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佐々木俊尚 Toshinao Sasaki
泣く子も黙る社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)がついに違法サイトの最終殲滅作戦に乗り出した。しかしこのやり方、ちょっと問題がある。この団体は、著作権というものの持つ複雑さを本当に理解しているのだろうか?
JASRACの作戦は、こんな手法だ。
著作権料を支払っていないMIDIやMP3ファイルを発信しているウェブサイトを見つけ、スペースを提供しているプロバイダに対して「発信させないでほしい」と要請。昨年秋以降だけで、すでに100サイト余りが発信停止措置を取られているという。中にはホームページそのものを停止させられたり、すごいケースになるとプロバイダとの契約自体を強制的に解約されたユーザーもいるという。影響は少なくない。
ではなぜプロバイダが、やすやすとJASRACの要請に応じるようになったのだろうか。それはひとえに、昨年5月に施行されたプロバイダ責任法のためなのである(ひと口メモ参照)。JASRACが「どこそこのサイトは著作権侵害をしている!」と指摘すれば、プロバイダ側は訴えられたりする心配なしに、どんどんそのサイトの違法ファイルを削除できてしまうようになったのだ。
JASRACの危険な賭け
もちろん、こうした枠組みを批判しようというのではない。問題は、JASRACが「説明責任」(アカウンタビリティ)をほとんど一顧だにしていないように思われることだ。だって彼らは、事前にサイト運営者側に何の警告も連絡もせず、いきなりサイトを削除しても問題はない――と断言しているのである。本当にそれでいいのだろうか?
取材に応じたJASRAC送信部ネットワーク課の脇澤一弘氏に「自分が著作権を侵害していると認識していない人もいるでしょう? そうした人に対する最低限の説明責任は必要なのでは?」と聞いてみると、こんな答が返ってきた。
「現にその時点ですでに著作権侵害が行われているんです。仮に事前にその(著作権侵害をしている)サイトの方に説明して理解をしてもらったとしても、それに要した日数分だけ侵害が継続することになるんです。事前に権利者側から説明が行っていることは、停止の条件にはならない」という。著作権は日本の法律としては確立された権利だ。人を殺した犯罪者が、犯行後に「オレは刑法で殺人が禁止されているとは知らなかった」と言い張っても通用しない。だから「事前に警告は不要」と突っぱねるのは簡単だ。
でも著作権侵害は、殺人と同じだろうか?
著作権を単純化するな!
著作権には、「フェアユース(公正な使用)」という言葉がある。文化や技術の健全の発展のためには、著作物の公正な利用を認めるべきで、そのためには著作権をある程度は制限しなければいけない、という米国の考え方だ。
フェアユースとはちょっとずれているけれども、日本の著作権法も第一条の目的に「文化的所産の公的な利用に留意しつつ、著作権等の権利を守り、もって文化の発展に寄与する」と書かれている。公的な利用に留意、という言葉をよくかみしめたい。音楽だってソフトウェアだって、他人のコピーから新しいクリエイティビティは生まれる。ビートルズだって、古いロックンロールナンバーをコピーするのにいちいち多額の著作権料を要求されていたら、数々の名曲を産み出せただろうか?
殺意を持って人を殺すことはどんなときであろうと絶対許されないけれど、著作権はそうではない。絶対万能の権利ではないということなのだ。でもその発想がJASRACにあるかといえば、かなり心許ない。あるITアナリストが語る。
「絶対万能ではない著作権を錦の御旗として振りかざすのであれば、なぜそれが著作権侵害にあたり、公開を停止しなければいけないかをきちんと説明する責任がJASRACにはあるはずです。ガイドラインで事前説明を求められていないから、なんていう説明ではインターネットの世論は納得してくれないのではないでしょうか」
確かに、そもそもまだ制度がスタートしたばかりだというのに、「プロバイダ責任法ガイドライン等検討協議会」っていうところが定めただけの、法律でもないガイドラインを金科玉条にしてしまっているその硬直的な考え方は危険ではないか。
すでに停止・削除処分になってしまった約100の著作権侵害サイトについて、脇澤氏は「警告メールを一度も送っていないサイトについても停止要請した」と取材の中で明言した。「メールアドレスなどの連絡先がわからないサイトを含め、過去に警告のメールを送っていないところも、この制度を使って送信停止要請をしている。過去に警告をしていないからといって、この制度を使ってはいけないということではない」と強い口調で語った。もっとも、この点については取材後、なぜかJASRAC広報部を通じて「停止要請したサイトは、過去に警告メールを送ったところだけだった」と訂正をしてきた。この真偽は置いておくとしても、少なくとも「事前の警告は不要」というJASRACの考え方については訂正はないはずだ。
巨大な監視システムが見張っている
話を戻そう。
JASRACの実戦部隊がスタートさせた「せん滅作戦」には、もうひとつの翼がある。それが「J-MUSE」という強力な監視システムだ。JASRACはこのJ-MUSEに著作権支払いの受付の「J-TAKT」、作品データベース検索「J-WID」などを組み合わせ、「NETWORCHESTRA」という巨大な楽曲配信管理システムを構築している。
J-MUSEの配備は2000年からひそかに進められていたが、その全容が明らかになったのは最近のことだ。インターネット上に「クローラー」「ロボット」と呼ばれるプログラムを放ち、様々なウェブサイトの情報を収集してくる。普通の検索エンジンロボットがウェブの情報全般を集めてくるのに対し、このJ-MUSEのロボットは、拡張子が.mp3とか.midなど著作物にあたりそうなものだけを専門に集めてくる。集まってきた情報はデータベースに蓄積され、後は人力でそのファイルがJASRACの管理楽曲かどうかを確認していていくことになる。ロボットの射出は月単位で行われ、月に500万ファイルの収集能力を持っているという。
このシステムを使い、JASRACはこれまで約6000の著作権侵害サイトを突き止め、データベース化している。昨年来、停止処分になってしまった100サイトというのはこの6000サイトから抽出されたものだったという。
「6000サイトの停止要請を一気にプロバイダに送ると混乱の元なので、その要請の手続きをお互いに確認しましょうということで、100サイト程度の停止をプロバイダに要請した。特に悪質なサイトを選んだということではなく、できるだけ各プロバイダにまんべんなく確認していただけるように選んでいる」(脇澤氏)。つまり今後は、この6000サイトすべてについて停止要請が送られる可能性が高いということになるのだろう。
とはいえ、この強力なJ-MUSEも万能ではない。
まず第一に、P2P(ピア・トゥー・ピア)への対応の問題。特に最近、極めているWinny。2ちゃんねる発のこのP2Pソフトは、中央サーバーを介さないピュアP2Pだ。おまけにおおもとのファイルの送信者と最終的な受信者の間に入る中継地点では、ファイルは暗号化されていて中身がわからない。つまり中継地点に利用されているユーザーにとっては、自分のパソコンの中に何の音楽のファイルが保存されているのかまったくわからないということになる。もし警察やJASRACが受信者を突き止めることができたとしても、最初の発信者を割り出すのはとても難しい。
もうひとつのハードルは、J-MUSEの技術的弱点ではなく、法的な問題だ。JASRACが著作権侵害を指摘できるのは、日本語で構築されているか、もしくは日本のドメインを取っているサイトが条件となる。となると、.comなどの海外サーバを使い、英語で構築されているサイトには……今後、JASRACの包囲網が強まれば、こうした抜け穴を考えるサイトも現れる可能性は高い。
しかし脇澤氏は言う。「この分野は必ずおいかけっこが生じる。それはしかたないことだ」
JASRACでは過去、カラオケスナックとの熾烈な戦いに勝利を収めてきたという自信がある。カラオケ楽曲の著作権支払いがまったく行われず、野放し状態だったところから地道に著作権徴収作戦を推し進め、十数年かけて80%を超えるところにまで著作権管理のパーセンテージを引き上げた。「ネットの世界では分母が巨大な規模になり、果たして管理率といった数字を計算できるのかどうかわからない。しかしわれわれはカラオケのノウハウと実績を持っている。同じようにネット上でも管理を進めていく」
JASRACは獲物を追う豹のように、着実に著作権侵害サイトを少しずつ、少しずつ追い込んできた。その粘り強さと忍耐力は驚嘆に値する。カラオケと同じように、遠からずネット上の侵害サイトはいずれ残らず追いつめられていくことになるのだろう。