8月の本棚 なんだか左端が鬱陶しいですね。
 
 
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タブー 禁忌 艶笑落語名作選2 長い腕  センセイの鞄
寺の家族 夜のこども 学活!!つやつや担任 ジュリエット
ドッグレース 赤毛のアン がきデカ 海泡
天才アラーキー写真ノ方法 ペルシャ 遊民爺さん


『タブー 禁忌』◆佐藤亜有子◆河出書房新社◆
 
やばいっすねー。復帰第1弾として選ぶんじゃなかったと非常に後悔しています。
1ヶ月かかって読んだ後に著者のプロフィールを見たら「東京大学仏文学卒」ってあって、
うひゃぁ、これじゃわっかんねぇワケだと思いました。(根拠なし)

なにがわかんないって、誰が主人公なのか誰が敵か味方か、どの人とどの人がどういう関係
なのかがねぇ。まぁ、そこがこの小説の重要な部分なんでしょうけど。

それにしても登場人物が多すぎて、しかもセリフの部分が多いんですね。
一体このセリフは誰が喋ってるもんなんだぁぁぁ!と何度も本を投げだそうになったんですが、
1785円もしたんで寝る前に少しずつ読みました。

まぁ、血縁ってもんがどんなに根深いモノなのか、男も女も執念ってば恐ろしいなぁとか、
吸血鬼って結局なんなの?って感じでして、でも登場人物は日本人なんだけど、御妙寺さんやら
土居さんやら渡部さんがとにかくあちこち出てきて朝起きると、もうすっかり昨日読んだとこを
忘れてしまうんですねぇ。困りましたわ。

しかも私はカバーを外して読むのが好きなんですが、このカバー外すとオモテ表紙に「禁」、
ウラ表紙に「忌」の文字がでかでかと書いてあって、ダンナが「こいつ、いったいナニを読んでる
んだ?」と思っていたようです。

SMチックな場面はありますが、文章が難しすぎてつまんないんですよ。
こういう場合はやっぱ団鬼六師匠のように素人でもわかるように書いてもらわんと。
あ、でも東大卒じゃ書けないか。(これもあんまり根拠なし)


『艶笑落語名作選2』◆小島貞二・編◆ちくま文庫◆  一覧に戻る
 
ひどいんですよ。
この本、むら医さんが貸してくれたんですけど、貸してくれる前にほとんど面白い噺を電話口で
バラしちまいやんの。江戸の昔っから伝わる落語。むら医さんの話を先に聴かなければ、これ、
絶対面白かったのに。ちくしょう。

貸してくれるなんて思わなかったんで、ゲラゲラ笑いながら聴いてたら数日後に面白い本がある
から送るわってな話になって、なにげなく読んでみたら腹が立ってきましてね。

むら医さんに電話して

「おい、殿様のちんこが小さくて神様にお参りに行ったら、でかいちんこが奉ってあって、
いじけた殿様がそいつを槍で突っついて転がしたら神様が怒って家中の男ども3000人分の
ちんこを持ってっちゃったって話、借りた本に出てるじゃん」

「だって面白かったんだもん」

「だってじゃありませんよ。しかもオチまで話てるしよ」

「…っていうか、電話でちんこちんこって言わないで下さい。こちらは仕事中なんですから」

…くそぅ。

そんなワケで他の名作選も貸してくれるとむら医さんは言ってるんですが、どーせ読んでる途中で
オチを微妙なタイミングでFAX送信してきそうなんでお断りしました。

もうむら医さんの薦める本は当分読まないよーだ。ふん。

『長い腕』◆川崎草志◆角川書店◆  一覧に戻る

第21回横溝正史ミステリ大賞受賞作品。

物語は嘉永元年から現在に飛ぶ。

八月十日に起きた中央線快速車内での殺人事件。
そして同日に起きた愛媛県松山空港で起きたパニック。
それから数日後に起きた東京近郊で起きた転落死亡事故。

なにも共通点がないように思えた点が線となって繋がってゆく。

あれ?『点と線』って松本清張でしたっけ。
そーいえば横溝正史の小説って映画でしか観たことなかったわ。
「犬神家の一族」ってそうでしたよね。

田舎の閉鎖的な土地柄と血縁と復讐。
それだけの話だったらそんなには引き込まれなかったのですが、主人公がソフト会社に勤める
女性なんですね。最初は名前でてっきり男性かと思ったんですが、彼女はその閉鎖的な故郷へは
戻るつもりはなかったのに、いつのまにか事件に巻き込まれ真相にどんどん近づいていきます。

著者は京都大学理学部動物科を卒業後、セガ・エンタープライゼス(現セガ)、三菱電機を経て
現在はゲーム制作会社にお勤めとのこと。

この本を書くために転職したんじゃなかろうかと思われるくらいネットに関する情報は正確な
ものだし、しかもネットに触れたことがない人でもわかりやすい展開となっています。

久しぶりにドキドキしながら一気に読んだ一冊です。
今後、著者がどんな作品を発表するのか楽しみ。

『センセイの鞄』◆川上弘美◆平凡社◆  一覧に戻る

まいりました。
全てのページがいとおしいのである。「純愛」としか言いようがない。

センセイは松本春綱という大町月子の高校時代の国語の先生なんですが、何年ぶりかで
飲み屋で「大町ツキコさんですね」と声をかけます。でも月子は薄ぼんやりとは覚えて
いるけど、咄嗟に名前が出てこない。そして「センセイ」とカタカナで呼ぶことにする。

センセイも月子を「ツキコさん」と呼ぶ。

約束するワケでもなく、たまたま飲み屋に行くとセンセイが先に来ていたり、ツキコさんが
先に来ていて、別々のものを頼み、ふたりは競い合うようにして日本酒を呑む。そして会計も
別々に。

ツキコはいつのまにかいつもセンセイを探し、きっと同じ頃に、いや、それよりも前にセンセイは
ツキコを探していたのかもしれない。

ふたりは出逢うべき瞬間に再会し、お互いを必要とし、求めあい、同じ時間を共有していった。

私は「梅雨の雷」の章で夜中に泣いた。

泣いて、ふたりがいつも美味しそうに呑む日本酒を主治医に止められているのに1合も呑んで
泣きながら眠ってしまった。

静かな装丁もいい。

ふたりをきのこ狩りに誘った飲み屋の主人、サトルさんもいい。そしてその従兄弟のトオルさんも
いい。オススメ本にしたいけど、自分の中でひっそりと何度も読み返したいような気もする。

『寺の家族』◆僧 多聞◆サンマーク文庫◆  一覧に戻る

裏表紙の「家族のよさってなんだろう?」って言葉にやや躊躇しましたが、たまには
こういう本を読んでもいいかなと思って購入。

合掌寺の長男・恵信に嫁さんがやってきて、さらに次男・恵章も嫁さんを連れてくる。

私にはお寺さんの一家に知り合いはいないので、あまりにもよく出来すぎている物語にちょっと
違和感を覚えました。長男の嫁さんも次男の嫁さんも、あまりによく出来すぎているんですねぇ。
よく働くし、お寺さんとは無縁だったのに一生懸命お寺さんのことを学ぶ。

お舅さんである住職もお姑さんもそれはそれは出来た人で、とにかくすんばらしい家族。

こんな家族いるんかいな?と思いつつ、すらすらと読めたのは、すべてではないけど、私の実家の
家族とたくさんの共通点があったからだと思います。

私はとにかく実家を出たい一心で結婚したのですが、今思うととてもいい家族でした。

友人に自分の家族の話をすると「そんな面白い家族見たコトない」とよく言われたものです。
妹もよく会社の同僚に話すと同じコトを言われたと言います。

何度も笑いながら、時にはじーんとしたり。
仏教に関心のない人にも楽しく読めると思います。

『夜の子どもたち』◆芝田勝茂◆パロル舎◆  一覧に戻る

ある日突然登校拒否におちいった別々の学校に通う5人の子どもたち。
大学で臨床心理学を専攻していた森山正夫は教授にカウンセラー認定を受けるために、
この5人のカウンセリングを受け持ち、資格検査を受けることになる。

政策モデル都市・八塚市。ここには「非行ゼロの教育都市」という看板もある。
山に囲まれた静かな街で子どもたちになにが起きたのか。

この作品はもともと1985年に福音館書店で刊行されたのですが、それから11年後の
1996年に加筆修正されてパロル舎から発刊されました。

本屋さんの児童書の棚にあったんですけどねぇ。ちょっと子供には難しいかなって感じ。
そんでもって大人にとっては加筆した部分が浮いてしまって、ちぐはぐに感じてしまうような。

おそらくインターネット云々の部分を加筆したんだと思うんですよ。
それがねぇ、八塚市の昔から伝わる話とか政治家との癒着とか、他にもいろんな話が出て
きちゃって、落ち着かない。かえって加筆しなかった方がいいんじゃないかなぁ。

不登校の問題がメディアで扱われだしたんで慌てて加筆してパロル舎が出したんじゃないかぁ?
とも思えてきます。

登場人物はそれぞれ個性があって魅力的なんですけどねぇ、それだけに加筆部分が非常に
惜しい気がします。イラスト(さしゑ)は小林敏也さん。夜が題材だけに白と黒の世界。

表紙はドアを開けると部屋の中にあるパソコンのモニターに「カレルピーニ チカヅクナ」
と表示されています。

あれ?表紙にするくらいなんだから加筆したのはインターネットの部分じゃないのかな。
加筆前の『夜の子どもたち』も探してみよーっと。

『学活!!つやつや担任 A・B巻』◆吉田戦車◆小学館◆ 一覧に戻る

わー。久しぶりの吉田戦車だぁぁ!
すごいよぅ。帯が。

赤いマジックで手書きのような文字。「売れてます!!」。裏を返すと「安い!!」
これはA巻。

B巻の方は表が「今!話題です!」裏が「厚い!!」

主人公はつるっぱげの「つやつや先生」。
いろいろ学園って学校の「つ組」の担任。結構男前。

だってさぁ、最初に出てくる生徒が「犬」なんだよ。しかも不登校の。
なにをやってもヘタくそな「下手山下手江」とか不良の「猫」とか出てくんの。
これでもかってくらい。無口な三浦くんはぬりかべみたいだけど、私は1度お話してみたい。

クラブもブラスバンド相撲部だのノーパン野球部だのって、もう大変。

装丁もいいよー。無駄に派手で。手触りもよろしい。
私が会社を休みだした頃に発行されたため、四ヶ月もこの本を手にすることが出来なかった。
悔しい。本当に悔しい。

『ジュリエット』◆伊島りすと◆角川書店◆  一覧に戻る

妻が死に、膨大な借金を抱え自己破産した健次は娘のルカと息子の洋一を連れて沖縄へと渡り、
人生を一からやり直そうと決心する。

沖縄ではバブル期に建設された城のような建物のあるゴルフ場の管理を任され、彼らはその
建物に棲むようになる。

第8回日本ホラー大賞受賞作品。

最近どろどろしたニュースが多くて、たまにホラーを読んでもゾクッとくるものが少ない。

しかし、鬱蒼としたジャングルに閉ざされた3人家族には広すぎる「城」と、闇に潜むなにか。
人間の心の傷を少しずつえぐるように広げていく正体不明のなにか。

ホラーとしてはちょっと物足りない。
でも読んでいるうちに景色や風、匂い、感触が伝わってきて、実際には見えないものが見えて
くる。ふとした時に見えてくると隣にいるはずのない誰かがいるような不安にかられる。

海で拾った貝に耳をあてている子どもの頃の私を思い出す。
でもその音が風の音だったのか、それとも別の音だったか、よく思い出せないのだ。

『ドッグレース』◆内山安雄◆講談社◆  一覧に戻る

皆さんにバレないいうちに白状しときます。
えぇ、帯の文句に誘われて買ってしまいましたとも。スケベですからね、私は。

1億円のお○○コ!下品な強欲オヤジどもが大暴走!”(伏せ字は原文のまま)

表紙は黒いキャミソールだけつけた女性が首にネクタイが巻き付いた状態で、どう見ても遺体と
化していまして、その周りに大人のオモチャ(私は興味ないっすけどね)だの使いかけの
コンドームだの酒だの煙草だのが散乱しています。

しかもですね、カバー外すと1万円札がぎっしり印刷されてるんですよ。

そこそこ厚い本なんですが1日かからずに読了。
プロローグから最終章までの展開が面白いんですよぉ。

同じ町内会のエロオヤジが会議と称して輪姦パーティなんかやっちゃって、その標的となったのが
銀行に勤める福沢の後輩の朋子。輪姦パーティに自分の会社の後輩なんか連れてくんなっての。

朝までベロンベロンになって起きたら朋子が死んでたってワケで。
慌てたエロオヤジたちはとにかく死体をなんとかしようとあーだこーだ考えてるうちに、実は
朋子が銀行の客から預かったお金を横領していることが発覚。

その金額が1億円以上にもなったっつーからオヤジたちは人ひとりを殺して山林に埋めちゃった
クセに、また掘り返しに行くんですねぇ。

そこから謎の脅迫者が現れ、オヤジたちの中でも仲間を出し抜いてこそこそ動き回るのが出て
きたりして、とにかくなんだか非常にえげつないのであります。

しかし、オヤジ連中のあたふたした行動が非常にいい。
著者に他意はないとは思うけど、太ってるオヤジの苗字「高木」だし。
どうしても高木ブーを想像してしまって、へらへらと笑ってしまうんですなぁ。

スピードがあって、展開もなかなかのもんです。
エピローグはもうちょっとどうにかならなかったんかねぇとは思いますが。
あともうひとつ難を言えばタイトルはいいと思うんですけど、各章のサブタイトル。
もーうちょっとだけ捻ってくれても良かったかなって。

『赤毛のアン』◆モンゴメリ/白柳美彦◆ポプラ社◆ 一覧に戻る

小学生の時にたしか読んだ覚えがあるんだけど、読み返してみたら『赤毛のアン』と
『長靴下のピッピ』と『大草原の小さな家』がごっちゃになってました。

この本は「先生がすすめる名作5年生」“おとなになる前に読んでおきたい本”とあるのですが、
子供の頃に読んだ私が忘れてるってことはどうなんでしょう?あんまりいろんな本を読みすぎても
いけないってことっすかね。

あらすじは今さら紹介するまでもありませんが、孤児院にいたアンがマシューとマリラ兄妹の家に
引き取られることになるのですが、マリラが欲しかったのは男の子。ちょっとした手違いで赤毛の
アンが家族となります。

頭が良くて想像力もあるけど、自分の赤い髪の毛を他人にとやかく言われると思いきり癇癪を
起こし、「もうこの人とは一生つきあわない!」とまで決めつけてしまいます。

川で流された時も助けてくれたのはアンのことを「にんじん」と言ってしまったギルバート
だったのですが、一瞬気持ちが揺らぐものの、意地を張って「友達にはならない」と。

子供は自分が決めたことを大人より守ることがあります。
それがアン。しかし大人になったアンはギルバートの優しい心に触れ、やがて心を開いていき
ます。

私が読んだのはそこまで。
このあと、アンとギルバートが結婚して幸せな家庭を築いたりするようなのですが
『赤毛のアン』は孤児院にいた少女が恋という気持ちに気づき、大人になっていくという
恋愛小説ではないかと。小学5年生が読んだら恋愛小説って気づくかなぁ。この本をすすめた
先生ってのは多分、アンの想像力豊かな部分とどんな困難も切り抜けるというような部分で
すすめてると思うんですが。

「これは恋愛小説なのよ」って子供にすすめたんだとしたら、その先生、尊敬しちゃう。
ところで、その先生ってどこの先生なんですか?なんかアンケートでも取ったんでしょうか。
本が読めない先生だってたくさんいるだろうに。

『がきデカ 残暑お見舞い申しあげ、んがっ!!』◆山上たつひこ◆小学館◆ 一覧に戻る

なにも『赤毛のアン』の直後にがきデカを読まなくても。

ちょっとここんとこ落ち込んでたらダンナがお見舞いに「MyFirstBIG」シリーズのコミックを
買ってきてくれました。

あぁ、久しぶりに読むといいなぁ。こまわりくん。
当然山上たつひこはもうコミックから遠のいてしまったので書き下ろしではないんですが、
懐かしい話が10編とコラムがつまって本体286円。それにしても安いお見舞いだな。

『がきデカ』と言えば私のおっとうが昔、全巻集めていたのに、おっかあが「こんな下品なモノ
はこうしてくれるっ!」と畳屋さんのゴミを焼いていたドラム缶の中に全部突っ込んで焼いてし
まったんですよ。<鬼っ母っ。

でも子どもの頃、おっとうと密かに「八丈島のきょん!」だの「死刑っ!」だの近所のバカ犬に
「栃の嵐(主人公のこまわり君と互角に渡り合う犬)」なんて勝手に名前つけて遊んでましたが。

たまにこういうバカコミック読むと気持ちいいですわ。
すっごくくだらないんだけど、1ページに1度は笑ってしまうという、やはりギャグ漫画としては
最高。本当に燃やされた『がきデカ』がもったいないです。おっとうに見せびらかしにいこう。
買ってあげてもいいけど、また燃やされちゃうからな。

『海泡』◆樋口有介◆中央公論新社◆ 一覧に戻る

舞台は東京都小笠原諸島小笠原村父島。
東京から一番遠い南の島。父島へは東京の竹芝桟橋から船でしか行けない。
26時間の船旅はかなりの覚悟がないと辛いものである。

私も過去に妹とその船に乗って父島へ行った。当時は26時間以上かかったのではないかと
思われる。乗り物ならなんでも酔うという妹は桟橋で船を見た途端青い顔をしていた。

イルカの大群、迫り来る父島、どこまでも青い海と空。
船をおりた直後に突然降り出した雨。リュックにつめた傘を出しているうちに雨雲はさーっと
どこかへ行ってしまい、焼けつくような太陽が顔を出した。南の島特有のスコールである。

そんな父島が舞台で、私の好きな作家樋口有介のミステリーと言えば読まないワケにはいかない。

主人公の木村洋介はもともと父島の人間ではなく中学2年生の時に離婚した母親の元から父島に
渡った父親の元に引き取られた。大学に進学すると同時に島を離れ、2年振りに帰った島では
誰もが洋介を迎えてくれたように思えたが…。

本土から1千キロ離れた孤島で起きた殺人事件。
父島へ1度でも訪れたことのある人なら「父島での殺人事件は似合わない」と思うだろう。
帯にも「人口二千人の洋上の楽園に殺人事件は似合わない。」とある。

誰もが島の住人すべてを把握しているのだ。
1週間に1度しか入港しない船。

ひからびたカエルの絨毯、ジャングルを抜けないとたどり着けない無人の浜、野生のヤギ。
いずれこの島にも飛行機が行き来することになるだろう。
そうなる前にこのミステリーが完成したということは大きな収穫だったかもしれない。
誰もが簡単に行ける島などには著者は見向きもしなかっただろう。

好きな作家の書いた作品でも混乱することがある。
住人の呼び名。ある人は苗字で呼び、またある人は名前で呼び合う。
きちんと把握してないと誰が誰だかわからなくなる。父島の住人のつもりになって読むと
読みやすいかもしれない。

『天才アラーキー写真ノ方法』◆荒木経惟◆集英社新書◆ 一覧に戻る

いいねぇ、アラーキー。
私はあんまり写真家を知らないんだけど、知らなくてもいいって思わせるくらいアラーキーは
いいです。はい。

女の人を撮ったらもちろん、子どもや草花にまでエロが漂う。
還暦を迎えて、ますますやる気が出てきたという。

アラーキーの写真論としていろいろ語られてはいるのですが、やはり写真を見るのが一番納得
できます。

えーと、文章がダメってワケではないですよ。文章は目の前にアラーキーがいるようでとても
楽しい。

一番ドキッとした写真がヌードじゃなくて、実は「中曽根元首相」のポートレート。
何度もテレビなんかで見ていたはずなのに、初めて見る表情なんです。
あぁ、こういう表情も持っていたのか…って。

私も以前カメラにものすごく凝った時期がありまして、近所の公園で子どもをバシャバシャ
撮ってたら、その子どもがそっと近づいてきて「お父さんに言われたんですけど、写真、撮ら
ないでもらえますか?」と言われたことがあって、それ以来カメラ恐怖症っていうか、人を
撮るのが怖くなっていたんです。

でも、アラーキーの話を読んでわかった。
私はその場所になじんでいなかったんだって。
たとえ近所の公園でもその場所になじまなければ、被写体も遠のいてしまう。

そろそろデジカメで植物ばっか撮ってないで一眼レフのカメラを持って外に出よう。

『ペルシャ』◆ムーさん◆自費コピー本◆ 一覧に戻る

普通の書評サイトだったら絶対紹介されることのない本ですが…。
実はこの本、よく私のサイトに書き込みにきてくださるムーさんがペルシャへ旅をした時のことを
写真とともに記した本です。

本当は自費出版を夢見ていたようですが、あまりにも費用がかかって断念したそうで、特別に
コピーして製本したものを私に送ってくださいました。

2001年4月5日から16日までイランを一周したムーさんが見て感じたこと、巻末には
イランのこぼれ話が紹介されています。

とにかく文章もさることながら写真が素晴らしい。
還暦を迎え、こうして世界を駆けめぐるムーさんの笑い声が聞こえてきそうです。
異国の人たちにも、異国の地にも興味を示し、愛情を持って接している様子が見えてきます。

ひとつだけ気になったのは、これはムーさんの癖なんだと思うんですが、写真がほんのちょっと
だけ右下がりになってしまっていること。たぶん、シャッターを押す時に力が入ってしまうんでは
ないかと思うんですが、ムーさん、どうですか?

そのムーさん、今度は中国の四川省に向かいます。
中国の旅行記も楽しみにしていますよ…とちょっとプレッシャーをかけてみる。ふふ。
※後日ムーさんがご自分のサイトを立ち上げました。こちらで旅行記も読むことが出来ます。

『遊民爺さん』◆小沢章友◆TBSブリタニカ◆ 一覧に戻る

ぼくが大学をサボって美術館で絵画を堪能していると、どこからともなく「ねえ、このシャガール
ねえ、もうずいぶんと長く生きてるよねえ」としわがれた爺さんの声がする。

振り向くとそこにはうす汚れた白いTシャツに青い半ズボン、黄色い縞のソックスに安っぽい
スニーカーという妙な姿をした爺さんが立っていた。

爺さんは誰に喋るともなく延々と芸術論をかます。
ぼくは確実に爺さんが自分に話しかけてきていると知りながら、恥ずかしさと気まずさでその場
から離れた…。

…が、その5日後、またその爺さんが現れたのだ。
そしてその爺さんは何度もぼくの前に現れ、いつの間にかぼくは爺さんを探すようになっていた。

人間は誰もが年をとる。
どうせなら年をとるなら楽しく好きなことをして年老いてゆきたいと思う。
しかし、この爺さんは楽しそうにみえて、実は孤独な老人である。

芸術を愛し、自分の才能のなさをこの年になって思い知る。なんて残酷な話なんだろう。
それなのに、ぼくと爺さんの関係はうまい具合にかみ合って著者はハッピーエンドに向けて
どんどん続編を書くとあとがきで宣言している。

1993年に発刊されたこの『遊民爺さん』は第二回開口健奨励賞を受賞。
続編はどうなってるんだろうと調べてみたら「ぼく」が社会人になって「爺さん」にパリへ
連れていかれるというのが出ているようなのですが…。

著者の「爺さん」と「ぼく」に対しての愛着は非常に感じられるのですが、ここでおしまいにして
おいて、読者にその後の「爺さんとぼく」を想像させるのもいいような気も…。