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佐々木俊尚 Toshinao Sasaki


 政府は5月15日、e-Japan戦略の第2ステージとなる全面改訂版「IT基本戦略U」案を発表した。今後、パブリックコメント手続きにより同案に対する国民の意見を広く募集し、6月下旬に政府方針として正式決定することになる。
 政府は2001年にe-Japan戦略をスタートさせ、主にITのインフラ整備を中心にさまざまな施策を進めてきた。「5年以内に3000万世帯への高速インターネット接続、1000万世帯に超高速インターネット接続を実現させる」「5年以内に世界最先端のIT国家を実現する」などとした“公約”はあまりにも有名だ。当時は「夢物語のような目標」と現実味のなさが批判もされたが、その後の2年間でブロードバンドは爆発的に普及。この公約には追いつかなかったものの、1000万世帯がADSLなどでブロードバンドに加入しており、現実に世界最先端のインフラを実現させてしまった。
 今回のIT基本戦略Uは、インフラ整備中心だった基本戦略からさらに一歩踏みだし、ITのコンテンツ面での普及を進めることが最大の眼目となっている。「IT利活用により、『元気・安心・感動・便利』社会を目指す」というスローガンはかなり恥ずかしい感じもするが、利用面の重視という方向性は間違ってはいないだろう。
 その内容は多岐に渡っている。分野を医療・食・生活・中小企業金融・知・就労労働・行政サービスという7ジャンルに分け、次のような取り組みを打ち出している。
 (1)医療 電子認証のインフラを作り、電子化したカルテをネット経由で他の病院などに転送できるようにする。これによって、たとえばかかりつけのホームドクターが、患者の他の病院での検査結果などを参照できるようになる。また健康保険の診療報酬業務をオンライン化し、合理化する。
 (2)食 国産牛にIDをつけ、狂牛病などが発生したときにどこでその牛肉が生産されたがインターネットで確認できるようにする。他の食品についても同様の追跡システムを実現する。また食品流通の世界に電子商取引を実現させる。
 (3)生活 お年寄りの家に安否確認やビデオ会話が可能なシステムを普及させる。ドアの施錠と連動した台所の消火確認や、ネットで注文した商品のITロッカーでの受け取り、犯罪・災害時の緊急通報システムの実現なども進める。
 (4)中小企業金融 信用保証のシステムのオンライン化や電子手形サービス、売掛金のエスクローサービスなどの実現で、中小企業が融資を受けやすい環境を作る。
 (5)知 インターネット経由での双方向遠隔授業を普及させる。またコンテンツの競争力を強化するため、クリエイターやプロデューサーを輩出させる教育環境を充実。デジタルコンテンツの著作権システムも整備する。
 (6)就労・労働 電子的な手段で求人・求職情報を入手できるようにする。テレワーカー(ITを週に8時間以上活用し、時間や場所に制約されない働き方をする人)の制度の環境整備を行い、テレワーカーが就業人口の2割になることを目指す。
 (7)行政サービス 24時間365日ノンストップのワンストップ行政サービスを実現する。行政の効率化を進め、予算を減らしてサービスを向上させる。
 並べてみると分かるのは、実現の可能性がきわめて具体的かつ詳細である分野と、そうではない分野がくっきりと分かれてしまってることだ。たとえば医療や食、中小企業金融、行政サービスといった分野では、これから進めるべき政府の仕事はきわめて明確に述べられており、その内容も現実的で着実だ。
 しかしその一方で、知や就労・労働などの分野はその理念は立派ではあるものの、あまりにも理念が先行していて現実味は乏しいと言わざるを得ない。たとえば知の分野ではクリエイターを輩出させるための教育環境に言及されているが、政府が音頭を取ったからといって優秀なクリエイターが続々と生まれてくるものなのだろうか。またコンテンツの著作権問題に関しても、日本の著作権の枠組みの複雑さと、インターネットコンテンツへの転用の難しさは以前から指摘されてきている。政府が率先して施策を進める以前に、テレビや出版などの業界内でまず決着すべき問題だろう。
 就労・労働分野での「テレワーカー2割実現」という目標もそうだ。在宅勤務に関しては、もう10年以上前から促進が進められてきている。それが普及しないのはITの普及が遅れているためではなく、社会がそうした労働形態をどう受け止めるかという枠組みの問題だろう。
 ファーストステージのインフラ整備と比べ、IT戦略のセカンドステージはITの利用面を全面に打ち出している。しかしこのレイヤーへと進んでくると、政府の仕事はますます難しくなってくる。政府内各官房IT対策室の関啓一郎・内閣参事官も本誌6月号のインタビューで、「われわれは今まで以上に難しいことにチャレンジしなくてはならなくなってきている。今後はより、民間に努力していただくことが必要になる」と話していた。今後は民間の努力を、政府がどう支え、そしてどの程度にまで成果を出していけるかという難しい局面に入ってきている。