■■もぐら選歌集■■
蚊遣りなれど、翅麻痺せしがゆゑに翔べぬ、でぶの蠅はし哀れなりけり。 もぐら
格好良くカクテル呑みて跳び込みて、プールの底にて頭打ちけり。 もぐら
小刻みにブレーキ掛くるおばちゃんの車怖しも、ベルト確かむ。 もぐら
夢を見るための入場券を買うための寝酒は、オールドとする。 もぐら
二十年前溢れゐし自転車は知らず、北京は排気ガス臭し。 もぐら
   
夢に見し人ならば着む紫の小袖も、うつつにあらぬ春かな。 もぐら
そ、とかほるたよりを知りて、昔ゐし人がことのみ思ほゆるかな。 もぐら
いづこよりか来たりていづこかへ翔ぶ鳥は、我が憧れに似たりとぞ思ふ。 もぐら
ただひとつ言の葉縒りて、繋ぐすべの無き思ひのみしたりけるかな。 もぐら
来む、と言ふひとことゆゑに胸騒ぐ、人のことばぞかなしかりける。 もぐら
てふてふの舞ひて迷ひて、三条の小路を深く消えにけるかな。 もぐら
夏の夜は明けやすくして、曙の紅染め衣着て東山。 もぐら
   
枇杷の実の黄ばみたるころ人を訪ふ、三月ばかりをえ見ざる人を。 もぐら
背徳、と謗るこころに、幾許のそねみのあるを知りにけるかな。 もぐら
思ふままに歌出だすとも、誰も読まず。読みて謗らばそのはうが良し。 もぐら
きみが漕ぐ笹舟なれど乗せてたべ、ただよふままなる世にゐるよりは。 もぐら
海峡の潮速くして、いづれとも知らぬ小舟は流るるままなり。 もぐら
ひとつ手をかたみに重ねて、きぬぎぬの秋の朝こそうつくしかりけれ。 もぐら
国府台里見の昔は知らねども、人恋ひ初めし川の霧かな。 もぐら
   
夢と言はば四季それぞれにあるものを、春ならばそれ曙の夢。 もぐら
古今集、枕に春のうたたねの中、寄り給ふ君はさて誰。 もぐら
ふるさとの家の裏手に鳴りし潮、今は道路の騒音となる。 もぐら
儚かりし恋のみ知れる身にしあれば、色とは春の濡るる雨なり。 もぐら
若かりし折には老いを思はざり。老いてはなほなほ若き思ふなり。 もぐら
人恋ひのままに過ぎにし五六月、南の方には雲沸き昇る。 もぐら
通し矢の通らぬほどに暮れ果てて、京の灯しは輝き初めぬ。 もぐら
生き別れせしはらからのゐるといふ、み寺の下の蝉は繁しも。 もぐら
新幹線より見る東寺の塔低く、天のみ高き酷暑なりけり。 もぐら
末は博士、大臣ならむ、と人は言へど、両方叶ひし家系見事なり。 もぐら
   
早蕨の生ひしを音にかき混ぜて、知らせざりける若草の瀧。 もぐら
ひとつ月をかたみに見むとはちぎれども、うつしみ隔つ波千里かな。 もぐら
恋ゆゑのこころの闇、と知るがごとく、み法の月は清らなりけり。 もぐら
人の世のなべて愚かにありとせば、人恋ふよすがもなくてあるべし。 もぐら
忘れむ、と言ひて忘れし人はなし。忘れじとても忘れぬ人無し。 もぐら
思はじ、と言ひしがゆゑに恋ひまさる人のこころは怪しかりけり。 もぐら
恋ふ人も厭ひし人も同じ人たるを、憂き世と人は言ふらむ。 もぐら
ひと恋の思ひ納めか、春雨の降るがごとくに降らぬごとくに。 もぐら
野に騒ぎ林に眠る鷺あまた。我また群れに入らむとすらむ。 もぐら
   
きのふよりけふへとつづく音ひとつ、耳の底にぞなほ残りゐる。 もぐら
ひたすらに秋待つ耳にはあらねども、沁み入るものは蝉の声かな。 もぐら
恋ふ人の声にはあらじな、秋告ぐるかそけき蝉の鳴く音なりけり。 もぐら
悪魔らしき顔する人は仏にて、仏顔して悪魔なりけり。 もぐら
明日は仏、鬼のいづれ、と思ふにも、今宵の闇は恐ろしかりけり。 もぐら
   
LとM、MとSとの中間のトマトは売れず。食べに来なして。 もぐら
寝台車なくなりければ、きのふよりけふへと旅することなくなりぬ。 もぐら
年取りて、角また取れて、こなごなの砂に砕けし我にてありけり。 もぐら
砂利砂利、と言はれ言はれて転がりて、いつしか苔蒸す巌なりけり。 もぐら
雨脚の速まりたれば、負けじ、とて、必死に漕げどずっぽり濡れたり。 もぐら
   
郭公の此処来い来いと聴こえきて、山路やうやく峠越えけり。 もぐら
青冷のロンドンゆゑに咲きしならむ、キューの奥には石楠花の咲く。 もぐら
四五片のうち重なりて、水無月の牡丹の頃は過ぎにけるかな。 もぐら
しばらくは梅雨篭りとて家にゐむ。稼ぎ忘れし老いにしあれば。 もぐら
長々と立ちくたびれて、地下鉄の地上に出でしが嬉しかりけり。 もぐら
月に寄せ、花にも寄せて子を思ふ親のこころはかなしかりけり。 もぐら
人あはれ、子ゆゑあはれ、と思ふにも我産み給ひける親はたふとし。 もぐら
人として命忘るることしあるも親は忘れず。親有り難し。 もぐら
なにゆゑに我生れたるか知りたくはなし。ただひたすら親の恩なり。 もぐら
   
人恋ふるゆゑにはあらじ、と思へども灯に入るばかりの虫の身ぞ憂き。 もぐら
宇宙、とふ巨大なる壺にゐて、我ら永遠無窮を論じゐるかも。 もぐら
人恋ひは儚きなり、といにしへゆ言ふとも我また同じき嘆きす。 もぐら
ほうたるの此処にかしこに翔びかひてゐる内、母が御霊もあらむ。 もぐら
吾妹子が否とのみ言ふ猪名野なる宿へ、と往なむすべのあらまし。 もぐら
折り返し折り返しとて還暦の祝ひ、後半棄権したしも。 もぐら
エビがにを二三、袋に入れ持ちて、いっぱし漁師の幼子ありけり。 もぐら
   
国鉄の隠し資産のひとつなる武蔵野南線、乗りしこと無し。 もぐら
喰ふべきのもののなければ、膝を折りて芋恵まれし頃もありけり。 もぐら
村雨、と言ふほどならねど、ロンドンの道を濡らして秋は明けけり。 もぐら
牝猫は人を恋ふことあり、と言へど、牡猫、人を妻とせむにや。 もぐら
月世界には露などは無し、といへど、地球の露は月宿したり。 もぐら
   
せうも無き人とゐてする家事万端、せうもなしとぞ思ひけるかな。 もぐら
マスクするは迷信なり、とテレビ言へば、地下鉄ひとりもする人の無し。 もぐら
翁、はっ、と睨みてあれば、蝉どもは鳴く声止めたる山の寺かな。 もぐら
千幾段登りし人を嗤ふごとく、蝉どもせせらせせらと鳴くなり。 もぐら
駅ナカに喰ひ物いろいろ売りをりて、駅弁のみなりし昔偲ばゆ。 もぐら
しづしづと降り来る雨に濡れゐるがごとくに、合歓は笑みゐたりけり。 もぐら
   
あはれとはけふのことぞと思ひしが、なほ果てやらぬ秋の暮れ方。 もぐら
もの思ひはきのふばかりとなりにければ、秋たつ風の舟を待つかな。 もぐら
見果てむ、のこころ無くして、けふもまた散り行く花に恋ひわたるかな。 もぐら
   
児の内は風呂嫌ひにてあらむとも、長じて温泉マニアとなるべし。 もぐら
ひとつ湯に菖蒲の葉っぱも茹だりゐて、だし取られたる鳥がらひとつ。 もぐら
マンションの二十五階は不思議なり。テポドン翔び行くさへもえ見たり。 もぐら
乗客数二倍となるこそめでたけれ、東京乗り入れ近しとぞ言ふ。 もぐら
秋葉にて呑むには始発は便利なり。東京始発は穏やかならず。 もぐら
   
少女ゆゑの恋拙なきを、黒髪に挿す白梅の香に知り給へ。 もぐら
この音は、この琴柱は、とまさぐりて、まだ見ぬ秋の音を知りけり。 もぐら
ひたひたともの思ひ寄するごとくして、ささと退きぬる潮にてありけり。 もぐら
白百合をひともと手向けて、人は今何処に漂ひゐるかは知らず。 もぐら
秋風の凄きがままに、琴の音もあらぬ方へと翔び行くなりけり。 もぐら
思ふまま、恋ふままなりける年月もやがて果つべき秋の暮かな。 もぐら
ひた恋ひにひた恋ひぬれば、山路なる白百合さへも恋ひしかりけり。 もぐら
思ふことを文に書き書き書き行けど、書きたる先より溶け行く如し。 もぐら
百千の灯りを去りて、木屋町の六条わたりの闇に溶けたり。 もぐら
つひに咲くことなき蕾、と思ひつつ、京なほ浅き春の街行く。 もぐら
もの思ふこと無き人こそ悲しけれ、古きを古し古しとのみ言ふ。 もぐら
思ひ給ふ人がこころにいらへむのこころも無くて、歌ひとつ出づ。 もぐら
   
プチトマト、かわゆけれども皮固く紅くて、味なほ青くありけり。 もぐら
アロエのほか喰ふものの無き島さびに溶け入る、流人の我しゐるなり。 もぐら
星の数ほどは無かりし星砂を、盗り尽くす人ゐて島あはれ。 もぐら
さらさら、と音して星砂砕かれつ。無数の希望の毀たれし如。 もぐら
格好よき正義は即ち正義にはあれど、多少の傲慢もあり。 もぐら
耳鳴りの絶えずしあれば、耳鼻科医に、聞きたくなきこと何か、と問はる。 もぐら
どふせ濡るるならば濡るるがままにあらむ、カッパ忘れし天草一周。 もぐら
確か人の気配のありしに訪ふは無し。定めて狐狸の仕業なるべし。 もぐら
   
さくらづくし弁当買ひて開けてみれば、紅ひとひらのほかは塩のみ。 もぐら
自動的に開く扉は自動的に閉づるを知らず、ボタンひた押す。 もぐら
もの思ひのあまりに、白き人が肌の温きまさぐる我が手ありけり。 もぐら
さらじとは思ひはすれど、柔肌の白きがままにけふは融けなむ。 もぐら
けふ、と言ふ不幸を忘れゐたりけり。明日幸福、と言ふにあらねど。 もぐら
じんじんと沸くごとくして桜降る。人たる我は瀧のごとく呑む。 もぐら
恋ひごころ知りしは幾十年の昔。今なほ人恋ふ心変らず。 もぐら
江坂より千里丘陵分け入らむと、御堂筋線車内明るし。 もぐら
蛤の吸物ひたすら生臭く、雛の節句は腹減りにけり。 もぐら
追加募集かけませうか、と係員言ふほど、教室淋しくなりたり。 もぐら
宿題を一杯出せしが先生の悪評判のもとなり、と言ふ。 もぐら
   
自動的に閉ぢむ扉も、せねばならぬ、として、おばちゃんボタン押すなり。 もぐら
戸閉ボタン押せども行き先ボタン押さず。敵は困りてぴくりともせず。 もぐら
けふはけふ、あすはあす来る春あらむ、動かぬ時にはあらじと思へど。 もぐら
好き勝手暮すに不満は無けれども、その資金には不足ありけり。 もぐら
好き勝手暮らすとふこと淋しかり。文句言ひ給ふ人し無ければ。 もぐら
いつのころより立ち給ひしか知らぬ仏、帰らじの道にゐ給ふ。 もぐら
何回かつっころびければ、知らぬ間に道産子の脚の運びとなりけり。 もぐら
知らぬ間に見ぬ間に闇は明けたり、と病む気の去らぬ我し思ふも。 もぐら
ちょっと前まで青かりし病室の高窓、今はくれなゐ染みたり。 もぐら
ナイフ持つを、何か賢きことのやうに思ひゐる人、なべて危ふし。 もぐら
しばらくの一人を贅と思ひゐむ、やがては永遠とならむとすとも。 もぐら
   
来むと言ひしゆゑにささずもありしかど、露置くままの朝の真木の戸。 もぐら
こころだに寄するすべさへ波の音に、海士もい寝しや、与謝の入り海。 もぐら
くれなゐにまさる色とふものは無し、恋とふものに色のしなくば。 もぐら
言の葉のありとあらじと散り出でて、夕暮、人は秋と言ふめり。 もぐら
思ひわび、まかぬ枕に白露の置き初めにける秋の暁。 もぐら
世は移り人変るとも、憂きことは儚きままにふり積もるなり。 もぐら
水茎の行方もしらで、かひなしの文のあやめは分かずなりたり。 もぐら
産着なりし頃の写真の、くしゃくしゃとなりて、箪笥の底にありたり。 もぐら
なほも明けぬ峠を越え越え知らぬ里へ入りし、と思へば白梅の花。 もぐら
きのふよりけふへと越えしうつし世の峠、ひとつになほも生きたり。 もぐら
   
廃線や軍需工場など、現代の遺産の多き三鷹界隈。 もぐら
群れゐしの内運悪き、結核となりてし頃の天才なりけり。 もぐら
知り人か知らぬ人かの区別なき年となりける、歳暮の渋谷。 もぐら
レーダーならもっと遠くを見得べし、と。光と同様電磁波なりけり。 もぐら
踏まれつけし猫は、今更飼ひ主の某ピアニスト怨むともなし。 もぐら
突然のリストに怯えし子猫あはれ、ピアノの弦に小用して逃ぐ。 もぐら
最近の無駄なる知識を持たぬことを、老いたるものの徳とするなり。 もぐら
我と猫とふたつ並びて歩みをれど、我は腹減り、猫は満腹。 もぐら
最敬礼せしかば、負ひたるみどり児のすっぽり抜けて前へ墜ちたり。 もぐら
ほのぼのと湯気を立てゐる糞二三、い出して馬は橇曳きて行く。 もぐら
中標津行きの最終往にたれば、線路は明日まで凍て付きてゐむ。 もぐら
父が声の聴こゆるごとくして、なほも耳底にあるけふ三三忌。 もぐら
   
デパートの包みにあらで、手づくりの箱には母様へなどと書きたり。 もぐら
拙なかりし人つくりたる世がゆゑに、残さむ世また拙なかるべし。 もぐら
良きにつけ、悪しきにつけて、夢ゆめ、と思ひ為さむとふ人ぞ拙なき。 もぐら
   
せずもよき人ばかりするダイエット。せねばならぬ人絶対にせず。 もぐら
花は花、花は花とぞ思ひゐしに、けふより空は皐月なりけり。 もぐら
円高は黒雲嵐か慈雨なるか、種蒔く人の心がけ次第。 もぐら
所持金は合計五十五円ゆゑ、コンビニ残飯あさるのほか無し。 もぐら
もの忘れもの忘れして残りたるものはしひとつ、親の恩なり。 もぐら
残りにし歯を大切にたいせつに、喜寿より傘寿へ到らむとす。 もぐら
永き世を残り給ひしが嬉しくて、きのふよりけふ、と恋ひまさりけり。 もぐら
残す世に残らむ人こそ悲しけれ、残すものとて無き身がゆゑに。 もぐら
   
きのふまで馴れにし八重のさくら花、けふより五月の青を思はむ。 もぐら
儚し、とのみ思ひゐる人の世がゆゑにか、散らふ花は美し。 もぐら
なみだしてきのふは夢と言ふがごとく、さくらの散るふ春の宵かな。 もぐら
仙たらぬ身ゆゑに恋ひしき春の雪、人もし知らば融けて消ゆるまで。 もぐら
この春は、飛ぶ虫の数少なくて、花の色香も虚しかりけり。 もぐら
軽油価格思ひしほどには下がらず、と。鯵捕る漁夫は嘆くなりけり。 もぐら
木造の駅なつかしや。みやこにては、撮影せむとふ写鉄多かり。 もぐら
   
ひとしきり花を濡らして往にけるは、物思ひ浅き春の雨なり。 もぐら
木造の鉄道駅こそかなしけれ、人はゐずして鬼のみぞゐる。 もぐら
五月雨の来むをし知らで、暁の雲の動きにときめきにけり。 もぐら
此処よりは神しろしめす空なり、といふ色の花、稜線にあり。 もぐら
田に水を張る頃を知る蛙どの、ひそかにボイストレーニングしゐる。 もぐら
田の草を取らむとすれば、恋忘れしにけむ蟾蜍ののそりと出でたり。 もぐら
あはれとて思ひしものを、水無月の暁ばかり恋ひ渡るかな。 もぐら
   
見ぬ人をひたすら見じ、と言ひしことの儚なはかなや、秋果てにけり。 もぐら
塩の無きものはメートル上がるなり。神谷のコックさすが、としぞ思ふ。 もぐら
ランチ作るコックはバーには向かぬなり。塩入れ過ぎて売り上げ下がる。 もぐら
老いてなほ酔ふをし得るを、人生の余録なり、とて嬉しとぞ思ふ。 もぐら
   
吉か凶か知らねど憂き世の輪をくぐり、くぐりて七十度を経にけり。 もぐら
茅の輪ひとつひとつ、とくぐり、あと幾つくぐらばあの世へ行かむか、と思ふ。 もぐら
幸いに端渓がらぬ主ゐし、宿屋にゐたりし新任の頃。 もぐら
宿屋ゆゑ、天扶羅そばなど出るはずもなくて、無聊の夕食なりけり。 もぐら
青すだれ越しの流れは清けれど、勘定書は恐ろしかりけり。 もぐら
継ぎ継ぎのあまりに原型を留めず、となりける足袋を今朝もまた穿く。 もぐら
しゃっきりと帯締めたれど、なほも出るをためらひにける午後の暑さは。 もぐら
少々の用などその内、なになにと言ひやりにける暑さなりけり。 もぐら
   
破れ兜冠りし大将、今どこに如何なる夢を見ゐるか知らず。 もぐら
山河あれど秋草なべて露置きて、亡びし邦こそあはれなりけれ。 もぐら
見合ひとて来し座敷には、一輪の花また万緑に埋みてありけり。 もぐら
何処より出でしか知らず蝙蝠のひとひら、運河の夜を呼びけり。 もぐら
殺すにはあらず、翅をし麻痺させてしまふ線香あはれなりけり。 もぐら
伝統の鵜飼見物良けれども、勘定誰が払ふか知らず。 もぐら
鵜飼済み、あとカラオケと誘はるる身はし鵜なりと思ひけるかな。 もぐら
此処かしこ徘徊めきて歩み来れば、陸奥わたりは田植ゑ頃なり。 もぐら
就職の十分条件ならずして、必要条件に過ぎぬ大学。 もぐら
   
ありしことのありしばかりに、ながらへて儚きけふの月を見しかな。 もぐら
思ふゆゑも泣くゆゑもまた絶え果てて、風のみすがしき秋の夕暮。 もぐら
恨みじ、の言の葉ばかり迷ひ出でて、けふ忘られて秋の風吹く。 もぐら
もの忘れ繁きの笹に置く露に、儚き袖の濡れやするらむ。 もぐら
ひとときの五月の空は憎かりき、笠さへかさぬ山吹の花。 もぐら
濡れしゆゑを人に言ふさへ儚くて、雨降りそぼつ春の曙。 もぐら
袖に置く白露、ゆゑだになかりければ、ただ憂き世ぞ、と思ふまでなり。 もぐら
待ち兼ねていざや寝むかと思ふとき、柴折戸叩く人は憎しも。 もぐら
言ふすべのなかりしことのみひたすらに思ひ思ほゆ、秋の夕暮。 もぐら
のちの世にあるべき命と知らねばか、人のことのみ思ほゆるなり。 もぐら
人の世の儚きことは、なべて知りたりけりとても往に果つること。 もぐら
   
思ふこと思ひしことはきのふばかり、明日はし思はむ身さへ無からむ。 もぐら
夢とのみ思ひし夢は夢として、なほ夢見たき春の宵かな。 もぐら
もの思ふことのし無きに、何ゆゑか露のみしろき秋のあけぼの。 もぐら
言ひしことも言ふべきこともかひ無くて、もの思ひのみはすべ無かりけり。 もぐら
きのふまで照らずありけるいざよひの月さへ、行方はえ知らずなりたり。 もぐら
人声のすなり、と思へば、ふくろふの聴くだに憎き声を立てゐる。 もぐら
   
おしどりにさへも霜置く宵なれば、ひとり寝、まして凄き山里。 もぐら
来む、と言ひて宵もやうやく更けぬるを、我が身の絶ゆるがごとくに思ほゆ。 もぐら
尽きじとて、尽きむとするが玉の緒の悲しき定めと思ひけるかな。 もぐら
きのふより夢とうつつと縺れきて、あやめも分かぬ五月闇なり。 もぐら
憂しと思ひ悲しと思ふ現世を、夢ぞと流さむすべなかりけり。 もぐら
みほとけがまま、と思へば、あるがままにありてこの世を過ぐさむと思ふ。 もぐら
人恋の果てに人恋ふ人といふものあさましき、後の世もまた。 もぐら
   
百均にて手頃のバッグがいろいろと買へるやうになり、乱雑増したり。 もぐら
ちゃんちゃんこなどは呉れねど、一応は祝ひてくるる内孫外孫。 もぐら
普通にも2000系使ふこともあり、車中ネットは便利となれり。 もぐら
パソコンに向かへば短き二十分、通ひて実効二分なりけり。 もぐら
   
こころ残り、などとふ砂の穴ありて、ついつい虫の餌食となりけり。 もぐら
避雷針、フランクリンよりの迷信、と。天才言へど一般人聞かず。 もぐら
夫食はず子等食はずとも我は食ふ。我食ひ旨きを作るなりけり。 もぐら
残飯の整理なりける一人ゐの昼飯、余れば三毛を呼ぶなり。 もぐら
納経料おさめて、しばらく仏縁に繋がりたるを喜びにけり。 もぐら
マンションの五階の窓に降り来る春雷どのの温きとどろき。 もぐら
   
いつか人演歌を忘れ、その音はブラ四のみに名を残すなり。 もぐら
往にし人のお小言ばかり浮かび来て、呑みても呑みても酔ふことなかりき。 もぐら
配達日指定、とあれど門内は気配すら無く、犬吠ゆるのみ。 もぐら
婚活に破れし猫の春の日は、にゃあとも鳴かずのたりをるなり。 もぐら
就活に破れて我は野良となり、婚活しくじりふて寝するなり。 もぐら
残すべきものはと雖、四ギガのDVDにすべて入るべし。 もぐら
   
きのふまでありける花と思へども、けふ現世は青葉のみなり。 もぐら
ねこまたぎなりしを、人はうまさうに食ひゐる。多少のお世辞なるべし。 もぐら
猫、にゃおと鳴く、とは実はうおおーっと咆哮しゐるを、人はえ知らず。 もぐら
ライオンの直系眷属たる猫は、人はお猿のなれの果て、と言ふ。 もぐら
コンビニの弁当確かに安けれど、値段の割にはまずしとぞ思ふ。 もぐら
楽器高きゆゑにか必死にバイトする弦楽科生、あはれなりけり。 もぐら
親も子も自宅待機と休校となりたる我が家、ヴィールスに満つ。 もぐら
   
埋葬は拒否すとふ村役人ら。我が骨、都会の無縁仏たらむ。 もぐら
物食ふは極楽至極、と思ひゐし最後の世代も、七十代なり。 もぐら
旅行とは飛行機に乗り、点から点、なり、とふ単線思考増えたり。 もぐら
余計なるお世話する人多けれど、それを嘆くが老いにてあるらし。 もぐら
我が家の墓地がことをしぼちぼち、と。永遠の眠りはまだまだ先なり。 もぐら
あっさり、と死んぢまえ、とは売り声のままにはならず、なほも頑張る。 もぐら
   
みかん山より手を振りし、あこがれのハワイ航路はつひに無かりき。 もぐら
一杯のワインに人と酔ふを得で、なほウォトカに酔はむ、とすなり。 もぐら
酒を呑むすべをししらぬ人とゐて、その不作法に倦みにけるかな。 もぐら
結局はすべなかりける恋がことを知りゐしならむ、白梅散りたり。 もぐら
戒名の、お布施の、納骨がことなど、思ひ多くして往にし人忘る。 もぐら
豚フルも、もとはと言へば、猪を撃ち損じたる呪ひなるべし。 もぐら
   
宙返りしゐるは兎にあらずして、某勇敢なる体操選手、と。 もぐら
背丈ばかり延びて、志望もさだまらぬ、独活の行く末こころもとなし。 もぐら
白寿までゐたし、と思へど、どうなるか。大して変らぬ世ならむといへど。 もぐら
無人駅、とふは人間来てはならぬ、と聞こゆなり。鉄道寂る。 もぐら
あちらこちら高速道路を渡り歩く、阿修羅像はしあはれなりけり。 もぐら
委員中横車押す人ひとりゐて、夜食を取るとふこととなりたり。 もぐら
やうやくに立つを覚えしころの子をみて、我如何にして立ちしか、忘る。 もぐら
湯に浸かり萬象深奥あぐねゐれば、木陰に小猿の嗤ふなりけり。 もぐら
   
伊吹越えの風吹き通る伊勢湾口、三角四角に波立ち騒ぐ。 もぐら
今もなほ渋谷駅頭、忠義顔忘れぬ犬が人待ち顔す。 もぐら
錦帯橋、登りて渡り、降りて渡る。何ゆゑ板を渡さざりしか。 もぐら
信仰心篤しがゆゑより、人づきあひ良きを総代と頼むなりけり。 もぐら
電線のありたる空間、今はただスーパー看板のみ目立つなり。 もぐら
スーパーでビール買ひ運ぶは面倒、と赤提灯ののれん潜りつ。 もぐら
関東に共通語あるがごとくして、関西共通語とふあるなり。 もぐら
俳諧にあぐねあぐねて浅草の、六区、ウィンズ、花屋敷巡る。 もぐら
   
葱背負ふ無き鴨どもの集ひきて、予算はいささかオーバーしにけり。 もぐら
そもガラス、水に弱し、とは真理なり。まして華奢なるワイングラスは。 もぐら
きのふ呑みしワインの酔ひのなほもありて、けふ花曇り、と外へ出でずも。 もぐら
今とふをひたすらうつつ、と言ひなして、夢にてありしきのふとは何。 もぐら
思ふことなかりしきのふを夢となして、露置くけふをうつつとぞ見む。 もぐら
十二歳より年取らず、現代を三つ昔前と同じとぞ思ふ。 もぐら
カリスマは所詮カリスマたるに尽き、バブル終らば人に忘らる。 もぐら
逢ひし、とは別るることとは思へども、身の割かるるは悲しかりけり。 もぐら
グラスひとつひたすら透明にして、そらの蒼きを白きワインもて見るも。 もぐら
ゐ給ひし母を思へば、紫の色の桔梗の花ぞ恋しき。 もぐら
ここらまで登ればビルの屋根越しに富士見ゆるなり、と腰伸ばしけり。 もぐら
忠ねこ、といふはあらねば、ひたすらに背を丸めつつ空寝するなり。 もぐら
   
けふは良き日なり、と梅え酒酌み交はす、ふた親。我はお邪魔なるらし。 もぐら
夜勤明け。今後はずっと夜勤明け。すがすがしけれど腹は減るなり。 もぐら
風呂の底を掻き回したれば、あら不思議。電線付きたる目の玉ありけり。 もぐら
安全も水また高価となりにける現代、若者水をし買ふも。 もぐら
   
きのふ生れたりとふ兎の仔を二三、抱きて春は来たり、と思ふも。 もぐら
猫の仔を抱かむ、とすれば親猫に唸られにけり。我は取らずも。 もぐら
調理家電、おしゃべりのみの多くして、使ひにくきことこの上なかり。 もぐら
某々大、無事受かりし、と姪が電話。進学祝を呉れ、にしあるべし。 もぐら
三すくみゆゑになりたつ拳とふもの。三角形より、と似たりけるかな。 もぐら
各論はあれども総論の無き恋といふもの、人に教ふるを得ず。 もぐら
もの憂し、と人に思はれ、ひたすらに風に散りゆくさくら花かな。 もぐら
   
絵姿に幾夜寝覚めぬ思ひせし。義清どのの春の曙。 もぐら
麦を打つ男にお世辞を言ひ言ひて、飯ありつかむとふ下心あり。 もぐら
我が路銀少なくなりて、犬餌の残飯にさへまなこ向きけり。 もぐら
幾十年前の元彼、なにとやら理事長となり、逮捕されつ、と。 もぐら
くれなゐの散りゆくままに、清滝のふたりの何やら散りしとぞ思ふ。 もぐら
富士が嶺のなほも白きを恨みにて、甲斐も駿河も若葉なりけり。 もぐら
やうやくに人声絶えて、祭りしゐし境内蒼き月ばかりなり。 もぐら
からころ、と嬉しきことのありしならむ、浴衣の裾の歩み行く見ゆ。 もぐら
御手打の、串刺しなどと物騒を言はれしかども、なほ夫婦なり。 もぐら
衣装箪笥半分ほどの中身持ちて嫁したる娘よ、少しは返せ。 もぐら
嫁ぎ上手、貰ひ上手の娘ゆゑ、箪笥の中身のあらかたは無し。 もぐら
人知らで牡丹知る、とふ酣の春はし、やうやく庭に来しかな。 もぐら
   
ささがに、と名はゆかしくて、早立ちの我をし捕らへからみ付くなり。 もぐら
猫の仔のひとり長々と延びゐるを、親の三毛はし不審げに見つ。 もぐら
踏まれつけし猫はしピアニスト見れば、毛を逆立てて唸るなりけり。 もぐら
人嫌ふ木の香森の香、我が好むことをし嬉しと思ひけるかな。 もぐら
農鳥の嶺仰ぎつつ、今年また苗取ることに忙しくなれり。 もぐら
天の宇受女らしきが岩戸のそばにをれど、神楽もなくて、脱ぐ気配なし。 もぐら
   
救急車救急車とのみののしれど、どなたも呼びて呉るる気配なし。 もぐら
悪しき夢ばかり見たり、と起きし朝は喉より多くの痰出でにけり。 もぐら
みやこには人多ければ、風邪ヴィールスもまた多し、と思ひけるかな。 もぐら
児らは花を見ずにそこらを走り回る。母親また見ず弁当のみ食ふ。 もぐら
裏蓋はゆゑをし知らず開きたり。昔のカメラの自然さは良し。 もぐら
幾百年変ることなく輝ける、若葉の光はたふとかりけり。 もぐら
   
せうもなきビル風ゆゑに、あてどなくさまよひ歩く花びらなりけり。 もぐら
散り果てて青葉若葉となりにける、けふの光はまぶしかりけり。 もぐら
きのふ呑みしワインは限界超えゐたり。水、水、水、と苦しき明け方。 もぐら
しづしづと若水汲みゐし古ポンプ、今朝よりはたりと把手折れにけり。 もぐら
きのふとふナウシカ谷に流れ行きし水はし、巨神兵の骸か。 もぐら
   
呑むことのなかりしきのふはきのふとして、けふはし明日を呑まむとぞ思ふ。 もぐら
美しき世ばかりならず、と思ふゆゑに、けふ呑むワインの一杯旨しも。 もぐら
このあたり来れば、人間自然とも不思議不思議の日南南郷。 もぐら
進化して生まれたりける人間と雖、進化を好むにはあらず。 もぐら
人しもし複線思考に生きてあらば、寿命は二倍三倍ならむを。 もぐら
就活に破れ、婚活つまづきて、生活立たず。復活を待つ。 もぐら
部活時の友今就活共に動く。婚活をなさば共にあらむか。 もぐら
   
さくら散りしきのふはけふになし難し、応ふる春の神のしなければ。 もぐら
きのふよりのたより持ち来しさくら花、伝へ終へつ、とけふは散るらむ。 もぐら
けふはけふ、きのふはきのふと思ふにも、ひたすら雪の朝ぞ悲しき。 もぐら
宗匠の徘徊し給ひし細道を、あらあらたふと、と人は言ふなり。 もぐら
酔ふに良く思ふに楽しき、浅草の電気ブランはさつき晴なり。 もぐら
   
ちかごろは恨み心の増さるるを、契りしゆゑと思ひけるかな。 もぐら
紫のいろと知らるな、人知れず佳き言の葉をつづり出づるとき。 もぐら
思ひ給ひしことの今ぞ思はるる、ありにし人のあらずなるとき。 もぐら
涙さへ涸れたりけり、と思ふにも、人の儚きこと限り無し。 もぐら
流し流し涸れたりけり、と思へども、なほも尽きぬは涙なりけり。 もぐら
恃むべき由もしなければ、きのふけふ降らふままなる庭の雪かな。 もぐら
思はじ、と思ふ人ゆゑ、更け行けど炎の如き宵にぞありける。 もぐら
   
きのふまでかたみに思ひ思ひしゐし人ゆゑ、けふの朝は悲しも。 もぐら
嘆く由もまして怨むの由もなくて、月にぞ袖は濡れにけるかな。 もぐら
凝り凝りて巌となりける我が身さへ、何処と知らず涙出づるなり。 もぐら
しくしくの鳴く音は今朝も聞こえけり、待つにし馴れぬ暁の鳥。 もぐら
みちのくに勿来の関のなかりせば、遠きを厭ふ人やあるべき。 もぐら
逢ふ身とて儚けれども、逢ふ坂を越えしあふみは瀬田の唐橋。 もぐら
今宵とは夢なりけり、と手枕の露のし繁き秋のあけがた。 もぐら
去り難てにしゐしばかりに春がすみ、行方も知らぬ道閉ざすなり。 もぐら
萌え萌えしこころのままに人を恋ふ。若草ゆゑの春にしあるらし。 もぐら
   
黄水仙、群れ咲きゐるを喜びて、しばしの老いの春としぞ思ふ。 もぐら
菜の花に、水仙、臘梅咲き揃ひ、春はし黄色の花ぞ多かる。 もぐら
新学期ゆゑに、しばらく学生ののびのびしたる顔を見るかな。 もぐら
山奥の杉の林に花粉あれど花粉症なく、大都会にあり。 もぐら
温き風吹きそめにける四月より、日本、湿潤の夏に入るなり。 もぐら
遠霞立ちゐる嶺より吹く風に、里は春とぞ知られぬるかな。 もぐら
古き里の古き寺には八重さくら、咲く日は仏も笑み給ふべし。 もぐら
   
晩霜の警報ありて、夕暮の空はひたすら蒼くしありけり。 もぐら
春霞、分析すれば排気ガス。花粉症多き季節なりけり。 もぐら
津島家の旧居も花に埋もれゐむ、津軽の南の風を慶ぶ。 もぐら
病みゐるもすこやかなるも人の人、人の世なり、と思ひけるかな。 もぐら
天井のみ見つつ過ごせし病床に、いづこと知らずさくらひとひら。 もぐら
悪しき夢のみ見続けし曙に、再び光のあるぞ嬉しき。 もぐら
知らぬ間に五里行きけり、とたんぽぽの花の色にぞ日暮れ知りける。 もぐら
ふるさとに降るとふ春雨如何ならむ。銀座の雨に濡れつつ思ふ。 もぐら
   
五十回忌はたうに超え、去年ことし忘れをれども、母は母なり。 もぐら
八重咲きの桜に、けふは酣、と春の気満ちゐることをし言祝ぐ。 もぐら
七重八重匂へる奈良のみやこなれば、故郷遠く来しを忘れつ。 もぐら
土筆消えてすぎなの生ふるを、生命の不思議、と識りし幼きの頃。 もぐら
藤波の知らず山にも寄せ来たり、頂ちかくしぶき散るなり。 もぐら
幹高く攀ぢむとしゐる藤の樹を棚に作りて、不自然、となす。 もぐら
ひとひらの淡雪ありて、老農夫春遅かるをかこちをりけり。 もぐら
一面の雪かと思へば芝ざくら、ほのかの紅ゆゑ見分くるなりけり。 もぐら
桜咲きしころは何時か、と思ふほど四辺近辺青葉なりけり。 もぐら
   
藤波の此処にかしこに寄せ来るを、伏木の里の春としにけり。 もぐら
八重桜みてこのやうなる薔薇ありし、と。桜もやはり薔薇科なりけり。 もぐら
きっと狐そばは今なほ三十円ならむ、と通ひし蕎麦や思ほゆ。 もぐら
情熱、とふ名の唐辛子まぶしつつ、大盛きつねをかきこみにけり。 もぐら
此処もみどり、彼処も青葉、とひとごとも我がこともまた春は酣。 もぐら
呑みて喰ひ、呑みてまた喰ふ札幌の北の空には、紅き星あり。 もぐら
売れぬ売れぬ、と歎く社長よ、世の中に要らぬもののみ作りしならずや。 もぐら
幸ひに入社したらば、社長たれ。不況にめげぬ、ましなる社長に。 もぐら
   
十二歳より年とらず八めぐり、ひいなの年をも超えにけるかな。 もぐら
なんとやら症候群とて、我に依存しゐるアラフォー息子如何にせむ。 もぐら
春風のままに流鉄乗りゆけば、現世厳しくクーラー入りたり。 もぐら
   
四日前よりゐつきたる公園の、廻りの飲食店の憎しも。 もぐら
深夜勤より日勤と変りたる、月曜の朝の光のまぶしさ。 もぐら
こん狐さへ叱られてをらずなりぬ。世の中なべて成果主義なり。 もぐら
老眼鏡湯気付きたれば、何も見えず。隣はご婦人露天風呂、とふに。 もぐら
早すぎて腐ってしまふ、と恐ろしき神童どものなれの果てかな。 もぐら
貶すとももてはやすとも、神童のはうには迷惑のみとしぞ思ふ。 もぐら
土左衛門どのに一献手向けては、花川戸より吉原へ入る。 もぐら
ラヴェル、リスト、土瓶敷らが、噴水はおらが発明と争ひにけり。 もぐら
水で良し、湯でもまた良し、割らずともなほ良き琉球古酒にてありけり。 もぐら
酔ひごころある人と呑む酒旨し。もの言ひあふに融くる心地して。 もぐら
一本のペットのお茶にて正気もどる、程度の酔ひにてあらましものを。 もぐら
世のなべて回転モーメント忘れしかば、クレーン車どすんと倒れたるなり。 もぐら
専門家、とふ人もまた、荷重とのみ言ひて、回転モーメントを知らず。 もぐら
   
ねこ咥へ来たりし箱に、なにや知らず海苔とひじきと干し大根あり。 もぐら
人間の気質をなべて心得て、子猫は親となるにしあるらし。 もぐら
一瞬のみ存在したりけるフェリーなれど、ターミナルビル立派なりけり。 もぐら
銀行馬券とふものを買ひ買ひて、儲けあるものか誰も言はずも。 もぐら
行きは満ち、帰りは痩せたる三日月は、故郷恋ふるこころとしぞ思ふ。 もぐら
腹減りて、一日徒労に果てたり、と嘆くころまた三日月痩せゐる。 もぐら
しづしづと蕾濡れゐるあけぼのは、明日来む春を思ふなりけり。 もぐら
蝋燭と電灯のいづれエコか知らず。おそらく電灯がエコ、と思ふが。 もぐら
生きて生きて逢ひたき人にもすべて逢ひて、彼の岸にては誰と逢はなむ。 もぐら
軟庭に軟式野球に卓球、とこころのやわき倭人はも。 もぐら
軟庭に凝りしがゆゑの軟骨のトラブル。長生きするはむつかし。 もぐら
三色の下着も乾かぬ梅雨空に、三色すみれもまた濡れゐたり。 もぐら
むかふより来しおばちゃんは、我が詐欺の被害者ならむ、と思へど、知らず。 もぐら
   
白百合を窓際に活け、お大事に、とのみを言ひて病室を去る。 もぐら
来むと言ひし人は来ずして、しらゆきのさんざとばかり訪ひにけり。 もぐら
参り来る人の跡さへ見えぬまま、山かげ墓地は彼岸過ぎたり。 もぐら
うつし世の変りやうなきゆゑか知らず、月はしきのふのゆめを見ゐたり。 もぐら
スタインウェイ反射せざるに、ヤマハピアノひたすらテカテカ光るなりけり。 もぐら
三十分歩けば端から端に到る、方向音痴に波照間は良し。 もぐら
雨は来ぬ。しばらくぶりの春の雨。さくらも、良し、と散り行きぬべし。 もぐら
暁のそら白々と明けぬるを、谷間の底にて知る由も無し。 もぐら
神武ゐます神宮拝して、芋焼酎お湯割として夜は更けにけり。 もぐら
人恋ひの夢ばかりみて、きのふより白きころもは街を覆ひぬ。 もぐら
温き酒ばかり思ひて越す峠、今年はこれにて暮れ行かむかも、 もぐら
対称の、破綻がどうの、と言葉ばかり人寄せをする文系物理。 もぐら
63系より72系へと改善す。僅かの改良、事故根絶す。 もぐら
やさしさの極みの如く、紅つばき、きのふの雨にぽとり落ちけり。 もぐら
   
本船の航跡遠く置き去り、となりたるおばちゃんチューリップ帽はも。 もぐら
きのふより貫き通るさびしさは、明日無き我を串刺しとなす。 もぐら
くれなゐの八重のさくらは恋ほしかり、往にける母の恋ひし花ゆゑ。 もぐら
母はそも何にありしか知らぬまま、今年花咲き我母となる。 もぐら
蓴菜のひたすら濁る池の端、昔は幽霊出たりけりとふ。 もぐら
首吊りのありしなり、とふ裏小路、垣根の樒の色は蒼かり。 もぐら
祖父の祖父のそのまた祖父の古時計、けふは再び忘らえにけり。 もぐら
一秒に一円に過ぎぬ税なりとも、払ふつもり無き経営者はも。 もぐら
またたびを植えて育てて猫寄せむ、と思ひしかども、彼らは寄らず。 もぐら
コザの街を胡屋に戻すとふすべなくて、フェンスのかなたに陽は沈むなり。 もぐら
鉄道はとうの昔に毀たれて、Yナンバーのみ走る嘉手納は。 もぐら
モーニング、五百円にて目は覚めつ。朝飯作らぬ奥さんゆゑに。 もぐら
パンに塩、ポテトに塩ゐて、マクド屋のモーニングには腹痛みけり。 もぐら
行列のできるラーメン屋はまづし。ひと口喰はば判る、と思ふが。 もぐら
ラーメンの一杯に行列為すとふは、終戦直後の光景ならずや。 もぐら
腹減りて浅草なるこそ悲しけれ、人形焼のほか喰ふ無ければ。 もぐら
喉乾き浅草なるこそ嬉しけれ。電気ブランの芳泉しあれば。 もぐら
   
遺産すべてつぎ込み入る介護ホーム。ほとんど振り込め詐欺なり、と思ふ。 もぐら
猫ふたたび来むをし待ちて、鍵を開け、耳を澄ませて夜を更かしけり。 もぐら
黒猫は来ずして、普通の三毛猫の餌恋ひ顔に柴折戸推すなり。 もぐら
猫どのの配達して来し箱みれば、心当たりなき人形のゐき。 もぐら
人形に時限爆弾仕掛けゐし、と。呼びたる警官こともなげに言ふ。 もぐら
向かひ風の帰りは追ひ風、ならずして、夕凪ごろのご帰館となる。 もぐら
祖父は既に他界せし、とは正月のめでたき折にはがき書き難し。 もぐら
逢ふことを得たるのトポロジー、今は別れろ、切れろとのみ言ひ立つる。 もぐら
元彼とお別れしたのは秋彼岸。より戻したのは春のお彼岸。 もぐら
ラメーンを食ひすぎ、帰りはベトベンで腹をすかせて、また海苔餃子。 もぐら
所詮ウジ虫に過ぎざる我が身ゆゑ、二つに切らば二匹たるべし。 もぐら
三千万部を売り尽くし、倒産社救済したまふが才女なりけり。 もぐら
淡雪ははらはら積るも、別れむか別れざらむか、え決めぬ我に。 もぐら
漢字書くことはワープロにお任せ、となりて、某検繁盛するなり。 もぐら
   
温暖化したらば、温くて暮らし良し、などと無責任放言する人。 もぐら
税金を下げよ、とふには、他の何の税金上ぐるか、併せて言ふべし。 もぐら
千円の高速道路と給付金、支持率やうやく上向きけるかな。 もぐら
   
何処より吹き寄りたるか知らぬ花の、我が胸底に溜まりゐるかな。 もぐら
母さんの乳房を知らぬ児の如く、桜のはなびら散りゐたるかな。 もぐら
いつかしらず淡く成り行く俤のきらめくごとき、けふの月夜は。 もぐら
大吟醸、と名はことごとしく、酔ひ心地悪しき、を下品の酒とするなり。 もぐら
ただ酒をぬくめて呑みて旨くあれば、これこそ極上吟醸、と酔ふ。 もぐら
最近はメタボ、社長になれぬらし、お偉方みな普通体型。 もぐら
ちちははのありたまひてし歳超えて、明日はし如何にあらむか、と思ふ。 もぐら
ちちははの知り給はざる歳にゐて、親の恩ぞと悲しび思ふ。 もぐら
見納めか、今年までか、と思ひつつ、七十四度目の花見をしたり。 もぐら
時刻表みて旅せしは老人、となりて、今様ネット頼みなり。 もぐら
ロシアには資本家再び増殖し、シベリア杉の林枯れけり。 もぐら
資本家らまた続々と増えゆけば、ロシアもメタボの邦となるらむ。 もぐら
白百合の女子高生と思ひみれば、痴漢ちかん、と手を掴まれつ。 もぐら
   
夢と言へば、きのふのことにあるべきを、けふまた続きて嘆かるるかな。 もぐら
現し身は崩るべきとは思ふものの、けふのこころの悲しき飢ゑはも。 もぐら
花冷えの朝にしあれば、パン屑を啄む鳥の影さへ見えず。 もぐら
最北、と看板多く立ちゐれば、鉄道更に延びゐし、を忘る。 もぐら
おおたかの森とふ駅は、大鷹のゐし森潰して成りしを忘るな。 もぐら
月曜日勇みて郵便受けへ走る。けふ休刊日たるを忘れて。 もぐら
ゆゑしらずネオン嫌はるることとなりて、LEDの青白まぶし。 もぐら
雇止めに遭ひたりければ、工場にキキキキ鳴きゐる鳥さへも憎し。 もぐら
自家にては食はぬ柿ゆゑ、隣家にゐし客を囃して取らせたりけり。 もぐら
ひさしぶりに甘き柿の実あたり年。いのちも少し延びたりと思ふ。 もぐら
   
けふは此処まで、と悟りて卓上の花照らしゐる灯火消したり。 もぐら
取材目的言はざれば、良きやうに書かれてあらむ、と覚悟しにけり。 もぐら
一生は飯炊き婆にてありにし、と思へど、来む世も飯炊かむかも。 もぐら
咲き初めし花にしあれば、刻をしらず、きのふをしらず、明日をまた知らず。 もぐら
かまきりのきりきり顔して嗤ひゐるけふはし、霜月極の日なりき。 もぐら
春靄のかなたに列車の音聴こゆ。若きころせし旅し思ほゆ。 もぐら
佐保柳とふに春はし知られけり、明日は去るべき町と思へど。 もぐら
しづしづと春は柳に来たりけり、きのふの露を払ふごとくに。 もぐら
お神酒上げ、御餉を捧げて、天下り給ひし神らを敬ひ遠ざく。 もぐら
眠りとふ佳きものなほも残りたれば、我はしなほも老いじとぞ思ふ。 もぐら
我になほやしなふべきの老夫あれば、這ふがごとくに一合とぐなり。 もぐら
騒ぎゐしモーむす。途中に降りしならむ、新幹線は近江あたりなり。 もぐら
秋ふかき釜山を行けば、梵魚寺にとどろとどろと太鼓鳴るなり。 もぐら
んごろんごろ曵き行くおばんにつまづきて、こけさうになる関西空港。 もぐら
   
巨大なる不幸始まる日なり、とふこと、幼きの身にも知れけり。 もぐら
半世紀経ちたることは、記憶より歴史と言ふがふさわしかりけり。 もぐら
知らぬ間にぽとりぽとりと落ち果てて、小径は春の紅に満ちたり。 もぐら
異を立てて教祖となりし人多し。同じくしあらば、宗教たらず、と。 もぐら
定年の近まりたれば、今更にあせりて何も出来ずと思ふも。 もぐら
定年にて世のしがらみより解かれたり、と。少しく我も賢くなれり、と。 もぐら
四つ昔、うどん三十円に喰はせ呉るる食堂ありし、と知る人もなし。 もぐら
伊勢湾の突風、船を軋ませて、遠州灘の凪に入りけり。 もぐら
うなばらは雲立ち湧きて、いつとしらぬ間に本船は明るみ行けり。 もぐら
海よりの風のさやさや、病みてゐし我が枕辺に入りてまた去る。 もぐら
朝晩に三本づつの列車なれば、駅前通りもシャッターばかり。 もぐら
我し死なば、メール解約せむ人のなく、弔辞など溜まりてあらむ。 もぐら
   
かたかたと雨戸鳴らしゐし夜嵐の往にけるらしく、節穴より光。 もぐら
永き世に溜まり溜まりたる借金を、不渡手形もて往なむとぞ思ふ。 もぐら
満開の桜なれども寒ければ、花見する人らひそとゐるなり。 もぐら
望むままに、木を伐れ伐れと言ふ人ら多く、現世は砂漠となり行く。 もぐら
待つに耐えて岩となりける固きこころもちて、憂き世を生きて行かなむ。 もぐら
憂し、と思ひしままに石となりにける心ゆ、しづくなほ零れけり。 もぐら
悪夢見ゐし如くのオペも終りつ、と看護師さんは春めきて言ふ。 もぐら
思ふやうに変りはせねど、勝手なる方へどんどん世界は変る。 もぐら
アールグレイ熱き一杯呑みほして、我が鼻風邪は去りにけるかな。 もぐら
アオコとふ禍きみどりのひろごりて、浅瀬はいまや死に行かむとす。 もぐら
のぞみのぞみのぞみばかりのひろごりて、ひかりの減りたる新幹線かな。 もぐら
我もまた天平の昔に帰りたし、み仏拝して夕陽浴ぶるとき。 もぐら
   
貧しきがゆゑに過激となるにあらず。過激がゆゑに貧し、としぞ思ふ。 もぐら
本船は大橋の下、正確にくぐりて、生駒の朝陽を見たり。 もぐら
人間が自分の始末をせぬがゴミ。自然の営みはゴミにあたらず。 もぐら
聞く耳を持たざる人の多くなりて、道理は引っ込むばかりなりけり。 もぐら
地上如何にあるかを知らず、地下街を矢印のまま進む不愉快。 もぐら
天変地異ロマンティズムのなれの果て、うたびと、星の数をし歌ふも。 もぐら
数年の内に役目を終へむ、とふ東京タワーの灯りさやけし。 もぐら
地球儀のとなりに並ぶ月球儀、書店の片隅なれど夢多し。 もぐら
我が身既に黒犬なれば、尻尾とて白くはなくとも止むを得ざるなり。 もぐら
この頃はでんぐり返す門松もこれなく、無聊の老悪童なり。 もぐら
祖母の祖母、そのまた祖母より伝へ来し雛には、日本の薫りありけり。 もぐら
鶯の声我がフルートを真似するがごとくにカルメン・インテルメッツォ。 もぐら
屠蘇散はみりんのおまけになりにけり。薬局出番を失ひにけり。 もぐら
みづうみのむかうの森のむかうまた、みづうみなりとふスオミの邦かな。 もぐら
夏至祭り、午後十一時まで明るけれど、街静まりて深夜なりけり。 もぐら
往に給ひける人びとは遠く遠くなりて、けふまた春霞立つ。 もぐら
知るべしと思ふがゆゑに歴史あり。歴史がゆゑに人類はあり。 もぐら
   
かはゆし、と思ふことなどなかりしに、けふはし花が笑むごとく見ゆ。 もぐら
しづしづと翅を伸ばして春を待つ。きっとそのまま死に行くやうに。 もぐら
十万年前にも写真があったんだ。マンモス仮装をしてゐる私。 もぐら
銀塩の写真の寿命の永きこと。ディジタル媒体寿命短し。 もぐら
通夜酒は有りがたけれど、酔はざりき。共に呑みゐし友にしあれば。 もぐら
一合の通夜酒有り難く酔ひければ、往にてし人と夢に溶けけり。 もぐら
   
梵魚寺は、鐘楼なれど太鼓ありて、撞くと叩くの違ひ、どんどん。 もぐら
民主的に互選とすれば良けれども、それではレベル下がるばかりなり。 もぐら
選は所詮、選者の趣味に尽きたり、と我はし我の歌うたふなり。 もぐら
ゆるゆると脚倦み果てて、夕暮はこころ恋ひしき藤の宿かな。 もぐら
柳絮ひとつ黄沙に載せて、日本の弥生の空へ帰さむ、と思ふ。 もぐら
我もまた飛び込みたけれど、蛙どの、憂き世にしがらみ多くありけり。 もぐら
   
日本は勝つとも我はこけにける、春なほ浅き草相撲かな。 もぐら
言ひ言ひて言ひ足りぬことなほありて、遠峰に夕陽は沈むなりけり。 もぐら
菜の花に桃など添へて、幸薄き娘がことを思ひけるかな。 もぐら
鉄砲をどんと打ち掛くる無粋なる人ゐて、山の花見冷めけり。 もぐら
昔ゐし邦にたぐへて八重桜、咲き出しけるけふぞ嬉しき。 もぐら
花も王子、狐も王子、と思ひつつ、カップ麺すする飛鳥山かな。 もぐら
上野にも浅草にても職なくて、きつね蕎麦喰ふ花の雲かな。 もぐら
佐保川にあらねど、艶なるすがたして、風になぶらるる美女柳かな。 もぐら
   
怪し、とは思へど遠き笛の音に、人来る宵、と知りにけるかな。 もぐら
うつし世にゐて逢ひたきを、なにゆゑに、またの世に、など人は言ふらむ。 もぐら
逢はじ、とは思ひはすれど、次ぎの世に逢ふべき由のありやは知らず。 もぐら
果てのある旅行く身には、何処とも何時とも知らぬ恋路なりけり。 もぐら
うつし世はうつし世なり、と思ひ捨てし身になほ積る夜の夢かな。 もぐら
憂きことのなべてなりける世がゆゑに、流れに浮きてゐるを佳しとす。 もぐら
恃むべきゆゑのし無くて、うつし世の雁の子、霜に落ちにけるかな。 もぐら
人ゆゑの嘆きする身にあらねども、ひたすら悲しき入相の鐘。 もぐら
由なくて眠るを忘れし宵なれば、枕相手に物語せむ。 もぐら
人知らぬ名ゆゑにけふは如何でかは、立つとも知らじ、立たずとも知らじ。 もぐら
来む世また同じ涙を流しゐむ、と思ひて人の身儚かりけり。 もぐら
待たずとも果てしある身に、きのふけふ春の気配ぞ嬉しかりける。 もぐら
あるべきの刻の去ぬるを、夕暮の朱の彼方に見たりけるかな。 もぐら
あまくだり人のやんごとなくしあれば、日がな新聞のみ読み給ふ。 もぐら
人恋ひがゆゑに思ふこと多かるを、忘れよ、と言ふ我しありけり。 もぐら
ひたすらに忍び忍び来しこころゆゑに、しづかに往なむと思ふのみなり。 もぐら
   
校門をくぐりて去りて幾十年、さくらのけふは霜を置きたり。 もぐら
沈丁花香を聞く毎に、踏み過ぎし人の道坂思ほゆるかも。 もぐら
鰻追ひ小豚を釣りしふるさとのやま川、けふは如何にあるらむ。 もぐら
賑やかに咲くらむ花と比べては、老いの心は寂しかりけり。 もぐら
気は温き頃となれども、なほも凍てしこころのままの春にてありけり。 もぐら
ほのぼのと残れる月の影見つつ、本船春の海へと出でたり。 もぐら
さぶしみにゐる我をしも、慰むるがごとくに笑はぬ、すみれ花はも。 もぐら
うつし世に見しことのなきすみれ花、にほふも春のしるしなるべし。 もぐら
憂しとのみ思ひし里を立ち出づれば、山はし桜の盛りなりけり。 もぐら
我が庭の筍、地中に眠りをらむ、など思ひしに盗まれにけり。 もぐら
   
この頃はもの思ふのを止めたから、それであなたにさくらひとひら。 もぐら
子供、といふせうがないものばかり思ひ、だけれどけふはまたさくら咲く。 もぐら
この世からあの世へ渡すものがある、と思へばそれはちいさいさくら。 もぐら
さくらさくら、けふはさくら、と思ふにも、明日のし知れぬ我が身かなしも。 もぐら
嘆くとも叶はぬものは、人の身の散るがままなるさくらさくら、と。 もぐら
さくら咲くことをし知らで、うつし世は、けふは明日はとののしり争ふ。 もぐら
人の世の悲しきことは、ご自分の都合勝手にさくらを使ふ。 もぐら
寝て覚めてなほあくがれて出づるこころあるをし、人は恋と言ふらむ。 もぐら
鬼社長をらずなりてより、社員ども働かずなりて会社潰れけり。 もぐら
土地の酒、とふを一口含みてはあまりの旨さに涙出でにけり。 もぐら
自動車依存のままにては、新しき産業などは興らず、と思ふ。 もぐら
明日のエコより今日のねこだましなり。鼠ランドに遊ぶ人たち。 もぐら
   
我が軒を見捨てし燕、何処にか新居あるらし、門前を過ぐ。 もぐら
毒入りの総菜ばかり多くして、店はあれども買ふものは無し。 もぐら
   
言ひたき、のことのみ多く思はする、安くて旨き白ワインかな。 もぐら
世に二つ無きものがゆゑに愛と言ふ。けふよりこころ焦がしけるかな。 もぐら
すべもなく悲しかりつ、と思ひつつ人恋ひなり、と思ふ頃かな。 もぐら
   
知らぬ間にはじけ飛びたるバブルゆゑ、シャボン玉など誰も知らずも。 もぐら
ふるさとにありにし家も毀たれて、広かりし庭、いよいよ広し。 もぐら
リストラにおびえ暮せし日々尽きて、安き時給に肩はこるなり。 もぐら
   
知らぬ間に千年経ちし、と知らぬごとく、田螺は春に這ひ出づるなり。 もぐら
嫡男、といふ顔をして、のそのそと太郎田圃に田螺行くなり。 もぐら
白き指はとっくの昔にひび割れ、と初恋の人けふ笑ひけり。 もぐら
光ありしゆゑに悲しきもの思ひしそめて、けふは弥生の半ば。 もぐら
何ゆゑにおでん置くかは知らねども、匂ひに食欲減りにけるかな。 もぐら
ひた闇を貫き来たりし春ゆゑに、けふの光は鮮烈なるかな。 もぐら
春陽に移ろふごとく萎れける蘭あはれなり、我無精なり。 もぐら
雛様に捧げし菓子を下げて喰ふころは、しっかり春の足音。 もぐら
いつもなら水色になるなみだだけど、三月だけはもも色になる。 もぐら
味は佳くあらむと思へど、一向に尻尾の愛想の悪き黒犬。 もぐら
犬にとりて、人の牡牝無関心。餌を呉るるをよし、とするなり。 もぐら
   
群がりゐる毛虫を払ひ、樹皮を剥ぎ、児島先生手数掛かりつ。 もぐら
涙とは珠の如しと思ひつつ、乾く由なき袖しぼりけり。 もぐら
水平に作られしゆゑの駐車場、水多く溜まり花びら浮きたり。 もぐら
呑みたし、のこころおさへて、しばらくは憂き世の雪を花びらと見む。 もぐら
蝶々のエチュード弾きたき毛虫娘、けふ相変らずの芋レッスンす。 もぐら
うつしみにありける我に花咲きて、いづれはいづこの空に散るらむ。 もぐら
おたがひに古稀すぎたれば、ちりぢりに風のたよりもえ聞かずなりたり。 もぐら
さくら餅の皮を食らふか食はざるか、何時も議論の分かるるところ。 もぐら
残り酒のみを目当ての通夜客の、声かしましき葬場二階。 もぐら
百合さん、と言はれし吾子が、けふよりはさくらさんとなるめでたき四月。 もぐら
我があらむ間はあるべき墓にゐるちちはは見舞ふ。花咲き出でにけり。 もぐら
浅き春に笑み給ひゐし亡き母の、こころのままのけふの風かな。 もぐら
   
骨粗鬆なれば転ばば寝たきり、と脅され、駅はエレベーターに乗る。 もぐら
白きまま天に延びむとする葉牡丹。何ゆゑけふを春と知るらむ。 もぐら
おねしょか、と質せば、湯婆洩れゐし、と弁解ばかりの吾子が悪智恵。 もぐら
此処に墓、と夫は言へども、他人の土地。購ふ手だてを定めて後言へ。 もぐら
来し方はかかりとまでは思はねど、庭に降り積むくれなゐ紅葉。 もぐら
時雨きて降り残しける山里に、柿の宝珠はひたすら朱し。 もぐら
近江路は時雨るるとなく暮れゆきて、紅になみ立つ湖の面かな。 もぐら
笑ふとも泣くとも同じ一年、と思へば桜の散るさへ嬉し。 もぐら
何億年前よりのたりのたりせしかは知らねども、春の海嬉し。 もぐら
亡き母の植ゑたまひける庭の梅、ゐたまふごとくけふも咲きけり。 もぐら
人のゐぬやうになりたる村里に、ひともと咲きゐる黄水仙かな。 もぐら
   
風よりも光に知らるる春の声、けふはし我等が里に到りつ。 もぐら
年輪を重ね重ねて、ひとときも止まらざりける幾世紀はも。 もぐら
うつくしき記憶を持ちて去らむ、とふ人のいのちのあはれなるかな。 もぐら
黄金いろの落ち葉の舞ふが嬉しくて、けふ故郷の路を辿れり。 もぐら
エレベーター運転手志望の多ければ、いつまで経つとも上に登らず。 もぐら
英語ばかり習ひはすれど、言語とふものには関心もたぬ人々。 もぐら
けふは春、と言ふがごとしも。郷愁を唆る橋さへ温くしありけり。 もぐら
何故が知らず食ひ物横丁曲がりゐる。此処はし白きワインの土地なり。 もぐら
二十首をやうやく読みて、歌一つ詠み出しつつ、陽は暮れにけり。 もぐら
きのふより貫ききたりし絲のごとく、魂もまた明日へと貫く。 もぐら
甲板の上空高く半月の残りて、本船紀淡海峡。 もぐら
   
都へと人は去れども、ふる里の菜の花けふは盛りなりけり。 もぐら
うつつ、とはかくの如しと思へども、人ら去りにしふるさと悲し。 もぐら
人に別れ春に別るる宵なれば、のど元までも濡るるばかりなり。 もぐら
み教へのごとくならざりけり、と今悔ひのみ積る歳の暮なり。 もぐら
ひと生れてひとは去りにしふるさとの家、またけふは毀たれむとす。 もぐら
往にし人のことばかり思ふ花の野に、我また往ぬべき彼岸日なりけり。 もぐら
ほのぼのとふるさとばかり思ひ出づる、風また温き春彼岸かな。 もぐら
ふるさとに知りそめにける恋ひ心、今は忘れむ。花いちもんめ。 もぐら
ひと恋ひのよすがなきほど萌えわたる、春のすがたに我酔ひにけり。 もぐら
賢し、と思ひはせねど一投足、若きの頃より無駄なくなれり。 もぐら
   
いつよりか知らず、枯れ葉は土に返り、農夫新たに種を蒔くなり。 もぐら
しんしんと枯れ葉積れる地の下は、温し温しと虫らゐるべし。 もぐら
待たずとも春来ることは悲し、とは若かりしころも同じなりけり。 もぐら
戻るをし得ざるの旅をする身ゆゑ、きのふの我は忘れけるかな。 もぐら
無口なるをののしる人らの声高く、無口は一層無口となれり。 もぐら
花はいづこ、人はいづこと思ふにも、如月ごろのみ仏慕はし。 もぐら
常識のかぎりを尽くすおばちゃんに、迷信なり、と言ひてやりたし。 もぐら
ひとりゐの旅の宿には冷え畳、大あぐらかき酒を呑まなむ。 もぐら
   
函館の市電とろとろ、ここらあたり啄木ゐしか、となつかしかりけり。 もぐら
羨まば何とかなるとふ若き人を、老いたるは我は羨みにけり。 もぐら
自分探し、などとふ若きのわがままを、佳し佳し、といふ我等世代は。 もぐら
だいだら坊とやらの巨人が杖の如く、枯れ欅ただ宙を指したり。 もぐら
けふは寒し、明日なほ寒しと呪ふ如く、北極星は輝きて、蒼。 もぐら
六十年前のいじめ子、けふもまたいじめ来たれば、早々逃げたり。 もぐら
坂を三つ四つ五つ登り、なほ峠、下りの見えぬ我が路なりけり。 もぐら
一の橋、二の橋過ぎて三の橋、車多くして脚は倦みけり。 もぐら
涙なみだゆゑに見ざりし桜の木、けふ新しく咲きしを慶ぶ。 もぐら
   
サンティアゴデコンポステラに空路行きしことを、いまなほ後悔しゐたり。 もぐら
我が孫のそのまた孫のまた孫のころなほあらむか、いつきみやしろ。 もぐら
我が娘変りたれども、変らずに、女雛は同じき笑みをし給ふ。 もぐら
きのふまでありにし白き指は、今いづこの雪の下にあるらむ。 もぐら
般若心経くちずさみ、南蛮の如月暑きを思ひけるかな。 もぐら
きのふとはけふにあらねど、薔薇の香はきのふの如く湧き出づるなり。 もぐら
暖冬がゆゑにか花の乏しくて、紅梅、庭にてさびしげなりけり。 もぐら
スーラゐしころのパリ、なほ斯くの如く点々ありしか今は知らずも。 もぐら
それぞれが好きなやうにして成りし町、それぞれ忘れなば滅び行かむかも。 もぐら
   
ひと口に腹痛むなる毒ケーキ、平気に売りゐるケーキ屋憎し。 もぐら
シャボン玉。私のやうに舞い上がり、私のやうにデリケートなり。 もぐら
シャボン玉、飛んではじけて大空は、いつも通りとなりにけるかな。 もぐら
ふるさとに追ふべき鰻は今絶えて、小豚釣り堀道路となりけり。 もぐら
呑みしゆゑ、と思ひはせねど、心臓と肩はし、今朝よりゆゑ知らず痛し。 もぐら
   
コミュニティバスの間隔疎らにて、ついついタクシーを呼んで仕舞へり。 もぐら
夢とふは結局うつつとならざりき。かひなき夢をけふよりは見じ。 もぐら
人の世は夢ばかりなり、と言ひてなほ今朝はし悪しき夢を見にけり。 もぐら
付きの落ちし如くにありにし老年の日々も、やがては果てむとすらむ。 もぐら
物事のやうやく判るやうになりて、定年なり、と会社を逐はる。 もぐら
やうやくに熱冷めぬれば、ひさびさに談話室より下界覗きつ。 もぐら
   
恐るべきは夢にはあらず、日常の現実なり、と知りにけるかな。 もぐら
もの思ふ日々がゆゑにか、淡雪の消えぬに花のおとづれにける。 もぐら
はうばうに刀傷ある身にしあれば、画像診断恨めしきなり。 もぐら
つるつるにぴかぴかにすれば売れる、とふ迷信持ちゐる日本の産業。 もぐら
半年を待機せしかば、児も我も草臥れ果ててファミレスにて食ふ。 もぐら
お迎へのまだ来ぬらしき幼児ひとり、広間にぽつんと坐る五時過ぎ。 もぐら
佳き娘たるべき人と逢ふことのこのごろ絶えて、ただ春さくら。 もぐら
逢ふ、と言ふただそれのみの行ひを、とやかく言ひゐるこころ冷たさ。 もぐら
   
よきやうになぶられゐたる野良の白き猫は、歯を剥き我嚇すなり。 もぐら
細胞の数の減りにし老いの身に、なにかにせよとて、悲しきばかり。 もぐら
毒気するお惣菜なれど買ひきては、一口喰ひて腹痛みけり。 もぐら
野良猫とのだめに餌を与へてはならぬ。されどもこそこそやる人。 もぐら
玉葱のスープに懐かしきこと多し。ブラームスとかシュパルゲルとか。 もぐら
   
家の三毛、近所で一向もてぬらしく、春の宵なれどごろり、と寝ゐる。 もぐら
白磁には水仙ひともと似合ふべし、やがては鶴と舞はむと思へば。 もぐら
赤猫のしづしづとして屋根にゐるは、夕焼け雲に見入るなりとふ。 もぐら
つかの間の大量消費の迷信を、拡げ信じて不況来にけり。 もぐら
人かなし花悲しくて、水仙を愛し給ひし母をし思へり。 もぐら
ジャンボとふ名のみの小さきハンバーガー、淋しくけふの不況をし思ふ。 もぐら
ボキャ貧を嘆きはすれど歌作る。現世の貧を悲しむ歌を。 もぐら
社長兼秘書兼小使にて、我は上場企業を目指さむとす。 もぐら
人殺し勧めぬ宗教などは無し。某々教団のみならずして。 もぐら
くれなゐに染まりし空を眺めつつ、旅愁は此処に極まりたりけり。 もぐら
   
思ふことなど更になし、と言ふ人に、人の心の無きを悲しむ。 もぐら
逢はむ、とふ人ゆゑ、山の杣人の伏せ家に、ひとり濡れゐたるかな。 もぐら
世を倦みて蘆刈りゐると知るゆゑに、けふの難波の月影ぞ憂き。 もぐら
名残とて月さへ雲に濡るるとふ、暁近き小野の山里。 もぐら
もの思ひを人恋ふゆゑと知りにけり。さらぬ昔の懐かしきかな。 もぐら
人恋ふがままにありにし年月を、けふまでなり、と思ひけるかな。 もぐら
逢ふことの明日をも知れぬけふなれば、有明さへこそ嬉しかりけれ。 もぐら
あはれ見し、と言ふが如くに濡れゐたる枕は知るや、春の夜の夢。 もぐら
二度と見たくなき夢みしがゆゑに、もう春など来じと思ひけるかな。 もぐら
何処より溢れ来るかは知らねども、思ひの泉ぞなほも若かる。 もぐら
思ふままにあらざる世ゆゑに、人がことを思はむことは絶たむとぞ思ふ。 もぐら
物思ふなり、とて何も無き如き浅き顔する人ぞ悲しき。 もぐら
   
見えむとて見ざりしものを、今更に月夜の夢に見たりけるかな。 もぐら
きのふとは何かと問ひて、鏡には言はでもがなの顔を見るかな。 もぐら
夜も知らず月もえ知らず、人のみを恋ひわたるこそかなしかりけれ。 もぐら
あはれとふことば言ひつつ明けし夜の跡さへ、雲に隠れけるかな。 もぐら
逢はむとて逢ひうる憂き世にあらねども、逢はで人恋ふことぞ悲しき。 もぐら
来む世また人の嘆きのあるべきに、なほうつし世は悲しかりけり。 もぐら
問ふべきのことさへ既に忘られて、沖行く舟の跡も残らず。 もぐら
無かりけることのみけふは思ひ見て、儚ききのふの夢をしぞ思ふ。 もぐら
あだごとと思ひしことのみ、夜もすがら夢に出で来ることぞ侘びしき。 もぐら
一夜のみ人思ふにはあらざめり、ただ現世の夢とこそ思へ。 もぐら
行かむとて叶はぬ勿来の関なれば、思ひても見む陸奥の花。 もぐら
   
流さむ、として流れ行く人の多くゐし、と歴史は教へたりけり。 もぐら
濁流が来るゆゑみんな乗れ乗れ、と方舟乗船券を売る人。 もぐら
副作用なり、と説明面倒にしあれば、けふはひたすら笑みゐむ。 もぐら
血通はず神経も無き髪の毛は、生とも死とも境無きなり。 もぐら
悲し、とはもみぢの色にありにし、と息絶ゆるころ思ふかも知れぬ。 もぐら
やる気ありて、お金があらばすべて出来る。やる気に価値があるもの、として。 もぐら
をみな一人、きのふよりけふへ橋を掛くる。地球は東へしづしづと回る。 もぐら
恋ひ初めし頃はえ寝ずにありにしを、けふより濡るるばかりの手枕。 もぐら
逢ふと言ひて来ずとなりぬる人が夢を、夢とし覚めて今朝の曙。 もぐら
二等車の窓をし開けて蜜柑投ぐる、ことをし得しの我が歳なりけり。 もぐら
お見送りの方列車より離れて、と駅員言へど、別れは悲し。 もぐら
   
寿司飯に塩多く入るる職人のゐて、我が午後は地獄となれり。 もぐら
塩入れず生魚を食らはむ智恵が寿司なり、とし思へど判らぬ人ゐて。 もぐら
鳩の番ひゐし我が庭に枯れ葉積みて、ゐずとなりける冬ぞ淋しき。 もぐら
シャッターの冷たく下りし銀天街、いづれが寿司屋か呉服屋か知らず。 もぐら
シャッターを下ろして、裏にひっそりと因業親父と鬼婆ゐたり。 もぐら
時間のみ虚しく流れて、天使吹くトランペットに秋深まりつ。 もぐら
老いの我になほも急くことありにけり。歩み速めて妻追ひ越しつ。 もぐら
無料、とふ足湯に手を入れ足を入れ、顔も洗ひて元取りにけり。 もぐら
   
烏さへ来ぬやうになりて、我が街の自然、一段と遠くなりたり。 もぐら
北きつね、観光客に餌ねだるやうになり初め、毛並汚れたり。 もぐら
月は知らず、けふは野鳩の果てけるを。骸は露の底に埋むべし。 もぐら
基地結ぶ広き道路ばかり走り、かつての鉄道、橋脚のみ残る。 もぐら
米作ることは忘れて、本土より輸入せしをしタコライスに食ふ。 もぐら
   
萌ゆるとは知らで、若草うつし世の三笠の山を染めにけるかな。 もぐら
白梅に紅梅色を添ふるころ、我が山里に春は来にけり。 もぐら
さだめとは思ひはすれど、子らの皆去にけるやどに一人春かな。 もぐら
ばっちゃいつもうどんばかりを送り来る。失業の今有り難けれど。 もぐら
今更に人を恐れて何になる、三年野良猫暮らしなりせば。 もぐら
   
歌とふは、新しきゆゑに佳し、といふことの言ひ得ぬ人の業なり。 もぐら
良くみればミモザの黄金の降るままに、我が幼子は一歳となる。 もぐら
黄金色のミモザの花の散るころは、幼き頃の妻し思ほゆ。 もぐら
十二里を歩み疲れて腰下ろす、夕焼け畦ばた白なずな花。 もぐら
狩勝は鉄道史のみ重くして、今ただトンネルの闇に過ぎたり。 もぐら
釧路からのフェリー、RORO船となり、苫小牧回り。面倒となる。 もぐら
いぬのふぐり薄碧色にかわゆくて、早春、吾子は一歳となる。 もぐら
ホテルバー、呑みて転びて腰を打つ。温泉治療、何のためやら。 もぐら
草摘みしころの幼きを思ひつつ、あはれ今年の春は老いけり。 もぐら
ウォン安を目当てに釜山行きの船、賑はひけるこそめでたかりけれ。 もぐら
南より吹き来る温きに伸び伸びとせしにや、椿、花落としけり。 もぐら
受け兼ねてはたりと落つる花椿、伊豆のみなとに春の雨降る。 もぐら
豆飯を有り難かりとふ昔なれど、今は甘し、と思ふのみなり。 もぐら
   
我秀才なれば、しばしの春雨に、緩き下駄履き奈良を歩まむ。 もぐら
鹿どのに煎餅ささげて、健脚を代りに欲しき奈良の旅かな。 もぐら
闇空の何処ゆ白きの落つるらむ、一人身つらき浅き春かな。 もぐら
母の下に十数年はありしかど、妻とは既に三十年越えたり。 もぐら
母眠る奥津城雪に埋みたらむ、いつしか四十二回忌を越ゆ。 もぐら
句をひとつ纏め兼ねてし春寒の吟行、つひに熱燗に果つ。 もぐら
かく薄き刺繍の金魚は融け出でて、太湖に到る春の雨かな。 もぐら
虎丘にもはや獣の影もなく、十三万万中国人民。 もぐら
隣村雨降る音す、我が里は未だ淡雪融けずゐたるに。 もぐら
麓村より遅き春登りきて、我が山里も薺咲きけり。 もぐら
春雷も佳き季題なり、と師匠言ふがままに、怖るることも叶はず。 もぐら
やうやくに辿り来ぬれば、師匠宅閉ざされ、春の雷ひとつ。 もぐら
をんな雛のかほのかはらず可愛ゆくて、桃の節句は嬉しかりけり。 もぐら
師匠往にて、男雛女雛の可愛ゆげに帰り給ふを待ちゐたりけり。 もぐら
   
政治家を選ぶは国民自身なれば、それより偉くはならじとぞ思ふ。 もぐら
ナツメロのひたすら懐かし、ふるさとは夏にてあらむと思ふこの頃。 もぐら
暖冬にしあれば梅は満開か、と思ひしかども淋しかりけり。 もぐら
昨日は皐月の如く、今朝よりは暦通りの大寒なりけり。 もぐら
   
葱とふは猿風邪予防に効くと言ふ。胡瓜は知らず、河童ならば如何。 もぐら
いつか知らず春へ行かむ、のこころのみゐて、うつし世は凍て渡るなり。 もぐら
菊の香も師の恩もまた変らねど、人に霜置き世は移りけり。 もぐら
体温の上がらぬインフルエンザあり、と。老いには厳しきことばかりなり。 もぐら
温野菜、とふのみ食ひて、ステーキは食はずありけり。歯が痛かりき。 もぐら
温しとは思はぬほどの温さなりき。梅が一輪やうやく咲きつ。 もぐら
気象婦は、三寒四温なり、といふ。しからばけふあすなほ寒からむ。 もぐら
白波の立ち騒ぎゐる冬の海、春はいづこと倦みゐたりけり。 もぐら
貴社製品ゆゑの下痢ぞ、と腹かかへ、命名権持つトイレに駆け込む。 もぐら
金儲けしたし、と思ひしことなくて、されどもさして不自由せざりき。 もぐら
ワイン赤、ワインの白の導きがままに、今、とふ時忘れけり。 もぐら
食ふために非ざる如く、金がために非ざることを、生とし言ふなり。 もぐら
儲けたきほどの金はしあらねども、二番目に安きワイン呑みたし。 もぐら
心焼くるほどの思ひをせしがゆゑに、愛したりけり、と思ひけるかな。 もぐら
春めきて来れども、かなし人の世の四季は巡らで儚かりけり。 もぐら
   
白菊の濡るる音して、霜月は人知らぬ間に闇となりけり。 もぐら
働く、と言へども3Kなどはせぬ人、たなごころ白くしありけり。 もぐら
金貰ふ為に働きし日々往にて、我は勝手に生きゐたりけり。 もぐら
コミュニティバスの路線の増えたれば、タクシー運転手は嘆きけり。 もぐら
   
元社長、町内会を嫌がりて脱会。元平、会長しゐたれば。 もぐら
褒め上手良けれど、ましてくさし上手人にやさしきもの、としぞ思ふ。 もぐら
能のある鷹とし思へど、結局は、能ある豚に過ぎずありけり。 もぐら
夢を持て、としつこく言ひける先生は、如何なる夢を持ちしか知らず。 もぐら
切れさうになったらさっさと切ってしまへ。も一度結び直せば良いのさ。 もぐら
切れるほど線の細きを自覚せず、切れる切れるとのみ言ふ人あり。 もぐら
Bカップなれども腹はDカップ。ついでに尻はGカップなり。 もぐら
腹囲増すほど食欲も増す不思議。単純メタボの症状ではある。 もぐら
七病のいづれがゆゑに診を乞ふか戸惑ふ、老いの毎日なりけり。 もぐら
何処も痛くなくて目覚めし朝しあらば、幸とし思ふ老いの頃なり。 もぐら
   
新部長の廻りばかりに人寄りて、前部長ただ撫然としゐたり。 もぐら
毒のありし嫁を産地へ突き返す。地産地消また善し悪しなりけり。 もぐら
嫁御すでに賞味期限は切れて、なほ過剰包装産地偽装なり。 もぐら
神経を使ひしゆゑの神経痛。姑、小言のおはことするなり。 もぐら
最近は原油価格も下がりたれば、嘘のバレルも罪軽くなれり。 もぐら
我が近所、交通渋滞ばかりゆゑ、金また廻り来ずとしぞ思ふ。 もぐら
玉の輿に乗り、落ちたりと夢に見て、覚むれば十キロ太りてゐたり。 もぐら
円高の差益を言はずゐるらしき、輸入業者に税金課すべし。 もぐら
高安にそれぞれ損得あるものを、損損と言ふ声のみ多し。 もぐら
おい、課長、辞表とはそもどう書くか、などと部下どもからみ付くなり。 もぐら
辞めてやる、と馬鹿言ひしかば、辞めて貰ふ手間は省けて便利なりけり。 もぐら
   
口さがのなき父母ゆゑにめかし込む、参観日とふは面倒至極。 もぐら
父親が顔かなしきを見しゆゑに、参観日とふを憎み初めたり。 もぐら
母が笑顔こそ何よりもめでたけれ。おかめ、おたふく、皆天女なり。 もぐら
去年しゐし福笑ゆゑ、眉ひとついづこにも無きがゆゑに笑へり。 もぐら
壁紙の古びし模様に、新婚の頃の志思ひ出るかな。 もぐら
東京へ連れ来たりける雪女、上野の駅にて融けにけるかな。 もぐら
東京は無理、と言ひしかば、新潟の古町あたりに舞はせたりけり。 もぐら
てっちりを安しと思ひて取りたれば、魚肉は薄く溶けて往にけり。 もぐら
河豚解体、免許要す、を知らぬ如く、近所のスーパー売りゐたりけり。 もぐら
   
神、我に幾つの齢を給ひしや知らず、七十四の春となる。 もぐら
金儲けしたる人はし権威なり、と世の人、知らず思ふなるべし。 もぐら
くろぐろと落ち葉を濡らす春の雨、明日より弥生とならむとすなり。 もぐら
傘寿まであと幾年、と、残りたる歯の数減りしが悲しかりけり。 もぐら
痛みつつまた和みつつ、老いの歯はいつまであらむとするかは知らず。 もぐら
結局はひとり遊びをしゐしなり、と。老いて今なほ独り遊びゐる。 もぐら
お隣にゐしとふトトロも家焼けて、明日寒空となりにけるかな。 もぐら
きのふ、とふ遠き邦より呼ぶ声の聞こゆ、と思へば我が友なりけり。 もぐら
ひとりゐを覗く人などなかりけり、ゆめ係はりになりたくなければ。 もぐら
ひたすらに温く静かなる昼下がりゆゑに、ひょこりと猫出づるなり。 もぐら
   
やうやくに一杯の白湯を呑み干して、我が二日酔ひ往にけり、と知る。 もぐら
息子より、ばっちゃ振り込め、と電話あり。息子は隣で寝息立てゐる。 もぐら
歯痛なくばボンタン飴を食ひたきに。鹿児島行く度恨みゐるなり。 もぐら
いつか知らず肉はまづしと思ふやうになりて、老いはし忍び寄るなり。 もぐら
当方に悪気なけれど、痩せ猫は恨みつらみを言ひたきまなこす。 もぐら
やうやくにバスはサービスエリアなり。すべてを抛ちトイレへ走る。 もぐら
白梅はもふ紅梅はまだ、と言ふ日脚延びたるきのふけふかな。 もぐら
白梅の、白銀いろより黄金へ、と輝き初めし春の曙。 もぐら
暖房を切りて就眠するやうになりて、目覚めはさやけくなりたり。 もぐら
温度制御容易なれども、湿度制御簡単ならず。誰も作らず。 もぐら
   
去年人を嗤ひゐたりし鬼どもは、豆に打たれて哀れなりけり。 もぐら
雪降らぬ今年がゆゑに、札幌につっころびしを懐かしみけり。 もぐら
冬将軍、海の暖気に敗れ去り落ち行くを追ひ、けふ春嵐。 もぐら
   
紅梅の咲き初めにける我が宿にゐて、きのふのみ思ひゐるかな。 もぐら
友と呑む酒は旨しも、ひとり呑む酒はし儚き夢のみなれば。 もぐら
老ラベル、老ベートーベンの音楽に、共感しゐる我しゐるなり。 もぐら
てふてふの舞ひくるままに、武蔵野の遅き春はし来たりけるかな。 もぐら
かかる梅をいづこかいつか見たりし、と大阪城の梅園行きけり。 もぐら
道造るとて家壊し、ここに住みし人往にたれば、道行く人無し。 もぐら
ブル入りし雑木林にゐし狸、哀れげにして我が庭にゐる。 もぐら
人の世を知り初めにける猫の仔の三匹ほどゐて、梅雨に濡れたり。 もぐら
仔を産みて始めて生を知りし如き顔したりけり、初産牝猫。 もぐら
   
老梅の艶然として、くれなゐを差しゐる春、となりにけるかな。 もぐら
他人よりの暴力咎むる人ばかりゐて、みづからは口閉ざすなり。 もぐら
なほ白き雪の下なる春の芽を、知らすがごとき如月の朝。 もぐら
儲けなく税金もなく人もゐぬ、ちひさき組織を何と言ふらむ。 もぐら
観測時出会ひし極熊、如何ならむ。流氷乗るに停年なけれど。 もぐら
出かけたる時は出現せざりしを、帰国翌日オーロラありし、と。 もぐら
会所とふ地名残りて、米酒を運ぶ往来絶えにけるかな。 もぐら
昔より営み支へし細き川、今忘られて荒れにけるかな。 もぐら
   
白猫の窓外駈くる、と思ひしが諏訪湖の波の騒ぎゐるなり。 もぐら
テベレ川に桜桃の花咲きこぼれ、ブルータスまた春を知るべし。 もぐら
このイクラ、幾らなりしか、と気をつかふ母がこころは昔のままなり。 もぐら
恐ろしき校正担当せし人に、酒注がむとてにやりと笑はる。 もぐら
物判り良くなりたくとも金はなし。せめて小言をふんだんにせむ。 もぐら
夜淋し朝も淋し、と独りゐは洗濯ものも凍りつきたり。 もぐら
風呂に入る心も凍てて、きさらぎの夜の冷気は喉に痛しも。 もぐら
   
山水が中に洞窟ひとつあり。むかうは桃の花咲く郷か。 もぐら
けふの鬱、明日の燥へと連なりて、人はし歴史を深め行くなり。 もぐら
戦争に旗を振りゐし人はなほ、後悔などはしてをらぬらし。 もぐら
理由さへ立たば戦争してもよし、と。してはならぬ、は考へぬらし。 もぐら
けやき通り、とふ名はあれど、欅いづこ。自動車ばかり囂しきなり。 もぐら
腹を減らしつつ枯れ野行き、しばらくは柚子のかほりに我慢しゐたり。 もぐら
湯豆腐を箸にて摘み摘み摘み、崩れ崩れて口に入らざり。 もぐら
金銭の利害絡まぬ会ゆゑに、派閥あらそひ無きを慶ぶ。 もぐら
どの会にても声大き人がままとなるこそ、憂き世の定めなりけれ。 もぐら
食ひて死すよりもなべてを捨てて死なむ。などと言へども腹は減るなり。 もぐら
父が遺品たりける古き万年筆。懐かしけれど入るるインク無し。 もぐら
よれよれ、となりたる遺品の背広には、貰ひ手もなく、父のエコ良し。 もぐら
   
八方に延ばせし手足を納めつつ、老いの冬へと備へむ、と思ふ。 もぐら
思ふごとく動くことなき手足ゆゑ、しばしは露天風呂にて伸ばさむ。 もぐら
ありしことのなかりしなりと思ひつつ、珈琲最後の一滴を啜る。 もぐら
道を行く車と人とを眺めつつ、けふの旅また明けたり、と思ふ。 もぐら
先生と歌作りつつ辿りてし山道、通りて思ふこと多し。 もぐら
喰ふものに塩多くあるを、世がゆゑ、と呪ひてけふは酒ばかり呑む。 もぐら
塩あり、とえ言はぬ人を、なにゆゑかグルメグルメと持て囃すなり。 もぐら
夕顔の白きに、暑さを倦み給ひゐし病み母がことし思ほゆ。 もぐら
のほほん、と夕顔白きを見て過ごす夏の終りのあらましものを。 もぐら
葱畑を侵略したる猿共は、風邪をも引かず、大暴れなり、と。 もぐら
碁盤目に城市の並ぶ河北河南、自然と人の営みかかり。 もぐら
ほのぼのと朝靄晴れて、梅の花の薫る里へと入りにけるかな。 もぐら
節分の豆を食らひて歯痛みし、と知りて鬼共嗤ひゐるかな。 もぐら
   
人の世の移り行くより、人心移りぬるこそかなしかりけれ。 もぐら
移りぬる世をし恨み人恨み、きのふは夢とぞ思ふのみなり。 もぐら
つれなかりし人さへこころにしみて入る、花咲くころの春の雪かな。 もぐら
忘れじの契りなけれど、忘れがたき人と別れし春の宵かな。 もぐら
燃えむとのこころなけれど、ひたすらに痛きいぶきのさしもぐさかな。 もぐら
藻塩やく煙淋しき磯景色、明日また雨に濡れむとぞ思ふ。 もぐら
望月を隠す雲居は憎けれど、ゆゑに来じとふなほも憎しも。 もぐら
秋風に破れ戸の音さへ儚くて、恃みて過ぎしひととせと思ふ。 もぐら
春の雨の降るみ降らずみ、人ゆゑに秋の袖なる我さへも濡る。 もぐら
   
忘られし契りの夢さへ、ほのぼのと濡るるままなる春の雨かな。 もぐら
忘れじ、と言ひてし人と、忘れむ、と言ひてし人といづれか罪多き。 もぐら
きのふまで夢にゐし人、なにゆゑか今宵は影だに見ることの無き。 もぐら
山の端の月を中天に見む人もあらむ。はるかの旅ぞ悲しき。 もぐら
こころもとなかりしなり、と久方の世を嘆かひて人の来にけり。 もぐら
すべもなく西の空をし眺めつつ、来ざりし人のこと思ふなり。 もぐら
近道は何処ならむ、と星空の此処は彼処と眺めつるかな。 もぐら
天の川雲ゐの外にありと雖、渡しの絶えしなどとひがごと。 もぐら
月は如何に、星は何処、と思ふにも、旅のこころぞわびしかりける。 もぐら
有明を共に眺めし人去にて、露のしどけき秋のあけがた。 もぐら
定めなき人の世なり、と思へども、ひたすら袖の濡るるなりけり。 もぐら
   
雪の降る新潟、からから関東より温し、と予報。むべ、としぞ思ふ。 もぐら
夢の中のケイタイに掛け来し人は、我を目覚ませしめむとせしが如しも。 もぐら
小包に雪付きたるを詫びて呉るる、配達員に恐縮したり。 もぐら
西よりの雪多ければ、中国は唯今極寒なり、としぞ思ふ。 もぐら
西へすすむ船上、朝日の幕あがり、雪ならざるを慶びにけり。 もぐら
人とふの生の重きを問ふこともかなはぬままに、雪は降り来る。 もぐら
かくも良き朝の空気のありけり、と手足伸ばして甲板散歩す。 もぐら
酒旨し、旨かりけり、などつぶやきて、帰る街には粉雪の舞ふ。 もぐら
高速を降るれば知らぬ北の街。方向掲示も雪に埋みたり。 もぐら
肥の国も、前と後ろは異なりて、雪はし島原どまりなりけり。 もぐら
しろじろと胸の奥へと降り積る、きのふとけふを分くる雪かな。 もぐら
思ふことなかりし胸に降り積る白きを、人は雪と言ふらむ。 もぐら
   
小数と分数のちがひ。つまるところ、アナログ・ディジタルの差にてありけり。 もぐら
風邪引かずありけるものを、やすいせぬ身を老いゆゑと悲しかりけり。 もぐら
藪こぎの面倒も無き冬廃道、荒れたる人の心のみ見ゆ。 もぐら
かつて行きし列車の姿のなほも見ゆる、藪に埋みたる廃線跡かな。 もぐら
耕作を放棄せし土地。開拓者どもの涙を嗤ふが如し。 もぐら
祖母はひとり山田の奥の一軒家にゐたまふなり、と。雁教へけり。 もぐら
マンネリとなりたるキャットフードにも、文句を言はず抱かれゐる猫。 もぐら
人間に猫の好き嫌ひあるごとく、猫、人間の好き嫌ひあり。 もぐら
オンディーヌするりと抜けし窓ガラス。外は激しき雷雨なりけり。 もぐら
み仏は我が胎にあり、といふ楠の根っこにたふとき気色ありけり。 もぐら
木食の上人彫りしみ仏の笑むは、現しに泣くが如しも。 もぐら
切符あれど入鋏することの無くなりて、鉄、楽しみのひとつ減りけり。 もぐら
   
荷を運び来しトラックの屋根に薄く、春の淡雪らしきありけり。 もぐら
除夜の鐘聴きゐる荷物は、我は初荷ならむ、と小躍りしゐるなるべし。 もぐら
エンストをせしがごとくに朝刊のバイク行き過ぎ、初雪積みたり。 もぐら
朝刊の配達員の付けし轍、忽ち埋みゆく春の豪雪。 もぐら
はらはらと積ることなく舞ふ雪の色知るとなく、冬の末かな。 もぐら
あるはずもなきが何処より降りくるか知らず、今朝より白き積もれり。 もぐら
新しき年たび毎に古き思ひ捨てたりければ、身軽の老いなり。 もぐら
   
青々と民草生ひて、赤々と昇る朝日の映ゆる高殿。 もぐら
虫ゆゑのかなしき命もけふまで、と言ふが如くに秋の日は墜つ。 もぐら
母が身の悩み知らぬがごとくして、ランドセル背に子は登校す。 もぐら
ゆっくりと親は老ゆれど、幼子は、けふはきのふにあらじ、と育つ。 もぐら
役人の無責任、とは言ひながら、朱鷺はし自由の刻をし得たり。 もぐら
佐渡が島、群山かけて行く朱鷺の翼溶けゆく、海原の朱。 もぐら
地震あり、と思ふところに地震なく、無し無しといふところにあるなり。 もぐら
温暖化とふに別れを告げしならむ、赤とんぼ秋の空より去りけり。 もぐら
生きむとは思はぬ患者に、生きよ生きよとふも、くすしの勤めとぞ思ふ。 もぐら
なほも生き、なほも生きよ、と言ふ神の導きのままけふもあらなむ。 もぐら
現世を統べ給ふとふ大君がゆゑにありける、古稀の齢は。 もぐら
   
うつし世に千代も八千代もあらまほしきなり、と思ひてけふの朝かな。 もぐら
ゐまさず、となりて幾とせ経にしかは知らで、今年も明け初めにけり。 もぐら
まぼろしとなりてゐたまふ人がゆゑに、きのふはけふにつづきけるかな。 もぐら
幼きの頃にありにし街の様、変りたるこそ悲しかりけれ。 もぐら
たんぽぽの種のごとくに何処かへ行かむと思へど、子ろぞかなしき。 もぐら
たんぽぽの種のすべては翔び往きて、芯のみ残りし我が心かな。 もぐら
北の空より南へと春一番、豊後水道波立ちにけり。 もぐら
雑草のごときの生とは思はねど、我が身少しく温室育ちなり。 もぐら
少しでも面倒くさき仕事をばせで、道に寝る。雑草なるべし。 もぐら
著者もはや推薦する事なくなりし、古教科書なほ書店に並べり。 もぐら
万巻の書ありて人生短かり。古典作ることなんぞ難かる。 もぐら
茶畑の中の名所を尋ね尋ね、たふとき地蔵様に逢ひけり。 もぐら
母しあらば、何と言ふかを思ひつつ、現し身母は娘に悩む。 もぐら
晴れたれど風冷たきは、やがて来む春が先駆と祝ひけるかな。 もぐら
九州に雪降り来るを祝ひつつ、お湯割焼酎盃重ねたり。 もぐら
種籾をひと掴み取り、新しき年の命を祈りけるかな。 もぐら
来む歳の命を知らぬ我が身なれど、けふはし秋の種をし蒔くなり。 もぐら
麦を踏む母をしのびて、けふもまたラーメン一杯命繋ぐなり。 もぐら
   
一年生らしきが赤きランドセル背負ひ、黄色のカッパ着て行く。 もぐら
かくも晴れし角膜持ちしままに死せしなり、と濁りし我は嘆かふ。 もぐら
レーザーを直視せしゆゑ穴開くのこと、幸いに無かりけるかな。 もぐら
何がエコ、何温暖化とふ不問として、エタノールばかり作るなり、と言ふ。 もぐら
エタノール、酒依存症のみならずして、自動車依存症も作るなり。 もぐら
先に往にし人が苦しみを糧として、我等がけふの幸はあるなり。 もぐら
地震無きところに地震は来るなり、と思ふことなき人あはれなり。 もぐら
飛行船ふうはりとゆき、きっと舟恐怖症者も治りゐるらむ。 もぐら
飛行船、あれども乗るとふ人は無し。船恐怖症のひとつならむか。 もぐら
検査時にのみ我が見たる赤き血に、なほある命をいとほし、と思ふ。 もぐら
静脈は細く隠れて、採血の度ごと左右の腕出だしけり。 もぐら
なにも知らぬままの潔きにありにける若きを、今に懐かしみ思ふ。 もぐら
母様の作りし弁当背なにありて、ことことと鳴る遠足なりけり。 もぐら
歴史とは現実なりし、とふことをあすあさっても重ねて思はむ。 もぐら
人類の阿呆が歴史作るなり。利口は歴史を超えて進むなり。 もぐら
   
こころなくひたすら待つとふことし得るやうになりしを、老いとしぞ思ふ。 もぐら
ゆゑ知らず降り積もりたる白雪のごときの思ひを、したりけるかな。 もぐら
流れ行き帰ることなき大川の流れに逆らふ夢、見たりけり。 もぐら
   
実朝のゐたまひしいてふの葉は散りて、掃くいとま無き秋にぞありける。 もぐら
和尚老い雪掻きし給はずといへど、おのづと生ふる春の草かな。 もぐら
やうやうに初音ならひて卒業のときを祝ひて、梅の花かな。 もぐら
ロンドンに梅など咲きてゐたり、とは春の帰国の後に思へり。 もぐら
梅の香のひそ、と香り来る宵なれば、白雪さへも温くしありけり。 もぐら
梅の花の真白真白に咲き出でて、古樹なれども惚れなほしけり。 もぐら
有明の浅瀬は遠く、けふの海苔の稼ぎも知らぬ冬の暮かな。 もぐら
浅瀬埋めて成りにしビルに棲む人ら、昔の海苔場の姿思はむや。 もぐら
   
野焼きせしきのふを忘れて春なり、と言ふがごとくに小雨降るなり。 もぐら
しそこなひなりける恋を忘れよ、といふがごとくに春の雨降る。 もぐら
しばし猫も恋など忘れ、温もりに丸まりてゐる春の雪かな。 もぐら
暖房の温度制御は、あまりにも一定過ぎにて、冬春を知らず。 もぐら
炬燵火鉢のみなりし頃、加湿器などとふ無駄器具は無かりけるかな。 もぐら
母の今ゐます浄土は温くあらむ、今朝より春の雨の降りくる。 もぐら
ブーケガルニとふを入れ、葱じゃがいも等フランス田舎の香りするなり。 もぐら
病院のにほひも最近変りけり、クレゾールとふ無くなりたれば。 もぐら
春らしく濡れける空に母やあらむ、などと思ひて命日近し。 もぐら
   
生き残りたる我我が償ふのほかなき、英霊各位の嘆きは。 もぐら
誰が愚か、彼が愚か、など罵りて、我等はなべて愚かなり、と知る。 もぐら
今月をもちて会誌を停刊、と定めて深まる歌の老いかな。 もぐら
命あるかぎりは続けむとせしに、そろそろ止めよ、とふ声は悲しも。 もぐら
コロボックルらしきの二三雨宿りしゐるを見つつ、北の雨往く。 もぐら
み仏のゐたまふといふ浄土より、零れ落ちたる龍胆の花。 もぐら
励まして呉れたる梅も桜樹も、伐られて悲しき故郷の庭。 もぐら
庭木とて今は伐られてなけれども、何故か無花果の樹ひとつ残れり。 もぐら
うるさし、と思ひし虻も、ひとときの懐かしさなる秋の暮かな。 もぐら
老いて転ぶこと多くなり、整形外科最近常連となりしが如し。 もぐら
病院よりお歳暮は来ず、ひたすらに高き請求書のみなりけり。 もぐら
   
地震無きところに地震は来る、と言ひつつけふもまた地震なかりき。 もぐら
狐目は整形受けて、今頃は狸顔して天神筋ならむ。 もぐら
氷踏みて渡るのほかなきむかう岸より、亡き人来る春彼岸かな。 もぐら
ワイン壜開くるに難儀をしたりければ、隣席若きが開けて呉れたり。 もぐら
開かぬやうに、また開くやうにする蓋と言ふもの、人類の智恵にあらずや。 もぐら
南国も雪降るならむ。しづしづとしろきが椿の紅に積みゐる。 もぐら
さかづきに少しの濁り酒入れて、赤染衛門様に逢ひたし。 もぐら
もの思ひもの恥じらひて行く街のあかり、網膜にまぶしかりけり。 もぐら
青信号点滅しゐるに走り行く老いには、痛む腰骨ありけり。 もぐら
消防車サイレン鳴らして行き過ぐるほかは、音無き冬の闇かな。 もぐら
天国に救急車などありや知らず、現身ゆゑにせむかたなきなり。 もぐら
   
誰が見ても問題なし、とふデータのみをネットに上ぐべきなりとしぞ思ふ。 もぐら
大陸は寒く太平洋は温し。ゆゑに生ずる春の台風。 もぐら
   
歌うたひ歌かへしつつ、春の夜は流れゆくこそ嬉しかりけれ。 もぐら
大事なり、と思ひしことも世の流れ、時の移りに溶けにけるかな。 もぐら
1よりは0が始めにありけるを、数の不思議と思ひけるかな。 もぐら
俗も俗、俗の極なる給付金などと数字を操る者はも。 もぐら
チーズ入れてこれも雑煮、と言ふほどに世の中の趣味変りけるかな。 もぐら
母が味の薄れ薄れし正月は、たうたう四十二回忌と言ふ。 もぐら
年越しの蕎麦延びたれど、我が命すこしも延ぶるなき大晦日。 もぐら
紅白のトリの頃には酔ひ果てて、除夜の鐘など聴かず寝にけり。 もぐら
来む歳の重きを知れ、とばかり積る白雪ゆゑに、春ぞ待たるる。 もぐら
ゐし人の俤ばかりまなかひに見ゐれば、降り来る宵の雪かな。 もぐら
   
歳越して降り積む雪に、人の世の命の重きを識りにけるかな。 もぐら
朝刊の配達員のバイクのみ過ぎ行き、我が街初雪積みたり。 もぐら
生存を賭けたりけり、とは思はねど、入試会場雪は降り積む。 もぐら
春の雪の重きを載せて、我が笠は花の近きに弾みけるかも。 もぐら
世を知らぬ人をし諌むるごとくして、雪しんしんと降り積るなり。 もぐら
数学は何点取れしか知れず、入試室より春の雪へと出でたり。 もぐら
一歩より始めて数は限りなし、人はしゼロを忘れてありせば。 もぐら
季は何と問ふまでもなき、朝よりの冷たき強き季節風かな。 もぐら
   
この春は何酒旨しか問ふまでもなき、新潟の遅き雪かな。 もぐら
待ちゐても来る由も無き春やがて、憂き我が身にも来むとしぞ思ふ。 もぐら
知る由もなかりしことの、けふとなりてただひたすらに我責むるなり。 もぐら
人は如何に、こころは如何に、と思ひつつ我が乗る舟は憂き世の海漕ぐ。 もぐら
プラスともマイナスなりとも、人の知らぬ我が性格を恃みてゐたし。 もぐら
あまりにも多かりし夢の消えしかば、けふはきのふとなりにけるかな。 もぐら
紫の縁ありしを嘆きつつ、けふはしけふの浮き橋渡らむ。 もぐら
性格は曲がりてゐるよりまっすぐ、と言ふ人あれど、胡瓜ならねば。 もぐら
いつまでも冬にゐるとは思はねど、なほもはげしき春の嵐は。 もぐら
雪降れば若草芽ぶき、雨降れば蕾膨らむ。春は近しも。 もぐら
   
正ちゃんはおそらく八十路となりたらむ、如何なる帽子をかむりをらむか。 もぐら
折角に給ひし般若心経がゆゑに、せっせと写経するなり。 もぐら
深夜まで呑みゐることのなくなりて、終電時刻は知らず、となりぬ。 もぐら
呑みて帰る駅よりの道は冷たかり。タクシーも無き寒駅なれば。 もぐら
   
冬くれば千両万両赤き実の、ここぞと招く藪の中かな。 もぐら
春の香のそこ此処にして、枯れ山のもぞもぞとするころとなりたり。 もぐら
憂き世とはかかり、と思ふ、鏡池欠けたる月の浮きたる見れば。 もぐら
千鳥さへ鳴く音を絶えて、最果ての北の港に月入りにけり。 もぐら
此処かしこかしぐ煙の立ち昇る、夕暮近き大原の里。 もぐら
さて人はゐむかゐずかは知らねども、ひたすら白き庭の雪かな。 もぐら
春のころ短かかりける年月も、小春の頃は長くしありけり。 もぐら
煩悩のなほ百八つほど残りゐる、押し詰まりたる歳の暮かな。 もぐら
あはれとは思はずなれど、人絶えて踏む人もなき夢のかよひ路。 もぐら
   
何処より何処に入らむか春おぼろ、え知らぬ人に恋ひわたるかな。 もぐら
かくすべもことばも絶えし黒髪の、流るるままなる涙川かな。 もぐら
習ひてし道にしあらねば、人恋ひはけふの四辻に迷ひぬるかな。 もぐら
朽ちずとも、乾くことなき片袖を恨みて返す、磯の仇波。 もぐら
恋ひゆゑに朽つべき袖のありとても、怨みに沈まぬこころやあるべき。 もぐら
ひと恋ひをし初めし朝の峯の端は、仄かににほふ紅にぞありける。 もぐら
常ならむ恋せしゆゑにもの思ふならで、恋には常とふあらむや。 もぐら
夢にみてうつつに見ざりし人ゆゑに、せむすべなかりし恋もするかな。 もぐら
ひとつよりほか無き心を砕き砕き、果てなき恋をけふもするかな。 もぐら
   
もの思ひ残りたりしはいかばかりかは知らねども、白き空かな。 もぐら
露のみにあらで濡れたる蝉ごろも、明日より秋の風ぞ吹くらむ。 もぐら
悪しき世がゆゑに、常盤の松さへも枯るるばかり、といふが悲しさ。 もぐら
淋しさのし初めなりける七夕の宵、また人ゆゑ晴るることなし。 もぐら
苫屋には寝るよしもなく、洩る月の影をし数へて更け行きにけり。 もぐら
ひとりゐは淋しからねど、秋の月の苫洩る宵はさらずもありけり。 もぐら
あはれとふ色して人にものを言ふ、けふ秋風は憎くもあるかな。 もぐら
ひとりゐて、明日はし如何に、と思ふにも、秋の月夜は悲しかりけり。 もぐら
人の見ぬ山も錦の色なして、こころも知らず秋更けにけり。 もぐら
きのふあはれけふもあはれと思ひなして、かれ行くばかりの秋にてありけり。 もぐら
   
世のなべて人のなべてを知りがほに、今朝置く露に濡れゐたるかな。 もぐら
きのふまで秋なりけり、と思ひしに、今朝近江路に積もる白雪。 もぐら
きのふまでゐて鳴きゐしに、秋の虫、今朝白雪の何処なるらむ。 もぐら
人ゆゑの鳴き声ならで、ひぐらしの秋よ秋よと鳴きまさるかな。 もぐら
限りなく儚きものは人の世、と思ふに虫の世なほ儚し。 もぐら
君が代の八千代を祝ふ菊の酒の、酔ひ心地こそめでたかりけれ。 もぐら
月あはれ花もあはれと思へども、まされる老いぞあはれなりける。 もぐら
ひたすらに待ちゐし月の、しろじろと入り残りたる西の京かな。 もぐら
人待ちてゐしゆゑ聴きし秋の虫、明日は絶ゆべき我が身なりけり。 もぐら
侘び住まひゆゑに人をし恋ふならむ、大宮人は誰か恋ひ見む。 もぐら
   
年は暮れまた明くるとも、人の世の儚きことの果てぞなからむ。 もぐら
待ち待ちてきのふはけふになりにけり。明日をし知らぬ身ゆゑか悲しき。 もぐら
   
見納め、と識りゐる如く、校門のいてふは秋に鮮やかなりけり。 もぐら
今ごろは校門いてふに埋みたらむ、などとふ定年くりごとなりけり。 もぐら
小公園菊展ありて、何か知らず、役所にゐるが如きの心地す。 もぐら
ひさかたの小春日よりに、上下を着たるごときの菊の花かな。 もぐら
病室の窓は暮れむとする中に、点滴かそけき音立てにけり。 もぐら
快晴、と看護師言へど、我が眼天井のシミを見得るのみなり。 もぐら
肺炎を病むことなくして、駅伝を見得し正月、めでたかりけり。 もぐら
人を恋ふがゆゑに乱るる髪ながき、をみなのわれはかなしかりけり。 もぐら
   
ひとつ夢みたりといへども、恋の夢にはあらざりし正月二日。 もぐら
そよ風の如くに来たりて、そよ風のごとくに往にし恋し懐かし。 もぐら
ただひとつ持つ命ゆゑまして人の恋ひしや、人は恋ひしかりけり。 もぐら
ひとつだけの恋ひせしなり、と今更に媼はひとつ繰りごとを言ふ。 もぐら
なほ幾つ残りし年かは知らねども、なほ正月はめでたかりけり。 もぐら
誰ゆゑと知らぬきのふにありといへど、明日はしなほも人はし知らず。 もぐら
誰ゆゑに回る地球か知らねども、けふはしきのふの我にはあらざり。 もぐら
ひととせを十二に分けて観覧車、ひとめぐりして年は明けたり。 もぐら
   
人知れぬあひだに年は移れども、変らぬ顔するけふの満月。 もぐら
夢、夢を仲立ちすとふ鬼ゆゑに、母が嘆きを聴きにけるかな。 もぐら
残したる仕事をせむとて、鬼どもの一生懸命なる見て可笑し。 もぐら
鬼せむのことをし人のせむとして、嗤はるるまま年暮れにけり。 もぐら
この土の下には幾万幾億の命眠るか、知らで耕す。 もぐら
我等土に帰らむとせば、何処ならむ、などと観光写真を見たり。 もぐら
何ことば使ふも所詮我は我、人は人ぞ、と思ひけるかな。 もぐら
ときどきは地上に顔出す地下鉄に、我が想念の糸途切れたり。 もぐら
終電の赤灯行きて、駅の灯を消さむと動く駅員淡し。 もぐら
往にしことはなべて変らず。四十回忌をし過ぎたる母がこともまた。 もぐら
もの思ふ如くに色の変り行く衣は、如何なる汗を吸ひしや。 もぐら
憂き衣ゆゑに染めてし色なれば、袖さへ濡れであるべしと思ふ。 もぐら
   
金、かね、と言ひて暮らして一とせは、金木犀の香に消えにけり。 もぐら
淋しさのまぎれに薫る金木犀、むべにや秋はふけにけるかな。 もぐら
酔ひ酔ふも大して文句を言はるるのことの無きをし、老い、と言ふなり。 もぐら
火をもちて火を制するの技知りし纏は、いろは四十七文字。 もぐら
鐘ひとつならで半鐘鳴りひびく、からから風吹く江戸の春かな。 もぐら
揺るる船の湯舟に浸かり、我もまた大海行くが如きの心地す。 もぐら
春浅きままに岩湯に浸かりゐて、野猿と蕨を分け合はむかな。 もぐら
伊豆椿咲きて散り積むその道を、花倦みしつつ戻りけるかな。 もぐら
石敢當、我が家にゐ給ふやうになりて、不審不幸また減りにけるかな。 もぐら
   
日本人、日本語判るとふ迷信を、今更ながら悟りしけふなり。 もぐら
耳持たぬ石の頭にもの言ひてありし、と今更恥じにけるかな。 もぐら
勝負ごとなどはせずとも生き得るを、憂き世の徳の一つとしたり。 もぐら
富を嫉み、貧を侮るのこころなくて、我仙人と言はれけるかな。 もぐら
貧しくて生きゐしことの懐かしく、これこそ富と思ひけるかな。 もぐら
人を見て酔ひたるなり、と思ひしは酔ひたる芙蓉の我が身なりけり。 もぐら
椿降る島の小径を行き行きて、太平洋の荒波を見む。 もぐら
反射帯背中に巻きて夜街道、光る激流抗して進む。 もぐら
下り道は当然楽、と思ひつつそれを願ひて登り道漕ぐ。 もぐら
七種を切りて叩きて、この春の皆の無事をし願ひけるかな。 もぐら
五十年おさんどんをばしました、と言ふを聴きつつ腹減りにけり。 もぐら
   
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