BACK    TOP

佐々木俊尚 Toshinao Sasaki


 メガバンクの再々編も噂される金融動乱に列島が振り回された2002年末、「トヨタ銀行」構想のウワサに金融業界は揺れた。不良債権にもがき苦しむ4大銀行にかわり、日本を代表するエクセレントカンパニー・トヨタ自動車が銀行業務に乗り出して日本経済を救う、というのだ。同社は「銀行に参入する計画はない」(広報部)と否定に躍起だが、経済界からの待望論は高まるばかり。今年、トヨタ銀行の実現の可能性はあるのだろうか?
 「トヨタは1960年代以降、無借金経営を続けて『トヨタ銀行』と呼ばれてきた。銀行業務に乗り出す基盤はできているといっていいだろう」と話すのは、経済評論家の奥村宏氏。「しかしトヨタがこの時代に本気で銀行を目指すのなら、大企業にジャンジャン資金を流し込んだ挙げ句に不良債権の山を抱えてしまったメガバンクのような形ではなく、個人の預貯金を中小企業やベンチャーに貸し出すリテール銀行を検討すべきだね。どうせやるのなら、日本の銀行のあり方を変えるぐらいの新しい見取り図を見せてほしいと思う」と期待する。もっとも、その実現の可能性については奥村氏は「その能力がトヨタにあるかと言われれば、疑問符がつくけどね」と否定的だ。
 しかし、機は熟しているともいえる。
 トヨタは2年前の2000年末、子会社のトヨタファイナンシャルサービス証券が免許を取得し、証券業に参入した。さらに昨年11月には、子会社のトヨタファイナンシャルサービスの米子会社を通じ、米国内で銀行免許を申請している。
 同社の内部事情に詳しい関係者が打ち明ける。
 「社内には、金融業務について研究する専門の部署がかなり以前からひそかに設けられています。各国の支社の財務担当者を集めた会合も定期的に行われており、さまざまな投資運用を積み重ねてきた成果はノウハウとして確実に蓄積されてきました。今回の米での銀行免許取得も、その一環としてとらえられています」
 もしこうした体制が来るべき「トヨタ銀行」への準備だとしたら、まことに質実剛健のトヨタらしい着実な布石づくりと言えるのではないか。

 そして昨年末には、もうひとつ「トヨタ銀行」を期待させるようなできごとが起きた。それが株価急落の中で再建策を急いでいるUFJ銀行への出資問題だ。同行が自己資本増強のための増資先として、トヨタ自動車に引き受けを打診したというものだが、その直前、日本経団連会長でもある奥田碩・トヨタ会長が「4大金融グループのうち2つは脆弱で、少なくとも1行は国有化される可能性がある」と発言したという衝撃的なニュースが英紙タイムズ発で流れていたことから、にわかにトヨタの銀行参入論が活発になった。奥田会長は後で発言を否定したものの、「発言はUFJを安く買い叩くための仕掛けだったのでは」という推測が広まった。
 UFJの前身のひとつである東洋信託銀行で取締役を務めていた経済評論家、神崎倫一氏が語る。
 「自分の自由になる金融会社をほしいと思うのは、トヨタクラスのコングロマリットになれば当然の願望。おまけにトヨタは東海銀行と関係は深い。関係会社、下請け会社の多くが東海銀行をメーンバンクとしているからだ。またUFJから見ても、株を国に持ってもらって国有化されてしまうよりは、トヨタの傘下に入る方がずっといい。巨大なトヨタグループを将来の取引先として期待できる。お互いのメリットを考えれば、トヨタとUFJの縁結びは十分あり得る話ではないか」
 連結ベースで年間1兆円の経常利益を挙げるトヨタ。昨年9月の中間連結決算によれば、グループの現預金は1兆円を超えている。一方のUFJ銀行は資産規模は約80兆円と膨大だが、株価の下落で株式時価総額はわずか5000億円。現在のトヨタの現預金をもってすれば、UFJが2行分も買えてしまうというわけだ。
 「貸し渋り」「貸しはがし」が横行するメガバンク。あてにならなくなってしまった銀行にかわり、企業はあらたな支援先を探しはじめている。トヨタはその象徴的な存在になっているとも言える。実際、総合商社のトーメンは昨年11月、トヨタグループに支援を要請していることを明らかにしており、「トヨタが企業を支援」というのはすでに現実の話となっている。
 前出のトヨタ関係者は「創業者の豊田一族が『そんなたいへんな額のカネをUFJのために出すわけがない』と一笑に付した、という話が社内で出回っています」と否定的な見方だ。しかし神崎氏は「奥田さんや張(富士夫・トヨタ社長)さんが否定すればするほど、返って信憑性は高まってくる。トヨタ銀行の実現の可能性はフィフティフィフティなのでは」と言う。さて今年、その可能性はどちらに転がるだろうか。