若き石工の想い
 長岡市 星野紀子(新潟県石仏の会事務局長)

 石と向き合っている若干28歳の石工がいる。新潟県石仏の会会員でもあるSさんは旧神林村で石材店を営む父親と一緒に石工として働きながら、仕事の合間に、命、自然、癒し、愛情、やすらぎなどをテーマに石像を刻んでいる。
 彼が刻んだ石像には石の冷たさは微塵もない。むしろ、ほっとするようなぬくもりが伝わってくる。「生命の誕生」と命名された写真の石像も、愛くるしさと優しさが全体を包み込んでいる。
 かつて、先人たちが願いや祈りを込めて建立した石仏たちは、決して寡黙ではなかった。私たちの問いかけに必ず応えてくれた。Sさんの石像からも、彼が願ってきた想いが心の声となって発せられているようだ。こちらまで自然と微笑みたくなるその石仏には「いっぱいなでてね」とのメッセージが添えられていた。
 庶民の文化遺産である野の仏たちは権力の象徴ではなかった。当時を生きてきた民衆と同じ目線で地域の人々を見守ってきた。さわったり、なでたりしても罰を与えない、そればかりか、なでて、触れて・・・石仏と一体になることで、その心が伝わってくる。Sさんはそんな石仏本来のあり方をきちんと心得ている。石に向いながら、自然のうちにそうした想いを会得していったのかもしれない。
 「生命の誕生」にはこんなコメントが付けられている。
 「今の世の中は暗い出来事やニュースが大変多いです。親が子を殺したり、子が親を殺したり、戦争、差別、いじめ、自殺・・・・醜い出来事が本当に多いです。そんな世の中を見て、もっと人と人がお互いの存在を認め合い、譲り合い、助け合い、自分の命も他人の命も大事にできる世の中、人の心が優しさに満ち溢れた世の中になってほしいと思いました。この石仏はそんな気持ちを込めて刻みました。
 花の中から無垢な生命が生まれてくる、その生命をお地蔵様にして表し、お地蔵様の体には愛されて、喜ばれて生まれてきた証をハートで表しました。花には生命の誕生を祝福するような揚羽蝶(あげはちょう)を刻みました。
 生きとし生けるもの、全てが生命を大事にしてほしい、石像を刻むことを通してその想いを形にし、伝えていきたいです。」
 文章からも優しい人柄が感じられる彼にも、家業を継ぐまでには多少の紆余曲折があった。体調をくずして修行先の愛知県岡崎市から新潟の実家に戻るなどを経て現在がある。中途半端になりそうな自分の生き方の中で、両親の支え、特に父親との絆が支えになったという。
 無気力な若者が増えているように感じる今、石像を刻むときの想いを語るSさんのひたむきさがきらきらと輝いて心に強く響く。家族との絆の中でしっかりと自分を見つめている若き石工に、絆の大切さを教わったような気がする。
 愛されて、喜ばれて生まれてきた証―誰もがみなそうしてうまれてきたのだろうにと、石仏のハートに胸が熱くなる。現代の石仏を通して、家族のあり方が問われているのかもしれない。 

新石仏ものがたり105