ペンローゼ鉱

英名:PENROSEITE    化学式:(Ni,Co,Cu)Se2

産地:
ボリビア、ポトシ州、パカハケ鉱山
Pakajake mine, Potosi dept., Bolibia

銀色の部分がペンローゼ鉱、母岩はマグネシウムに富む菱鉄鉱です。ペンローゼ鉱は黄鉄鉱の鉄をニッケル、硫黄をセレンで置き換えた鉱物です。 パカハケ鉱山のペンローゼ鉱は、微小なインクルージョンとして、針銀鉱の硫黄をセレンに置き換えたナウマン鉱を含んでいます。そのため、信じられないことですが、最初はセレンとニッケルという比較的貴重な金属を含んでいるにも関わらず、セレンやニッケルの鉱石としてではなく、1%程度しか含まれていない銀の鉱石として採掘されていました。

ペンローゼ鉱の標本は現在では極めて入手が困難な鉱物です。上の写真のような標本を入手できたことはとても幸運であったとしか言いようがありません。パカハケ以外の産地は、樹状結晶の見事な自然金で有名なイギリスのホープスノーズ、ドイツのセレン鉱物の産地達(ティルケローデ、トロークタール、クラウスタール)などがあります。ただ、見たことがないので断言はできないのですが、これらの産地のペンローゼ鉱は研磨面を分析してようやくわかる程度の微小なもの推察されます。よって、市場に出回るような標本の産地はパカハケ鉱山のものに限られるのではないでしょうか。つまり、パカハケ鉱山のペンローゼ鉱の入手性がペンローゼ鉱の入手せいそのものなのです。

ペンローゼ鉱はパカハケ鉱山の主鉱石でした。これもまた信じがたい話です。普通の金属鉱床は硫化物が主体です。ところが、パカハケ鉱山では、セレン化物が圧倒的に多く、その中でも最も豊富なのは、陽イオンにニッケルを含むペンローゼ鉱でした。普通であれば、顕微鏡的サイズのセレン化鉱物が数センチのサイズで存在していたのでした。上述したように、最初はその目的も不純物の銀でした。ここまで書くと、散々、珍しい、珍しいといいながら、パカハケ鉱山のペンローゼ鉱は、同じボリビアのかなり風変わりなセレン鉱物の鉱床であるエル・ドラゴン鉱山の主要鉱石であるクルタ鉱(銅のセレン化物)程度の入手性はあるのではないかと感じられるかもしれません。

しかし、この変わった鉱山の歴史からその貴重さを理解することができます。最初にパカハケにある鉱床が見つかったのは1920年代でした。見つかったペンローゼ鉱は当初なんだかわからず、インクルージョンのナウマン鉱により1%含まれる銀の鉱石として採掘されました。もっとも、ナウマン鉱は 大きな塊が見つかることもあり、合計で300kgに達するの塊が採掘されたことがあるそうです。本当の話かどうかは知りませんが、銀のみを目当てとし、猛毒のセレンの存在に気付いていなかったか無視していたため、溶鉱炉になんの対策もなくこの鉱石をぶっこんでいたという話を聞いたことがあります。これが本当ならその溶鉱炉の周りは、足尾鉱山や別子銅山の公害など目じゃないほどの公害が発生していたことでしょう。。。

1930年代になり、この鉱床を発見したハンス・ブロックというドイツ人鉱山技師が鉱山の採掘権を入手しました。このハンス・ブロックという人は、当時ボリビアで活動していたドイツ人鉱物学者達とお友達で、 経営はぜんぜんうまくいかなかったようですが、鉱物学的にはいろいろな新しい展開がありました。このお友達とはヘルツェンベルク氏とアールフェルト氏で、ボリビアの鉱物の研究に非常に貢献しました。ヘルツェンベルク氏は豊栄鉱山でも見つかる錫の硫化鉱物の名前になっているので、 最低限の知名度はあります。一方で、ボリビアの鉱物学の父とも言われているアールフェルト氏は彼の名前のついた鉱物がニッケルの亜セレン酸塩という日本ではとても出そうにないものなので、今後も日本での知名度はゼロのままでしょう。。。 彼らはパカハケ鉱山で、ティーマン鉱(セレン化水銀)、クラウスタール鉱(セレン化鉛)なども見つけています。ちなみに、このドイツっぽい名前は彼らが見つけた石に自分たちのお友達の名前を付けて あげたからではなく、これらの原産地の多くがティルケローデやクラウスタールなどのドイツのセレンで有名な産地だからです。

それはさておき、鉱石がセレン化ニッケルであることに着目したハンス・ブロック氏はセレンの精錬を始めようとします。また、セレンを多く含む鉱床につき物の白金族元素の回収を検討したりしたそうです。ところが、1939年に第二次世界大戦がはじまってしまい、当時唯一セレンを買ってくれそうだったヨーロッパへの輸送が途絶え、セレン回収計画は頓挫してしまいました。その後、地すべりで鉱山、鉱脈、鉱山への道のすべてが破壊されてしまいました。最近になり、パカハケ鉱山の記事(この文章の種本であることを告白しておきます。)がミネラロジカルレコードに載りましたが、当時の鉱脈は採掘と地すべりで失われ、記事の著者が発見した鉱化の程度の低い脈が唯一残されたセレン鉱物の脈だとのことです(行き着くのは死ぬほど大変だそうです。道もないので。。。)。つまり、もはや往時のようなペンローゼ鉱を豊富に含む鉱脈は存在せず、博物館やコレクターに流れた数少ないペンローゼ鉱が、世界に残されたすべての標本なのです。


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