのプリント、どこへ行っちゃったのかな」 「わ、分かんない。分かんないよ……。う、うう……」 「でも明日の終業式でこのクラスも終わりだから、もう大丈夫だよ。先生も変わるし、春休みになれば皆このことは忘れちゃうよ」 私は自分の鞄の中に隠した麻奈のプリントのことを思い出しながら、心にもない言葉で彼女を慰めた。 |