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佐々木俊尚 Toshinao Sasaki


 「捕まった男は自衛官だった父親と一緒に軍事関係のショップを経営していて、静岡県内のミリタリーマニアの間ではそれなりに名の知られた存在でした。前にも米軍の自動小銃に装着する銃剣をオークションに出品し、注目を集めたこともありました」
 東京都内に住むミリタリーマニアの男性(26)が、声を潜めて打ち明けた。
 「でも砲弾は炸薬(さくやく)を抜いて売りに出すのが常識なのに、あの男のやり方は素人同然でしたね」
 男というのは、静岡県警沼津署に火薬類取締法違反で逮捕された同県富士市伝法の板金工、小谷典久容疑者(32)。小谷容疑者は砲弾やてき弾などを陸上自衛隊東富士演習場でで拾い集め、インターネットオークションを通じて全国に販売していた。そして、その中に炸薬が入ったままの不発弾が混じっていたのだ。小谷容疑者が客に向けて発送した「てき弾」と呼ばれる砲弾が6月30日夜、静岡県裾野市のヤマト運輸新静岡主管支店で突然爆発。仕分け作業中だったアルバイトの男性(20)が目や足などにけがを負ったのだ。一帯は大騒ぎになり、現場には陸上自衛隊の不発弾処理班が出動した。
 さらに事故直後、小谷容疑者が他にも10個の段ボールを静岡県外に発送していたことが発覚し、県警が配送トラックを追って東名高速を急行。同県の中井パーキングエリアでトラックを停車させ、回収した。中の砲弾類には運良く火薬は含まれていなかったというが、パーキングエリアは売店が閉鎖され、従業員も避難。何ともものものしい騒ぎとなった。
 小谷容疑者とみられる人物が出品していた砲弾の写真は、いまもオークションのホームページに残されている。「1円〜!!使用済み・弾頭・他」とタイトルがつけられ、説明はこう書かれている。
 「使用済みの弾頭・他です。画像の物すべてです。画像で判断してください。1円ですので、ノークレームでお願い致します。使用済みで中身も空ですので、危険な物ではございません」
 ネットオークションというのは、出品者がスタート価格を決め、その品物をほしい人が価格を競りあい、期間内に最高価格を入札した人が落札し、購入する権利を得る。落札された後は、出品者と落札者が電子メールで直接やりとりし、銀行振り込みで送金し、その後宅配便で品物を発送する。
 くだんの砲弾のオークションのスタート価格はわずか1円だった。その金額であればすぐに落札できるという「希望落札価格」も3000円に設定されていたから、本当に安い品物だったのだ。小谷容疑者は「火薬が入っていてまさか爆発するとは思わなかった」と供述しているという。罪もないアルバイトの若者にけがを負わせ、地元の住民を恐怖に陥れ、高速道路を一時閉鎖させてしまった代償は、そのちっぽけな値段に比べるとあまりにも大きかったと言えるだろう。
 大騒ぎとなったのは、現場周辺だけではなかった。ネットオークション業界最大手で、今回の事件の舞台となったのではないかと見られているヤフーはあわてて出品禁止物の中に「弾丸(使用済みのものも含みます)」という項目を付け加えた。そして砲弾や弾丸などの出品物をホームページ上から削除したのだ。
 だがありとあらゆる物があふれ、非合法スレスレの品物や出所の怪しいモノが毎日のように売買されているインターネットオークションを完璧に管理するのは、不可能に近い。ヤフー広報担当は、
 「利用規約を守っていただくという合意のもとでオークションを使っていただいている。違反の出品物は削除し、悪質な場合は利用停止にするなど、管理は強化している」
 と話す。2001年からは非合法な物や盗品をチェックする「社内パトロールチーム」が、24時間体制で出品物を監視しているという。だが今回のように、爆発するとは思われなかったようなものまで、事前に規制するのは困難。ネットオークション運営会社社員が打ち明ける。
 「使用済みの弾丸や砲弾がダメだというのなら、実弾を加工して作ったキーホルダーなども禁止しなければいけなくなってしまう。あまりにもグレーゾーンが大きくて、ガイドラインにまとめるのは難しい」
 もっと恐ろしい話もある。この社員によると、
 「合法的なモデルガンを出品し、落札者にホンモノの拳銃の買い取りを持ちかけたり、あるいはダイエット食品の売買を装って国内では販売できない中国産の薬を売ったりするケースも過去に起きているようです。落札して契約が成立すると、後のやりとりは個人間で直接行われるため、運営会社側はどんな取引が行われているのか関知できないという仕組みをうまく悪用している。オークションは、特定の分野の品物に興味を持っている人を“一本釣り”するための道具にされている」
 という。驚くべき話である。実際、真正拳銃や偽ブランド品、児童ポルノなどが売買される事件がここ数年多発し、相次いで摘発されている。
 そして今回の事件に、「それみたことか」という表情を隠せないのが警察当局だ。捜査関係者は、
 「オークションは非合法な売買の温床。出品物を定期的にチェックするのもわれわれの仕事のひとつになっているほどだ」
 と話す。
 そもそも警察とネットオークション運営会社の間には昨年、古物営業法の改正をめぐって激しく対立した“遺恨”がある。インターネットの普及につれてオークションを舞台にした事件がここ数年多発するようになり、中でも盗品の売買は2000年1月から今年3月までの推計で計約6億3000万円にも上る(警察庁調べ)というのだ。この実態に業を煮やした警察庁は昨年初め、古物営業法を改正する方針を明らかにし、その中でネットオークション業者の届け出義務や、盗品と疑わしい出品物について警察に伝える義務などを盛り込んだ。
 これにかみついたのが、ヤフーなどのネットオークション業界だった。業界は「盗品の報告を行うのは事実上不可能」「規定があいまいで過剰な規制につながる」と猛反発。警察庁側が法案のたたき台を作成する段階で、「大手3社が法改正に納得している」とミスリードとも思える発言を重ね、経済産業省などの反対意見を抑え込んでいたことも火種となった。実際、ヤフー側は当時、法案の全文を知らないまま警察庁に協力的な姿勢を保つなど、警察当局にうまく利用されていた節もある。対立は、大手3社が警察庁に回答を求める文書を突きつける事態にまで発展した。
 法案は結局、警察庁の巧妙な政治力もあってほぼ原案通りのまま成立し、オークション会社側は押し切られた形となった。同法は今春に施行されている。
 だがオークションのあり方をめぐっては、「インターネットにあまりにも過剰な規制は持ち込むべきではない」「犯罪の温床を野放しにするのか」と議論は今も分かれたままで、警察とオークション業界の間に火種はまだくすぶっていると言える。今回の事件をきっかけに、インターネット規制論議がふたたび燃え上がるのは間違いないだろう。