第19回公演
「めざせ!ラッセル職人。ある日の想い出
−四阿山−」
2001年1月下旬
(群馬県・長野県)
牧歌的光景の広がる菅平。見上げるとそこには四阿山と根子岳が並んでいる。 その中腹からは北アルプスの山という山がワイド画面のように眼前に迫りくる。
◆コ−スと時間
日帰り
菅平牧場駐車場(7:30)−中四阿(12:30/12:45)−菅平牧場駐車場(15:00)
牧場の朝
粉雪が風で舞い上がる
菅平牧場
。
どうやら天候も悪くはなさそうだ。
今回は天候、アプロ−チなどで行く先をいくつか用意していた。
数日前、谷川岳に行った。
生憎、悪天の予報。駄目なら赤城でもいこうと考えていた。
しかしそのプランは具体性に欠けており、谷川撤退後、赤城を目指すも 冬季通行止めに阻まれた。
そんな反省を踏まえ、目指す先を
四阿山
に決めたのは前日の事であった。
今日こそは私の本格雪山シ−ズンのスタ−トとなるはずだ。
身繕いを済ませて駐車場を歩き出す。
戦いの予感
立派な
登山口ゲ−ト
をくぐり、牧場の柵に沿って歩いていく。
トレ−スはない。
期待と不安が交錯するも真っ青な空を見上げる度に口元も緩む。
しばらくすると柵と離れ、次第に雪も深くなってくる。
雪は前日の積雪が少し締まった状態。
つぼ足で膝までもぐり始めたため 休憩をかねて
ワカンを装着
する事にした。
「めざせ!ラッセル職人」
さあ、戦いはこれからだ。
雪との悪戦を半ば期待しながらワカン足を前に一歩、繰り出した。
戦いと充実
予感は的中した。
深雪の急登
に行き当たった。
本で学習してきた
急登ラッセルの基本動作
を頭の中で思い浮かべながらの 苦闘もむなしく、全くもってはかどらない。
其の一
:ストックで目の前の雪を掻き落とす。
其の二
:落とした雪は足元で固め、高さを得る。
其の三
:落とされた雪面を膝で固め、一歩踏出す。
しかし踏み出したステップの雪が締まっていないと、その瞬間 雪もろとも崩れて全く前進していない自分に気づく事になる。
雪まみれになりながらの
奮闘は一時間
を越えていた。
見下げると50mほどの距離であった。
しかしその充実感からか時間の経過はもっともっと短かったように感じた。
視界が急激に広がった。
行く先の四阿山は見る事は出来ないが右手に
浅間山
が猛々しく噴煙をあげ、
八ケ岳
も朝霧の上に堂々たる威容を浮かばせ、左手には
根子岳
が峻立する。
そして振り返れば自らつけたトレ−スと共に
北アルプス
。
そのほとんどの山々がワイド画面となって目前に広がる。
穂高、大キレット、槍、後立山、妙高・・・。
なんとも爽快、頑張ってきた甲斐があると思える瞬間だ。
正念場
ウィンドクラストした
モナカ状の緩斜面
を相変わらずワカン、 そして変わらぬ絶景の元、地味に次の一歩を繰り出し続ける。
青い空、輝く霧氷、汚れなき雪面。
山ヤにとっては栄誉とも言えるこの状況で息を切らして登る私の体力は
かなりの消耗
を呈していた。
深雪急登の苦闘もその要因の一つであったのだろう。
もぐったり、もぐらなかったり。油断すると突然腰までもぐる行軍。
そんな今の雪の状態は先ほど以上に
辛い登り
である。
決意
タイムアウトによる
撤退を決意
したのは中四阿での事であった。
実にここまで
5時間
が経過していた。
何故そんなに時間がかかったのか自分自身うまく説明できないが やはり体力と技術の未熟さ故の結果であろう。
山行の目標は山頂かもしれない。しかし目的ではない。
氷点下の大自然に意地を張っても結果は明白だ。
むしろ
楽しむ事にこそ目的
があるはずだ。
この日の最高到達地で飲んだ温かく甘みたっぷりのコ−ヒ−は
五臓六腑と私のココロに染み渡った。
あのころ
山の雪原は心を沸き立たせ、大人を少年に還らせる。
かつて秋田に住んでいた頃、雪原で友人と競走した日を、ふと想い出す。
雪に足を取られ七転八倒。雪にまみれながらゴ−ルをめざす単純な遊び。
単純だからこそ少年に還ることが出来た。
途中、登りのトレ−スが風に消えていた。
かまう事はないのだ。行きたい所に行けば良い。
しばらくして、登りにつけた自分の
トレ−スに出くわす
。
それに向ってココロでつぶやく。
「よぉ、ドコ行ってたんだい?」
職人への道
蒼く晴れ上がった空に
四阿山
が鎮座する。
「あぁ、楽しかったなあ。また来たいなあ。」
撤退という不完全な山行であるにも関わらずとても充実した 心地を残して山を後にする。
自分自身、
課題も多い
ことは誤魔化せない事実である。
技術と体力そして知識。
さらには雪山を目指す限り出食わす難関、
ラッセル
。
いつしか、今以上の充実と想いを残すために。
ラッセル職人への道はまだまだ始まったばかり。