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佐々木俊尚 Toshinao Sasaki


 検索エンジンマーケティング(Search Engine Marketing=SEM)が隆盛をきわめている。SEMとは、検索エンジン最適化(Search Engine Optimization)や、検索エンジンに広告を持ち込んだ広告型検索エンジン(Pay Per Click=PPC)などをまとめて呼んだ総称だ。気づいてみれば、インターネットビジネス業界は、どこもかしこも検索エンジンにまつわる話ばかり。いったいなぜ、こんなことになってしまったのだろう?
 その背景にあるのは、せんじ詰めれば「インターネットでどうやって客を集めるか」という難問だ。

ネット広告に振り回されたこの8年

 歴史を振り返ってみよう。1990年代後半以降、インターネットが社会に普及していく中で、「これからはネットでモノを売る時代」というキャッチフレーズに動かされ、大手メーカーから中小、個人事業者まで熱に浮かされたようにEコマースへと突き進んだ。そしてこの市場を狙ったネット広告市場も急成長し、ウェブサイトのバナー広告も全盛期を迎えた。
 ネット広告市場が大きく見誤ってしまったのが、「クリック保証型」というモデルを蔓延させてしまったことだ。当初、ネット広告は露出する期間に応じて料金を支払うという原始的な方式だった。しかし大手広告代理店系など数多くの企業が次々と参入してくる中で、市場はすぐに過当競争の時代を迎える。そこで、広告効果がわかりにくい手法をクライアント側に明確にするために、指定したクリック数に達するまで広告の露出を保証するというクリック保証型広告が生まれた。このビジネスは、日本でも1998年以降、バリュークリックジャパンなど数多くの新興ネット広告企業が手がけるようになった。
 しかしユーザーがクリックする率が低下したらどうなる? 当然、媒体側は無理をしてたくさんの広告を露出させなくてはならなくなる。リスクは大きかった。まだ人々の間でインターネットが物珍しかった時代はともかく、ネットがどんどん日用品化していき、当たり前の存在になってくると、バナー広告をクリックする人は少なくなっていく。おまけにウェブサイト自体の数が等比級数的に増えていけば、当然のようにユーザーひとりあたりの広告数はどんどん増えていくことになる。クリック数が減っていくのは当然だ。
 あわてたネット広告業界は、今度はアフィリエイトと呼ばれる成果報酬型モデルを打ち出す。ユーザーが広告をクリックし、実際に資料請求や買い物をした成果に応じて広告料金を払う、という仕組みだ。しかし誰が考えてもわかる通り、ネット広告がインフレを起こしている中で、こんなリスキーなビジネスがいつまでも続くはずがない。業界は最近は「インターネット広告もテレビや雑誌広告と同じように、イメージやブランドが認知されることが最重要」と言い出し、「インプレッション」という言葉を使い始めている。オールドメディアと同じ広告モデルに回帰しよう、ということなのだろう。
 ブロードバンドの登場も、このインプレッションモデルに拍車をかけている。「これからはリッチコンテンツを使った広告が主流になる」「ストリーミングで、テレビコマーシャルと同じ映像を」というわけだ。確かに、ブロードバンドは広告の表現能力が飛躍的に高めることができ、ネット広告のあり方を根底から変える可能性を秘めているのは間違いないだろう。
 しかしネット広告業界の有為転変に翻弄され続けた広告主側から見ると、「もういいかんげんにしてくれよ」という気持ちもあるようだ。あるオンラインショッピングサイトを運営している会社社長が打ち明ける。
 「クリック保証型を進められ、2万クリックで依頼してみたところ、実際に購入までしてくれた人はわずか数人。百万円以上を投入したが、まったく効果はなかった」

検索エンジンがビジネスになると気づいたとき

 そんなところに彗星のように登場してきたのが、検索エンジンを広告として見る新たなモデル――つまりSEMだった。
 検索エンジンこそすべて、という考え方は燎原の火のように広がりつつある。それはつまり、「ウェブを見る」というユーザーの行動は、検索エンジンを中心に行われるようになってしまっているということだ。たとえば何かの目的をもってInternet Explorerを開くとき、目標のサイトにどうやってたどり着くかを考えてみればいい。以前だったら、たいていのユーザーはこんなスタイルだった。@ブラウザのアドレス欄に直接URLを入力するA「お気に入り」に登録しておいて開くBいつも使っているサイトのリンク集からたどる。
 しかし最近、アドレス欄に文字列を入力する人は確実に減っているという。たとえば昨年7月、ネットレイティングスが主要検索エンジンで使われた検索キーワードのランキングを調べたことがあった。その結果は、驚くべきものだった。「地図」や「アダルト」など予想された検索キーワードと並んで、「yahoo」「フジテレビ」「NHK」など特定のウェブサイトを現すキーワードが上位を占めていたのだ。こうしたキーワードを入力した人はおそらく、Yahoo!やNHK、フジテレビなどのサイトに移動するために検索エンジンを利用したということなのだろう。ネットレイティングスの同社の萩原雅之社長は「従来型のユーザーは、情報を探すために検索エンジンを利用している。サイトを探すのではなく、どこかのサイトの奥の方にあるピンポイントの情報を求めているわけだ。しかし若い女性が主体の最近のユーザーは、サイトの場所を探すために検索エンジンを利用する人が圧倒的だ」と解説する。
 となると、答は見えてくる。ユーザーを自社のサイトへと誘導してくれるのは、決してバナー広告なんかではなく、検索エンジンなのである。そして検索エンジンのランキング上位に入ることこそが、数多くの顧客を獲得する最強の手だてなのだ。

「最適化」と「広告型検索」というふたつの潮流

 検索エンジンを顧客誘導に利用していくというその潮流は、大きくふたつに分かれる。
 そのひとつが、検索エンジン最適化(Search Engine Optimization)、SEOだ。顧客のウェブサイトを改善し、検索エンジンのランキング上位に入るようにするという一種独特のビジネスである。SEOの登場により、それまで単なるツールとしてしか見られていなかった検索エンジンは、ビジネスの大きな舞台として生まれ変わることになった。検索エンジンを分析し、対策を検討することが、お金儲けの手段になったのだ。
 そしてもうひとつが、99年に入って突如出現したPPC――つまり、Overtureのビジネスモデルだった。Goto.comという社名でスタートした同社は、広告料金を取って検索結果の上位ランキングを販売するという新しいモデルを投入し、1999年後半以降に急成長を遂げていく。このモデルは「ペイパークリック(PPC)」「スポンサードサーチ」などさまざまな言葉で呼ばれるが、要するに検索エンジンを利用する際に入力されるキーワードを販売し、そのキーワードが検索された際に広告主のサイトが優先的に表示されるようにしたものだ。Overtureを追ってGoogleもアドワーズという名称で同様のビジネスをスタートさせており、PPC業界はこの2社が覇権を争う構図になっている。


SEOテクニックの歴史

 SEOという言葉が日本に最初に登場したのは、昨年の春ごろだろうか。そう考えると日本ではまだ「立ち上がったばかりのビジネス」というイメージが強いが、実は米国での歴史は古い。Yahoo!が米国でサービスを開始した1995年には、すでに先駆的なSEOがビジネスを開始していたという。
 もっとも当時のSEOは、サイトのタイトルを記号や数字にすることで、アルファベットで始まるサイトよりもディレクトリの上位に入れる、といった原始的なものだったようだ。
 本格的なSEO時代の幕開けとなったのは、1997年ごろとされる。この年、SEOの先駆者たちによって検索エンジンのアルゴリズムが本格的に分析され、「アルゴリズム・クラッカー」と呼ばれた彼らは検索結果ランキングのテクノロジーについてのさまざまな手がかりを得るようになる。

悪質なスパムテクニックの氾濫

 だがそれは同時に、「検索エンジンスパム」と呼ばれる悪質なSEO手法が氾濫する呼び水ともなった。たとえば人気サイトからHTMLコードをそのまま頂戴し、まったく同じサイトを作ってしまう「ページジャック」や、Metaタグに大量にキーワードを埋め込む「Metaタグスパム」、テキスト色と背景色を同じにしたHTMLにキーワードを大量に埋め込んでしまう「インビジブル・キーフレーズ・スタッフィング」といった手法だ。こうした怪しげなテクニックが横行したせいで、SEOは「魔術師」的な扱いを受けるようにもなった。なんだかわからない奇妙なテクニックを駆使して検索エンジンを操る連中、というイメージだ。
 だがそうこうするうち、検索エンジンの側もSEO対策を施すようになる。こうしたスパム的なテクニックでは、検索結果ランキングの上位には入れなくなってくるわけだ。そして両者の技術合戦はイタチゴッコへとなだれ込んでいく。2000年に入るとGoogleの全盛期が訪れ、SEOの仕事は対Google攻略に集中していくようになる。しかし技術力の高いGoogleは、大半の検索エンジンスパムを無効にしてしまい、これを境に黒魔術的なSEOは姿を消していくことになる。Overtureに代表されるPPCの登場も、スパム撲滅に拍車をかける結果となった。

SEOの目標は「美しく読みやすいウェブ」へ

 2003年を迎えたいま、SEOの目的は、顧客をひきつけ、見やすく美しいウェブサイトを作ることにあるといっても過言ではない。
 興味深いのは、「良いウェブサイト」に対するイメージが変化してきたことだ。かつてはMacromedia Flashを多用し、ビジュアル要素のにぎやかなサイトがユーザーを引きつけると思われていた時代もあった。しかし検索エンジンが中心の世界では、「いかにして検索エンジンから好かれるか」がサイトの最適化にとっての最大のテーマとなる。
 検索エンジンがサイト収集用にネットに放つ「ロボット」「クローラー」などと呼ばれるウェブ収集プログラムは、実は各サイトのテキストデータしか読んでいない。つまりテキスト中心のシンプルな構造のウェブこそが、もっとも検索エンジンに好かれるサイトとなる可能性が高いということになるのだ。リッチコンテンツ中心のブロードバンド時代に逆行する「先祖返り」とでも言うべきか、何とも興味深い話ではないだろうか。


 SEOとPPC――このふたつのサービスの費用対効果は、どの程度期待できるのだろう。そしてそれは、旧来のバナー広告と比べて本当に有効なのだろうか?
 クリック保証のバナー広告は、いま考えれば確かにかなり寒々しいビジネスモデルではあった。
 バナー広告の料金は保証のない期間露出型で1カ月数十万円、クリック保証型だと1クリック100円〜数百円が相場だ。1万クリックで100万円から数百万円が必要になる。しかし、あるオンラインショッピングサイトの運営会社社長はこう批判する。
 「クリックの実数に比べると、購入してくれるユーザー数があまりにも低すぎる。バナー広告を掲載しているサイトの関係者が、広告収入の上乗せを狙って無意味にクリックを増やしているのではないかと疑っている」
 数百万円をバナー広告に投入したものの、実際に購入してくれた人が数人程度では確かに寂しすぎる。
 これに対し、オークション形式で検索結果ランキングを販売するオーバーチュアの「スポンサードサーチ」サービスは、1クリックの最低入札価格を35円と決めている。1万クリックなら35万円。またGoogleの同種のサービスである「アドワーズ」なら、最小クリック単価は7円だ。1万クリックで7万円なら、確かに安いように思える。
 しかしこれはあくまで「最低」「最小」でしかない。人気が高く、他社と競合しやすいキーワードの場合は、ずっと値段は高くなる。業界関係者によると、「たとえば消費者金融会社などに人気の高い『キャッシング』『融資』などのキーワードの相場は、ワンクリック800円程度と言われています。中にはワンクリック1200円というキーワードもあるそうです」という。このレベルとなると、1万クリックで1000万円を超えてしまうケースもあり得るわけだ。
 一方のSEO。ビジネスの市場が立ち上がったばかりで業者が乱立していることもあり、こちらはもっと料金が不明瞭だ。「1カ月50万円×6カ月」「1件最低100万円から」といった高めの料金設定から、「1サイトあたりのSEOレポート作成10万円+チューニング費用が1ページあたり5万円」「基本料金3万円+1ページごとに5000円」といった価格破壊的な値段まで、ばらつきは激しい。目標設定でも同様。「検索結果ランキング20位以内を保証。だめだったら料金は返します」といった成果報酬型から、「アクセス数を必ずアップさせます」といった抽象的な“ベストエフォート”型まで、さまざまなSEO企業がさまざまなキャッチフレーズを掲げている。
 フリーランスのSEOプロフェッショナルとして有名な住太陽氏は、こうした状況について懐疑的だ。
 「不明瞭な料金は改め、工賃ベースに変えていくべきでしょう。また目標設定でも、検索ランキングで20位以上を保証する、というのはたとえば複数のキーワードを使うようなケースなら簡単なことで、わざわざ保証とうたうようなレベルではない。こうした『まやかし』のような宣伝が蔓延しているために、SEOの信頼度が逆に低下してしまっている」
 米国と比べると、日本国内ではまだSEOのテクニックがさほど普及していない。「SEOの経験のない素人でも、ちょっと勉強すればすぐに検索結果ランキングを上げることができる。最近も、私の書いたSEOの入門書を読んだお年寄りから『本に書いてある通りにサイトを改造したら、Googleの上位3位に入ることができました』という手紙が届いた。日本のウェブサイトはまだその程度のレベルなんです」(住氏)

 では、スポンサードサーチやアドワーズのようなPPCとSEOはどう使い分ければいいのだろうか。
 注目したいのは、PPCは複数のキーワードに対応しやすいが、SEOはその逆だという点だ。たとえば「引っ越し」というキーワードを考えてみよう。日本語には「引越」「引越し」などいくつかの表記の揺れがある。しかし、この揺れのすべてをSEOに対応させるのは難しい。SEOのテクニック紹介の欄でも説明したように、複数のキーワードをHTMLに埋め込んでしまうと、それぞれのキーワードの重要度が相対的に下がってしまうからだ。
 一方、PPCなら、複数あるキーワードをすべて入札してしまえば済んでしまう。もっとも重要なキーワードだけをSEOに依頼し、そうではない単語はPPCで――という使い分けも可能になるわけだ。
 PPCとSEOは、決して「どちらか片方だけ」の対立するサービスではない。SEMの世界では、顧客に対してPPCの活用とSEOを組み込んだトータルサービスを提供するところも現れはじめている。