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佐々木俊尚 Toshinao Sasaki


 今春からスタートすると宣伝「次世代携帯電話」。世界中どこでも使うことができ、高速なインターネット接続を使って映画やテレビを見ることもできるという「夢のケータイ」だ。しかし、ちょっと待ってほしい。携帯電話会社の宣伝する「バラ色の未来」に、落とし穴はないのだろうか?

次世代携帯電話とはどんなものか

 欧州や米国など、各国が注目を集めている次世代ケータイ。「いったい今のケータイと何が違うの?」と思う人も多いだろう。ごく簡単に説明してしまえば、最大の特徴は次の2点だ。

 (1)1台の携帯電話機が、世界中どこでも使えること
 (2)インターネットにつながるスピードが現在のケータイの最高200倍と速く、映画やテレビなどの動画を見ることもできること

 今のケータイにも「国際ローミングサービス」という海外で使えるサービスはあるが、実際に利用できるのは香港や韓国など一部の国だけ。欧米などに出張で出かける時は、現地で携帯電話をレンタルするしかなかった。それがこれからは、遊びに海外のリゾート地に出かけた場合でも、あるいは長期滞在を計画した時でも、いちいち周囲に事前連絡しておかなくても済むようになるというのだから、そりゃ楽である。
 インターネットの速度も、確かにパソコン並みにいろんな情報が得られるようになれば、とても便利だろう。たとえば今のNTTドコモの携帯電話の速度は、パソコンで普通のアナログモデムを使ってインターネットにつなげるのと比べても、5分の1以下という遅さ。これが次世代ケータイになると、何とアナログモデムの6倍〜40倍のスピードになるというのだから驚きだ。
 さて、そんなわけで世界中で開発が進められている次世代ケータイ。そして本格的なサービスはNTTドコモが世界に先駆け、早ければ今年5月末からスタートするのだという。
 そのサービスの名前は「FOMA(フォーマ)」。「フリーダム・オブ・モバイル・マルチメディア・アクセス」の頭文字を取ったというが、何とも大げさな名前からもドコモがこの新時代のサービスにかける期待が伝わってくるというものだ。サービス提供地域は当初は東京23区と横浜市、川崎市の一部。今年末には大阪、名古屋にまで拡大し、来年春には全国でサービスを提供する予定だという。またJフォングループは今年後半、KDDIは来年にサービスの開始を決めている。

次世代ケータイの“バラ色の夢”

 さて、その次世代ケータイ。実現すれば実際にはどんなことができるようになるのだろう? ドコモなど通信会社各社の説明を聞いていると、次世代ケータイが作る未来はこんな風だ。
 「人々ではパソコンではなく、主に次世代ケータイを使ってインターネットを利用するようになる。相手の顔を見ながら話せるテレビ電話機能を使い、仕事先や友人、家族と会話。時間の空いたときにはデジタルテレビ放送を受信して、最新ニュースやプロ野球のハイライトシーンをチェックする。買い物の際も、スーパーのレジでケータイのボタンを操作するだけで、インターネット銀行からの代金の引き落としができてしまう。暇な時は、携帯同士で世界中の人と対戦できるテレビゲーム」――。

買ってもすぐに飽きる

 本当にこんなすごい未来が、あと半年もしないうちに実現するのだろうか?
 「どうもマユツバっぽいなあ」と思われた方も多いに違いない。その不信感は、実はかなり正しい。次世代ケータイのビジネスについては実際、各方面から「本当に成功するのか?」と疑問を抱く声が噴出しているのだ。
 そんな疑問の声を総合し、実際に次世代ケータイのサービスがどんな状況になるかをシミュレーションしてみよう。最悪の場合、それはこんな風になる。
 「無理して馬鹿高い次世代携帯電話機を買ってしまったが、使ってみたら『圏外』ばかり。ビルの中にちょっと入っただけでブチブチ切れる。楽しみにしていた動画配信は、どうでもいいような映画の予告編や商品のコマーシャルフィルムばかり。おまけに画面が小さくて、ニュースの字幕なんか全然読めない。インターネットバンキングや買い物の決済に使ってみたが、つながらないことが多く不安定で、とてもじゃないが危なくて利用できない。すぐに飽きてしまい、結局残されたのはとんでもなく高額の電話代の請求書」――。
 さて、なぜこんなことになってしまうのか。

買ってはいけない理由1
 使える場所が狭い

 先に書いたように、NTTドコモは最初のサービス提供エリアを「東京23区と横浜市、川崎市の一部」としている。だが同社の社員は、声をひそめてこんな風にうち明ける。
 「23区をエリアにしてますが、当初は実用的に使えるのは事実上山手線の内側程度の狭い面積になりそう。しかもビル内などはダメなところが多い。現在のケータイの提供エリアと同じレベルに達するのには、少なくとも4、5年はかかりそうです」
 なぜこんなことが起きるのだろう。それは,次世代ケータイと現在のケータイでは使っている周波数がまったく別だからだ。つまり中継局のアンテナを、完全に新しく整備しなければならないのである。携帯電話会社が時間をかけて築き上げてきたアンテナ網。それをまた最初から作り直さなければならないのだから、いったいどれだけのカネと時間がかかることやら…。
 そもそもドコモ自身が「フォーマは今の携帯電話を買い換えるのでなく、2台目の携帯として買ってほしい」と説明しており、実用性が薄いことをみずから認めてしまっているのだ。「圏外」ばかりで使えないケータイをあなた、将来を見越して我慢して使い続けられます?

買ってはいけない理由2
 海外でもやっぱり使えない

 「でも海外ではどこでも使えるんでしょう?」と思った方もいるだろう。次世代ケータイの大きな売り文句は確かにその通り。しかし実は、この「公約」も反古にされそうな雲行きなのだ。
 次世代携帯電話は本当は、世界中が一種類の規格になるはずだった。ところが覇権をねらう日米欧各国の電話会社の思惑が交錯し、ドコモや欧州の電話会社が採用する「W−CDMA」という規格と、KDDIや米国の電話会社の採る「cdma2000」という2種類の規格に分裂してしまったのは業界では有名な話。それぞれの規格に互換性はないから、同じ電話機は当然使えない。
 さらに昨年後半になって、W−CDMAを推進していたはずのヨーロッパから、第三の候補ともいえる「EDGE」規格というのまで出てきた。こうなると、分裂状態のまま次世代携帯電話時代がスタートするのは避けられない状況になってきた。
 「海外でもそのまま使える」と信じて次世代ケータイを買ったのに、実際にはごくわずかな国でしか使えなかった――そうなる可能性は、決して小さくない。

買ってはいけない理由3
 インターネット接続はしょせん「お遊び」

 次世代ケータイでは「しゃべる電話」としての利用は減り、インターネットにつないでさまざまな動画や情報、あるいは現金決済などを行ういわゆる「コンテンツ利用」が主流になると言われている。しかしどこまで実用的で楽しめるコンテンツが生まれてくるかは、かなり疑問なのだ。
 ケータイのコンテンツ利用といえば、もちろん誰もが知っているNTTドコモのiモード。「世界で唯一成功した例」として盛んに持ち上げられ、次世代ケータイでも同社は「iモードの発展型が主流になる」とぶち上げている。
 確かにiモードは利用者の数は昨年末段階で1700万人を超え、Jフォンの「Jスカイ」やKDDIの「EZアクセス」など同様のサービス利用者も含めれば全国で3000万人近くになる。何と人口の4分の1がケータイでインターネットしている計算になるのだから驚きだ。
 しかし、実はこの数字にはからくりがある。まず、1700万人というのは「iモード対応のケータイを持っている人の数」で、「実際にiモードを利用している人」ではないこと。さらにその「利用している人」の中でも、大半の人は電子メールを読み書きするのにだけ使っていて、ニュースやレジャー情報などのコンテンツを利用している人はもっともっと少ないであろうこと。
 たとえばこんな数字がある。iモードでコンテンツを配信している専用ホームページは「公式サイト」と呼ばれ、1300あまりある(昨年末)。とある公式サイトの管理者によると、このうち月額100円〜300円程度で有料化しているのは半数もなく、しかも多くが赤字なのだという。たとえば新聞社系の某有名ニュースサイトでも、月額100円で会員数は15万人程度と言われている。これでは月に1500万円しか売り上げがない。
 しかしこれはまだ良い方で、人気のあるサイトでも大半は会員数が3万人程度。公式サイトの半数は会員数1万人以下、というテイタラクぶりなのだ。「利用者数1700万人!」という壮大さとはずいぶん落差があるではないか。
 おまけに、「それなりに儲かってる」と言われているサイトは、たいていは「着メロ(着信時に鳴らす音楽)」か「待ち受け画面」をダウンロードできるお遊びサイトだというのだから、何ともトホホである。しょせんはiモードなど若者の指先の暇つぶしに過ぎず、実用的にきちんと使いこなしている人は、実は非常に少ないということがわかっていただけただろうか。
 結局、儲けているのは、高額の通信料金と手数料が手元にどんどん入ってくるドコモだけなのだ。
 次世代ケータイでは、動画も見られるようになるという。でもあの小さな画面で、愚にもつかない映画の予告編や製品の広告を見たい人がどれほどいるだろうか? しかも「無料」ならともかく、そんな動画を見るたびにドコモに高い通信料を払わなければいけないのである。いやはや何とも,であろう。

買ってはいけない理由4
 不安定で現金決済には使えない

 実用性という意味では,もっとも期待されているのがインターネットバンキングや買い物の決済。現在のiモードでもインターネット経由で銀行口座への振り込みや残高照会ができるようになっているが,次世代ケータイではそれがさらに進化したものになるとされている。たとえばスーパーやコンビニのレジで携帯電話の「決済」ボタンを押すだけで支払いができたり,あるいはJRの改札を携帯電話を持って通過するだけで運賃を払えたり――。
 確かに話だけを聞けば便利そうではあるのだが,でもちょっと待ってほしい。「現金」の機能を携帯電話に持たせるということは,それだけさまざまな危険性も背負い込むということなのである。
 昨年春,iモードがつながりにくくなる障害が多発して,大騒ぎになったことをご記憶だろうか。あまりに利用者が増えすぎたことがトラブルの原因だったのだが,次世代ケータイも利用者が増えれば同じような障害が起きる可能性は少なくない。友人と短い電子メールをやり取りしたり,着メロをダウンロードしている分には障害もさほど深刻な社会問題にはならないだろう。しかし,これがバンキングや決済,証券取引などに実用的に使われていたらどうなるか。そんな不安定なものでカネを扱って,本当に大丈夫だろうか。

ドコモの失敗?を見守る欧州

 結論を言おう。ふつうに電話をかけるのに使うのだったら、今の携帯電話で十分である。いや、音声通話やメールのやり取り程度に使うだけだったら、今のケータイの方がずっと使いやすい。よほどのケータイマニアは別にして,普通の人は次世代携帯電話などを買ってはいけない。
 覚えていらっしゃるだろうか。「夢のテクノロジー」と大騒ぎしてスタートし、でもビジネス展開に失敗したり、あるいはもっとすごい技術が現われたりして消え去ったビジネスは、日本の戦後の技術史の中には山のように転がっている。NTTのキャプテンしかり、あるいはソニーのベータカセットしかり。最近では、NHKが総力を傾けてきたアナログハイビジョンがデジタル規格に敗れ、休止に追いやられたのは記憶に新しい。
 今回の次世代ケータイでも、欧米の携帯電話会社各社は各国に先んじてスタートするドコモの成り行きを固唾を飲んで見守っている。失敗すれば瞬く間に欧米はドコモを見捨てて、その結果日本の携帯電話規格が孤立してしまうことにだって成りかねないのである。そうならないうちに今一度,次世代ケータイのビジネスをきちんと考えてみるべきではないだろうか――。