9月の本棚 ■あらやだ、もうこんな時間。
 
 
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蔦かずら 向田邦子の恋文  【ナンシー関】のすっとこ人名辞典 マーブル騒動記 

『蔦かずら』◆鳥越碧◆講談社◆  一覧に戻る

静かな連作集である。
8人の女性のそれぞれの心の内側を恋愛を軸として描いた物語。
主人公たちはいくつかの山を越え、ひとりになった時に人生を振り返り、ため息をつく。

ひとつの恋愛を終えた時に女に残るもの。二度と人を愛せないのではないかという不安と
男とのつながりから解放された安堵。この主人公たちはどちらの気持ちが強かったんだろう。

恋愛はなんのためにするのか。そんなことに理由などないと思うのだが、主人公に近い年齢に
なりつつある今、どうしても考えずにはいられないのだ。

難しい言葉はどこにも出てこないのだが、昔からある日本語を堪能できる一冊。
落ち着いた装丁もいい。ただひとつだけ難点を言えば、帯の「ラスト・ラブ」という文字。
カタカナがないと売れないというワケでもなかろうに。惜しい。
『向田邦子の恋文』◆向田和子◆新潮社◆  一覧に戻る

台湾旅行中の航空機事故で脚本家の向田邦子が急逝してからもう20年もたってしまったのか。
なんだか信じられない。事故も、向田邦子が死んでしまったということも、どちらも信じられない。

向田邦子の手紙とN氏の手紙と日記による第一部、「姉の秘め事」として実妹・和子さんの想いが
綴られた第二部とから成る。

毎日のように交わされる手紙には相手を思いやる気持ちがたくさん詰まっている。
家族のいるN氏と、仕事に追われ家族に頼られる邦子が唯一ホッと出来る空間。
好きとか愛してるとか、そんな言葉はひとつもない。

物書きである向田邦子の妹だからと言って、文章がうまいわけではない。
むしろ読みにくい部分が多い。しかし、姉に対する憧れ、想いは痛いほど伝わってくる。
この本を書いて、妹は姉の死を受け入れられたのだろうか。
『【ナンシー関】のすっとこ人名辞典』◆ナンシー関◆飛鳥新社◆  一覧に戻る

今年の6月に消しゴム版画家・コラムニストであるナンシー関がこの世を去ってしまった。
なんだよ、ナンシーがいなくなったらテレビをみる楽しみが激減するじゃないか、もっともっとなんか
変だけどナニが変だかわからなかったことを気づかせてくれないと。自分で考えろって言うのか。
それじゃあダメなんだよ。ナンシーの視点で、ナンシーの言葉で、ナンシーの消しゴムでなくちゃ
全然面白くなくなっちゃうんだよぅ。

2000年12月から2001年5月までNTTドコモの有料サイトで毎日更新された消しゴム版画と
コメントを紙面化した1冊。182人分。

あー、そっくりそっくり、すげーすげー、がはははは、とか笑いながら、あぁ、もうナンシーはいない
んだと思うと涙が出てくるわ。森繁より先に逝くなよ、もお。しかも森繁、出てないし。

『マーブル騒動記』◆井上剛◆徳間書店◆  一覧に戻る

第3回日本SF新人賞受賞作。
あまりSFというジャンルの小説を読まないほうなんですが、日本SF作家クラブのサイトを覗いたら
新人賞はおろか大賞作品がずらっと並んでいるのに1冊も読んだことないじゃないか。
知らず知らずのうちに避けてたのかも。そもそもSFとはなんなのか、ということすらちょっと
わかってないんだな。<頭の中ではスターウォーズがぐるぐる回ってる。

物語はテレビ局のプロデューサー・御手洗嗣人が家に帰るといきなり牛がいた、というところから
始ます。その牛は「モー」という鳴き声の代わりに嗣人の頭の中に人間の言葉で「念波」を送って
きた。

牛は嗣人を利用し、嗣人は牛を利用し、やがてふたり(?)の間に妙な信頼関係が生まれる。
が、話はそれだけではない。嗣人には別居中の妻と息子がいた。たくさんの人間と牛を巻き込んでの
大騒動。

あとがきによると、この作品を新人賞に応募した一週間後に日本でBSE(ウシ海綿状脳症)の疑いの
ある乳牛が発見されたそうで、著者はそれを予見していたワケではないと仰っているが、実に
タイミングがいいというか。

騒動に関わってくる動物愛護団体や政治家の胡散臭いことと!
SFと言ってもやはり現実世界を基本に描いているから、どうしてもそうなっちゃうんだろうなぁ。
知能を持ったモノがつるむとロクなことにならんわ。

ラストシーンがうまい。いや、実は途中なかだるみして、なかなか先に進めなかったんですが、
ラストでこの作品が新人賞を受賞したワケがわかったような気がしました。

装丁・和田誠氏。絵は非常にいいのですが…。ナニがいけないんだろ、タイトルかなぁ。