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佐々木俊尚 Toshinao Sasaki


 IP電話が、通信業界を席巻している。この新しいテクノロジーは、旧来の日本の通信業界の枠組みを一変させてしまう力を秘めているのだ。来るべきその新世界の中では、巨人NTTもワン・オブ・ゼムのプレーヤーでしかない。
 従来の固定電話は、「回線交換」と呼ばれる仕組みを使っていた。自宅の電話から最寄りの電話局の交換機へ、別の地域の交換機へとスイッチを入れながら次々と回線を確保していく。IP電話はずっと単純だ。電話機を専用のアダプタを使ってモデムにつなぐ。アダプタは音声を「パケット」と呼ばれるデータに変換し、相手先の電話番号をつけて専用IP網に放つ。先方のアダプタはパケットを受け取り、音声に戻してくれる。IP電話のアドバンテージは明らかだ。まず、数億円もする交換機や多数の回線を用意しなくてもすむ。IP電話は既存のIP網を流用できるから、システム運用のコストは比較にならない。
 とはいえ、つい数年前までは「IP電話は音声品質が悪い」と否定的に言われていた時代もあった。これは当時のIP電話がインターネット網を使っていたからだ。世界中で利用されているインターネットは局所的に混雑し、データが流れにくくなることもある。リアルタイム性が必要なIP電話では、これは致命的だ。音声がとぎれてしまう。
 そこで各社は、インターネット網と同じ仕組みを持つ専用IP網を利用するようになった。経路が短くてすみ、遅延は起きない。現在の固定電話とまったく同じレベルの音声品質を確保できるようになったわけだ。
 しかしそうなってくると、今度はユーザーが他社のIP電話に電話をかけられなくなるという問題が起きてしまう。その問題をクリアするためには、各社の専用IPを相互接続しなければならない。そこで活発になってきたのが、昨年秋ごろからの各社のIP電話サービスの相互接続、合従連衡の動きというわけなのだ。

注目される合従連衡

 IP電話サービスは現在、ソフトバンクのBBフォンが100万回線を突破し、独走状態にある。他の通信会社やプロバイダーはいずれも試験サービスを開始した程度だから、その優劣は明らかだ。
 しかし昨年秋、KDDIやNECなどのメガコンソーシアム4社を中心とした11社(アナログ回線を含むプロバイダー会員数約1650万人)が相互接続を発表。またニフティなどの3社連合(同1100万人)も相互接続開始を決定した。さらに両グループを横断する実証実験や、NTT東西のフレッツ・ADSLが両グループを対象にしたIP電話の提供を決めるなど、加速度的に相互接続の機運が高まりつつある。
 これに対し、ソフトバンクは先行メリットは十分にあるとはいえ、「仲間」がまったくいない現状では先行きに暗雲も……という状況だ。この混乱状態がいったい、どのような帰結をもたらすのか。日本の通信業界の再編さえも起こしうる可能性をはらんでいると言っていいだろう。