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女捜査官、SMクラブ潜入 第六話・絶望の唄


 初めてM嬢として男の相手をすることになった準子は、体中を麻縄でガチガチに縛られた上で、天井から逆さ吊りにされていた。卓越した技術を持つ調教師である千鶴に縛られたため、縄によって身体が痛むことはほとんどなかったが、唯一、限界まで足を広げている股関節がミシミシと苦痛を訴えていた。
 三角木馬や拘束具が至る所に並べられた調教室は、集団輪姦が行われてもなお余裕がありそうなほど広かったが、今この部屋にいるのは麻縄で逆さに吊られている準子だけだった。
「むぐ……ん……んぐ……」
 肌寒い空気に満たされた調教室に、準子のくぐもったうめき声が広がった。
 口の中にボールギャグを押し込まれている準子の唇から、次々とヨダレが溢れ出して彼女の顔を流れ落ちていく。逆さになっているため、涎は頭頂部へ向かって頬を垂れ落ちる。時には鼻の穴へ流れ込んできて、彼女の鼻腔をツーンと刺激した。
 股間には、二本のバイブがウインウインと音を立てて踊りくねっていた。共に通常サイズの大きさではあるが、今まで散々痛めつけられた尻穴からはジンジンと鈍痛がし、処女を喪失してから全く手を付けていない膣穴からもピリピリとした痛みが湧き上がってくる。
 後ろ手で固定されている腕にギュッと力を入れて、準子は少しでも早く課長が姿を現してくれるよう祈った。
「ん…………んぐ…………ぐ…………」
 どれくらいの間そうして待っていたのか見当もつかない。一時間は待たされていたような気がしたし、五分も待っていないような気もした。
 逆さ吊りの体勢はあまりにもきつく、鍛え抜かれた準子の体力をも容易に削り取っていく。頭に血が上り、顔が赤くなっていくのが自分でも分かった。
 大きく開脚させられているために痛んでいた股関節は、いつのまにか痛みが消えて、ヒリヒリと痺れるような感覚しかしなくなっていた。
 身体の節々を締め付けている縄も、だんだんと準子に苦痛を強い始めている。均等に体重を掛けて幾筋もの縄で身体を支えられるよう、千鶴によって絶妙なバランスで括られてはいるが、長時間に渡って吊り上げられていると、さすがに肌や血行に問題が出てくる。
 次第に呼吸が苦しくなってきた。ゼエゼエと息を吐きたかったが、ボールギャグのせいで呼吸すら思い通りにならない。際限なく湧き出る唾液が、余計に準子を苦しめる。飲み込みたくても満足に動かせない口ではそれも叶わず、トロトロ流れ出す涎が顔をネットリと濡らしている。
 ひょっとして、千鶴はまだ自分に客の相手をさせる気はないのではないか。体力的に限界が近付き、そんな疑念が頭を掠めた時、入り口のドアが開いて課長が姿を現した。
 外界と隔絶されたSMクラブ吉少寺で、地獄のような調教を施された三日間。その間に顔を合わせる相手といえば、調教する側とされる側の人間だけだった。吉少寺に所属していない人間である課長の顔を見た瞬間、準子は胸の奥から湧き上がる安堵感と共に、瞳からブワリと涙を溢れさせた。
 ブルーライトの照明しかない暗い調教室に、廊下の蛍光灯の明かりがドアの間から射し込んでおり、以前は嫌悪感しか湧かなかった課長の顔が、後光の射した仏様のように準子の目には映った。自分をこの地獄から拾い上げてくれるのなら、誰であろうとも準子にとっては救世主といって差し支えなかった。
「んっ……んぶっ……んぐうっ……」
 助けを求めようと口を動かすが、ボールギャグのせいでやはり思うように話せない。唾液がゴポリと溢れ出して準子の頬を濡らす。
「ははっ。これはこれは……」
 つい数日前に耳にしていたはずの課長の声は、まるで何年かぶりに聞いたかのように準子の心を揺さぶった。懐かしさにも似た感情が込み上げてきて、涙がボロボロとこめかみに向かって流れ落ちていった。
 課長が扉から離れて近付いてくると、ドアが音も立てずにゆっくりと閉じた。廊下の明かりが遮られ、調教室に薄い闇が戻った。
 ニタニタと気味の悪い笑みを浮かべながら接近してくる課長の顔を見ると、準子はなにやら言い知れぬ不安を感じた。凄腕潜入捜査官としての直感からか、課長が何かを隠しているような気がしたのだ。
 だがそれには構っていられない。得体の知れない疑念などは無理やり拭い去って、今は課長に助け出してもらわねばならなかった。
「んん……むぐ……」
「おいおい、顔がグチャグチャじゃねえか」
 課長が準子の目の前で座り込み、ハンカチを取り出した。涎と涙で濡れている準子の顔が無造作に拭かれる。
「ん……んむ」
 涎や涙は塗り広げられただけで拭き取られてはいなかったが、課長は満足そうに頷いてハンカチをポケットに仕舞った。彼が立ち上がると、ちょうどお互いの顔の前にそれぞれの股間が近接する。
 スーツに身を固めている課長の股間は、ズボンを出っ張らせて大きく膨らんでいた。
「む、むぐぅ……」
 その膨らみをグイグイ顔に押し付けられ、準子は非難を込めた呻き声を上げた。早く拘束を解けと催促したかったが、明瞭な言葉を発することができないので、課長がボールギャグを外すまでひたすら待たねばならなかった。
 二本のバイブがくねっている無防備な股間を覗き込まれているのかと思うと、全身に鳥肌が立つほどの嫌悪感が湧き上がった。
 いったい課長は何をぐずぐずとしているのか。調子に乗るにも程がある。準子は、縄で雁字搦めにされている不自由な身体を揺すって抗議の意思を示した。
「まあ、待て。ここはヤクザ共の根城だからな。どこから監視されてるか知れたものではないだろう。これでは俺も手を抜けないんだよ。状況報告はプレイの終わった後に添い寝でもしながら聞いてやろう」
「んぐうぅっ! むぐうううっ!」
 準子はふざけるなと怒鳴り付けたつもりだったが、ボールギャグの奥からくぐもった声が漏れるだけだった。
 たとえどこからか監視カメラで覗かれているとしても、拘束を解いたくらいでどうこう言われるはずはない。確かに言葉のやりとりには注意を払う必要があるが、そんなことを気にする前に、まず楽な姿勢にしてくれるべきではないか。
 普段からこの上なく嫌われているのは承知しているが、今の準子に対してここまで陰湿な嫌がらせをしてくるとは、どうやら課長の性根の腐り具合を見誤っていたらしい。準子は悔しさのあまり、口の中のボールギャグをグッと噛み締めた。
「うまそうにバイブ咥えてやがるなあ。ええ、おい?」
「んんっ……」
 ウインウインと機械音を上げながら震動する張り形を、ガッシリと二本とも掴まれ、準子は目を見開いて硬直した。毛嫌いし合っている課長がほんの少しでも気紛れを起こせば、秘部と肛門を滅茶苦茶に掻き回して蹂躙することが出来るのだ。
「もっと味わえよ、メス豚。おいコラ」
「ぐうっ、んぐっ……」
 奥深くまで捻じ込まれ、バイブのくねりが膣口を掻き乱す。アナルバイブも肛門周辺を グイングインと穿り回し、準子の呼吸を荒くする。まだ刺激に慣れていない二穴は、膣道と直腸から痛みを訴えてくる一方で、浅い部分を轟く電動の機械的な動きにムズムズとした疼きが生まれてくる。
「なんだぁ? 濡れてきてんじゃねえか。感じてんじゃねえぞ、この豚が!」
 今まで小馬鹿にされてきた恨みを晴らすかのように、課長は準子の生尻に手の平をバチンと叩き付けた。
「いい尻してんじゃねえかよ。この尻を持て余してたから俺に生意気な口を利いてたのか?」
 引き締まった筋肉の上に適量の脂肪が乗った絶妙の柔らかさを持った尻を、課長の節くれ立った手が乱暴に揉みしだいていく。
 自分の身体を玩ばれる屈辱に、ただでさえ逆さ吊りで血が上っている顔がカッと熱くなった。
「ふ、ぐ……むぐぅ……」
「文句あるのか? 所詮お前もただの女のくせしやがって」
 監視カメラに注意しなければならないと言い出した課長自身が、先ほどから準子との関係を匂わせるような発言を繰り返している。何かがおかしいとは感じていたが、頭に血が上り、体力的にも疲労の極致にある準子には、突き詰めてそのことを考えることが出来なかった。


「お前のマンコからメスの臭いがしてくるぞ。おい、どうすんだよ準子!」
「んぐっ!」
 剥き出しの尻たぶをまたバチッと平手打ちすると、準子が苦悶の声を漏らした。
「くははっ! 少しは抵抗してみせろよ! いつもの憎まれ口を叩いてみせたらどうだ!?」
 興奮し始めた課長は、夢中になって準子の尻を叩いた。憎くて仕方がなかった女の尻を滅多打ちにする快感は癖になりそうだ。
 充血して赤く腫れあがった尻たぶに、散々打たれた鞭痕が浮かび上がってきた。調教室が薄暗いために気付かなかったが、こうなるとよく見えてくる。縦横無尽に走り回っている赤い筋は、三日間の調教の過酷さを表していた。
「ほう、なかなかヤクザどもに可愛がられているようだな」
 スッと鞭痕を指先でなぞると、準子の身体がブルリと震えた。
「鞭が好きなのか? よしよし、待っていろ」
 課長は壁に備え付けてあった一本鞭を手に取った。
「むっぐうぅ! うぐぅ!」
「はは。何を言っているのか分からんぞ。なんだ? 何が言いたいんだ?」
「んんっ、んんんっ!」
 必死に自分を見上げて呻く準子の姿が愉快でならなかった。これがあの偉そうにしていた女なのかと思うと、勃起しているペニスに快感が走り、先端から我慢汁が溢れ出してくる。
 鞭を振り上げ、目を見開いて怯える準子を見下ろしながら、課長は渾身の力を込めて尻たぶをバシィッと打ち据えた。
「ふごおぉっ!」
 いつも颯爽としていた準子が発したとは思えないような無様な悲鳴が放たれた。
 みるみるうちに赤い蚯蚓腫れが浮かび上がってくる。それを見れば、想像を絶する激痛が走っているだろうことは容易に想像できる。
 準子はボロボロと涙を流しながら、尚も懸命に見上げてきた。その目は卑屈に懇願しているように見えるが、実際には燃えるような怒りを押し隠していることは間違いない。
「喋りたいのか? どうなんだ、準子?」
「んっ、んっ」
 コクコクと頷く準子に対し肩をすくめて見せてから、唾液でベトベトになっているギャグボールを外してやる。
「かはっ……はあっ、はああっ」
 荒い呼吸を繰り返す準子を黙って見下ろしていると、彼女はおずおずと切り出した。
「か、課長、下ろしてください……」
 鞭で打たれた恨み言を言うでもなく、囁くようにか細い声で話す彼女は、本当にこれが自信に溢れていた準子なのかと疑いたくなるほど弱り切っていた。逆さ吊りを続けている肉体は、もちろん限界に近いだろう。それに加えて、三日間の調教で精神的にも相当に参っているようだ。
「馬鹿か、お前は。監視カメラで見られていたらどうする。手加減していることを見抜かれたら、俺まで捕まってしまうだろう。そうなったら、お前はここでM嬢として一生を過ごしていかなければならないのだぞ」
「それは…………。しかし、ですが…………」
 準子は消え入りそうなほど小さな声で反論しようとしたが、結局なにも言うことが出来ずに唇を噛んだ。
「分かったら俺の言う通りにしていろ、馬鹿が。あんまり俺に逆らうようだと、このまま帰って、二度とここには来んぞ」
「ひっ……」
 通常ならば自分の指揮の元で潜入させた捜査官を見捨てることなど、そう易々と出来ることではない。組織人である以上、常に責任問題が付きまとうのだから当然だ。それでも準子は、明らかに本気ではない課長の脅しに、顔を蒼褪めさせて怯えを見せた。
 精神的に追い詰められて正常な判断力が欠けているのだろうか。課長は準子の目をジッと見つめ、そうではないと結論付けた。彼女は、直感的に自分がもう逃げられないのではないかと心の奥底でなんとなく感じているのだ。だからこそ、課長の軽口に対して過敏に反応してしまったのだろう。
 油断のならない女だ、と課長は改めて実感した。潜入捜査官として配属されてから僅か数年で残してきた輝かしい実績は、やはり伊達ではないらしい。
「下ろしてください、課長。逆らいませんから……」
 この弱々しく哀願する準子の姿も、どこまで本当なのか知れたものではない。
「駄目だ、手加減は出来ん。任務のためだ。俺はSMプレイに手を抜く気はないぞ」
「任務……」
 思い出したかのように呟いた準子は、課長を見上げて予想外のことを言い出した。
「もう、いいです。私をこの任務から外してください。課長の期待に添えなくて申し訳ありませんが、私には力が足りませんでした。私のような無能非才の身にどのような処罰が下されても、甘んじて受け入れます。ですから、どうか、ここから出られるように手配してください」
 必要以上に謙る準子を、課長は唖然として見つめた。一週間くらいは意地を張り通すかと思っていたが、どうやら予想よりもずっと早く精神を折られてしまっていたらしい。調教が過酷を極めたというせいもあるだろうが、それよりも、安易な逃げ道があるせいで精神的に楽な方へ逃げてしまったという理由の方が大きいだろう。
「駄目に決まっているだろ! 今更そんな話が通るか! お前をここに潜入させるために、どれだけの労力と時間を掛けたと思っているんだ!?」
「も、申し訳ありません。ですが……」
 課長は演技で怒っていただけだが、言葉にするうちに本当に腹が立ってきた。言い返されそうになると余計に怒りが増す。
「反論するな! 潜入捜査官なら潜入捜査官らしく、M嬢になりきれ! 捜査官としてのプライドを捨てて調教を受けろ!」
「か、課長、声が大きいです。もし監視されていたら聞こえてしまいます」
「お前がくだらねえことを言い出すからだろうが! 潜入捜査官だとバレたくねえのなら、黙って任務を続けろ!」
 目の前の生尻をバチンと思いっきり平手打ちしても、準子は茫然自失となっているためほとんど反応もしなかった。
 懇願してここから救い出してもらおうと、ずっと前から思っていたに違いない。だからこそ、にべもなく完全に拒否されてガックリと気落ちしてしまったのだ。
 張り合いの無くなった準子に気合を入れるため、課長は鞭を振り上げて言い放った。
「任務を続けますと言え!」
 言い終えると同時に鞭を打ち下ろす。
「ぎゃああっ!」
 準子の肩口に奇麗な赤い一本線を引いた後、鞭先が大きく上空へ躍り上がった。重力に引っ張られるよりも前に、再び鞭を叩き下ろす。
「ひぎいっ!」
「さあ、言え! 言うんだ! M奴隷としての潜入を続けると言うんだ! お前なら半年かそこらで任務完了することだって出来るだろう!?」
 引き締まった腹に新たな鞭跡を刻み付けると、準子は激痛に身震いしながら喚いた。
「は、半年なんて無理です! もう無理なんです! 助けてください! 課長、助けてください! お願いします!」
 もはや準子はこの場から逃れることしか考えていないだろう。
 課長はため息を吐き、膝を着いて準子の耳に顔を寄せた。
「残念だが助けられねえんだよ。何しろ、お前が潜入捜査官だっていうのはヤクザどもにバレてんだからな」
「え……?」
「お前は一生ここでヤクザや変態爺に鞭を打たれて生きていくんだよ」
「いっ、しょう?」
「そうだ。一生ここから逃げられない」
 準子が課長の言葉を理解するのにしばらく掛かった。何もしていないのに全身からタラタラと汗が噴き出す。
「どう、して……バレて……?」
 歯の根が噛み合わないほど動揺している準子がやっとの思いで発した質問を、課長はこともなげに答えてみせる。
「俺が言ったからに決まってんだろ。最初からお前を引き渡すつもりだったんだよ。上には任務失敗でお前も消息不明になったと報告しておくよ。やれやれ、お前なんかのために、俺の経歴にひとつマイナスが付いちまうな」
「あ、あ、あんたは一つマイナスが付くだけでもっ、わた、私はっ、一生こんなところでっ!」
 苦し紛れにキッと睨み付けてくる準子に対して、課長は鞭の殴打をもって応えた。
「あああっ! い、痛いっ!」
「お前はここのM嬢だろうがっ! 客の俺に対して何て口を利いてやがる!?」
「そ、そんな――」
 準子が言い終わる前に、鞭で太ももをバシィッと強かに打ち据える。
「うぐうっ! や、やめてっ!」
「何だと!? お前は鞭を打たれるのが仕事だろうが!?」
 準子の後ろに回り込み、課長は立て続けに三発の鞭打ちを彼女の背中に浴びせた。そのたびに準子は泣き叫び、逆さ吊りの身体を支えている縄が揺れてギシギシと音を立てた。
「ひ、ひいぃ……。痛い、痛い……」
「M嬢らしく、少しは喘いで見せたらどうだ!?」
 尻たぶを何度となく打ち払い、傷だらけの臀部に新しい鞭跡を走らせる。
 燃えるような痛みにわなないている準子を、課長は憎しみを込めてさらに滅多打ちにした。
「ぎああっ! ひぎあぁっ!」
「これから毎日、変態客の相手をしながら、この俺に対しての無礼な言動の数々を悔いろ! 死ぬまでずっと後悔していろ!」
「う、うあ、ああああ……」
 ひたすら苦痛を訴えていた甲高い悲鳴が、だんだんと悲観に暮れてすすり泣くような哀叫に変わっていった。
「うう、ううう……ひあっ! う、うああ……」
 鞭を叩き付けると悲鳴を漏らすが、すぐにまた潤声で咽び泣く。暗く深い絶望に沈み込んだ彼女の瞳から光が消えた。
 準子の絶望に満ちた涙声は朝まで続いた。その間、鋭い鞭の打着音と苦痛に泣き叫ぶ声が、調教室に虚しく反響した。



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