BACK    TOP

佐々木俊尚 Toshinao Sasaki


 「悪いことをするヤツは、インターネットがなくても悪知恵を絞ってさまざまな情報を手に入れている。インターネットは情報を流すためのただの道具で、普通の個人ならなかなか手に入れられない情報を、代わって入手してあげているだけだ」
 ホームページで「裏情報」を販売している業者のひとりが、取材に応じて語った。
 7月13日早朝、福井市御幸の民家の脇で、静かな住宅街を轟かすような爆発があった。大きな爆発音とともに消化器の破片などが飛び散り、一帯は騒然。“誤爆”を引き起こしたのは、同市内の無職の男(33)だった。乗っていた車や自宅からは消化器爆弾などが次々と発見され、住民500人が避難し、福井県警の爆発物処理班が出動するものものしい騒ぎとなった。「高校の時のいじめの仕返しをしようと思った」という動機は何とも異様だが、それにしても男はどうやって爆弾の製造方法を入手したのか。
 重体で入院している男は、警察の調べに「インターネットで爆弾の作り方を調べた」と供述しているのだという。またもインターネット、なのである。
 ご記憶だろうか。この事件の2週間前には、静岡市裾野市のヤマト運輸支店で宅配便の段ボール箱が爆発し、アルバイトの男性がけがを負う事件が起きた。箱の中に入っていたのは、インターネットのオークションで売買された自衛隊の不発弾。送り主だったミリタリーショップ経営者の男(32)が火薬類取締法違反で逮捕された。
 いったい何なのだ、と憤られた方も多いだろう。ネットでは爆弾の作り方や実際の爆発物が飛び交っているのか? そんなものが野放しになっていて大丈夫なのか?

 実際、「有害情報」とでも呼ぶべき犯罪性の高い情報は、インターネットにはあふれ返っている。詐欺、証明書偽造、薬物売買、児童ポルノ、架空名の銀行口座売買――。しかもこうした手口を詳しく説明した情報は、何と数千円から数万円で売買されている。
 「合法的に酒気帯び運転やスピード違反をもみ消してもらう方法」「国民健康保険証の偽造方法」「花火で作れるダイナマイト製造方法」「ケーブルテレビを無料で見る方法」
 ホームページにはこうしたうたい文句が並び、銀行振り込みなどで料金を支払うと、情報の中身が電子メールで送られて来るという仕組みだ。この種の情報を売るホームページは、うんざりするほどたくさん存在している。「裏情報業界」とでも呼ぶべきだろうか。奇怪なマーケットを作り上げているのである。
 とはいえ、こうした「裏情報」と称するものの大半は、聞いてみれば「なんだ、そんなことか」とがっかりするようなものばかり。言ってみれば、縁日の見せ物小屋の口上のようなものなのだ。
 たとえば「ただ歩くだけで、日収数万円を稼げるサイドビジネス」という裏情報がある。
 「自動販売機を探して歩き、取り忘れた釣り銭を拾って歩こう。繁華街やターミナル駅など酔客の多い場所では取り忘れの釣り銭が多い。1日1000台ぐらい回れば、3万円ぐらいになる」
 バカバカしさが分かっていただけるだろうか。
 だが中には、看過できない情報もある。たとえば「ぶらぶらしながら数十万円を稼ぐ方法」という一見害のなさそうな情報は、こんな内容だ。
 「偽名で銀行口座を作る。ラブホテルを回って駐車場に停めてある車のナンバーを控え、所有者の住所と氏名を調べる。そして本人宛に『○月○日にラブホテルの○○で、浮気をしたのを知っている。公表されたくなければ、口座に50万円を振り込め』という手紙を送りつける」
 「趣味の雑誌に『有名ブランド商品の格安リストを送ります。ほしい方は切手500円分を同封の上、下記まで』という広告を載せる。切手が送られてきたら、コピー1枚程度の表を送るだけだから、コストは80円切手とコピー代、封筒代で100円程度。1通で400円儲かるから、100人ぐらいの申し込みがあれば4万円を手にできる」
 この情報を買った人がこの怪しげな手口を実行に移すかどうかは別にしても、前者は明らかな犯罪。後者も限りなく犯罪に近いか、低く見積もっても相当な悪徳商法だろう。

 さらには、爆弾の製造法や運転免許証の偽造方法、印鑑の偽造方法など、きわめて犯罪性の高い情報もネットにはあふれている。あるサイトには、爆弾の作り方の情報として、次のような販売リストが並んでいる。
 「花火で作るダイナマイト製造法」「火炎瓶の作り方」「ペットボトルとドライアイスで爆弾をつくる」
 福井市の「爆弾男」も、こうした情報を入手して読んでいたのだろう。他人とあまり関わらず、街の片隅でひっそりと暮らしているような人物でも、インターネットを使えば簡単にさまざまな情報が入手できてしまう。恐ろしい時代というべきだろうか。
 前出の裏情報業者は、こう言い放つ。
 「法律を破るようなことはしていない。買った情報をどう扱うかは、客の責任。こちらの問題じゃない」

 この業者は、架空名義の銀行口座の作り方についても、こんな風に明かした。
 実在の健康保険証や運転免許証を入手してスキャナーで読み取り、パソコン上で名前や住所を改ざんして架空名義のものを作り上げる。コピーし、郵送だけで口座開設ができる銀行のメールオーダーサービスに申込書とともに送りつける。コピーだから写真は不鮮明だし、行員と会うこともないから写真と顔が違っていても問題ない。返送先の住所は、マンションの空き室を利用する。不在者通知が届いたら、偽造した身分証明書を使って郵便局で受け取ることができる――。
 業者は、
 「この手口自体を詳しく説明した情報をインターネットで売買している。またこの方法で実際に架空名義の銀行口座を作り、販売する場合もある」
 と話す。架空名義の口座の需要は大きく、売り出せば右から左へと売れていくという。いったい誰が何のために購入しているのか、慄然とせざるを得ない。中には犯罪に利用されているケースも少なくないだろう。

 児童ポルノや銃器、違法スレスレの薬物などもインターネットの中を飛び交っている。インターネットオークションは監視の目も厳しく、そのものずばりの違法商品が出品されるケースはほとんどない。だが、ある大手オークション会社の社員は、こう話すのだ。
 「たとえばロリコン系の合法的な商品をオークションに出品し、何度も売買してお互いの信頼関係を作り上げる。それからオークションを通さず、直接のやりとりで違法性の高い児童ポルノビデオなどの売買を持ちかけるという手口があるようです」
 オークションはいわば“撒き餌”のような役割を果たしているということなのだろう。同様の手口は、銃器の密売でも利用されているという。オークションでモデルガンを出品し、目星をつけた落札者に直接持ちかけて、殺傷能力のある改造銃などを売りつけるというものだ。

 インターネットは実社会の写し絵である、という言い方がある。いや、実社会の光と闇はともに過剰に増幅され、インターネットの中に投影されているといった方が正確かもしれない。ネットの登場によって人々は有益な情報を簡単に入手し、交友関係も広げることができるようになった。しかしその裏では、こうした危険性もますます高くなっているということなのだろう。
 ネット上の有害情報は、現行の法律では取り締まることはできない。福井の事件の数日後、細田博之IT担当相は記者会見で苛立たしげにコメントしている。
 「人命尊重の観点から、不適当なら(爆発物の作り方が書いてあるようなサイトを)取り締まるべきだ。法律的に難しいなら、出会い系サイトなどで罰則を設けたように、規制を設けるべきだ」
 問題は永田町にも波及し、遠からずインターネット規制が国会でも本格論議されることになりそうな雲行きである。しかし仮に法律を改正し、何らかの規制を設けるにしても、表現の自由とのバランスの問題もある。果たしてどのような情報を取り締まり対象にするのか。その基準を警察当局に任せてしまっていいのか――などと考えていけば、きわめて微妙で難しい問題であるとも言える。

 それにしても、である。蔓延するひどい有害情報は何とかならないものなのか。
 実はインターネットの有害情報に振り回されているのは、日本社会だけではない。
 ネット先進国である米国でも、凶悪事件が起きるたびにインターネットとの関連性が指摘されている。たとえば1999年に米コロラド州リトルトンの高校で生徒10数人が射殺された事件では、犯人の生徒(事件直後に自殺)がパイプ爆弾の作り方を説明したホームページを開いていたことが後に判明し、注目を集めた。事件後にNBCテレビと有力紙のウォールストリートジャーナルが共同で米国民の世論調査を行ったところ、回答者の82%が「事件が起きたこととインターネットの間に因果関係がある」と答えたのだ。
 また米国内で死者3人、重軽傷者23人を出した連続小包爆弾テロリスト「ユナボマー」事件を覚えているだろうか。犯人の元大学助教授、セオドア・カジンスキー服役囚は終身刑の判決を受けたが、カジンスキーの実弟と被害者らは99年、ヤフーやマイクロソフトなどに対して爆弾製造法を掲載したホームページを削除するように求める運動を起こしている。
 日本でも、こうした有害情報が思春期の子供たちに影響を与えるのではないかと懸念する声は少なくない。しかも今後、こうした状況はさらに深刻化していく可能性がある。
 たとえば、政府が推進しているe−Japan構想。日本を最先端のIT国家にするというこの戦略の一環として、2005年までに全国の公立小中高等学校の全45万教室にインターネット接続できる環境を整備するという計画が進められている。この計画に関しては、専門家たちから「子供たちが学校のインフラを利用し、不正アクセスや掲示板の荒らし行為などに手を染めてしまう危険がある」と指摘されているのだ。そして学校だけではない。パソコンの普及は今後、一家に1台からひとり1台へと進もうとしている。親の知らないうちに子供が有害情報に触れ、あるいは有害情報を勝手に発信し――ということにもなりかねない。
 規制のないインターネットという世界には、善も悪も同じように存在している。情報の扱い方に関するモラルをきちんと教育していくことが必要だろう。しかし大人の側でさえも、さまざまな情報の洪水に対応できていないのが現状ともいえる。われわれはいまだ、ネットという荒野の前になすすべもなく立ちつくしているのだ。
(ジャーナリスト・佐々木俊尚)


 インターネットにあふれる有害情報に、どう対応すればいいのか。セキュリティ問題を中心に、コンピューターやインターネットが社会に与える影響などについて詳しいITアナリストの古川泰弘氏に聞いた。

――有害情報がなぜこれほど問題になっているのでしょうか。
古川 ネットの情報の特徴は、手軽に情報が入手できる点です。これは田舎よりも大都市の方が有害情報を入手しやすいのと同じです。田舎から出てきた初心者は、最初はネットという“大都市”に出てきてとまどうが、やがて検索エンジンという情報のたまり場の存在を知る。そしてみずから有害情報を探し当てることができるようになります。この能力には年齢も性別もなく、子供でも簡単にできてしまう。
――どう防げば良いのでしょうか。
古川 検索エンジンを提供する企業が、フィルタリングという手法を使って有害情報を検索できないようにするという方法があります。しかしこうした方法については、情報の検閲になるという反論もあるでしょう。もうひとつの方法は、有害情報をすばやく検知できるようなシステムを作り上げるというものです。たとえば不正アクセスに関しては、こうした検知システムが普及しつつあり、一定の効果を見せています。
――放置しておくとどのような問題が生じると思いますか。
古川 防止するスピードが追いつかなければ、当然のように有害情報を悪用した犯罪が増加するのは間違いないでしょう。そしてこれからは、有害情報だけでなく、インターネットの技術を悪用した不正アクセスなどの違法行為も増加していく可能性があると思います。どちらかといえばこちらの方が問題かもしれません。
――子供たちへの影響も懸念されていますが。
古川 警察の統計からも、未成年によるネット犯罪は増加傾向にあることが分かっています。しかし現状では、そうした情報モラル教育が後回しになってしまっているのが現状でしょう。
――対処の方法としては。
古川 たとえば交通安全を教えるように、学校に専門家が出向いて指導するといった方法もあると思います。現状では学校に接続されているインターネットをフィルタリングする方法が採られています。でもこうしたサービスは、たとえば「プレイボーイ」のホームページは見られないようになっていますが、個人で開いているポルノのページには接続できてしまうというように、きわめて中途半端にしか設定されていないので、あまり効果はありません。男の子は道路に捨ててあるエッチな雑誌を拾ってでも情報を得ようとすることを考えれば、フィルタリングは通学路を制限する程度の意味しかないかもしれません。学校はインターネットに接続せず、情報モラルなどを学習するだけにとどめた方がいいと思います。