兄と登る脇ヶ畑、近江カルストの鍋尻、高室山

始めての兄との山行であった。幼い頃は4つ違いの兄について回ったものだった。眼下には水を張った水田が広がる近江盆地と琵琶湖。故郷を見下ろしながら、吹き上げてくる快い風に身を任せていても、話すことと言えば単身赴任中の中間管理職の苦労話や高三と中三の子どもの受験など俗な事になってしまう。
山行日  2003年5月4日
パーティー  私と兄
コース  保月9:00--鍋尻山9:40--保月10:30--(車)--高室林道登山口10:50--高室山11:30--登山口12:30

憧憬の山並

 幼い頃、まだ祖父が生きていた頃だから35年ほど前になるのだろう、家の裏手に「向かい」の畑があった。琵琶湖岸のその部落は掘割で囲まれた環濠集落で田舟が各家にあり、その堀割や北川と呼んだため池で小ブナやタナゴやなんだか今となってはよく分からない魚を釣っていた。
 その畑で祖父と過ごした時を今もかすかに覚えている。畑仕事をしながらキセルにきざみタバコを詰めていた、藁をたたいて縄をなったり、仕事の合間にはセンダンの木陰で涼みながら川面を渡る風に吹かれていろんな話をしてもらった。その川や池は20年ほど前に埋められて田んぼになってしまったが、そこからは昔と変わらず荒神山がきれいな三角形に見えて、その奥に伊吹、霊仙、御池がひときわ立派にそびえ、南へ稜線が続いている。霊仙と御池の間には、高さこそこれらの山にはかなわないもの、形の良い二つの山が見える。小学生の頃、登校のたんぼ道から雪を纏ったこれらの山々を見ていた。



生家から北東を見る


 滋賀を離れてから、この二つの山が「鍋尻山」「高室山」であること、この山は脇ヶ畑というカルスト台地に在ること、五僧越えのこと、保月や杉のことなどを知り、この山域を訪れる機会が来るのを待っていた。大型連休、子どもを連れて帰省すると単身赴任している兄も帰省してきた。「行く?」「行こ」ということになり中年兄弟山行となった。 

保月から

 杉坂の狭い道を慎重に運転して実家から保月まで40分ぐらいか。杉坂のシャガは今が見頃。暗い森の中に射し込んだ光の中でシャガの花弁が輝いている。ヤマブキの黄色も鮮やか。昨日から気温が上がって初夏の風情。
保月は廃村と言うものの、いくつかの家屋はきれいに維持管理されていて暗さが無い。集落のはずれから山道を行く。足もとはニリンソウの大群落。チゴユリも見られる。木々は若葉が萌えている。若葉の色合いは木によって違っている。兄はこの花は何だ?この木は何だ?と聞いてくるがよく分からない。農学部出身のくせに大したこと無いな、と仰せられるが私の専門は農芸化学です、と言い逃れる。
一面のニリンソウ
二次林の若葉の森を行くのは楽しい。ブナの幼木が植えてある。この辺りをブナ林にするのだろうか。やがて道は急坂になり。カレンフェルトの中をずるずる滑りながら高度を上げていく。振り返ると眼下に見事な萌緑の絨毯。近江カルスト台地が笑っている。 

鍋尻頂上にて

 急登が終わるとすぐに頂上。頂上からは愛知川河口近くの生まれ故郷がギリギリ見えない。カレンフェルトに乗ったり木を分けたりしたが、もう少しのところで見えないのだ。吹き上げてくる風が一汗かいた体に心地よい。頂上で休んでいると虻や虫がブンブンと集まってくる。季節は春から初夏へと進んでいるのだ。
 兄は初めての山登りにヘトヘトになりながらも、新緑のすばらしさ、山風の快さに感動している。30分で登れる山でも、大縦走の末に踏んだピークでもこの快さは同じだ。誰もいない鍋尻山。この静かさがうれしい。一息入れて下山する。
脇ヶ畑の山 一面の萌緑

高室山へ

 鍋尻の頂上や登山道からは故郷の町が見えない。それならばと、湖東平野の大展望台、高室山に行くことにする。林道が伸びたのか、手持ちの古いエリアマップでは登山口がよく分からない。西内氏のガイドブックをみて登山口に着くことができた。
 山菜採りの人が多い。林道を歩いていると兄はイノシシを見たという。サルもたくさんいるようだ。登山口からしばらく登るとまるで並木のように杉が残してあるのか植えてあるのか。獣の糞が登山道の真ん中にたくさんある。杉の並木が終わるとクマザサの道。山慣れない兄にとっては驚きの道。タラの木があるがどれもきちんと若芽が摘んである。天ぷらにしたのだろう、などと無駄口をたたきながら歩いていると、道は直角に頂上方向に向きを変えて気持ちの良い新緑下になる。程なく頂上に着いた。大展望か広がっていた。すぐそこに御池、霊仙。残念ながら空気は霞んでいるがそれでもいい気分。
 始めての兄との山行であった。幼い頃は4つ違いの兄について回ったものだった。
眼下には水を張った水田が広がる近江盆地と琵琶湖。故郷を見下ろしながら、吹き上げてくる快い風に身を任せていても、話すことと言えば単身赴任中の中間管理職の苦労話や高三と中三の子どもの受験など俗な事になってしまうのは仕方がない。もし、ここから夕景を見ることができたらどんなに素晴らしいだろう。琵琶湖の周辺は夕焼けがきれいだ。琵琶湖から立ち上る水蒸気が見事に赤く焼ける。ここは第1級の湖東展望台。いつか実現したいものだ。
高室から故郷を見る。(夕景風に小細工してみた)

 頂上でしばらく過ごして下山。あっという間に登山口。林道周辺でワラビを採集。まるで宝探しのようにワラビ探しに没頭した。なんだかとてもいい日になった。

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