BACK    TOP

佐々木俊尚 Toshinao Sasaki


 出会い系サイトをめぐる事件が急増している。気軽に見ず知らずの男とメールでやりとりし、実際に会い、その結果悲惨な事件に巻き込まれてしまったケースは後を絶たない。いったい何が彼女たちをネットの“魔界”に踏み込ませるのだろうか。

 瑞穂さん(37)は、私の前で淡々とその恐怖体験を語りはじめた。
 「わたしが待ち合わせ場所に着くと、男は自動車で待ってたんです。乗り込むと、そのままラブホテルに連れ込まれました」
 彼女は2年前に離婚し、ひとりで子供2人を育てている。ていねいな言葉づかいからは、大人の女性の落ち着きを感じさせた。
 彼女がその男と出会ったのは、ツーショットダイヤルと呼ばれる出会い系の電話サービスだった。電話番号を業者に登録すると、コンピューターを経由して無作為に不特定多数の異性と電話で会話ができるというふれこみだ。妻子があるというその40歳前後のサラリーマンは、さわやかな口調と包容感のある雰囲気が頼もしさを感じさせた。瑞穂さんが「会ってみたい」と思うようになるまで、それほど時間はかからなかった。
 しかし男は、ホテルに入ったとたん態度を豹変させた。さわやかだった口調は消え失せ、持っていたかばんの中からおぞましいSM道具を次々と取り出し、ドスの利いた声で瑞穂さんに命令したのだ。
 「その首輪をつけて、床を這いずりまわれ!」
 恐怖ですくんだ彼女は、男の言われるがまま、屈辱的な行為を我慢したという。
 「怖くて声も出ませんでした。抵抗すれば、殺されると思ったんです」

事件は昨年の2倍以上に急増

 出会い系サイトをめぐる犯罪が、猖獗をきわめている。
 出会い系サイトというのは、男女の出会いの場を提供しているインターネットの掲示板のことだ。多くが有料で、iモードなどを使って携帯電話から簡単に利用できることから、利用者は急増している。
 最近では、今月10日、宮城県塩釜市の塩釜港で宇都宮高校通信制1年、今埜愛美さん(16)の遺体が見つかった事件があった。この事件では、直前に女生徒とインターネットの出会い系サイトで知り合った無職、菅原幸司容疑者(30)が死体遺棄容疑で逮捕されている。殺人への関与は今後の捜査の進展が待たれるところだが、菅原容疑者は事件後も、愛美さんの携帯電話で出会い系サイトにつないでいたことが発覚し、世間を驚かせた。亡くなった被害者のケータイを使い、別の女性を誘うという異常な行為はいったい何だろう。出会い系サイトで簡単に女性を引っかけ、飽きれば放り出して別の女性を求める。それはまるで、わがままな子供がオモチャを扱っているような心理ではないか。
 警察庁のまとめによると、今年1月から6月までに起きた“出会い系サイト”にからむ事件は、793件。昨年同期の約2・6倍というから、恐るべき急増ぶりである。このうち児童買春が400件、青少年保護育成条例違反が213件と合わせれば全体の8割近くを占め、出会い系サイトを利用して女子中高校生などが援助交際に走っている実態が浮き彫りになっている。悲惨な事件も少なくない。強姦は23件、恐喝も33件起きている。
 不思議なのは、事件がこれだけ多く報道されているのにもかかわらず、“出会系”の魔界へと迷い込んでいこうとする女性が後を絶たないことだ。
 冒頭の瑞穂さんも、そのひとりだ。2年前の恐怖体験があったのにも関わらず、彼女はいまも出会い系サイトやツーショットダイヤルの利用をやめていない。
 なぜ?と問うた私に、瑞穂さんは言った。
 「さみしくて、さみしくてたまらなかったんです……」

携帯電話の料金が14万円を超え……

 彼女が結婚したのは25歳。ごく平凡で幸せな生活を夢見たが、それが崩壊するまでにはさほど時間はかからなかった。夫のギャンブルと、泥沼のような借金に、貯めていた定期預金もあっという間に取り崩された。
 おまけに夫は、“出会い系依存症”だった。
 出会い系サイトを利用し、メールを打つための携帯電話の料金が、ひどいときには月額14万円。こっそり夫の携帯電話の着信履歴を見てみると、女の名前がずらりと並んでいた。
 瑞穂さんが取り憑かれるように出会い系に心を傾けていったのは、この時期からだ。ひょとしたら、夫への対抗意識のような気持ちもあったのかもしれない。出会い系サイトやツーショットダイヤルで男と知り合い、短いメッセージのやりとりを続け、そしてその気になれば会う。瑞穂さんはそんなふうにして、数多くの男と出会い系で知り合い、その中の5人と寝た。
 それにしても――と思う。見ず知らずの男に、悩みごとを相談するわけではない。刹那的な会話と、即物的な体の関係があるだけだ。そんなもので結婚生活の失敗は癒されるのでしょうか、と私が聞くと、瑞穂さんは何か大事なことを打ち明けるように言った。
 「からだを重ねて、抱き合ってる時のぬくもりだけは本当だと思ってた。相手のことをよく知ってるわけじゃないけど、ホテルを出て『じゃあね』と別れて帰る時、いつもすごく悲しかった」

不倫相手もその妻も出会い系の利用者だった……

 瑞穂さんがツーショットダイヤルや出会い系サイトの運営会社で、“サクラ”のアルバイトを始めたのもこのころだった。離婚し、生計を立てる方法を他に思いつかなかったからだ。ツーショットダイヤルに電話してきた男に、素人のふりをして電話の相手をする。いま不倫の関係にある男性も、サクラの相手として知り合ったという。
 驚かされたのは、その男性は以前に離婚歴があり、現在の妻とも出会い系サイトで知り合い、不倫の結果、それぞれが夫や妻を捨てて離婚、再婚へと至ったのだという。瑞穂さんと知り合ったのはその後だ。つまり、その男性は二度も結婚相手を裏切り、出会い系サイトに踏み込んでいっては新しい交際相手を見つけていたことになる。
 日本全国の無数の男女が、出会い系で知り合っては別れ、別れてはまた新たな出会いを求めていく。まるで世の中の愛情が、出会い系を中心にまわっているようではないか。私は瑞穂さんの話に、くらくらとするような目まいを感じていた。
 しかし、彼女は切々とこう訴えるのだ。
 「つきあってる方と知り合ったのは確かに出会い系だけれど、体の関係だけでない安心感ややすらぎ、人間として尊敬できる相手に知り合えて本当に感謝しています。決して、出会い系は手っ取り早い行きずりの相手を探すだけの場所じゃないんです。そんな女の気持ちを、男性にも知ってほしいと思うんです」
 瑞穂さんは最近、自分のホームページを開いた。出会い系サイトの現実を、読んだ人に知ってもらいたいという気持ちからだという。

出会い系では本当の恋愛は得られない

 マヤ、と名乗る若い女性。彼女は出会い系サイトで22人の男とメールのやりとりをし、5人と会った。そしてその中の2人と関係を持った。電子メールでの取材に応じた彼女は、こんな文章を送ってきた。
 「職場にも男性はいるし、出会いがないわけじゃないんです。でも周囲の男を見てると、わたしの人生はここにいる人の誰かと何となく結婚して終わるのか、って思ってしまう。もっとしっくりできる男性がどこかにいるはずだし、その機会をもっと増やしたいから」
 若い女性の間で、“自分探し”が流行している。いまの自分ではない理想の自分がどこかにあると信じ、本当の自分を探す。出会い系サイトにはまる女性たちも、今の自分が持っていない恋愛、まだ見ぬ理想の男性を探してさまよっている。根は同じではないだろうか。
 「若者はなぜ『繋がり』たがるのか」「デジタル社会論」などの著書でインターネット時代のコミュニケーションのあり方を追求してきたノンフィクション作家、武田徹氏は「出会い系の流行というのは、自分の今までの人生をリセットし、ゼロに戻して誰かと出会いたいという願望の現われでは」と指摘する。
 「ゼロから新しい出会いがあり、その先に自分の新しい未来が開けるんじゃないかという幻想をみんなが持っている。でも実際は、出会ってもお互いに共通の経験や話題がなければ親しくなりにくいし、自分の期待通りの人に相手がなってくれるとも限らない。その齟齬にさまざまな犯罪が起きてくる背景があると思う」
 さらに、出会い系サイトでは女性が少ないから、メッセージを掲示するとぼう大な数の男たちからメールが送られてくる。多くの男と出会える可能性は確かに高いから、女性たちは「この中に本当のいい人がいるかもしれない」と思ってしまうわけだ。しかし武田氏は言う。「可能性が高いことは本当は決して幸福なことじゃないですね。仮にいい人が見つかっても『もっと他にもいるかも』と思ってしまうから満足できないし、恋愛に本腰が入らない。本当の恋愛というのはある程度はつらさを伴うものだけれど、そんな思いをするよりは手軽にリセットして別の男性へ、と考えてしまうわけです」
 やはり出会い系サイトで本当の恋を見つけるのは、難しいということだろうか。