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佐々木俊尚 Toshinao Sasaki
「バーコード管理団体『EPC Global』にゆだねられたRFIDの普及と標準化」
Auto-IDセンターとユビキタスIDセンターの2陣営に分かれてしまい、標準化の先行きが心配されていたRFIDだが、ここに来て急速に一本化の動きが進みはじめた。Auto-IDセンターが国際的なバーコード管理団体に移管されることが決まり、一挙にグローバルスタンダードへの道筋をつける形になったからだ。
今後、RFIDやSCMなどに興味を持っている人は、「EPC Global」という組織の名前をひんぱんに聞くことになるだろう。EPC Globalは、バーコード管理団体である米国のUCC(Uniformed Code Council)と、欧州を中心に日本も参加している国際EAN協会が50%ずつ出資して設立。Auto-IDセンターはEPC GlobalにAuto-IDのライセンスを与え、ソフトウェアや標準化に関する活動をすべて移管する。今後はEPC Globalが中心となり、標準化をはじめとするRFIDの展開を進めていくことになるわけだ。
米マサチューセッツ工科大の研究者たちが中心になって設立したAuto-IDセンターはこれで消滅するわけではなく、Auto-IDラボと衣替え。これからはEPC Global傘下の研究開発組織として技術的提案を行っていくという。またAuto-IDセンターの日本拠点(所長・村井純慶応大教授)も、Auto-IDセンター・ジャパンラボと改称され、米国同様、Auto-IDの標準化作業は経済産業省の外郭団体である「流通システム開発センター」に引き継がれる。
今回、矢継ぎ早に事態が進展したように見えるRFIDだが、実際にはかなり早い段階から話が進んでいたようだ。10月27日に東京で開かれたAuto-IDセミナーの席上、流通システム開発センターの坂井宏・専務理事はEAN内部での動きについて、次のように話した。
「EANがAuto-IDセンターに巻き込まれるようになったのは、今年春ごろから。UUCから『一緒に進めないか』という打診があり、急に盛り上がった。5月に開かれたEAN総会では、Auto-IDの成果を取り込んだ実用的なシステムを導入していこうと話が進んだ」
Auto-IDセンターがUCC/EAN傘下に入った意味は大きい。まず第1に、UCCは1970年代に創設された古い組織で、持っているパワーはきわめて大きい。そもそもバーコードというのは1970年代に最初に食品に導入され、ついで80年代には衣類業界にも広がった。現在では25の産業で利用され、UCCとEANが共同で設立したバーコード管理のためのメンバー組織は150カ国以上に広がっている。サプライチェーンに関わる団体としては最大で、流通業界への影響力は圧倒的と言っていい。
1999年に発足したAuto-IDセンターは、P&Gやジレットなどの家庭用品メーカーに加え、ウォルマートなどの流通トップ企業も参加していた。米国のメーンプレーヤーたちが加わっていることで実用化への距離はもっとも近いとみられていたが、今回のUCC/EANの参入によってその地位はほぼ安泰といえるものとなった。
第2に、バーコードとの関係性が強まった意味も大きい。UCC/EANの傘下に入るのと同時に、Auto-IDセンターは既存のバーコード体系を活用していくことが決まった。現在のバーコードに個別IDを加え、いわば上位互換の形で運用されていくことになる。現状のバーコードがそのまま使えることから、流通業界にとっても今回の動きは歓迎されているようだ。
一方、坂村健・東大教授の率いるユビキタスIDセンターはどうなるのだろう。
同センターからの公式なコメントは発表されていないが、Auto-IDセンター日本拠点の村井教授は「ユビキタスIDセンターもUCCの規格を採用するという話を聞いており、決して対立関係ではなく補完しあう関係だ」とAuto-IDセミナーで強調していた。実際、坂村教授はAuto-IDセンターの顧問会議にも名を連ねている。今後は協力関係を保ちながら、RFIDの普及活動を進めていくということになるのだろうか。
日本でもAuto-IDについては経済産業省も全面的にバックアップしていく姿勢を見せている。Auto-IDセミナーでも、同省の新原浩朗・情報経済課長は「国際標準でなければ標準たり得ない」「商品コードはこれで方がついたと思っていいだろう。坂村さんもこれを使うということで了承を得ている」などと強調した。
さて、標準化がこれで決着を見たということになると、次にやってくるのはいよいよ実用化に向けてのスケジューリングだ。だが道筋は、それほど簡単ではない。
Auto-IDセミナーで講演したEPC Globalのディッキー・ルーレイ(Dicki Lulay)代表は、RFIDを企業が採用するハードルとして、次の点を挙げた。
1 チップやシステムのコスト
2 既存のシステムとどう統合できるか
3 自社のサプライチェーンに導入して、どのような価値をもたらすことができるのかという具体的な提案
この中でも最も問題になりそうなのは、システムのコスト――特にRFIDの価格だろう。現状では数十円、ものによっては100円を超えると言われているが、これが数円レベルにまで下がってこなければ普及は覚束ない。
経産省は「響(ひびき)プロジェクト」という名称で、RFIDの標準化と低価格化を支援する構想を進めている。RFIDの生産技術を研究し、大量生産の方法を見定めようというものだ。前出の経産省・新原課長は「RFIDは日本製が数十円から数百円もする。これを3〜5円に下げたい。多く買われなければ安くならないが、安くならないと多く買われない。ニワトリとタマゴのようなものだが、何とかこの壁を突破したい」と述べた。
いずれにせよ、RFIDは技術の標準化というファーストステージは完了したと言っていい。次はいよいよ、社会への展開というセカンドステージへと進むことになる。価格の「ニワトリとタマゴ」さえ突破すれば、実用化は加速度的に進んでいくだろう。
(説明)
RFIDは無線ICタグとも呼ばれ、超小型のICチップと無線アンテナを組み合わせたものだ。将来のユビキタス社会実現の鍵となる存在として注目されているが、サプライチェーンで現在のバーコードに取って代わる存在として大きな脚光を浴びつつある。バーコードに比べ、数メートルの距離からでも無線リーダーでデータを読み取ることができるため、コンテナや箱に入った多くの商品の情報をまとめて読み取ることができる。またデータ量が多くなり、商品1個1個にユニークな識別子をつけることも可能だ。徹底的な商品管理ができるようになり、おまけに不良品の検出や、米国などで深刻化している社内窃盗の防止などにも役立つとあってメーカーや流通業界からの注目度はきわめて高い。
RFIDの実用化には、識別コードの標準化などをグローバルに行う必要がある。これまで標準化団体はAuto-IDセンターとユビキタスIDセンターに二分され、その去就が注目を集めていた。