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佐々木俊尚 Toshinao Sasaki


注目を集める検索エンジン業界の再編

 米ヤフーの拡大戦略はいま、インターネットの世界で最もホットなマーケットとして注目されている検索エンジン業界を激しい戦場へと変えつつある。
 その前にまず、検索エンジンというマーケットについて説明しておこう。
 検索エンジンが脚光を浴びている理由はふたつある。まず第1に、検索エンジンのテクノロジーは凄まじい勢いでイノベーション(技術革新)が進んでいること。そしてそれに呼応するかのように、インターネットユーザーの検索エンジン利用は加速度的に重みを増しつつある。たとえば最近の若いインターネットユーザーを見ていると、アドレス欄にホームページアドレスを打ち込んだり、「お気に入り」にアドレスを登録したりする人は少ない。多くがグーグルやヤフーの検索ウインドーに会社名やイベント名などを打ち込み、そこから目的のホームページに移動しているのだ。ネットの利用の中心に、検索エンジンが存在する――そう言っても過言ではない状況が生まれつつあるのだ。
 そしてこうした状況に対応し、検索エンジンを利用したビジネスも次々と登場してきている。検索結果の上位に、高い広告料金を支払った企業のホームページを掲載するという有料検索エンジンモデルはそのひとつ。7月にヤフーによる買収が発表された新興ベンチャー「オーバーチュア」のスポンサードサーチや、検索エンジンのトップ企業「グーグル」のアドワーズなどが代表的だ。伸び悩んでいるインターネット広告市場の中で、唯一の成長ビジネスといってもいいほどの規模になっている。
 そして第2に、検索エンジンがこうして陽の当たる場所へと躍り出てくるのと同時に、IT業界の主力プレーヤーたちが次々に参戦。停滞しているインターネットビジネスの中にあって、“勝ち組”企業たちの主戦場となりつつあることだ。
 特にその動向が注目されているのが、米ヤフーと米マイクロソフトというIT業界の2強だ。
 もともとこの両社は巨大なポータル(玄関)サイトを運営し、多くのユーザーを集めてきた。米国での検索サイトの利用者数は、市場調査会社のニールセン/ネットレイティングスによると、グーグルが第1位で3730万人(昨年12月調べ)。ついでヤフー(3650万人、同)マイクロソフト(3430万人、同)と続く。この3社で検索エンジンの市場の半数以上を押さえてきたといっていい。
 だがグーグルを除く他の2社は、検索エンジンのテクノロジーに関しては直接の自社開発は行わず、グーグルやインクトゥミなどの専門企業と提携し、そのテクノロジーを利用するかたちを取ってきた。たとえばマイクロソフトのインターネットサービス「MSN」はインクトゥミ、オーバーチュアと提携し、ヤフーはグーグルとパートナー関係を保ってきている。あくまでポータルサイトとしてのビジネスを重視し、手間とコストのかかる検索エンジンテクノロジ戦争への参戦はあえて見送ってきたということなのだろう。
 だが昨年から今年前半にかけ、検索エンジンマーケットの爆発的な拡大とともにこの危うい市場バランスが崩壊し、一挙に戦国状態へとなだれ込んでしまう。その象徴的“事件”が、インクトゥミとオーバーチュア2社のヤフーによる相次ぐ買収だった。業界人たちにとってはこの買収劇は、ヤフーの強烈な宣戦布告に映った。
 特にこの事態を重く受け止めたのが、マイクロソフトだった。インクトゥミとオーバーチュアとの提携を続けてきたマイクロソフトにとっては、この両社と提携を続け、利益を分け与え続けることは「敵に塩を送る」結果にもなりかねない。ITの巨人が果たしてどう対処するのか――今年前半、検索エンジン業界ではこの話題で持ちきりだった。一時は「マイクロソフトはグーグルを買収してヤフーと対抗するのではないか」という噂とも憶測ともつかない情報が業界を駆けめぐったほどだ。
 だがマイクロソフトが選んだのは、第3の道だった。同社は検索エンジンの自社開発プロジェクトをゼロからスタートさせたのである。同社関係者によれば、新しい検索エンジンはウインドウズの次期バージョンと統合され、OS(基本ソフト)の画面上から直接インターネット検索できるような仕組みを標準で備えていく計画だという。独占支配状態にあるOS市場を握っているというマイクロソフトの強みを、最大限に生かす作戦といえる。振り返れば1990年代、同社はインターネットブラウザー(閲覧ソフト)市場でベンチャー企業のネットスケープを崩壊させ、新参ソフト「インターネットエクスプローラー」で市場を独占してしまった“前科”もある。検索エンジン業界でも同じように、OSの独占支配を武器にして他社を蹴散らしていく可能性は否定できない。
 話を戻そう。
 ヤフーがオーバーチュアとインクトゥミという検索エンジン有名企業2社を買収した影響は、きわめて大きかった。マイクロソフトだけではない。たとえば欧州では、ポータル市場でヤフーと対決するTオンラインが、オーバーチュアとの提携を一方的に破棄し、グーグルに乗り換える波紋があった。オーバーチュア側は契約不履行だとして、Tオンラインの親会社であるドイツテレコムを提訴。Tオンライン側は「ライバル会社に買収されてしまえば、契約は破棄されるのが当然」と譲らなかったが、結果的にはオーバーチュアが勝訴し、Tオンラインに対してオーバーチュアのエンジンを使い続けるようにという裁判所命令が出される結果となった。
 一方で、積極的な買収戦略を続けるヤフーの側も、大きな悩みを抱えている。競争力を高めていく一方のグーグルとの関係をどうするかという問題だ。ヤフーはもともと、自社のポータルサイトの検索エンジンとして、アルタビスタやインクトゥミのテクノロジーを利用していた。だがグーグルが高性能の検索エンジンを引っさげて業界に登場してきたのに注目し、2000年にインクトゥミとの提携を解消し、グーグルと契約を結んだ。
 だがきわめて秀逸な検索エンジンを提供するグーグルへのユーザーの人気は高まる一方で、逆にヤフーのポータルの存在意義が霞んでしまう――というジレンマに陥ってしまう。軒先を貸して母屋を取られる、という状況にはまり込んでいったのだ。
 このジレンマを打開するために同社が選んだ戦略が、一度は捨てたインクトゥミの買収だったといえる。現状ではヤフーはまだグーグルとの提携は解消していない。だが遠くない将来、同社はグーグルとのパートナー関係を断ち切り、インクトゥミの検索エンジンを復活させるのではないか――そんな見方が業界では主流になりつつある。
 いずれにせよ、検索エンジン業界はグーグルとヤフー、マイクロソフトという3強が対決する構図に固まりつつある。グーグルは最先端の技術力を誇るが、まだIPO(株式公開)もしておらず、経営規模は他の2社と比べてはるかに小さい。同社がヤフーやマイクロソフトに買収されてしまう可能性もまだ消えてはいない。今後、事態はヤフーとマイクロソフトという2強の寡占状態――直接対決という構図に移行していく可能性もあるだろう。いずれにせよ、戦いはまだ始まったばかりなのだ。