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絶対零度の九条姉妹 第十二話<姉妹編>売春


 香織と香澄は、研修もそこそこに客の相手をすることになった。
 乳首の露出する赤いブラジャーと、お尻が丸出しになるようなヒモパンに着替えると、姉妹は恥ずかしそうにモジモジと胸と股間を手で隠した。
 何度も店長に「今さら恥ずかしがってんじゃねえ!」と怒鳴られながら、店のホールに出る。
 照明を落とした薄暗い店内は、数メートル先すら見通すことが出来ないが、所々に人の気配がした。
 香織は闇に目を向けて辺りの様子を探ってみた。外観から大体予想していたが、やはりさほど広い店ではないようだ。学校の教室とそれほど変わらない。それでも格安だけあって、客の数はかなりのものだ。全体を見渡せないので正確には分からないが、気配や熱気から推し量ると、少なくとも店内には二十人以上の客がいるだろう。
 店長がホールに待機していたボーイを呼んだ。キンキンに染めた金髪のおかげで、この店の中で唯一、遠目からでも視認できる。見通しが悪いにも拘わらず障害物の間をスイスイとすり抜けて来るボーイの動きは、この店に何年も勤めているベテランであろうことを思わせた。
「店長、何スか?」
「今日から入った新人だ。この業界は初めてのようだから、注意して見ていてくれ」
「新人? また突然ッスね。二人同時ってことは、友達同士ッスか?」
「いや、姉妹だ」
「へえ……」
 ボーイは興味深そうに姉妹を見遣った。
 ジロジロと嘗め回すように観察されて、香織と香澄は無意識に胸と股間を庇った。それを見た店長は、客の手前もあり怒鳴りつけはしなかったものの、苛立ちながら口を開く。
「隠すなっつっってんだろうが。てめえら、客の前でもそんなことしてたら殺すぞ」
「まあまあ、いいじゃないッスか、店長。ちゃんとやらなかったら、オレがこいつらの顔、ボコボコにしてやりますから。こういう時、店が暗いってのは便利ッスよね。顔がボコボコになってても客には分かんないんスから」
 笑いながらそんなことを言うボーイに、香織と香澄は心底から震え上がった。  店長からボーイに引き渡された二人は、ホールの隅に連れて行かれた。狭苦しく並べられた二人掛けのソファを一つずつ、姉妹にそれぞれ宛がわれる。ここでボーイが案内してきた客にフェラチオサービスを行うのだ。
 ボーイが接客に戻り、二人はそれぞれのソファに俯きがちに座って、無言で客が来るのを待っていた。


 数分でボーイが一人の客を連れて戻って来た。まっすぐに姉妹の方へ向かってくるが、二人のソファは隣接しているので、まだボーイがどちら側へ連れてくるかは分からない。香織と香澄はお互いに、相手の方へ行け、と祈るような気持ちで近付いて来るボーイの金髪を見ていた。たとえそれで自分の番が遅れるとしても、ほんの僅かな時間稼ぎにしかならないことは分かっているのだが、そう思わずにはいられないのだ。
 やがてボーイは二人のソファの間に立つと、客を香澄のソファへ座るように促した。
 露骨に安心した顔をする香織。対して香澄の方は、一瞬表情を凍りつかせた後、慌ててソファから立ち上がって床に正座した。先ほど店長から教えられた通り、「いらっしゃいませ」と言って頭を下げ土下座する。ピンサロに通うような下等な男に土下座する屈辱に、香澄は早くも目頭が熱くなる。
 顔を上げると、草臥れたスーツが目に入る。顔はよく見えないが、雰囲気から察するに50代くらいだろうか。こんな初めて会う素性も分からない中年に、フェラチオ奉仕をしなければならないのかと思うと、悔しくてならなかった。
 ボーイはまた接客に戻っていき、客が無言でドカッとソファに座った。香澄は膝立ちになって客の足の間にスッと入り込んだ。
 小さく「失礼します」と言って、ズボンのチャックを下ろす。黄ばんだ染みが出来ている白いブリーフの開口部を広げ、微妙に硬くなっている半立ちのペニスを引っ張り出す。
 今まで見たことのないその形状に香澄は戸惑った。
 大きさは伸二や店長よりやや小さいくらいだが、問題は亀頭部分だった。完全に包皮に覆われており、まるで小学生のオチンチンがそのまま大きくなったかのようだった。
 とりあえず香澄は、あまり長く眺めているのままなのもマズイと思い、包茎ペニスをそのまま口に迎え入れた。しょっぱい小便の味がしたが、なんとか我慢して唇で締め付けながら顔を前後させる。
 だんだんと勃起してくると、指で根元をシゴきながら、口を窄めてピッチを上げていく。
「ん……」
 完全に勃起したのを確認して、香澄は肉棒から口を離した。
 今度は玉袋を咥えようと背を丸めると、
「皮を被らせたままにしておくつもり? 手ぇ抜いてんじゃないよ」
 客が初めて口を開いた。
「……あ、はい」
 偉そうに注文する客に苛立ちながらも、香澄は言われたとおりに包皮を引っ張った。ツルン、と亀頭が顔を出す。その途端にムワッときつい性臭が鼻に届いた。カリ首には白い恥酵がびっしりと溜まっていた。見ているだけで嫌悪感が湧き上がってくる。
「早く舐めてよ」
「は、はい……」
 返事をしたものの、なかなか顔を近づける気にはなれなかった。
 伸二は決して身奇麗ではないが、常時ズル剥けだったので、こうも恥酵が溜まるなんてことは今までなかったのだ。
 無理だ、と香澄は思った。
 この店は精液を飲み込みことが前提で、吐き捨てることなんて許されない。つまり、恥酵を舐め取ったら必ず飲み込まなければならないのだ。想像するだけで胃が震え出しそうだった。
 香澄が固まっていると、客は苛立たしげに辺りをキョロキョロし始めた。長年の経験からか、ボーイが不穏な空気をすぐに察して、香澄のソファまで駆けつけて来た。
「お客さん、どうしたんスか?」
「いや、この娘、途中でやめちゃったんだけど……」
 金髪に気後れしたのか、気分を害しているはずの客が遠慮がちに説明した。
 ボーイは客に、「ちょっと待ってくださいね」と言って香澄の手を取り、事務所まで引っ張って行った。


 明るい場所まで連れて行かれて、香澄は幾分ホッとした。これから怒鳴り付けてくるであろうボーイも、自分の可愛らしい外見を見れば、手心を加えるだろうと思ったのだ。美少女ゆえに伸二のような強姦魔に狙われたりもするが、優れた容姿は異性とのやり取りにおいて、確かな武器になるのも香澄は自覚していた。……そのはずだった。
 ボーイは香澄の顔を見て、意外そうな顔をした後、「ほう」と呟いた。
 そら来た、と香澄はここぞとばかりに言い訳を展開しようとしたが、その直後、ボーイの拳が視界いっぱいに映った。真正面から顔面に強烈な衝撃が襲い掛かる。香澄は殴られた勢いで後ろへ倒れこんだ。
 突然のことに意識が追いつかず、香澄は仰向けのまま、殴られた時の重い衝撃にただただ驚いていた。
 間もなく鼻に痛いような熱いような不快感が膨れ上がっていく。鼻血が出そうな予感に、慌てて鼻を押さえて起き上がろうとするが、殴り付けられた衝撃で体が重く、思うようにはいかなかった。
 なんとか四つん這いになると、鼻血がドクドクと流れ出て、鼻を押さえている手が汚れた。
 口だけで「ハアッハアッ」と荒い息を吐いている香澄の腹を、ボーイは容赦なく蹴り上げる。
「うげぇっ」
 香澄は堪らず横に倒れ込んだ。髪を掴まれ、顔を引き上げられる。
「てんめえ、ちょっと可愛いからって調子乗ってんじゃねえぞ。あ?」
 顔を近づけて凄まれると、香澄は涙と鼻血で顔をぐちゃぐちゃにしながらガタガタと震え始めた。
「可愛いから自分だけは許されると思ったか!? ああ!? てめえみたいなのが一番ムカつくんだよ! なんでてめえがこんな店にいるのかは知らねえが、オレは特別扱いはしねえからな! 分かったか!?」
 ボーイが怒鳴る度に、唾が香澄の顔に飛んだが、そんなことを気にしている余裕はなかった。
「あ……」
 恐怖のあまり、下半身から力が抜ける。ヒモパンの隙間から小便が噴き出し、太ももを濡らした。
「てめえ! 何やってんだよ! 事務所が汚れるだろうが!」
「す、すみません……すみません……」
 香澄は泣きながら謝ることしか出来なかった。


 事務所に偶然置いてあった、誰が何に使ったとも分からないタオルで顔と股を拭いた後、香澄はボーイに蹴り出されるようにしてボールに戻った。
 記憶を頼りに、視界の悪い店内をヨタヨタと歩いて行き、なんとか自分のソファに辿り着く。
 隣の香織は既に客に対してフェラチオサービスを行っているようだった。暗くてよく見えないが、「もっと舌を使え」だの「しっかり舐めろ」だのと言った客の声が聞こえてくる。伸二と同じように、やはり香織の下手糞なフェラチオでは男を満足させられないらしい。
 香澄が自分の席に戻ると、客は驚いたような顔をした。香澄にダメ出しをしたので、当然ほかの女とチェンジになると思っていたのだろう。
 ボーイの機嫌を損ねてしまった香澄には、そんな楽な逃げ道は許されない。なんとしてもこの客を自分の手で満足させなければならないのだ。
 香澄は客の足元で正座して、「先程は申し訳ありませんでした」と言って土下座した。頭の中できっちり三秒数えてから顔を上げて、「もう一度おしゃぶりさせて頂いても宜しいでしょうか?」と丁寧に尋ねる。
 下手に出た香澄に自尊心を刺激されたのか、客は戸惑いながらも「あ、ああ、じゃあ舐めてよ」と許可を出す。
 香澄が席を外していた間も露出したままになっていた一物は、すっかり萎えてデロンと首を垂れていた。香澄は構わず根元を掴んで、皮を引っ張り亀頭を剥き出しにすると、一気にパクリと咥え込んだ。口の中を唾液でグチュグチュにしながら、舌で恥酵を取り除いていく。ざらついた感触に嫌悪感が顔に出てしまうが、幸いにも照明が落とされているので、客に気づかれることはない。
 ペニスが勃起してくると、舌に力を入れても動いたりしない分、恥酵も取りやすくなってきた。ある程度恥酵を取り除くと、香澄は溜め込んだ唾液と共に、一気に飲み下した。これがほんのわずかでも自分の血となり肉となるのかと思うと、気持ち悪くて鳥肌が立った。
 ようやく掃除が終わり、ペニスから口を離す。一息吐くと、ドッと疲労感が出てきた。この中年男が不潔でさえなければ、もうとっくに射精させて終わっているのかと思うと、悔しくてならなかった。ジンジンと痛む鼻と、殴られた時の衝撃を思い出すだけで、目に涙が堪る。
 嗚咽が漏れそうになるのを必死に我慢しながら、香澄は毛むくじゃらの玉袋をはむっと銜えた。


 隣で香澄が中年男の玉袋に吸い付いている間、香織は自分の客の肉棒を口に含んでいた。
 日雇い労働の工事現場で一日汗を流した後に、直接バビロンにやってきたこの客は、周囲にキツイ体臭を放っていた。本人にはまるで自覚がないようで、香織はサービスを始める前から吐き気に襲われるハメになった。
 悪臭に顔を顰めながらペニスを口に含むとすぐに勃起したが、そこからが大変だった。香織の拙いフェラ技術に、客は不満を露わにしてパシバシと香織の頭を叩くのだ。
 父親の元で大病院の経営戦略に携わる香織にとって、現場の労働者に頭を叩かれるというのは、全身の血が逆流するほどの屈辱だった。
(こんな男、私がただ一言雇い主に圧力を掛けるだけで、路頭に迷わせることが出来るのに……)
 本来の立場の違いも弁えず、自分を性処理道具として扱う客が、腹立たしくて仕方なかった。だからこそ伸二がこんな店で働かせているのだと分かっているだけに、余計頭に来る。
「へったくそだなあ。おまえ、チンポしゃぶって飯を食おうってのに、なんだ、そのやる気のなさは」
 また、パシンと頭を叩かれた。
 香織は手を抜いているつもりはないのだが、フェラが下手な上に、叩かれる度に頭に血が昇ってしまい、余計にうまくできなくなっているのだ。
「女はいいよなあ。そうやって適当にチンポしゃぶっているだけで飯が食えるんだからなあ」
 客の心無い発言に、冗談じゃない、と香織は思った。
 たとえ自分が性に開放的な女だったとしても、初対面の男にフェラチオするなんて嫌に決まっている。相手が太っていようが不細工だろうが、お構いなしに臭くて汚い肉棒を口に含まなければならないのだ。それだけでもかなりの苦境といえる。
 しかも、ふんぞり返る男に偉そうな言葉を投げつけられながら、跪いて奉仕しなければならない屈辱ときたら、これ以上のものがあるだろうか……。
 少し想像すれば分かりそうなことなのに、目の前のこの男は、本気でこの仕事が楽だと思っているようだった。
「ほらほら、チンポしゃぶり上げるくらい楽なもんだろ。しっかりやれよな」
 ならあんたがやってみろと言いたいのを堪えて、香織は怒りで眉間に皺を寄せながら、肉棒を咥え直して顔を前後させた。
 ぎこちないその動きに、客はまたすぐに文句を付け始める。
「ダメだダメだ。そんなんじゃ、いつまで経っても気持ちよくならねえよ。おい、ちょっとチンポ吐き出せ」
 悔しさでブルブルと小刻みに震えながら、香織は男根から口を離した。
「まともにおしゃぶりも出来ねえんなら、俺の言うとおりにしていろ。まずは舌を突き出して、裏筋を舐めてみろ」
「は、はい……」
 香織は鼻息を荒くして怒りを押さえ、恐る恐る舌を出した。ちょこん、と肉棒の裏筋に触れる。
「馬鹿か、お前。もっとしっかり押し付けるんだよ」
「…………」
 舌に力を入れてグイグイ押し付けると、
「そのまま顔を動かすんだ。舌を離すなよ。カリまでいったらまた根元に舌を押し付けて繰り返せ」
 次々と指示が飛んでくる。
 香織は言われた通りに裏筋を何度もなぞり上げていった。
「よし、今度は先っぽを咥えてみろ」
「はい」
 頷いて、香織は男根を口に迎え入れた。伸二よりも若干大きな肉棒が口を占領する。やはり男に支配されているような気がして、香織はどうしてもフェラチオに慣れる事ができなかった。
「ボケッとしてんな。先を刺激するんだよ」
「んん」
 肉棒を咥えながら舌で尿道口を突付く。ジワジワと先走り液が湧き出てきた。
「何やってる。さっさと舐め取れ」
「ん……んん……」
 次々に溢れてくる我慢汁を舌で掬い取っていると、強烈な吐き気に見舞われた。一物から口を離して深呼吸をすると、男の体臭を吸い込んでしまい、香織はたまらず下を向いて咽た。
「ゲホッ、ゲホ……ケホッ」
「まったく、とんだ甘ったれだな、お前は……」
 ようやく慣れ始めてきたというのに、もう動きが鈍くなってきた香織に、男は呆れたように言った。


 ボーイが呼ばれ、チェンジを告げられた。たかがフェラチオとはいえ、自分が用済みだと言われたようで、香織はショックを隠し切れなかった。なんでも人より遥かに上手くこなせる九条香織が、日雇い労働者ひとり満足させることもできなかったのである。
 他の女と交代して事務所に戻ると、ボーイにバチッと思いっきりビンタされた。香織は涙目でじーんと熱く腫れ上がる頬を手で押さえた。
「てめえ、いきなりチェンジされるたぁどういうことだよ!? やる気あんのか!?」
 いきり立つボーイに、香織はシュンとなって、「すみませんでした」と謝った。
 この店に不釣合いな自分の可愛らしい顔を目にしても、臆するどころか平気でビンタしてくるような相手に、ここで抗弁したら逆効果だと判断したのだ。この不細工なボーイは、優れた容姿を持つ者にコンプレックスを抱いていて、むしろ美少女には辛く当たるタイプなのかもしれない。
「すいませんでしたじゃあねえんだよ!? ……ったく、なんでてめえみたいなのがピンサロなんかに来るんだよ」
 ボーイはぶつぶつ言いながら、机の引き出しからペニスバンドを取り出して、香織に投げて寄越した。
「こっちにちょくちょく女が休憩に来るからな。そいつらにそのペニスバンドを履いてもらって、フェラチオの練習台になってもらうようにお願いしろ。分かったな?」
「え……」
 この店では先輩にあたる女達に、どの面下げてそんなお願いをしろというのか。あまりにもつらい指示に、思わず反論しようとすると、
「あ? 何か文句あんのか?」
 ボーイは怒りを抑えきれないといった顔をして香織を睨み付けた。
「…………」
「言っとくが、後で女達にちゃんとやってたかどうか、聞くからな。さぼってたら殺すから」
「…………」
「んじゃあな」
 それだけ言って、ボーイはあっさりと事務所を出て行った。香織は茫然とボーイが出て行った扉を見つめていた。


「失礼します」
 香澄はきょう六本目のペニスにしゃぶり付いた。
 もう顎が疲れ切っていて、普段の半分も力が入らなかったが、それでも必死になって唇を締め付ける。女の顔を本気でぶん殴るボーイが恐ろしい一心だった。
 咥えてきた六本の肉棒は、いずれも長さや太さが様々で、個人差が大きいのだと香澄は初めて知った。今日の経験から考えると、伸二のそれはかなり大きい部類に入るのだろう。ひょっとしたら、それを誇示するためというのも、自分達をこんな店で働かせた理由のひとつになっているのかも知れない。
 形も微妙に異なっているのだが、より違いが顕著なのは臭いだった。無臭なペニスもあれば、悪臭のするペニスもある。さすがに良い匂いには出会わなかったが、同じ悪臭でも不思議と違いが出る。
 体臭に近く、ムワッと湧き上がってくる臭いや、小便や汗の混じったような、ツーンとする臭い。それに、独特のすっぱい臭いなど。
 香澄がいま咥えているペニスは、それらの入り混じったキツイ臭いを放っていた。
 大体どれも味はそんなにしない。口の中の肉棒も例外ではないので、あらかた亀頭周りを唾液でベトベトになるくらいまで舐めしゃぶると、味も臭いもあまり気にならなくなる。ただ、元は悪臭のするペニスなんだと思うと、喉のあたりがムズムズした。
 カウパー液の生臭さもおおよそ似ている。いま口の中に迎え入れているペニスは、割合先走り液がよく湧き出てくるので、香澄は何度も喉を鳴らさなければならなかった。
 舌を肉棒に絡めながら顔を前後させていると、男の手が胸に伸びてきた。
「んんんっ!」
 驚いて動きを止めると、
「いいじゃない、これくらい。ほら、フェラチオの続きして」
 男は悪びれもせずに言った。バビロンではお触り禁止だということは、入店時に聞いているはずなのだが、そんなことはお構いなしだった。
 香澄は、この男に限らず、客達の自分勝手な振る舞いにウンザリしていた。香澄も人のことをとやかく言える性格はしていないが、しかしそれにしても、暴虐無人な客ばかりで腹立たしい事この上ない。
 格安のピンサロ。質が悪いのは女だけではなく、客の方も同じようだった。
 香澄は乳房が露出しているブラジャーしか着けていないため、乳首を直接つままれた。香澄がビクンと反応すると、頭上からクックと薄ら笑いが聞こえてきた。
 頭にきて肉棒を吐き出しそうになったが、ボーイに殴られた時のことを思い出して、なんとか自制する。
「ん、んんっ……んっ……」
 乳首をコリコリと捏ね回されて鼻息を荒くしながら、香澄は男根を喉奥まで迎え入れて、裏筋を舌で刺激する。
 快感が強かったのか、男は香澄の乳首をギュッと力強く握り潰した。
「んぐうっ」
 香澄が肉棒を咥えたまま悲痛な呻き声を上げる。
「なに勝手に止めてんの? 続けてよ」
「…………」
 不愉快な男を満足させるために奉仕しなければならないこの身を、香澄は心底から呪った。
 一刻も早く終わらせるために、顔を前後させてスロートを開始する。この男を射精させたところで、また次の客が来るまでの僅かな時間の猶予が出来るだけではあるが、とにかく香澄は少しでも早く休みたかった。
 何本ものペニスをしゃぶり続けてきたせいで、顎も舌も疲れて力が入らなくなってきただけでなく、精神的にも限界に近かった。
 香澄にとって、道端の小石ほどの価値もない男達に命令されるのは屈辱的であり、しかも初対面の素性の知れない男の、不潔な股座に顔を埋めるのは耐え難かった。
「うっ。出るっ」
「んむう……」
 ひと際強く乳首を捻られて、香澄は顔を顰めながら精液を飲み下していった。


 ホールの隣室にある事務所で、香織はソファに座っている先輩情婦の足元に膝を着いていた。散々頼み込んで履いてもらった、ペニスバンドから突き出ているバイブを口に含んで、顔を真っ赤にしながらしゃぶり上げている。
「オラァ! もっとガッツンガッツン顔を動かすんだよ! とろ臭いなあ、おまえは!」
 ボーイの命令とはいえ、厄介事を頼まれた先輩情婦は、香織を疎ましく思っているようだった。先輩情婦のキツイ印象を与える化粧と、赤茶色に染めている髪は、レディースヤンキー上がりを想像させられる。
 香織は必死になってバイブを咥えたまま顔を前後させた。これがバイブではなく本物のペニスであれば、いくらフェラチオが下手とはいえ、舐め上げれば何らかの反応は返ってくるのだが、バイブ相手では当然なんの意味もない。それが思いの外つらかった。あまりにも情けなくて、肩が自然と震える。
「あー、もういいわ。そろそろ休憩時間終わるし。さっさとどけよ、馬鹿」
 香織はバイブから口を離し、悔し涙を浮かべながら先輩情婦を見上げた。
「なによ。何か文句あるの?」
 苛立つ先輩情婦に、香織は「いえ……」とだけ答えた。言い返したいのは山々だが、そんなことをしても相手が逆上するだけで意味がないことは分かり切っている。
「おまえ、なんかムカつくねえ」
「…………」
「ナメてんの? ボーイさんには、おまえがサボってたって言ってもいいんだけど?」
「す、すみませんでした……」
 そんなことをされてはボーイに何をされるか分かったものではないと、香織は慌てて謝った。
「チッ。うぜえ」
 先輩情婦は香織の顔に唾を吐き掛けた。頬に付いた唾の感触に呆然としている香織を尻目に、先輩情婦はさっさと事務所を出てホールに戻っていった。
「……ぐ、う……」  香織は今までこれほどの屈辱を受けたことはなかった。悔しさを紛らわすために、震える手を振り上げて、思いっ切り床を叩く。感情が高ぶっているためか、拳を地面に叩きつけてもほとんど痛みを感じなかった。
「う、うう……」
 泣きながら洗面台に立ち、顔を洗う。冷たい水が、荒ぶった感情を少しずつ癒してくれた。
 ようやく落ち着きを取り戻し始めてきた時、ホールに続くドアが開いた。
 またペニスバンドを履いてもらうようにお願いして、バイブでフェラチオの真似事をしなければならないのかと、香織はウンザリしながら洗面台から顔を上げて、ドアの方を振り返った。
 そこには香澄が立っていた。


 事務所に戻った途端に香織と目が合ってしまい、香澄はドキリとした。先ほど殴られたばかりの顔を見られるのには抵抗があったのだ。
 香澄はなるべく不自然にならないように注意しながら目を逸らした。
 気まずいのは香織も同じようで、彼女はスッと洗面台から離れて、奥のソファへ行き腰掛けた。
「…………」
 しばらく無言で立ち尽くした後、香澄は事務所に戻った目的を思い出し、洗面台へと向かった。意識した途端に、精液を飲み込み続けた喉の粘着きが甦る。どうしよもない不快感が香澄の足を早めた。
 蛇口を捻り水が流れ出すと、香澄は手で掬って一気に飲み干した。たまらない爽快感が喉を駆け抜ける。ただの水道水のはずだが、こんなにおいしい水を飲んだのは生まれて初めてだった。
 腹が膨れるほど飲み続けて、ようやく満足して水を止める。これからまた最低の男達のペニスをしゃぶり上げなければならないのかと思うと、水に満たされた身体が途端に重く感じた。
 これからどうしようかと、香澄はしばし思案する。ボーイに「水を飲んできてもいい」と言われて事務所に戻ってきたのだが、休憩を取ってもいいものだろうか……。他の情婦達はここで数分ほど時間を潰しているようだが、新人である自分も、それに習ってもいいのかどうか考えていると、ボーイが事務所に姿を現した。
 グズグズしていた自分を連れ戻しに来たのかと、香澄は震え上がって硬直したが、ボーイはソファに座っている姉の方を睨み付けていた。香織も蒼褪めた表情をしてボーイを見ている。
「てめえ、コラァ! なにサボってんだよ!? ペニスバンドでフェラチオの練習しとけって言っただろうが! 舐めてんのか!? ああ!?」
 怒鳴りながら近寄って来るボーイに、香織は慌てて立ち上がって頭を下げた。
「す、すみません……。で、でも、練習してたらコツが掴めてきたので、そろそろホールに戻してもらおうと思って……」
「ああん!? ふざけてんじゃねえぞ!」
「ほ、本当です。もうチェンジを告げられたりはしませんから……」
「よおーし、そこまで大言壮語を吐いたんだ。練習の成果を見せてみろ!」
「は、はい……」
 香織は香澄の方を向き、何やら言いにくそうにしながら、ペニスバンドを差し出した。 「か、香澄、これを履いて、フェラチオの練習をさせて……」
 そう言われて、香澄はようやく事態を理解した。やはり姉は、客へのフェラチオ奉仕が上手く行かず、ここで一人特訓を命じられていたのだ。少しだけ香澄に優越感が芽生える。
「履いてあげてもいいけど、お姉ちゃん、上手く出来るの?」
「…………」
 皮肉を言うと、屈辱のためか羞恥のためか、おそらくその両方なのだろうが、姉は顔を赤くして視線を逸らした。
「おいコラァ! てめえのために練習の相手してもらうんだろうがよ! ちゃんと返事してやらんか!」
 ボーイに怒鳴り付けられ、香織は視線を逸らしたまま、小さく呟いた。
「出来るわよ、ちゃんんと……」
「え? なに? 聞こえないよ、お姉ちゃん」
「ちゃんとやるって言ってるの!?」
 香澄は、姉が自分に対してムキになっているのを初めて見た。いつも超越然としている姉が、顔を真っ赤にして感情的な声を上げるなんて、想像したこともなかった。
「おい、香澄。さっさと準備しろ」
「……はい」
 ペニスバンドを着けるのはあまり気が進まなかったが、姉が自分の足元に跪いて奉仕するというのなら、悪くはない。香澄はペニスバンドに足を通し、ゆっくりと引き上げていった。皮製のベルト部分が秘部に当たる。その冷たい感触は、前に伸二に履かされたアナルストッパーを思い出させた。
「ボヤボヤしてんじゃねえよ、香澄。客と同じ様に、ソファに座るんだよ」
「は、はい」
 いそいそと香澄がソファに腰掛けると、香織が目の前に来て膝を着いた。
「コラァ!」
「ああっ」
 香澄がペニスバンドから突き出ているバイブを握られたところで、ボーイは横から香織を蹴り倒した。
「う、う……」
「てめえ! 客にもそうやっていきなりチンポ握ってんのかよ!? 違うだろうが! 言うことあんだろう!」
「は、はい。すみません……」
 香織は一瞬だけ香澄を見上げた後に土下座した。
「いらっしゃいませ」
 そう言ってから、香織は再びバイブを握り締め、パックリと口に咥え込んだ。右手でバイブの根元をシゴきたてながら、髪を振り乱して顔を前後させる。
 その動きは香澄からすると、それなりの物に見えた。
 横で見ているボーイも同じようで、ボーイは「ほお……」と感心したように呟く。
 追い詰められて、香織もようやく性奴隷に成り下がる覚悟を決めた様だった。
 元々何でもこなせる香織がフェラチオを上手く出来なかったのは、高すぎるプライド故だったが、そのプライドをかなぐり捨てて必死になれば、男から精液を搾り取ることは訳もないことなのだ。
「んっ、んんっ、んむっ」
 一心不乱にバイブを舐めしゃぶる香織を見て、香澄はなんという浅ましい姿かと、複雑な心境になった。
 自分もフェラチオしている時は、上から見下ろしている男から、こんな風に見られているのかと思うと、とても正視できなかった。目を逸らすと、香織の漏らす息遣いが妙に耳に残った。時折、バイブで唾が掻き立てられ、クチュッとした音が聞こえてくる。
 香澄がしばらくその耳障りな音に耐えていると、
「ようし、もういい。……やりゃあできんじゃねえか、てめえよお」
 ボーイがようやく香織に許しを与えた。
 これからまた、ホールに行きフェラチオ奉仕をしなければならないだろう。そう思うと香澄は暗澹とした気分になった。
 無様に男の股へ顔を埋めている時、相手にはどう見えているのか、それが分かってしまったので、余計に辛い。
「二人とも、さっさと自分の席に戻れ。がんがん客の精液を搾り取れよ」
「……はい」
 ボーイの非常な言葉に、姉妹は同時に返事をした。



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