霜降り肉で旋風D                        TOKYO X物語 TOPへ
 霜降り豚東京Xの完成は1997年7月であった。3品種を交配・改良して造った40頭の一群が日本種豚登録協会から新系統(新品種)として認定された。 出来ないとされていた豚の霜降り肉をつくり出した達成感と、これで養豚農家が再生できるかも知れないと思えることが嬉しかった。
 どうして今まで誰も手を付けなかったかと言うと、豚の改良方向に逆行するからだ。つまり、肉の中にまで脂肪(霜降り)を増やそうとすると、背脂肪が厚くなってしまう。豚の改良の一つは世界共通で、背脂肪を薄くし余分な脂肪を減らし、赤肉割合を高めることにある。生産効率が最優先、1頭の豚からいかに多くの肉を作るか互いに競争しているのだ。脂肪の厚い豚は市場価値が低く、安く買いたたかれてしまう。
 
 これまで、豚は研究者の間では霜降りが入らないとされていた。また、肉の味と筋肉内の脂肪の関係が良く分かってなかったことも事実である。背脂肪を薄く改良すると間違いなく筋肉内の霜降りも少なくなる。筋肉内脂肪が少ないと肉は硬くなり美味しくなくなる。 つまり、豚肉は今も美味しくない方向へと改良されていることになる。   
 
 以前、ヨーロッパで、最近の豚肉は味が落ちたという声が聞かれるようになった。そこで、理由を調べたバートン・ゲードと言う研究者がいた。20年間で筋肉内の脂肪が36%も減少していた。そのときの筋肉内脂肪は平均2.0%以下であった。彼は少なくとも2.5%は必要だと主張している。わが国の豚肉も私達が測定した普通の豚肉の例で、2.2%であった。
 
 興味ある話であるが、多摩地域で売られている普通の豚肉は他より少し美味しいかも知れない。それは、八王子市処理場の豚は、家畜商が経験上、美味しい肉にするため、豚の体重を大きくしている。豚は100kg過ぎると急に背脂肪が厚くなり、わずかだが、筋肉内にも脂肪が入ってくるからだ。
 今回、味の優れた基礎豚(きそとん)の一つに北京黒豚を用いたが、この豚は背脂肪と腹脂肪が極端に厚い欠点がある一方、良質な脂肪を付け、霜降りが多い。そこで、背脂肪・腹脂肪を薄くし、赤肉量を減らさず、良質脂肪で霜降りを増やす方向を目指した。改良法として、いくつかの良い形質だけを同時に取り込む選抜はすでに実証済みだった。
  TOKYO-X豚ロース肉の断面 筋肉内脂肪(IMF)がずばぬけて多い
 5世代の選抜で完成した東京X豚は、背脂肪が厚すぎず、赤肉割合も減少させることなく、良質脂肪で、霜降りを増やすという改良が実現できた。そして、実際に食べてみると美味しいと評判になり、多くの人から注目されるようになった。
 
 霜降りのあるX豚が完成したニュースも大きく報道されたが、X豚を食べてみたがとても美味しいというニュースの方がより大きな反響があった。最初の報道は平成9年4月3日、読売新聞の多摩版に「霜降り状の豚肉生産・今までにない味」の見出しであった。実際は、登録協会に申請中であって、その時点ではX豚は完成していなかった。
 それから猛烈な取材攻勢に会うことになった。新聞やテレビ、週刊誌、ラジオ、雑誌などわずか2ヶ月で 17回、その後も次々と取材が続き、平成9年だけで 41回にのぼった。マンガ・アクションの「食卓の情景」にも取り上げられた。
 
 おおむね正確に報道されたが、中には「和牛並みの霜降り」とか「松坂牛よりうまい」などと誇張されて書かれた例もあった。 その後もX豚は各方面で取り上げられ続けている。 そこには美味しい豚肉という評価だけでなく、安全生産にこだわった豚肉としての扱いがある。 あるマスコミ関係者の話では、これほど話題になった豚肉はこれまでになかっただろうと評された。
 
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