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佐々木俊尚 Toshinao Sasaki
まずFTTHの引き込みは物理的にどのように行われるのか。その基礎知識を知っておこう。引き込みの仕組みは、3つのフェーズに分けて考えるとわかりやすい。
(1)電柱からMDF(主配線盤)への光ファイバーの引き込み
これが問題になるケースはあまり多くない。都心や臨海の埋め立て地などでは周辺の電話線がすべて地中に埋められており、電柱から光ファイバーが引き込めない場所もある。しかしこうした地域はほとんどの場合、NTTがマンション内部にまで光ファイバーを敷設している。NTT以外の通信キャリアを利用する場合でも、ダークファイバー(芯線貸し)を使ってFTTHを利用できる。
(2)MDFへのメディアコンバータとハブの設置
マンションの建物内に引き込まれた光ファイバーは、メディアコンバータで電気信号に変換され、ハブを経由して各戸にイーサネットで接続される。このメディアコンバータとハブをどこに設置すればいいのだろうか?
この大きさの2つの機器がMDFに収容可能なら、問題は何もない。MDF(Main Distributing Frame、主配線盤)というのはユーザー宅からの電話回線をまとめ、電話交換機に接続するための集線装置のことだ。通常、マンションの1階の壁などにボックス形式で設置してあることが多い。ボックス内には電源も用意されており、電話線と一緒に各戸にイーサネットを引き込むのにも都合がよい。大規模な工事も不要で、usenの場合、マンション側が負担しなければいけない費用は機器の電気代(月額約1000円)だけだ。
ちなみにusenが使っている標準的な機器の場合、メディアコンバータが縦120mm×横170mm×厚さ12.5mm、ハブが縦341mm×横231mm×厚さ44mmの大きさになる。
ところが中には、MDFが設置されていない集合住宅もある。古いマンションや賃貸アパートなどに多いケースだ。この場合はメディコンなどを収納するためのボックスを新たに設置しなければいけない。電源も用意しなければならず、工事の規模は大きくなる。大家さんが「壁に穴を開けるのはちょっと……」と顔をしかめる――という可能性も出てくるわけだ。
しかしこの工事が不可能でも、まだ道はある。それが室内に直接光ファイバーを持ってくる「直収」と呼ばれる方式だ。電柱からベランダに光ファイバーを渡し、エアコン用パイプ穴を通じて室内に引き込む。通信キャリアによって基準は異なるが、通常3〜4階までならこの方式が可能だ。工事も簡単で、usenの場合は「サービスを提供している集合住宅のうち、2割程度が直収タイプになっている」(鈴木丈一郎・広報担当ゼネラルマネジャー)という。
(3)ハブから各戸へのイーサネットケーブルの引き込み
主配線盤から電話線に沿って各戸にイーサネットのケーブルを引き込む。電話線が通っている配管さえあれば問題はない。
ところが中には、細い配管を使っているために空きスペースがなく、ケーブルを通せないケースもある。この場合はVDSLを利用する方法も可能だ。ただVDSLは機器などのコストが小さくなく、たとえばusenでは「総世帯数が30戸以上、もしくは契約確定世帯が10契約以上」というのが導入の条件となっている。
イーサは通せない、VDSLもダメ――そうなると、残るはAでも書いたように直収の方法しかない。
さて、では実際にFTTHを利用するにはどうすればいいのだろうか。「本当に引けるのだろうか?」と悩んでいても始まらない。何よりもまず、FTTHキャリアにサービスを申し込むところから話は始まる。提供エリア外だったり、あるいは何らかの地域の特殊事情でFTTH導入が難しければ、この時点で判明する。キャリアが申し込みを受け付けてくれれば、後は基本的にひたすら待つだけだ。家主などへの交渉は、キャリア側が勝手に進めてくれるからだ。
たとえばusenの場合、申し込みを受けると管理会社や管理組合、家主など建物の管理権限を持っている人を探すところから仕事が始まる。以前はこの情報を得るのにひと苦労したというが、ここ数年のリサーチの蓄積の結果、エリア内であればほとんどのマンションの権限者情報がすでにデータベース化されてしまっているという。驚くべき話である。ちなみに「管理組合などへの交渉で、申込者の名前を明かすことはありません」(usenブロードバンドマーケティング部・朽網素子さん)という。
同社がサービスを始めた2000年当時は、まだITのリテラシーは低かった。しかしこの数年の間にブロードバンドの普及が進み、状況は変わりつつある。家主の理解度は以前よりはずっと高まっているはずだ。
家主に話が通れば、次はキャリア側の現地調査に入る。この段階で、先に挙げたようなハブの設置場所や配管の状態を調べるわけだ。ここで大きな問題がなく、導入可能となると、次は理事会や総会でFTTHのプレゼンテーションを行うという段取りになる。このあたりも、通信キャリア各社のノウハウの見せどころということになるのだろう。usenでは営業マンがそれぞれ異なるプレゼンキットを作り、さまざまなテクニックを駆使して説得を行っている。たとえば比較的年齢層が若いマンションでは固定グローバルIPやオンラインゲームなどのメリットを語り、またファミリー層の多いマンションでは子供向けのアニメのコンテンツやIP電話を説明し――といったように。お年寄り向けには「そもそもブロードバンドって?」というパンフレットも作成している。
プレゼンテーションが成功し、導入の決議まで持ち込めれば後は簡単だ。確認書、覚書などの書類にサインをしてもらい、工事を進めるということになる。この間にかかる日数は、カ月。その大半は理事会、総会を開いてもらうまでにかかる時間だから、管理組合側の対応が早ければ、日数はもっと短縮される。
現状では工事方法にしろ管理組合への“説得工作”にしろ、膨大な経験とノウハウが蓄積されており、障害が生じるケースは非常に少なくなってきているという。とはいえ、老朽化し、分譲と賃貸が混在したマンションなどでは管理組合の所在などがはっきりしないケースも少なくない。管理組合の了承を得られず、しかも直収ができない中高層マンションでは今後も問題は残っていくだろう。