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佐々木俊尚 Toshinao Sasaki



『監視社会』
電子ネットワークの出現で、権力がどう編成されなおすのか。その本質を社会学的観点から描いている。
著者:デイヴィッド・ライアン
訳者:河村一郎
発行:青土社

 監視社会という言葉を聞くと、たいていの人はジョージ・オーウェルの小説『1984年』を思い起こす。ビッグブラザーと呼ばれる独裁者が国民全員の一挙手一投足までをも監視し、抑圧するという設定だ。だが「政府―市民」という二元的な構図はあまりにも古く、ネットによって社会のパラダイムがひっくり返ってしまったこの時代には通用できない。なぜ企業がマーケティングと称してスパイウェアを使い、市民を監視して個人データを集めようとするのか。生身の身体の存在感が薄くなり、個人データがネット上で一人歩きしはじめているのをどう受け止めればいいのか。そんな疑問に、『1984年』モデルは答えてくれないからだ。
カナダ・クイーンズ大で社会学の教鞭を執るデヴィッド・ライアン教授が書いたこの本は、そうした疑問への回答の手がかりを与えてくれる。それによると、監視とは政府が市民を抑圧するためだけに存在するのではなく、IT社会の不可欠な要素だというのだ。社会のIT化は必然的に監視社会化をもたらし、そして監視社会化は人間のコミュニケーションに大きな影響を与える。監視はある種のコードであり、社会のシステムに組み込まれたルーティンでもある。
 IT社会では、生身の身体のかわりに、抽象化されたコードによって個人の認証が行われていくという特徴を持つ。そうした社会の中では、データがさまざまな形で収集され、流通していく――つまり“監視”されていくことになる。そしてそれにはメリットもある。ひとりの人間の情報が集積され、一括処理されることで、社会生活をより便利にすることも可能だからだ。
 アドウェアなどというものがなぜ流行し、オフィシャルなマーケティングツールとして大手を振って存在することができるのか。「監視社会反対!」という古典的な批判だけでは理解しえないIT社会の本質を、この本は明快に示してくれる。


CounterExploitation
オンラインプライバシーの活動家である大学生2人が運営しているという。これほどの規模のスパイウェアデータベースは、他に類を見ない。
http://www.cexx.org

 CounterExploitation(搾取的なカネ儲けへの抗議)と名づけられたこのサイトは、スパムやスパイウェア、バナー広告、テレマーケティングなどを槍玉に挙げ、その対処法を徹底的に調べ尽くしている。
 その中でも「アドウェア、スパイウェア、その他の迷惑な犯罪的ソフトの数々――それらをどう取り除くか」という長い題名がつけられたページは、現在出回っているスパイウェアの大半を網羅した詳細なリストを掲載していることで有名だ。アドウェアやトロイの木馬、ホームページ・ハイジャッカーなどのジャンルに分けて、数百ものスパイウェアを掲載。それぞれについて侵入経路や除去方法を事細かに記している。データベースとしても一級品だ。
 運営者は、アドウェアを「ドラッグディーラーウェア(Drug Dealer Ware)」と呼んでいる。麻薬の売人は最初、客に無料でコカインやヘロインを試させる。そして客が麻薬中毒に陥ったとみると、いきなり値段をつり上げて売りつけるようになる。最初は気軽に麻薬を楽しんでいた客も、その時にはもう逃れられなくなっている。高いカネを払って、売人から麻薬を買い続けるしかない。
 アドウェアも、最初は無償のフリーウェアと同じように見える。だがユーザーがダウンロードして使い始め、しばらくしてから、そのソフトが自分の個人情報を垂れ流していることに気づく。だがその時にはもう遅い。すっかり指に馴染んでしまって手放せなくなっていたり、あるいはそのソフトでしか使えない独自のファイル形式で多くのデータを保存してしまっていたり――。なるほど、確かに麻薬の売り方に似ていないこともない。


『SPMAの撃退 Sendmail,Procmailの設定とメールフィルタリング』
スパムの排除に商店をあてた電子メールシステムの導入、運用を行うための実用的なガイドブック。SendmailやProcmail、Majordomoなど一般的なメールシステムを使ったスパム対策がまとめられている。

著者:ジェフ・モリガン
訳者:宇夫陽次朗、藤田充典
発行:ピアソン・エデュケーション

 スパムの具体的な対処法について詳しく書いた本は、意外に少ない。この『SPAMの撃退』は、徹底的に実用性を追求したアンチスパムガイドブックだ。その内容は、sendmailとめー利フィルタリングシステムのprocmail、そしてメーリングリストでのスパムの防御方法の3つに分けられている。その中でも最もスペースを大きく割かれているのは、sendmailの設定方法だ。入手方法や一般的な設定ファイルの構築方法からはじまって、スパム防御のために中継を停止する設定の仕方などが詳しく書かれている。採り上げたソフトの入手方法やコンパイル、インストールの手順もわかりやすく説明されており、初心者にも理解しやすいだろう。
 本の冒頭にはスパムの歴史や分類、アンチスパムがこれまでたどってきた経緯などが書かれているが、この部分が実は非常に面白い。1998年に米連邦取引委員会(FTC)が発表したスパムの分類表「Dirty Dozen Spam Scams(12の汚いスパム詐欺)」。Get Something From Scams(参加費を払わされて、あなた方の人を騙して勧誘するまで約束された商品は手に入らない)、Investment Opportunity(『うますぎて本当とは思えない』ことが保証できる驚くべき率の見返りが約束される)、Vacation Prize Promotions(標準以下の宿泊施設にアップグレードするために、結局多額の手数料を払うことが判明する)。スパムが詐欺犯罪のデパートであることが、この分類表を読むとよく分かる。


Spamdemic Map
メールアドレスがスパム業者の間でどうやりとりされているのか、その全貌がわかる地図。作成者のサイトでは、アンチスパムの商品もオンライン販売している。「Kill Spam Before It Kills The Internet(スパムがインターネットを殺してしまう前に、スパムを殺せ)」なんていうTシャツがあったりする。
http://www.cluelessmailers.org/

 スパムというのは、洪水のようなものだ。最初は堤防に小さな穴が開き、川の水が少しずつ漏れだしてくる。やがて奔流となり、最後は堤防が決壊してすべてが押し流される。スパムも、最初はほんのわずかな数が送られてくるだけだ。だがその量は徐々に増え、送ってくるスパム業者もどんどん増加していく。やがてはメールボックスを溢れさせ、他のメールが埋没するまでになる。そんな怪しげなところにメールアドレスを教えた記憶はないのに、なぜ自分のメールアドレスが流出してしまったのだろう? そして次から次へと新手のスパム業者が自分のアドレスを入手しているのはいったい、どういうわけなんだ? 彼らはお互いにアドレスを教えあっているのか?
 そんな疑問に答えるのが、このSpamdemic Mapという途方もない労作だ。メールアドレスがどのようにしてスパム業者の間で流通し、販売されているかを追跡し、そしてその全体像をビジュアル化したものだ。フルサイズバージョンはGIFファイルで767KB。サイズは4440×2903ピクセルもある。星の数ほどのスパム業者が図には散りばめられているが、作成したアンチスパム活動家のボブ・ウエスト氏は、ウェブサイトでこう書いている。「ここにある業者のほとんどが、わたしのメールアドレス1つか2つは持っているようだった。そしてその多くが、私あてにスパムを送ってきている。もちろん、私はこいつらにメールアドレスを渡した記憶はないし、スパムを送っていいと認めたこともない」


The Spamhaus Project
アンチスパムのサイトとしては、最も有名なもののひとつ。「Spamhausはスパム業者やスパムをサポートしている悪徳企業を追跡する。そしてプロバイダーや捜査当局と協力し、彼らの正体を暴いてインターネットから排除していく」と宣言している。
http://www.spamhaus.org/

 スパムハウス(Spamhaus)というのは、スパム業者のアカウントを停止せず、放置したまましたい放題させているホスティング企業やプロバイダーのことだ。いや、そうした消極的企業だけではない。それだけでなく、中にはスパム配信をビジネスにしてしまっている自称プロバイダーもある。プロバイダーを名乗って通信キャリアと契約し、バックボーンを確保したうえでスパム業者から代金を受け取り、世界中にスパムを配信するインフラを提供する。積極的に悪に荷担する業者もいるのだ。スパムが横行してしまう要因のひとつには、インフラを提供するこうした業者の存在がある。
 その名前を冠したサイト「The Spamhaus Project」は、アンチスパムのポータルともいえる存在だ。2つのデータベースを提供している。SBL(The Spamhaus Block List)は、スパムの発信元と見られているIPアドレスのデータベース。メールサーバーの管理者は、このデータベースを使ってスパムをシャットアウトすることができる。データベースはIPアドレスやプロバイダー名から検索することもできる。
 もうひとつのデータベースが、ROKSO(Register Of Known Spam Operations)。過去に報告されているスパム業者を集めた巨大な電話帳である。スパムの文面や使っているドメイン名、住所、会社名、送信者名に加え、スパムが最初に記録された日時、最近記録された日時、使っている別名、送信元のIPアドレスなどありとあらゆる情報が掲載されている。


Cydoor
アドウェア業界大手。オフィスは米ニューヨークとワシントン、それにイスラエルのテルアビブにある。ポップアップやバナー、電子メール広告などを提供している。
http://www.cydoor.com/

 トップページ上に文字が浮かび上がる。「5500万人のユーザー」「カミソリのようにシャープなターゲッティング」。その横には、やり手の若いビジネスパーソンたちが、仲良くノートパソコンに見入っている。赤を基調にしたデザインは、あくまでもクールでおしゃれ。そんなトップページを持つCydoorは、一見とても真っ当なネット系のベンチャー企業に見える。だがこの会社こそが、悪名高いアドウェア界の王者なのだ。
 パートナーは、有名どころばかり。何しろインターネットブラウザのOperaや翻訳ソフトのBabylon、ダウンローダのFlashGetなどと提携しているのだ。これらのソフトをインストールすると、同時にCydoorのソフトも導入されるようになっている。その動作はかなり凶悪で、いったんインストールされると大量のポップアップ広告をユーザーのパソコンの画面に表示してくれる。もっとも、サイトに掲示されているプライバシーポリシーには、こんなふうに書いてある。「入力フォームを使い、性別や年齢、興味、配偶者の有無、給与、居住地、学歴などの統計的なデータをたずねることがあります。名前や住所、電話番号などの個人データは収集していません。これらのデータを収集するのは、広告のターゲットを見定めるためです」。これが本当ならさほど問題はないように感じるが、こうしたデータが流出しないという保証はどこまでされているのだろうか。あるいはもし仮に、同社が第三者に売却されたり、清算されたりした場合にはどうなるのだろうか。


『マイノリティ・リポート』

2002年米国映画
監督:スティーブン・スピルバーグ
出演:トム・クルーズ、コリン・ファレル、サマンサ・モートン
配給:20世紀フォックス
http://www.foxjapan.com/movies/minority/

 アドウェアが進化し続けるとどうなるか。フィリップ・K・ディックの原作をスピルバーグが撮ったこの映画は、その恐るべき世界を細部にまでこだわった現実感とともに見せつけてくれる。トム・クルーズ扮する主人公のジョン・アンダートンが警察当局から逃れ、逃亡を続けるシーン。地下鉄の駅コンコースにさしかかると、バイオメトリクスを使った網膜スキャニングシステムが主人公の目を識別し、壁面の動画広告が突然動きだす。そしてこう呼びかけるのだ。「アンダートンさん、ギネスビールはいかが?」「アンダートンさん、レクサスに乗ってみませんか?」
 人々が買い物をして、レストランで食事をし、美術館でアートを鑑賞し、さまざまな場所に旅行に出かける。そうした個人データはネット経由でことごとく収集され、すべてサーバーに蓄積されていく。そして人々の立ち回り先をどこまでも追いかけ、ターゲットされた広告を目の前に差し出し続ける。これはアドウェアとコンテンツターゲット広告を組み合わせたモデルにそっくりではないか。つまりインターネットブラウザの履歴を収集してネット経由で広告主のサーバに送信し、ユーザーの好みに合わせたポップアップ広告を画面に繰り返し表示するという、うんざりするようなアレだ。
 マイノリティ・リポートでリアルな未来像を見せつけられると気づくが、何でも先回りされて「ほら、おまえのほしいものはこれだろ?」と目の前にぶら下げられるというのは、やっぱり気持ちのいいものではない。