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佐々木俊尚 Toshinao Sasaki
昨年12月24日、読売新聞東京本社が「ライントピックス」というサービスを提供している神戸市のデジタルアライアンス(以下、DA社)を著作権侵害で東京地裁に民事提訴した。
ライントピックスは画面【写真参照】を見ればわかる通り、バナー広告と同じ体裁だ。中央が電光掲示板形式になっており、時事や芸能、スポーツなどのニュースの見出しが、広告とともに右から左へと次々に流れていくシステムになっている。見出しをクリックすれば、リンク元である「ヤフー!ニュース」の該当の記事へと飛ぶ仕組みだ。
無料ということもあって個人のウェブを中心に人気は高く、このシステムを導入したサイトは2万件以上にもなる。同社は見出しとともに流れる広告を販売している。
つまり営利目的のサービスでもあるのだ。
DA社を提訴した読売新聞側の主張は明確だ。同社はリンク元であるヤフー!ニュースに記事を有償で提供している。そして見出しは「新聞社がニュースのうちもっとも伝えたい要素を一目でわかるように表現した著作物」(12月25日付同紙)であり、DA社が行っている見出しの引用は、正当な引用範囲を超えた著作権侵害である、というものだ。
一方、DA社の有本哲也社長の説明はこうだ。
そもそも同社がヤフーの見出しを使おうと考えたのは、ヤフー!ニュースを提供するヤフー!ジャパンが、そのポリシーとして「リンクフリー」を掲げていたからだ。
2000年、DA社はライントピックスをスタートさせる際、ヤフー!ニュースの担当者に「見出しの使い方やリンクの方法はどのようにすればいいのでしょうか」という問い合わせをメールを送り、「見出しは改変せず、そのまま使うのがベストです」
という回答を得ていたという。
有本社長は憤然とする。
「私たちとしては、最初から万全の体制を取り、ヤフーにも連絡して慎重に対処して来たつもりでした。ネットにおける著作権の扱いについてはかなり調べ上げ、ディープリンク【編註:あるサイトのトップページ以外にリンクを張ること】についてはインターネットの文化として認められるべきだというポリシーでスタートさせた」
ところがヤフー側は翌01年5月、DA社に対して「ライントピックスは、コンテンツの商用目的での利用を禁じたヤフーの利用規約に反している」という内容証明郵便を送付してくる。しかし、DA社側が「ではどうリンクを張ればいいのか」とメールで返答しても、回答はなかった。そして1年半後の昨年12月、読売新聞が何の予告もなく、突如としてDA社を提訴するに至るのだ。
ヤフージャパン広報部は「内容証明を送付した際、原著作者である読売新聞東京本社にも連絡してあります」とコメントする。今回、読売新聞の提訴に当たってヤフーとの間で何らかの調整があったのか不明だ。
読売が勝つ可能性は高い
著作権問題に詳しい松本直樹弁護士は、「個人のウェブサイトなどでの見出しの引用自体が即座に否定されるような判決が出るとは考えにくい。だがまとまった量の見出しを丸ごと営利目的で配信している今回のDA社のケースでは、読売側が勝訴する可能性は十分ある」と解説する。
過去、類似ケースを見ると、著作権をもつ側の主張が認められているケースは多い。たとえば96年、英国のスコットランドにある「シェトランドニュース」というウェブサイトが地元紙の記事の見出しをサイト上に掲載し、新聞社から著作権侵害で訴えられる事件があった。裁判所は「見出しには著作権があり、それを電子的形式で複製するのは著作権侵害に当たる」と新聞社側の訴えを認める判決を出している。また日本でも91年、ウォールストリートジャーナルの記事の要約と見出しをファクスで会員に提供していた渋谷区内の会社が同紙から訴えられ、発行停止の仮処分を受けたケースがある。
おまけに日本は97年には著作権法を改正し、「インターネットにおける著作権については世界最先端を誇る」などと言われている。
今回のケースが営利目的であることを考えると、見出しが正当な引用と判断される可能性は低いだろう。DA社の有本社長は、「こちらの主張は公判で明らかにしていきます」と言うに留めている。
だが、裁判を起こした読売新聞の主張のなかで注目すべきは、「無許諾で見出しを使用し、それを一般多数の人々に向けて配信すれば、営利、非営利を問わず、著作権侵害に当たる」(同社広報部)という点だ。正当な引用はこの範囲ではないというが、何をもって「正当」とするかは議論が分かれるところだろう。
インターネットに詳しい紀藤正樹弁護士は言う。
「90年代後半以降、日本では、個人ユーザーが自らのウェブサイトで、正当な範囲を超えて新聞や雑誌の記事を全文引用するのは、ネット独自の文化として定着してきた。しかし、今後は大きな揺り戻しがくるかもしれない」
読売新聞の主張が認められると、たとえば、ブロッグに対しても大きな影響を及ぼすかもしれない。ブロッグとは、ニュースサイトに掲載されているさまざまな記事の見出しにリンクを張り、その記事に対してコメントや批判を書き加えたサイトのことだ【P33参照】。特に米国では9・11以降、市民の政治意識の高まりとともに政治やテロに言及したブロッグが急増。インターネットメディアの大きな潮流になっている。
日本国内で、IT系ニュースのブロッグを運営している男性(28歳)は語る。
「そもそも見出しはインデックスの役割を持っているはずで、その見出しを使うなというのは無茶な話。最近、日経新聞などディープリンクをできないようにシステムを変えるところも現れており、ニュースが利用しにくくなっている」
ブロッグにおける引用は、批評性のある正当なものというのが彼らの主張だが、今回の判決いかんでは、ブロッグ普及を鈍らせる可能性もある。
来襲するグーグルニュースの脅威
しかしこの提訴には、もうひとつの隠された背景がある。読売新聞の内部関係者が証言する。
「今回の提訴は、グーグル・ニュースへの牽制が本当の狙いなんです」
グーグル・ニュースは今、世界のメディア業界を震撼させているサービスだ。検索エンジンで有名な米グーグル社がはじめたこのサービスは、ウェブの自動収集プログラムで、世界中の4000以上ものニュースサイトから記事を集めてくる。集まった記事はビジネス、テクノロジー、スポーツ、エンタテインメントなどのカテゴリーに分けられて表示される。サイトは十数分ごとに更新され続け、目の前で世界が激動し、さまざまなニュースが次々と洪水のように報じられていくのを実感できる。
たとえば、イラクについて米高官が「武力行使を辞さず」とコメントした、という出来事があるとする。それが米国ではどう報道され、一方でアラブではどう報じれているのかを多面的に知ることができる。メディアリテラシーの観点から言えば、画期的なサービスといえる。
しかし大手メディアから見れば、自社サイトの大事な広告面であるトップページを誰も見に来てくれなくなるという意味で、脅威以外の何ものでもない。
先の読売関係者は、「グーグルニュースが近々日本に上陸してくるという噂も流れており、そうなったら各社はたいへんな打撃を受ける。まずはDA社の裁判に勝つことで判例をつくりたいと考えた」 と話す。
グーグル・ニュースはまだ試験サービスの段階で、「日本語化などの予定は現時点ではまったく未定」(グーグル日本法人広報担当)。しかし“日本上陸”の風評が流れるに足りるだけの脅威であるのは間違いない。
紀藤弁護士は「現在の著作権法に照らしてみれば著作権侵害に当たる可能性があるとしても、もし表現の自由の方が大切だと思うなら、市民側の力で運動を起こして法律を変えていくしかない」と語る。
DA社とブロッグ運営者たち――彼らにはそれだけの覚悟はあるだろうか。