■■もぐら選歌集■■
シベリアゆ来たりししろ鳥何も言はず、昨夜はウォトカ呑みしなり、とか。 もぐら
呑む酒の強かりしゆゑか、しろ鳥はやまとに至りて朱鷺となりし、と。 もぐら
   
シリウスを指輪にせよ、と頂きて、それなら取ってくれろ、と言はむ。 もぐら
シリウスの地上に降りて霜となる。天君、妙なる業為し給ふ。 もぐら
シリウスの一万数千度の高温、寒しと思ふ我等が不思議。 もぐら
   
時雨止みけふは少しは温きか、と思ひはすれど風は冷たし。 もぐら
ぬる風呂に入るには寒き時雨どき、せめては熱燗一合あらなむ。 もぐら
こがらしの吹きしく宵は、風邪引かむことをし恐れ、風呂は止めたり。 もぐら
   
パーキングメーター、夜は動かず、と。抜け道いろいろあるものなりけり。 もぐら
きしのうへ、とあれども岸野宇兵衛ならで、岸の上、とふ配達泣かせ。 もぐら
かっこ良くなんとか荘、と標札にあれども、ただの木賃アパート。 もぐら
機嫌あしき女の赤き爪を研ぎてゐるをし見つつ、背骨凍てけり。 もぐら
好き好き、と紙飛行機にピンク色のマジックに書き、恥も掻きけり。 もぐら
好き、と書きし凧天高く登らずて、低くグランド砂噛みにけり。 もぐら
吠ゆるほかの能無き馬鹿犬からかへば、かさにかかりてなほ一層吠ゆ。 もぐら
   
じっくりと聴かせ給ひし名匠の逝きて、日本語ひとしきり淋し。 もぐら
帆立とはかくも地味なる貝殻か。始めて剥きし原人偉し。 もぐら
恋ひぶみも書き損じなれば可燃ごみ。ごそごそ探せば個人情報。 もぐら
万語連ね万練りを言ふ人なれば、顔をし見たらば耳塞ぐべし。 もぐら
世の中の常識すなはち迷信を、万回言ふは万練り、と言ふ。 もぐら
万練りの代表らしき編集に、腹をし立てては、没となりにけり。 もぐら
   
暁に見し影なり、と思ひしは、昔別れし人にてありけり。 もぐら
なみださへ渇れたるやうになりて、ゐし人の心をやうやく知りつ。 もぐら
人ゆゑの嘆きも一段楽、となるおおつごもりも真近となりぬ。 もぐら
   
若きころは弊衣破帽にありにけり。おしゃれは老いの象徴と思ふ。 もぐら
年相当おしゃれ、と言へども老いは老い。外観のみにては如何ともし難し。 もぐら
かほに出づること無きやうにて出づるもの。きのふ思ひし苦きことども。 もぐら
きのふまで女にありし、と言ふがごとく、千日紅は枯れなずみけり。 もぐら
秋の日の残れるごとく、女びとのいのちはけふも紅と燃えけり。 もぐら
夢にのみいつもゐる児は笑まひゐて、三十年間くれなゐなりけり。 もぐら
倒れたるつはものゐし、と草の露は今朝いやまして繁くありけり。 もぐら
   
なべて人は死ぬことなどは忘れゐる。幾ら酒など呑まず、と言ふとも。 もぐら
日頃より四角四面の客なれば、論なくけふは平柿供せむ。 もぐら
我ひとり女性専用車両なれば、居眠り夫を起こすをえざりき。 もぐら
山姥は渋谷に出でて留守となれる奥山、けふの紅葉赤しも。 もぐら
魔の多く棲みゐる山ゆゑ、くれなゐの紅葉一際見事なりけり。 もぐら
原発のあまりのお湯に入りけり。温さは温し、放射能無し。 もぐら
   
それなりにゐたしと思ひ来し人は、馬鹿にさるること多しとぞ思ふ。 もぐら
亀にくらべ齢の短き鶴なれば、渡りわたりの時間貴重なり。 もぐら
   
もも歳も千歳も齢のあるべきを、悲しきものは定めなりけり。 もぐら
酔芙蓉、とふ花の意を知りにけり。我またひそみに倣ひて呑まなむ。 もぐら
   
星何を思ふか知らず、我に似て氷の粒を散らしゐるなり。 もぐら
けふまでが秋よ、と知れば淋しかり、茜の雲も黒き木陰も。 もぐら
   
船恐怖患者の増えて、旅行とふは窮屈をすることとなりたり。 もぐら
世の都合通りにあらじ、と思へども季節の都合には合すなり。 もぐら
来年は山車など止めよ、と町民の言ふが増えたれば、会長くるし。 もぐら
十分に一本、一日に一本と、バス停へ走る速度変るなり。 もぐら
バスはもっと幽霊どのを乗せるべし。少しは賑はふ旅となるべし。 もぐら
金銀を掘り尽くすをし乱獲と言ふことは無し。石油はどうか。 もぐら
   
かりそめの恋と思へど、ひたすらに胸かきむしることとはなりぬ。 もぐら
かっこ良き恋文書かむ、と苦吟すれど、背中が痒くなるばかりなり。 もぐら
言ふよりも書くはうが良い、書くよりもこころを歌ふはうがもっと良い。 もぐら
猛犬に注意、とあれど、何処に居る。キャンキャン吠えるチワワのことか。 もぐら
ふみ殻を可燃ごみに出し、我が恋は今焼却場の炎の中ならむ。 もぐら
   
破れ寺、となりしは、檀家衆多く逃散せしかの飢饉がゆゑなり。 もぐら
駐車場ゆゑに寂れし寺なれば、つひに梵鐘さへも売りし、と。 もぐら
掛け取りと水盃など汲みかはし、詮のなかりし逝く年を恨む。 もぐら
年男ゆゑ幾許か福あり、と言ひくるめられける町会幹事。 もぐら
つごもり、と浮き世は言へど、きのふけふ我は変らぬ旅寝なりけり。 もぐら
きのふまでの談合、どうやら決着の付きしか、料亭深閑とせり。 もぐら
母かへり来、とふを聞きて、怒りよりもあのことこの事話したかりき。 もぐら
   
東山ぬくぬくしゐるは蒲団ゆゑならで、マグマの熱きゆゑなり。 もぐら
何処掘れど、熱湯出づるは同じなり。深き浅きの多少の差あれど。 もぐら
宿の炬燵、ぬくぬくとゐて、もふ旅は止め止め、と言ふ歳の暮かな。 もぐら
恐ろしき塩の毒はし、酒の毒河豚の毒にも勝れり、と思ふ。 もぐら
酒、酒、と嬉しく呑みて機嫌良くなりしがゆゑの、いまなほ一本。 もぐら
鎌倉を見捨てて、秋のあかね陽は、奈良大仏を照らし給へり。 もぐら
冬陽もふ仇を討ちに長崎へ往にたれば、江戸、闇となりけり。 もぐら
   
春来しは、三笠の山より湧き出づる清水の音に、それと知れけり。 もぐら
ひと冬を大根漬けにて生き延びて来しかば、けふの若菜嬉しも。 もぐら
紅梅も白梅もまた枝延ばしゐたれば、我を気すぐと人見む。 もぐら
花ゆゑに立ちし名なれば、いつと知らず散り果てむべきものとしぞ思ふ。 もぐら
いのちありしゆゑに渡りし橋立のつづきは、いづこの橋や渡らむ。 もぐら
夢なり、と見しけふゆゑに、明日のもしあらば如何なる夢にかあるらむ。 もぐら
白梅の香ゆゑに迷ひし闇の道を、知らぬかほして入りし月かな。 もぐら
あはれあはれかほして、けふは花の野を見納めなり、と茜陽は逝く。 もぐら
草焼きし灰を畑に帰しつつ、来む年如何なる花か、とぞ思ふ。 もぐら
待ちゐしを知らぬ顔して、ささと散る花こそつれなきものにてあるなれ。 もぐら
   
枯れ草は季節がゆゑにあらずして、除草剤ゆゑの効果。恐ろし。 もぐら
秋果てて来む年いかにと思ふにも、人の命の明日は恐ろし。 もぐら
けふの秋は明日の冬へと続くなり、と知ればか、朝の霜は恐ろし。 もぐら
霜置きてなべては冬の装ひして、老いの為すべきことの知られず。 もぐら
書き遣りて見たしと思へど、我が髪は簪に耐えずとなりしが悲し。 もぐら
もの書くを以って、生計を立つること無かりしことを今に慶ぶ。 もぐら
ふみ書けど、何も判りては呉れぬらしき人には、二こと三ことにて止む。 もぐら
   
あはれあはれあはれ、と書きて余のことば浮かばず三十一文字は尽きたり。 もぐら
凡の凡ゆゑにえ書かぬことどもの積りて、某々書房儲かる。 もぐら
何を書く、かにを書くとふみだらこころ、消えにし老いは嬉しかりけり。 もぐら
みづからがために書きしを人買はず。世がため書きしもまた同じなり。 もぐら
もの書くのほかせむことの失せにける、老いとふものは悲しかりけり。 もぐら
世の憂さを忘れむとして書きし文がゆゑに、憂さなほ積み増さるかな。 もぐら
ありけり、と、ありけり、とのみ書きつけて、なべてをきのふと忘れ果てなむ。 もぐら
   
月の夜は、黄菊白菊なかりけり、なべては姿のままにありせば。 もぐら
ありはてて散らふ花こそかなしけれ、きのふの夢をあすも見む、とて。 もぐら
十万の金を明日はし返すべし、と思ふ宵はしい寝ずありけり。 もぐら
   
時知らぬもののごとくに、蒲団温し蒲団温しとのみを言ふかな。 もぐら
現し身の、生計の何の、とせはしくて、母が奥津城いまだ詣でず。 もぐら
   
みやこゆゑの憂さまさりしか、夕靄といふは倦みける人の吐息ぞ。 もぐら
山は雪、海大荒れ、と気象婦は言へども、里は明治節なり。 もぐら
けふよりはきのふにあらじ、と思へども、なほきのふとふなつかしきかな。 もぐら
   
解きて結ひて、誰もみて呉れぬ黒髪の鬢の香りが虚しかりけり。 もぐら
多摩川も四万十川も春過ぎて、同じき雨に濡るるころなり。 もぐら
壱千年伐らるることなき、それほどに用なき巨樹はけふも立ちゐる。 もぐら
この雲は雪雲なるや時雨るるや知らず、蔵王が頂き見えず。 もぐら
今時の十代よりも、十倍も悪にありける青年将校。 もぐら
   
月はけふ冬の光に照りにけり。冷たきいろに子も泣きゐたり。 もぐら
むく鳥の食ひ残したる柿ひとつ、秋の名残に照りゐたるかな。 もぐら
   
軒に吊す熟柿のかほりのほのぼの、としつつ野面は霜の白なり。 もぐら
窓一面白き霜降り、常識に依存する人世をしえ見ずも。 もぐら
べに椿べに椿とて囃しゐし花、なほさびしく一輪のみなり。 もぐら
   
悪童らいたづらしゐし校舎裏、空き地は雪にて餓鬼らをらずも。 もぐら
人間の都合は恒に猫都合ならで、暑すぎ寒すぎばかり。 もぐら
白雪が砂糖ならば、と思ひしは、戦中戦後の子どもの我なり。 もぐら
   
春の気の凝りしが靄となりぬべし、姿も見えぬあまの香具山。 もぐら
なほも消えぬ淡雪ゆゑに、人思ふこころも未だ融けじとぞ思ふ。 もぐら
古さとにゐ給ふ人がことのみを思ほゆるなり、春の淡雪。 もぐら
春の気は唐天竺を押し分けて、倭の国に押し寄せにけり。 もぐら
淡路島、再び見むのゆゑなくて、ただ曙の春を待ちけり。 もぐら
淡路島、渡す橋さへあるものを、悲しきばかりの人の恋かな。 もぐら
いづかたゆ湧き出でけるか知らぬまま、せせらぐ流れとなりたる若水。 もぐら
しもつけの国の淡雪消え難てに、なほも冷たき人をしぞ思ふ。 もぐら
人ゆゑに摘みし若菜を惜しむごとく、きのふもけふも淡雪は積む。 もぐら
   
白雪の残れる野には、吾妹子が欲りせし若菜の生ひし、と思ふに。 もぐら
春日野の雪消えたれば、若菜摘む人の袖さへ嬉しげに見ゆ。 もぐら
禁野ゆゑ人は入らじと思ひしに、忍び入りけり春の佐保姫。 もぐら
消ゆるとも残るとも無き春日野に、積り積らぬ春の淡雪。 もぐら
忘れじのことばの散らふごとくして、ただ消え残る春の淡雪。 もぐら
ゆゑもなくふりし袖とは思はねど、けふ積む雪はいとど重しも。 もぐら
いづこともえ知らぬ里にとめ行きて、ただ引く松のねにぞ泣かるる。 もぐら
淡雪の此処にかしこに残れるを、人はし春のしるしとや見む。 もぐら
人の見て、春なり、といふ淡雪も、憂き身がゆゑか、なほも冷たし。 もぐら
淡雪も花としぞ見む、ふるさとは春さへ訪ふこと遅ければ。 もぐら
   
消えじとは思ひはすれど、ふるさとの花に紛ひてふれる淡雪。 もぐら
清瀧も春浅ければ、淡雪の白きを流す淵瀬なりけり。 もぐら
水かさの増しける河のしもにゐて、かみには春の到りしを知る。 もぐら
白梅の咲きし、と紛ふ淡雪の積るが春の兆しなるべし。 もぐら
淡雪を白梅咲きつとたぐへつつ、深山の里の春は遅しも。 もぐら
あずさ弓春待つこころは変らねど、なほも降り積む淡雪ぞ憂き。 もぐら
霞とも、狭霧とも知らで明けぬれば、袖には露の置きまどふらむ。 もぐら
狭霧たつ大和の川を漕ぎ出でて、春に帰らぬ背をし待つかも。 もぐら
ひむがしのうなばら春は霞たち、よこ雲紛ふ沖つ白波。 もぐら
夢、と泣きて、うつつ、と醒めにしありあけを、分けしは峰の春の横雲。 もぐら
別れ来し里を隔つる峠みち、峰をし隠す今朝の横雲。 もぐら
   
人恋ひの嘆きに春はなかりけり。つゆとて袖の濡るるのみなり。 もぐら
嘆きゐし春さへやがて果てぬべし、うつし身かなし今朝の横雲。 もぐら
紅梅か白梅かとも知らぬ間に、春宵人恋ふにほひ満ちたり。 もぐら
霞むとて霞みも果てぬ春の月に紛ふは、何恋ふ白梅の花。 もぐら
この庭の主は強欲なるを知る。梅の樹ともしく伐り詰められたり。 もぐら
ゐし人は代変りしと聞くがゆゑに、花とて垣根を越して見るのみ。 もぐら
梅の香のなほ籠められし袖に、けふは月影さして露の置くなり。 もぐら
きのふ既にむかし昔、といふがごとく、濡れし袖には月宿るなり。 もぐら
世の憂さを今宵の月とたぐへつつ、明くればなべてに白き霜降る。 もぐら
ゆゑしらぬ間に恋ひにける人ゆゑに、秋の月にもなほ思はるる。 もぐら
憂かりけるきのふ咲きにし梅の花、嘆きのけふなほかほるぞかなしき。 もぐら
おもひはてなむとふ恋のこころありて、春のおぼろは悲しかりけり。 もぐら
   
見ゆるとも見えずともなき人の世に、いざよふ人の影をこそ見め。 もぐら
来む人の、来じ、とふことを人づてに聞きてし宵の、朧月かな。 もぐら
よしも無きたのみごと背負ひ、かりがねの翔びゆく北の空寒からむ。 もぐら
借るるばかりにて返すなき人は、なほ雁にも劣る者としぞ思ふ。 もぐら
萎れつつ待ちゐし春は我のみか、帰りし雁の翼もさなり。 もぐら
もの知らぬままに一とせ過ごせども、雨の温きに春ぞ知らるる。 もぐら
柳葉の黄金に染まり行く見つつ、我が一とせを終へむべきなり。 もぐら
あらはれて濡るるがままに乱れにし、春の柳の恨みぞ深き。 もぐら
春ゆゑに乱れしなりと人言へど、濡るるままなる佐保の青柳。 もぐら
若草のかげさへ見えぬ春の野に、ゆゑなき袖を濡らす淡雪。 もぐら
降らずとも降るとも知らず悲しきは、残りの花を散らす春雨。 もぐら
   
花に啼く鶯、お宿はいづこぞ、と聞けば深山の藪蔭と言ふ。 もぐら
咲きつとふ便りはあれど、遠峰の白き、はたして花かは知らず。 もぐら
きのふけふ咲きたりといふばかりにて、来よとは書かぬ便りなりけり。 もぐら
花見む、と便りのみにて、現し身の行く由もなき春の長雨。 もぐら
富み人のやどにのみ咲くさくら花、けふなほ京の小路にも咲け。 もぐら
上下の花を合せて二千本。その余の桜を見むにかひ無し。 もぐら
ふる里の人のこころを尋ぬれば、明日は散るべきもみぢ葉なりけり。 もぐら
ゆゑしらず袖の濡れしは、花の散るにはあらずして、人ごころなり。 もぐら
誰、とけふはえ知らぬ人の植ゑ給ひける山桜、春を忘れず。 もぐら
   
ひとたびの逢ふ瀬のみをし願ひつつ、ことしの紅葉散りはてにけり。 もぐら
来るべきの人はし来ずて、木枯らしの淋しく雨戸を叩くなりけり。 もぐら
   
白彼岸花とは言へど別種なり、と。秋病みしける人かとし思ふ。 もぐら
おにぎりのたわわに成る木のあらば良し、と冗談めきたる漫画描きけり。 もぐら
酔ひしときは、普通電車に座るべし。寝過ごすとても帰路は短し。 もぐら
   
きのふまでありける秋、とは知らぬかほに有明さへも霜に凍てたり。 もぐら
星降る、と思ひしかども、それは雹。色さだまらぬ五月ごろかな。 もぐら
朝澄みて、きのふ見にけるうらみつらみ、霧の彼方に溶けにけるかな。 もぐら
   
きのふまで暑し暑し、とシャツ脱ぎてゐしが不思議や、けふは木枯らし。 もぐら
紅葉する渓谷、今週までなり、と観光ガイドのおばさん嘆く。 もぐら
くれなゐはかくも多彩にありにしか。人ゐぬ山の秋送り見て。 もぐら
   
ほの白く明けにしゆゑを知りたり、とほととぎすとふ鳥はしば鳴く。 もぐら
あけぼのの白きはいづこも同じなれど、伊予の国には島影の色。 もぐら
やうやうに明け離れにし神ゐます山の杉にも、狭霧籠めたり。 もぐら
不知火のほのかに残りし天草の、藻刈るをみなのすこやかなること。 もぐら
琴の音は変らずなれど、吹きすさぶ世の秋風の増さりけるかな。 もぐら
契りしのかひなきことの身にしみて、吹く秋風ぞ悲しかりける。 もぐら
侘び居には侘び居る音のみかなでつつ、なほ松風に紛れゐるなり。 もぐら
男どもの暴力、応援してゐたる愛国婦人会とふありにき。 もぐら
平和さうにしてゐる男の内心の暴力志向は、今に変らず。 もぐら
   
望遠鏡、結局買ふこと無けれども、設計公式のみは覚えつ。 もぐら
望遠鏡欲し、と思ひし少年の頃より、星は少なくなりぬ。 もぐら
波などといふもの扱ひかねしゆゑか、猫の手までも借りしなりけり。 もぐら
豚喰ふを宗教ゆゑの迷信、と言ふなら、塩喰ふ、何の迷信。 もぐら
宗教上、とふは実際衛生上なりしを忘れ、迷信となる。 もぐら
咲くさくら、さかなに、些少の俗事などけふは忘れむ、さくら酒呑め。 もぐら
二槽式洗濯機とふは便利なり。女中を二人雇ひし如し、と。 もぐら
洗濯機、大型なるは役立たず、夫婦二人となりたる我らに。 もぐら
撮ってならぬ演奏会の例外、と言ひて美人は撮影自由。 もぐら
   
小春とは徘徊するに良き日なり、ちゃんちゃんこなど不要、と思へば。 もぐら
明日よりは時雨すべし、と気象婦は言へども、それは東京地方。 もぐら
行く雁に、幾許の金貸したれば、必ず帰るをひたすら待つなり。 もぐら
   
夢さそふ刻にてありけり、しづしづとしぐれの音の沁み入りし宵。 もぐら
呑み過ぎか、朝の二時には目をさまし、憂き世のことごと思ひ継ぐるなり。 もぐら
誰が引き金を引きても弾出ざるピストル、次ぎは我の番なり。 もぐら
みづからの追悼文を都合良く書きておけども、読むかは知らず。 もぐら
昨夜、ドアを閉めしままにて寝にければ、哀れ、猫どの、雪に埋みゐたり。 もぐら
酔ひて、靴を表に脱ぎて、閉め、寝たり。その夜は秋の大雨なりけり。 もぐら
三号線、とろとろ漢江渡りすぎ、次は狎れたる鴨の洞なり。 もぐら
地下鉄は左右のいづれを走りゐるか。ソウルにつきては、かなり難問。 もぐら
   
来るべきの人はし来ずて、ささがには振る舞ひ謝しつつ夜は更けにけり。 もぐら
せめて隣、美人ならば、と思ひても、それはそれにて面倒多し。 もぐら
山の手線唯一、と言ふ踏み切りの、こなたかなたに赤まんま揺る。 もぐら
唯一と思ふほゆるかな、神宮の森の芒は白く輝く。 もぐら
船中、と書きたるはがき、着きにけり。太平洋を泳ぎ来たるや。 もぐら
半月の淡く中空にかかれるを、我が行く道のしるべとぞせむ。 もぐら
皮算用のみしゐし、とふ後悔の如くに、淡き月かかるなり。 もぐら
   
トウシューズ破れぬままに展示室の壁に倚りゐる、ドガの踊り子。 もぐら
言ふことのかくもたくさんありにしか、疲れ果てたる右手親指。 もぐら
枠内に、言ふべきことの増えたれば、フォントを小さくせむ、とするなり。 もぐら
借り着返す朝、気が付きし重大なるシミにいささか慌てたりけり。 もぐら
敷金を当てにし給ふか、大家どの、柱の傷には文句も言はず。 もぐら
お互ひに命ある内、お互ひに礼言ふべし、と思ひたりけり。 もぐら
お互ひに、戒名などは見たくなし。さらば赤字の、決めて置かうか。 もぐら
人の世は泣くためならず、と思へども、鏡に笑顔の映ること無し。 もぐら
   
遠峰の白きを見つつ、なほなほと残りの熟柿の紅きを喜ぶ。
濡れし袖は、今朝置く露か、はたやはた思ふがままになき世か知らず。 もぐら
   
役人は役人なりに怖きもの多くあるなり、暴力団、とか。 もぐら
議員ならば、一応、票は気にするが、役人、落選する怖れ無し。 もぐら
   
現し身の色変へながら、この秋はしづしづ知らぬ世へ移りけり。 もぐら
きのふよりけふへと登る階段を踏み外したき、二日酔ひかな。 もぐら
   
頭には白きの置きたる翁なれば、今更霜降る、など言はずとも。 もぐら
今年とふ儚き年を埋めよ、とか、今朝ひたすらに霜は降り積む。 もぐら
   
これ食ふは隣家の賓客のみとなりて、果物店より柿は失せたり。 もぐら
ひとりゐのうたたねなれば、色も欲も消えゐてひたすら老いのままなり。 もぐら
今もなほブラウン管のテレビある宿に泊まりて、うらさびしかり。 もぐら
来年はただの木箱となりぬべし、しばらく穴とふログ楽しまむ。 もぐら
今時はレアとなりたる少女。また、レアとなりたる朝顔の花。 もぐら
雀つがひ来啼けど、恐らくきのふとはたがひに換へしつがひなるべし。 もぐら
がさごそ、と何かの鳥の翔び立ちぬ。きっとHをしゐしなるべし。 もぐら
   
着払ひ、とふ面倒なる荷物ゆゑか、送料足りず柿貰ひけり。 もぐら
雲丹の横に栗を並べて不思議、とは誰も思はぬスーパーとふ店。 もぐら
   
温かり、と思ひし母の懐も今は冷たき土にかへれり。 もぐら
ママさんは票にはならぬ、と思ふらし。待機児童の数は増え行く。 もぐら
赤い実を食べたら赤き小鳥、ならば、雀は何を食べたの、と言ふ。 もぐら
赤い実を食べたら赤き小鳥、ならば、うぐいす、鴬餅を食べたのね。 もぐら
往にし人と共にありてし日々の、また遠くなりたる菊の花かな。 もぐら
人送る白き花なら菊の花。けふはしかなしき人に別れつ。 もぐら
白菊を回収してはまた献花。故人の遺徳は広大なりけり。 もぐら
袷売り、綿入れ古着を買ひいれて、山家もしばらく冬篭りせむ。 もぐら
剰と言ひ、贅と言ふとも、カシミヤの軽く温きにまさるもの無し。 もぐら
   
さぶしみにひとりの飯を喰はむ、とて見れば箸また一本のみなり。 もぐら
このまづき弁当、誰が喰らはむや。店長さへも喰はじとぞ思ふ。 もぐら
忘れたきことなどなけれど、今朝は茗荷しっかりみそ汁中に入れたり。 もぐら
船恐怖症の輩、高速は無料、フェリーは潰せ、とのみ叫ぶ。 もぐら
怒るための酒は憂き世に満ちたれど、幸祝ふ酒はまことに稀なり。 もぐら
九州にしばらくゐむ、の身にしあれば、いいちこいいちこ酒はいいちこ。 もぐら
理を知らぬ人と、ひと刻共にゐて、迷信深きに倦みにけるかな。 もぐら
一合の酒に酔ふこそ嬉しけれ、冥土に純米酒など無ければ。 もぐら
   
いにしへの源氏の作者に、今源氏、共に酒をし酌みてみたしも。 もぐら
きのふとふ美酒汲みつ、けふといふ苦酒飲みつ、明日は冥土か。 もぐら
人の世のでんぐり返しはかくの如し。怒りて笑へ、泣きても笑へ。 もぐら
呑みて喰ふ人の多きは、日本国最大迷信なり、としぞ思ふ。 もぐら
酒呑みて明日はしなべてを忘るべし、匂宮など、千秋のことなど。 もぐら
世に倦みて、憂き世嘆きてゐる身ゆゑ、この一合の酒は旨しも。 もぐら
酔ふための酒にしあれば、呑み呑みて酔ひ酔ひてなほうつし身思ふも。 もぐら
新奇なるソフトにはまる人は、またネット詐欺にもかかり易しも。 もぐら
新奇ソフト有り難がりゐる人は、また迷信深し、と思ひけるかな。 もぐら
   
人の世の儚きことを、星の世の億光年の儚きに見つ。 もぐら
天狼星、凍てて張り付く冬空は、星屑どもまた捨て氷なり。 もぐら
   
志を失ひオリオンのみを見ゐしころの、昔の懐かしかりけり。 もぐら
枯れ草を刈りゐて、紫陽花株あるを、また来む夏のために残しつ。 もぐら
志のなほ残りつ、と言ふがごとく有明の月薄くありけり。 もぐら
   
富士白し、浅間も白し、石見なる三瓶のお山も霜月、白し。 もぐら
いてふ今独立法人となり果てて、ぎんなん、落ち葉も成果なり、とふ。 もぐら
からまつの林の出入り、最近は高速道路が出来てうるさし。 もぐら
秋まつりなれども今まで何も無し。山車を、と言へば氏子反対す。 もぐら
二十年昔は、娘も妻もまた立派な女にありしとぞ思ふ。 もぐら
妻は女、我は男にありにけり。金婚式にはなほ間があれど。 もぐら
ひと恋ひはひと恋ひなりにかなしくて、ただ山茶花の垣を過ぎけり。 もぐら
小春日を言祝ぐ花なり、さざんかの紅をしたひて我徘徊す。 もぐら
時雨して旅のこころも定まりぬ。簑濡れ初めしが嬉しかりけり。 もぐら
余白ページ少なくなりたる日記帖、せめて年内佳きこと書かむ。 もぐら
けふ明日あさってまでは思へども、その後は何処の空の下やら。 もぐら
   
西風に吹き飛ばされたる台風の水柱、ために海道濡れたり。 もぐら
濡るるほどの雨少なくなりしゆゑか知らず、傘を買ふとふこと絶えにけり。 もぐら
雨の音に目覚ましぬれば、老いの日は茶漬け一杯のみにて過ぎ行く。 もぐら
一杯の茶漬を半杯朝に食べ、残りの半杯、昼食とせむ。 もぐら
見通し良くまっすぐなれども狭き道、車幅考えず入りくる車はも。 もぐら
行く道は、帰る道より遠ければ、旅たつこころはまたとどろきぬ。 もぐら
けふよりは帰りの道よ、と懐かしく野の花どもを眺めたりけり。 もぐら
龍神の雷神のとふ我が儘を、我また空に轟かせむとす。 もぐら
避雷針効果なし、とふ知れてより、落雷遠慮なくなりにけり。 もぐら
瀬戸内を行く船、揺るること知らず。船恐怖症の少なきゆゑか。 もぐら
   
往にし児の忘れ形見や浜千鳥、ちちよちちよ、と鳴くばかりなり。 もぐら
ちちと鳴くばかりの千鳥けふもゐて、明日旅立つを止めむか、と思ふ。 もぐら
ひとりゐて思ひ侘ぶるのこころさへ、今朽ち果てて時雨するなり。 もぐら
思ひみることさへ憂し、と秋ゆゑのあはれ増さるる京の夕暮。 もぐら
   
おふくろの味より今は嫁の味。食教育は虚しかりけり。 もぐら
親の酒ぐいぐい呑みて楯突きて、管捲き帰る息子憎しも。 もぐら
腹の児はひたすら脚もて蹴りゐたり、早く開けよ、と言ふがごとくに。 もぐら
雑草を取りしがゆゑに雑草の繁るなりけり。樹木を植ゑよ。 もぐら
ひとことの、思ってゐます、は軽けれど、そを言ふ人の心は重し。 もぐら
し残しの仕事など結局無かったのだ。業績一覧印押し思ふ。 もぐら
したきことをしゐしのみにてありにけり。評価はもはや手遅れにてあり。 もぐら
逢ひたし、と思ひ初めしは何時いつ、を忘れにしかば年とりにけり。 もぐら
死にゆかば、誕生日記念日何もなし。ただ命日のみの残るぞ悲しき。 もぐら
見えぬものの見ゆるがごとくに思はるる、日暮れの早き霜月の頃。 もぐら
   
つばくらめ低く翔びゐて、水無月は今宵も人と逢はずとなりぬ。 もぐら
田の草も延びはうだいとなりぬれば、つばめの餌もこと欠かずなり。 もぐら
知りゐしを、無理強ひをして知らずとふことをし別れと人は言ふらむ。 もぐら
節操も何も無きとき、ひとり居をひたすら佳しとふ心ありけり。 もぐら
小田急の柿生の駅より見えし柿の伐られけるにや、今年は見えず。 もぐら
選歌料安からざれば、こころして読んで呉れよ、と投稿者我。 もぐら
これも下手、これマンネリと嘆きつつ、選歌はいつしか眠りに入るなり。 もぐら
きのふまでゐし台風のもたらせし暖気は往にて、セーターを着る。 もぐら
睡蓮を真似して描きてモネよりも巧しと言はる。お世辞かもね。 もぐら
蟻共のしつこく食卓登り来るを払ひ払ひて、二三は殺しつ。 もぐら
   
寒し、とは風邪引く前兆なり、と知る。寒冒とふは良き当て字なり。 もぐら
添ひ遂げむための日々とやなりぬらむ、老妻いそいそ朝飯作る。 もぐら
往にけり、とどなたも伝へ給はざる人をし、昔恋ひゐたるなり。 もぐら
家系をしツリー構造に書くは嘘。真は綾なす網のごとかり。 もぐら
我が息子の持つ息子の、その息子の持つ息子の、そのまた息子。 もぐら
四つ葉何処、五つ葉ありや、と探しゐし無為なる少年の頃、懐かしむ。 もぐら
わたくしはどんな女になるのやら。四つ葉五つ葉探してゐたり。 もぐら
お母様の台所配置馴れず、とて嫁はし朝夕不満顔する。 もぐら
お母様が勝手に置かれた皿茶碗、何処かわかるはずないぢゃありません? もぐら
   
新年はめでたくしあれば、少々の風邪など去年へ翔んでけ、と思ふ。 もぐら
頓服のやうなる常備風邪ぐすり、呑まばすやすや寝入るなりけり。 もぐら
入退院繰り返しつつ、電車乗るすべをしなべて忘れたりけり。 もぐら
けふ、といひてその瞬間に流れゆく言霊、これをきのふといふなり。 もぐら
予定帳に書きたることゆゑ、行こ行こ、と言ふ我がこころ律儀なりけり。 もぐら
人送る。残りし人を慰むる。のんべにビール振舞ふが通夜。 もぐら
びっこびっこしつつ歩くを最大の幸、と思ひて四月花散る。 もぐら
英国風煮豆の美味さ限りなし。ロンドンへ行く密かなる口実。 もぐら
湯に入りて筋肉なべてほどけけり。頭の中もさうだ、と良いが。 もぐら
   
落ちし籾の二三芽を出し、長月は残りの夏もなほかなしかり。 もぐら
刈りし稲をトラクタのまま、農協の倉庫に納めて今年は終りつ。 もぐら
   
匿名、と言ふことなれば中身とて信にたらず、と削除しにけり。 もぐら
匿名にせねば、自由なるネット無し、と。自由は、信頼よりも優らず。 もぐら
二十過ぎぐらゐで人の世人の歌、判ってたまるか。古稀の爺言ふ。 もぐら
亀戸より砂町へ行く電車、今なくて小名木川貨物線のみ。 もぐら
小名木川線に電車を走らさば、繁盛せむを。その動きなし。 もぐら
洪水、と叫びはすれど、箱舟を作る気のなき気象庁はも。 もぐら
椿ひとつ落つるをきっかけとせむ、として別れのことばはえ言はずありけり。 もぐら
   
誰も見て呉れぬがゆゑに泣くやうになりて、我また大人となりぬ。 もぐら
三千円ほどを入れたる財布持ちて、しばし豊かの散歩に出たり。 もぐら
五階より身を投げむ、とてはたと語呂にきづき、誤解を避けむ、と止めたり。 もぐら
誤解させて嗤ふのすべを覚えたり。これまたひとつの真実、と思ふ。 もぐら
然るべき金は払はず、ことばのみにておだてむか、聖とふ字つく語。 もぐら
ふたり歩む足音次第に遠ざかり、ただ永遠の静寂ありけり。 もぐら
   
葱、生姜、冷や奴には最良のスパイスなれば、醤油は要らず。 もぐら
ゲーム機を買ひ与へしが、落第の遠因なりしか、爺反省す。 もぐら
ネット案内、何ゆゑか馬鹿なれば、とんでもなき乗り換えを出すなり。 もぐら
   
荒海に風花舞ひゐる朝ゆゑに、漁り出でし我が背恋ほしも。 もぐら
きのふより浪の音はし高ければ、いづれの磯に背子や待つらむ。 もぐら
迷ひ入る荒磯小磯、白浪の行方もえ見で一夜い寝ぬらむ。 もぐら
板小舟破れしと言ひて、磯伝ひ人が影見る朝は嬉しも。 もぐら
   
稲既に刈られしなれば、犬どもの喜び走りて秋は暮れけり。 もぐら
明けたれば、小春なれども、昨宵はしんしんと冷え、え寝ずありけり。 もぐら
明日は晴れむ、あさっては晴れむ、と待ちをれど、時雨に撮影チャンスを逸す。 もぐら
   
どちら牡どちら牝とて分けがたき、人の憂き世の雲丹と栗かな。 もぐら
小春日はけふのみ、と言ふ気象婦と、名残のデートをすべき公園。 もぐら
受領印頂き、おまけに柿貰ひ、山里通ひの疲れ癒えたり。 もぐら
渋柿、と断りつきにて貰へども、何か甘きの匂ひ立ちたり。 もぐら
チルドレン対チルドレンの選挙とは、小学校の玉入れゲームか。 もぐら
鯛焼きを喰ひしがゆゑに鯛となるのが真ならば、鰯に喰はせむ。 もぐら
南天の実を啄みし小雀の、赤く変らむこころあらむや。 もぐら
事実とは一つなれども、それぞれが主義主張述べ、真実あまた。 もぐら
マニフェストとは、無駄無駄の集積と思へど、誰も文句は言はず。 もぐら
烏瓜の如きを引きて電車止まる、などとふことは最近え見ずも。 もぐら
   
トラウマの多少あるほうが、かえってハッピーエンドになるという不思議。 もぐら
なんとなく変わろうなどとすると、逆に破滅に陥ってしまう不思議。 もぐら
みづからの金にて買ひし本なれば、返却期限は無くしてつん読。 もぐら
児はをらず我ひとり居て、夜更けなれば子守歌ひとつ歌ひて悲し。 もぐら
ただひとり明日をし見つむる児の顔に、さ、と吹き寄する夏の風かな。 もぐら
秋風の吹きそめしかば、児の顔のあせももやがて退かむとぞ思ふ。 もぐら
   
欧州は晴のみ続き、帰り来し日本は雨の欧州の如し。 もぐら
人待ちに人待ち居れば、津軽野に時雨の早きことをしぞ怨む。 もぐら
きのふより迷ひ来し鳥、如何ならむ。今朝はし囀る声をば聴かず。 もぐら
街中の公園なれど雉のゐて、なにやら雌を恋ひゐる如し。 もぐら
雉つがひかと思へども、三羽ゐたり。争ふ如き気配もなくて。 もぐら
   
来年の秋彼岸までひたすらに養分貯めよ、曼珠沙華の葉。 もぐら
秋定番なれども、今年も隣地より我等を招くねこじゃらしかな。 もぐら
   
くれなゐをめでゐることの少なけれど、欧州もみぢは見事なりけり。 もぐら
かの峯の彼方は他国と思ふことの少なき日本暮しなりけり。 もぐら
谷地田さへ今刈りはてて、置く露も明日は霜かと思ふなりけり。 もぐら
刈り果てし畦に朝霜置くやうになりて、谷地田に秋は深まる。 もぐら
思ふ如くならざる恋ひを、世に知らず浅恋なり、と秋風嗤ふ。 もぐら
   
五メートルほどの登りに疲れはて、道のむかうは他国となれり。 もぐら
まだまだ、と思へど、辿るこの道はほどなく三途の渡しに果てむ、と。 もぐら
人に逢ふための橋とは思へども、儚なかりける夢の浮き橋。 もぐら
   
薄き墨をまた薄めては、到ることのなかりしことごと書きつくるかな。 もぐら
待つと言ひ、待たじ、とかへして、春の夜の朧はつひに消ぬべくあるらし。 もぐら
人を待つ宵ゆゑ月は出でぬらし、ありあけばかりほのぼのとして。 もぐら
憂し、と言ひ悲し、と言ひて現世に見る夢とても限りあるなり。 もぐら
いづくにてか聴きしと思へど、西の方大慈大悲の鐘の音かな。 もぐら
きのふまで鳴りゐし鐘の音も、けふは東の方に聴こえゐるなり。 もぐら
西の方遥かみ仏のいますごとく、むらさき雲の靡く暮れ方。 もぐら
嘆かじ、と思ひはすれども嘆かるる、人とふものは悲しかりけり。 もぐら
乱るとも乱るともなほ人恋ふるこころを、けふと言ふにてありけり。 もぐら
月影のさやけきゆゑに見し影か、うつつがゆゑのまことなりしか。 もぐら
憂し憂しと思ひし露の溢れ出でて、けふは涙の川となるらむ。 もぐら
つるぎの山、ほのほの海にぞ焼かれゐむ。罪とふ罪を識りゐたる身は。 もぐら
今出川も、三条四条も同じなり。石ころばかりに葦そよぐなり。 もぐら
   
毎度毎度、台風吹けば屋根に登る阿呆の種の尽きぬぞをかしき。 もぐら
台風の孫、竜巻と言ひて、体ちいさけれども、暴るるや凄し。 もぐら
紫の萩の花こそめでたけれ、我また縁のひとりなりせば。 もぐら
   
テロ対策ゆゑの動員なれば、無事終りとならば、とろにて一杯。 もぐら
なめんなよ、と言ひゐし猫ぞなつかしき。今はまじめなる親父ならむか。 もぐら
なめんなよ、と言ひゐし番長牝猫は、今娘らになめられてゐむ。 もぐら
詰まらなさうなる顔をする男相手の酒のまずさよ、一合にて酔ふ。 もぐら
かつて地蔵様ゐたまひし角の辻のほこらに、今は小石が一つ。 もぐら
日帰りの恋より一泊二日へと深化せむ、とてヘジテートあり。 もぐら
二泊三日ばかりの恋と思ひしが、つひに一生同棲となる。 もぐら
霧ばかり霧ばかりなる襟裳岬、海はいづこぞ、山はいづこぞ。 もぐら
   
オランダは秋空蒼く、とりどりの稔りに風も甘くしありけり。 もぐら
神作り給ひしオランダの土地もあり。これまた稔りは豊かであるが。 もぐら
   
松風の音聴くころは、欲も得もさっぱり冷めてしまひけるかな。 もぐら
この先は、山姥どのと酌み交す徳利を提げて辿る路なり。 もぐら
早起きをせし小坊主は、早く寝に就かむとしてか、寺門閉ざすなり。 もぐら
庭紅葉鮮やかとなる頃がゆゑか、寺門を閉ざす和尚、強欲。 もぐら
大麻とは思ひはせねど、がさごそと怪しき鉢を運ぶ隣人。 もぐら
前任の男は左遷されし、とぞ。残せし社宅は荒れ放題なり。 もぐら
   
団栗を拾ひて干して粉に挽き、月見団子にせばな、と子ら言ふ。 もぐら
早く酔ひしはうが結局負けとなる。酒の上なる口論、簡単。 もぐら
必死なる旅心をし嗤ふ如く、秋の天あくまでも蒼かり。 もぐら
翁見し頃よりなほも古り給ひけるみ仏に、菊薫るなり。 もぐら
化野は柿枯れ果てて、小倉山、熟柿の如き我通ふなり。 もぐら
朝早く生ひ出でし茸を摘まむとて、刀の鞘も露に濡れけり。 もぐら
あとひと巻にて筆置かむ、のこころあれど、なほ秋風はひとを酔はしむ。 もぐら
   
人生の目的などと言ふものは、寿命が尽きる頃気づくのだ。 もぐら
目的を知らぬがゆゑにさぼる、とふ口実ならじ、人生とふは。 もぐら
ひとしきりしぶきを挙げて往にし雨に、笠を忘れし子ろ帰りけり。 もぐら
やうやうに家に帰れば、さっぱりと晴れ上がりたる通り雨かな。 もぐら
動物は鏡によりて、みづからを認識すならし。人間もまた。 もぐら
きのふよりけふへとつづく人の世に、忘れしことさへトラウマとなる。 もぐら
渓流のごとくに押し寄せ往にけるは、アヴィニョン過ぎ行くツールの選手。 もぐら
   
きのふとふ邪気を吸ひしか、黒雲は今朝より淡き涙流すなり。 もぐら
淡雪と言はば、融けむの由もあるを、深雪に埋みにし人ぞ悲しき。 もぐら
融けむとのこころはあれど、うつし世の冷たきことぞ儚なかりける。 もぐら
うつし世の人の縁を縒り縒りて、かしこへ渡すかづら橋かな。 もぐら
この世よりかの世に渡す橋もがも。幸薄かりし母に逢ひたし。 もぐら
叶ふことなかりし恋がゆゑに、けふも西へと渡す夢のうきはし。 もぐら
身の沈む如きの心地のしたりけり、ただ一口の越の寒梅。 もぐら
   
おつまみに塩無きことこそ嬉しけれ、酒も料理も旨しと思へば。 もぐら
生れし国に生れしうま酒一合に、ひとのいのちの延ぶる心地す。 もぐら
酒呑みて溢るる如きの恨みとは、きのふ過ぎにし事にしあるらし。 もぐら
屁理屈を、見識なり、と崇めゐる世の人々はあはれなりけり。 もぐら
判るやうに説明せよ、と言ふ人は、幾ら説くとも結局判らず。 もぐら
ひたすらにご都合のみを言ひ立てて、常識なり、と押し付くる人。 もぐら
ありしままを言へば憎しと思ふならむ、顔を背けて口閉ざす人。 もぐら
   
ゐ給ひし先生多く身まかりて、木造校舎も毀たれにけり。 もぐら
青豆をご飯に炊きて、しづしづと畑のかほりの漂ひ来にけり。 もぐら
蚊帳の中なれば外の蚊入らずとも、娘伴ひし虫は防げず。 もぐら
地形図の折り畳み方流儀あれど、結局単純八折となす。 もぐら
帰郷せし息子は客としてなれば、かえって手数と手間掛かるなり。 もぐら
家出をしせざれば立派なる次期社長なりしに、人の選択判らず。 もぐら
あれほどにとろし、と思ひし市電、今は速し速しと思ふなりけり。 もぐら
河原町通りに走りゐし市電、山鉾見る度思ひ出づるかな。 もぐら
広辞苑重きがゆゑに車要る、と。依存症なり。電子辞書買へ。 もぐら
   
文部省、名前は変れど、無粋なる役所風情は変らざりけり。 もぐら
我が前世、おしゃべり好きの女ならむ。報いにて今無口の男。 もぐら
世の風に抗ふことの易ければ、身の丸かるは良しと思へり。 もぐら
あまたゐて争ひあふが悲しければ、娘を持つは一人のみとす。 もぐら
夫婦のみの洗濯、量の少なければ、少しく安き機械に替へたり。 もぐら
うたごころ、うたの中より湧き出でて、人のこころへ分けて入るなり。 もぐら
我は老い、子は歳とりて、世の中はぐるりぐるりと廻り行くなり。 もぐら
落下傘子供に持たせて、好きなだけ翔んで行けとふ親有り難し。 もぐら
子育ての忙しき折、巣立ち後の孤愁を思ふことはなかりき。 もぐら
暖房を深夜止めたる病院の毛布は、ひたすら薄くしありけり。 もぐら
   
月も日も丸かりけるに、地球のみ平らと思ひし人あはれなり。 もぐら
瀬戸内をひと翔びにして浜千鳥、今朝はし伊予の海に鳴くべし。 もぐら
翔びて往に、帰るを知らぬ旅鳥のごとくのけふも、時雨するなり。 もぐら
   
おもひでは、白き帽子に蒼き空、黄色の花に桃色の夢。 もぐら
消化器の手術なりせば、物喰ふ、の最終ゴールの遠かりしかな。 もぐら
   
自宅前の電線何が何何か。期末試験に出してみたしも。 もぐら
逢ひたし、といふこころゆゑ悲しかり、さらねばのどけき春にしあらむを。 もぐら
知らぬまま往にてし春にありにけり、我が母昔みまかりしとき。 もぐら
てっぺんにゐたまふらしき雷どのは、瞬時視界を真っ白と為す。 もぐら
歩道橋上より見れば、二階とは如何にプライベートなりしかと思ふ。 もぐら
縒り縒りてありにし命も、なにゆゑかぷつんと切るる憂き世なりけり。 もぐら
   
曼珠沙華変らず咲くこそ嬉しけれ、我なほひとりの現し身なれば。 もぐら
何を舞ふかは知らねども、ひとしきり笑まひて散らふ曼珠沙華かな。 もぐら
コスモスの群れの彼方へ自転車を漕ぎ疲れにし身をば埋めてむ。 もぐら
長き歳をひたすら踏み来し峯峯の、けふはさやかに思ひけるかな。 もぐら
   
紫の薊の何処に、斯くのごとき白綿ありしか不思議なりけり。 もぐら
歳はいくついくつなりしか、忘れたきほどの歳なる惚けにてありけり。 もぐら
歳なれば、歯の治療とて永久は目指さず、応急修理のみなり。 もぐら
のだめ恐怖症らしき一見客に、主人、出て行けよがしの嫌味言ふなり。 もぐら
歩道橋上よりみれば、この庭にこの道にあまた曼珠沙華咲く。 もぐら
夢のごとく咲くよ、と思へば合歓の花、逢ふことなかりし人をし思ほゆ。 もぐら
曼珠沙華海風厳し、と思ふならむ、去年を最後に咲かずなりたり。 もぐら
   
大阪の万博、歴史となりにけり。われらが最初のデートの記憶も。 もぐら
社宅住みの良さは家賃の安きこと、悪しさは汚きことにてありけり。 もぐら
壁に穴を開けるな、柱に釘打つな、などとふうるさき社宅なりけり。 もぐら
赤ん坊も子犬も同じ重さなれど、犬は犬なり、人は人なり。 もぐら
はかどらぬ仕事を梅雨の所為にして、いつしか夏の休みなりけり。 もぐら
夢ありしころと変らぬ夕月の白きがままに、我老いにけり。 もぐら
月あはれ、星またあはれ、闇あはれ、浴衣が袖は人に曳かるる。 もぐら
枝を伐る暇もなければ、のびのびと梅の木自然に還りけるかな。 もぐら
   
ゐぬきにて下宿に往きしを知らぬ如く、今朝なほ時計は息子を起こす。 もぐら
おそらくは我まだ知らぬ女子学生、息子の尻をつつき起しゐむ。 もぐら
女ゆゑの迷路楽しむ二十代、失ひかち得て産みて別るる。 もぐら
みほとけに縋りまゐらす身なれども、けふ極楽の曼陀羅を恋ふ。 もぐら
竜巻の落とし子らしき鮒二三、濡れたる歩道の上に落ちたり。 もぐら
筆墨もて書く文字サイズ大きければ、老眼鏡など不要、としぞ思ふ。 もぐら
歌会の度に儚き恋ひしつつ、女性会員に嫌はるるなり。 もぐら
いづれの世よりの縁か知らねども、人の身にして二人子を産む。 もぐら
子供、といふ異形のものを生せし我も、結局異形のものかも知れず。 もぐら
   
乗り継ぎに九十分ほどあり、と聞きて、駅前飲みやののれん潜れり。 もぐら
乗り継ぎの時間忘れて呑みにければ、駅前旅館のご厄介となる。 もぐら
ひたすらに光の色を学びけり、二階と階下と異なる曙。 もぐら
午後四時の我が家の暗さ、やうやうに冬至は過ぎてただ慌ただし。 もぐら
懸命に仕事せしこと夢の如く、西の空へと闇は進むなり。 もぐら
給食費払ふことなき子は、けふも悪びれもせず二人前喰ふ。 もぐら
ひたすらにアクアビットに頼りたき、ストックホルムの白夜なりけり。 もぐら
こころには往にける人らの顔姿のみの残りて、我老いにけり。 もぐら
往に給ひける人何を思ふらむ、林に鶉の影のみしるし。 もぐら
こそ泥の程度に死刑は重すぎる、かもしらねども罪は命なり。 もぐら
象さんは鼻が長しとのみ歌ひ、かなしき命は教へぬ絵本。 もぐら
アフリカのサバンナのみを思ひをらむ、象はひたすら耳扇ぐなり。 もぐら
   
団体競技にして、結局個人技の見せどころなる職業野球。 もぐら
ひるがほの花咲きいでて、我もまた悲しき女の一人となりけり。 もぐら
うすべにのひるがほ浜辺に似合ひたり、悲しき少女を思ひて歩めば。 もぐら
昔母の漬け給ひてし辣韮の壺、出できたる七回忌かな。 もぐら
あの世には辣韮などはあるやしらず、この世の内に喰ひ飽きをせむ。 もぐら
秋浅く雑草刈りてし此処かしこ、夕陽の低く差し入るなりけり。 もぐら
夜行列車廃止せられて、夜の駅は一際淋しくなりにけるかな。 もぐら
夜行とは面倒至極儲からず。鉄道会社の趣味に叶はず。 もぐら
二日には初詣など納まりて、巫女さん焚き火の灰を掻きをり。 もぐら
御神酒など頂き、焚き火の傍にゐて、今年もめでたき正月なりけり。 もぐら
巫女さんの名前も素性も知らねども、まあそれなりの美人なりけり。 もぐら
ロンドンの秋は歩道の濡れ落ち葉。乾く間もなくクリスマスなり。 もぐら
   
幸薄き夏の空をし嘆くごとく、稲穂は薄き頭もたげたり。 もぐら
稲刈機エンジン遠く近くして、盆地は秋へと沈むなりけり。 もぐら
我が稔り隣の稔りと比べては、残念至極の年の暮かな。 もぐら
   
北へ行く船甲板に吹く風は、緯度の一度に一度冷えたり。 もぐら
ひさびさに怪我をしてゐぬ夏休み。少年のごとく力満ちたり。 もぐら
相応に区画整理をしをらめど、駅前広くして人気少なし。 もぐら
区画整理、本質的に道路拡げ。歩行者などはどふでも良いのだ。 もぐら
   
僅か五キロ先の波さえ、永遠の彼方のやうに見える水平。 もぐら
燃ゆる火のいづれに人のみ魂ありや、海に往にけるもの多ければ。 もぐら
おぼろ朧なればたゆたふ春の海、今朝はし本船瀬戸内に入る。 もぐら
真夏ゆゑビキニ見物と来てみれば、遊泳禁止の標札ばかり。 もぐら
当然、と思はば当然過ぐるなれど、我も人なり、我もけふ生く。 もぐら
けふの漁より帰れども陽は高し。獲物捌きて五合ほど呑む。 もぐら
海よりも深きは母の恩なれど、ひたすら溺れし我にてありけり。 もぐら
単語ひとつひとつの意味に興奮を感ぜし我は、今も変らず。 もぐら
恋などは儚し、と知る今朝の海、我はし笑ひ、波も笑ふも。 もぐら
車ひとつ過ぎたるのちには、海風の荒るるがままに行く人もなし。 もぐら
土砂崩れ今なほ復旧せず、と聞きて、荷主に詫びの電話入れたり。 もぐら
   
いまごろになって昭和の昔から、恋風魔風の吹き翔んで来る。 もぐら
整理せし後に憶える癖ゆゑに、記憶は少なく速度も遅し。 もぐら
はうばうに梗塞部位の拡がりて、なべての記憶は虫食ひとなる。 もぐら
写真とはレンズの見たる世界なり。人の眼をもて見よ、は迷信。 もぐら
魚眼レンズ、歪みゐる、とは言ふなかれ。これまた一つの真実ではある。 もぐら
言ひたきは言はせて置けば、と思へども、勤務評価に関係あるなり。 もぐら
世評とは藪蚊の如し、と思ひけり。暗がりにゐればすぐ刺して来る。 もぐら
女とは何回恋をするか知らず。ただ一度です、とふ答へ期待して。 もぐら
サウナにて皮膚の温度を高めたれば、タオル不要となりにけるかな。 もぐら
   
役物のタイルは幾つ要るが知らず、訳の判らぬ設計者かな。 もぐら
恋愛は申請書書きハンコ押して、などと小憎き役人ゐたり。 もぐら
婚活に要る書類のみ多くして、稔り薄きが悲しかりけり。 もぐら
この夢とあの夢重ねてけふの夢。愛情ばかり溜まって行くなり。 もぐら
ネットとは縁なき山の宿なれば、むかし通りの夢ひとつ見む。 もぐら
黒雲ゆ冷たき風の吹き来れば、氷の女王の恋めざめたり。 もぐら
子の来るを待ちつつ、けふも梅の樹に夕陽が差して、花いちもんめ。 もぐら
少しづつかいちどきにかは知らねども、おとなとなるが娘なりけり。 もぐら
一人ゐることの不安を、ヘッドフォンの向かうの声に紛らはせてゐる。 もぐら
噪音のレベル大なる処にて、ヘッドフォン音楽聴くことの無意味。 もぐら
   
ガッセよりガッセを抜けて一杯のホイリゲ。生を言祝ぎにけり。 もぐら
良妻の休日なれば、外出に勝負パンツとやらをつけたり。 もぐら
離婚届判押す日には、天下晴れて勝負パンツをつけ臨みたり。 もぐら
さくら散る宵に、をなごと生れにしが、をなごとなりしがかなしかりけり。 もぐら
東京の丸ビル四角く、大阪の丸ビル、名前の通り丸なり。 もぐら
丸ビルの四階あたりにあるバーの、グラスワインに我酔ひにけり。 もぐら
いつまでも現実が続くわけじゃない。水平線の向こうの幻想。 もぐら
言ふほどは何も真実に迫らない、あなたの見せた心の割れ目。 もぐら
人魚姫と並んで記念写真撮る。少しは処女の気分に戻る。 もぐら
人魚姫の如きの人生なりけり、と、しみじみ見ゐるおばちゃんゐたり。 もぐら
   
寄るべきのほだしのなくて、ひとりゐの宿訪ふは虫の声のみ。 もぐら
せむすべの無きをし憂き世と言ふならむ。我また明日を知らぬ身なれば。 もぐら
きのふより恨みゐしこと、黒雲となりて海路を閉ざすなりけり。 もぐら
ゐし人のなほゐるごとくに過ごさるる、やまとの邦は盂蘭盆のころ。 もぐら
あらぬ人のなほあり給ふゆゑを知るよすがと思ふ、けふは盂蘭盆。 もぐら
ありけり、と知る人も無き鄙里の土になりなむ。土になりなむ。 もぐら
世の進むより我が進むはうが速し。ゆゑに人より疎まるるのだが。 もぐら
末の世のそのまた末の世に生れて、なほもの思ふ我ははづかし。 もぐら
   
人をそしり世を罵りて寝ぬる夜は、思ひの外の夢見たりけり。 もぐら
年取れば年取るほどに世馴れして、憂きことさへも楽しとぞ思ふ。 もぐら
侘びし、とは思はずなれど、我をおきて現世たうたう流れ行くなり。 もぐら
み仏が縁に依りて現世にありとふ身ゆゑ、縋り参るべし。 もぐら
人に迷ひ人をし怨むのこころありて、ただみ仏にすがるのみなり。 もぐら
憂き人の憂き恋ひゆゑと思へども、儚きものは命なりけり。 もぐら
とまり木のなければ翔ばふ呼ぶ子鳥、ちちよちちよ、と鳴くばかりなり。 もぐら
もの思ふことさへ忘れて秋の暮、黄金あふぎの散らふままなり。 もぐら
   
降り注ぐ欲望浴びて、干し草の束を私の寝所に運ぶ。 もぐら
この路線廃止なり、とてバス停の標柱、しろじろ月光の下。 もぐら
部分食、曇天なれば、日食はあきらめ焼肉定食屋へ急ぐ。 もぐら
日食のときに月から地球見たら、どう見えるのか。試験問題。 もぐら
私の志操のやうに、荒波に隠れかくれて低く翔ぶ鳥。 もぐら
女とふは見ても判らぬものと言ふが、見れば見ただけ何か判るのだ。 もぐら
   
きのふまでありにしものは夢なりき。けふよりなほも夢のありなむ。 もぐら
うまき酒うまき肴のありしかば、あすはし知らじ、けふは人恋ふ。 もぐら
何を為し、何為さざりしかを思ふ事に、倦み果てければ、けふは酒呑む。 もぐら
妻が一年と我が一年と同じ一年なりとふ。不思議なるかな。 もぐら
不思議不思議、不思議ばかりのうつし世に、せめての合理、と酒を酌みけり。 もぐら
酒と言へど、ビールは水ばかりなれば、心臓脳にも良し、としぞ思ふ。 もぐら
おほ海に寄せ来る波は高くして、ものをし知らぬ人攫ひ去る。 もぐら
七つ海に雄飛せむ、とは昔がたり、今フェリーさへ廃止せむ、とふ。 もぐら
舟嫌ひ海疎む人多くなりて、やまとの国は亡びむとす。 もぐら
大海原漕ぎ出で帰らぬ人あはれ、きのふの嵐に櫓舵絶えしや。 もぐら
   
何処とも知らぬ海路に、知らぬ火の燃えゐて儚き恋をするかな。 もぐら
忘れゐし人幾たりか思ひ出づる他なき、北への冬の海旅。 もぐら
生れし頃と海変らずと思へども、街も変りつ、人も変わりつ。 もぐら
人恋ふは大海原に漕ぎ出でて、櫓舵の絶えし如き心地す。 もぐら
大海原、立ち騒ぐ波とくらべては、我が恋などは泡の如しも。 もぐら
酒祝ぎをけふはしせむ、といふ君と共にはい寝じ、酔はば酔ふまま。 もぐら
けふ君は物な思ひそ、酒祝ぎをし給ふゆゑを我知りたれば。 もぐら
心より出でしがゆゑの酒なれば、再び心に入れむ、とぞ思ふ。 もぐら
酔ひて酔ひて夢にて見てし人なれば、けふまた酔ひて夢ひとつ見む。 もぐら
   
クーラーの需要少なき如くして、電器屋のんびり盆休み取る。 もぐら
稲の香は芳しくしあれど、夏遅く穂いづる時をえ知らずありけり。 もぐら
梅雨明けは何時とふ報道つひに無くて、けふは涼しき秋の風吹く。 もぐら
米収量、不安はあれど、誰も言はず。輸入すれば、と思ふなるべし。 もぐら
涼風の忍び入りたる北の野に、黄金の稲穂見事なりけり。 もぐら
いつか知らず梅雨空は来て、いつまでと言ふこともなくゐ坐りにけり。 もぐら
梅雨知らす虫よ、と言ふがごとくして、ごきぶり殿の数増さりけり。 もぐら
濡る如く濡れぬがごとく降りきては、こころを醒ます北国の雨。 もぐら
一合の千歳の酒に酔ひを得て、多少の揺れは知らずありけり。 もぐら
ひととせはひととせなり、とかなしくて盂蘭盆どきには雨の降るなり。 もぐら
けふの泊り明日の泊りを重ねては、何処の宿の旅や果てなむ。 もぐら
   
面白き月の器に酒盛りて、三日月までに呑みて尽さむ。 もぐら
黄金なり白銀なりと人は言へど、鉛とならむ子ろし悲しも。 もぐら
思ふことも言ふこともまた絶えはてて、子ろをし思ふ旅の夜の雨。 もぐら
ひたすらに皮算用のみしゐしか、と我、子と二人狸蕎麦喰ふ。 もぐら
悪しき夢のみ見ゐたりしあけぼのは、太平洋の波静かなり。 もぐら
温しとは思はぬほどの風吹きて、こころそよがす北の初秋。 もぐら
秋風にワインまた佳し、酒も佳し、ウォトカならばなほもまた佳し。 もぐら
憂きことをつぶやきつぶやき呑む酒の、つひに五合となりにけるかな。 もぐら
北海道より帰りくれば、東京は暖房入れたるごとくに思ほゆ。 もぐら
ビールにも酔ひまたワインにも酔ひて、北海道夜夢心地なり。 もぐら
北海道、雨浅くして、降るとても、濡るるほどにはあらぬぞ嬉しき。 もぐら
   
まほにのみ思ひしなれど、うつし世は憂き身の燃ゆる不知火なるべし。 もぐら
海風の吹き飛ばしたる栞もとめ、宿の廊下を這ひ廻りたり。 もぐら
無人化の進む灯台、最近はドラマの題材とならなくなりぬ。 もぐら
不知火か不審船かは知らねども、一方的にテポドンは翔ぶ。 もぐら
不知火の燃ゆる彼方のその果てにゐむ、とふ人を今も恋ふかも。 もぐら
航跡を静かに残して、本船は第百三十二次航海を終ふ。 もぐら
   
立つ鳥のごとくにあらぬ現し身の、沼の面ひたすら乱すのみなり。 もぐら
なにも人の思ふとほりにあらずとも、ももの実ひとつ我は恋ふべし。 もぐら
秋茄子を題に、俳句をあまた作り給へる母はし、徘徊に遠し。 もぐら
晩飯のころには必ず家に戻る、我が餓鬼、決して徘徊と言はず。 もぐら
紫蘇の実を手もて扱きて、甘き香の爪のあたりに染みつきにけり。 もぐら
アニョンケセヨ、とて送り出し、玄海の海平安を祈るなりけり。 もぐら
深川は海より深き街なれば、川とて海より深く流るなり。 もぐら
門仲、と呼ぶ声ありて、川よりも深き駅より呑みに上がりたり。 もぐら
きのふまでゐし家、今は毀たれて、中天行く月のみは変らず。 もぐら
露ばかり露ばかりなる人の世に、百とせ咲き継ぐ花ひとつもがも。 もぐら
露の世に露のひとつと生れしかば、露のひとつと消ゆるべきなり。 もぐら
   
夢ひとつ見たり、と思ひて庭見れば、初対面なる狸のゐたり。 もぐら
聴く人もゐぬ深山ゆゑ、河鹿とて思ふがごとくに鳴くにしあるらし。 もぐら
憂国とは、ゆすりたかりの口実にありしは、今も昔も変らず。 もぐら
狸ひとつ心得がほして庭にゐる。餌遣りしこと、絶えてなけれど。 もぐら
永遠なれ、と思ひし子ゆゑに悲しきは、けふなほかほを白くしゐること。 もぐら
   
元年は何でもよけれど、ありし如く二三年ごと改元、うるさし。 もぐら
トンネルを過ぐれど雨は降りやまず、明日行く山に霧は湧くなり。 もぐら
港内は穏やからしく見ゆれども、出港十分高波となる。 もぐら
取り易き税金を取り、取り難き税金取らぬは、政治、と言はず。 もぐら
強硬に反対するを押して取るが、最も宜しき税金、と思ふ。 もぐら
ひとりゐてひねくり出だすは歌ならず。こころを通はすゆゑに歌なり。 もぐら
忘れけることはし何、と思ふことさへ忘れたるきのふけふかな。 もぐら
   
思ひ出づる由さへなくて、ふるさとは一年毎に遥か遥かなり。 もぐら
大雨は降らざりしかど湿気ひどく、鳥の声さへ聴こえざりけり。 もぐら
やうやうに窓よりリュックを捻じ入れて、坂町駅より汽車は発車す。 もぐら
半度毎に各種の老眼鏡を置き、用途に応じて使ひ分けたり。 もぐら
亡き人は、会葬者みな知り給ふ。その内にゐる我は知らずも。 もぐら
通夜ビール呑みたけれども、酔はば酔ふままに悲しさまさるのみなり。 もぐら
何時か知らず水銀検温器無くなりて、ディジタル表示のみとなりけり。 もぐら
   
捨つるべき身にはあらねど、きのふけふ儚きばかりと思ひけるかな。 もぐら
今さらに馴れにし我が身と思ふなり、君をほとけと人の言ふとき。 もぐら
ひとしづく散らふ、と知らで、遠寺の鐘を聞きつつ恋ひ果てにけり。 もぐら
人の身は露にしあれや、消ぬべきの朝にしあれば、涙流るる。 もぐら
思ひみて、露にしあらぬ人はなし、涙流れぬ恋とふは無し。 もぐら
思はずにし初めし恋ゆゑ、人知らぬ露さへ、ころもの袖に置くなり。 もぐら
けふは露、明日は霜か、と思ふにも、老い行く果ての道ぞ悲しき。 もぐら
白珠がゆゑに、名ひとつ立てずとも、万世のちに人は見るべし。 もぐら
思ふともきのふはけふに為し難し、子はまた親とならむとしても。 もぐら
   
金銀に勝れるものと子を言へど、金銀持たばさこそ思はめ。 もぐら
昔ゐし子供は大人となりし世に、昔の大人は如何になりけむ。 もぐら
おさなきの頃夢ばかり見ゐしより、老いのけふまで覚めずあるなり。 もぐら
玉の緒の乱るるままに絶えむとて、人恋ひ初めしこころ変らず。 もぐら
うつし身はけぶりとなりて昇るとも、なほも人恋ふこころあらなむ。 もぐら
いづことも知らぬ御寺の鐘聴きて、明日また儚き旅をせむかな。 もぐら
西の方、遠くの茜の導くがままに、けふはし果てなむ、と思ふ。 もぐら
ゆゑあり、と思へど儚き身がゆゑに、ころもの袖の露ぞ悲しき。 もぐら
逢はむとて、え逢はぬ人を隠す、とふは、性無き春の霞なるらし。 もぐら
ありにける世とは、涙の珠つらね袖の朽ちけることにぞありける。 もぐら
   
荒波の彼方の空を思へども、なほ島影の形すら無し。 もぐら
翔ぶ鳥の姿もえ見ずなりにける、黒雲覆ふ日本海かな。 もぐら
   
身の内になにとふものも持たぬ者、海にし溶けて漂ふのみなり。 もぐら
面倒を見ざれば死んでしまふかも知れないものを、産みしが因果。 もぐら
ひと晩をホテルに過ごし帰り来れば、ささがに家の門閉ざしをり。 もぐら
夕方便、しづしづ大洗出港す。けふなほ低気圧は残れり。 もぐら
西空はなほも落日の余韻して、東の空は闇にてありけり。 もぐら
授業料払ひて、大学に常識を学びに来る、とふ学生ゐるのだから。 もぐら
きのふけふビルの工事は盆休みゆゑに、風また涼しかりけり。 もぐら
メール幾ら寄越せど、何をしてゐるか、判らぬものが娘なりけり。 もぐら
やりたし、と言ひては居れど、何時の間にかやられてしまふ娘なりけり。 もぐら
   
天頂はなほ夜の帳に閉ざされてあれども、水平、旭日ありけり。 もぐら
馬の背の彼方の浜にゐしといふ、天つ乙女はいづらあらむや。 もぐら
鬼多くゐたりし、なべてシーサーとなり蹲り、仏桑華咲く。 もぐら
各門に蹲りゐる石敢当、昔の咎をなほ負ふ如し。 もぐら
降る水が何処より来るか。何処にても、同じ水、とて予報婦言はず。 もぐら
砂糖既に貴重品となり、横流しし太る精糖商人ら憎し。 もぐら
何人か物故者となり、何人か居所不明とふ卒後半世紀。 もぐら
記念館駅前よりのラフランス畑のつづきに、昔ありけり。 もぐら
   
南朝の怨念、昭和に蘇り、大東亜戦争、悪夢となりけり。 もぐら
水上に冷たき雪舞ひ、人並みに湯治せむとせし我ははづかし。 もぐら
昼近く、腹減り気の立つ委員某、際限もなく発言を続く。 もぐら
弁当とランチビールなどを配り、然るが後に開会すべし。 もぐら
昔ゐし猫、きのふけふなほもなほゐるごとくして、かなしかりけり。 もぐら
人が猫を愛すがごとくに、猫もまた人恋ふなり、と思ひけるかな。 もぐら
ゐる宿にひたすら雨の音聴きて、けふまた旅をせむ、としぞ思ふ。 もぐら
   
千代八千代かたみに添はむ、と思ひゐしことはし知らず、はかなかりけり。 もぐら
馴るるすべのまたなき憂き世、と思ふゆゑか、日々なすべきのなほも物憂し。 もぐら
ゆゑ知らず鳴きゐし虫も音を絶えて、秋さびしさはまさりけるかな。 もぐら
ゐる人は今はゐるとも昔知らず、今はゐるとも後は知らずも。 もぐら
みちのくを旅せむとして往にし人は今は何処ぞ。勿来あたりか。 もぐら
名残ばかりなりける夏の有明の月を惜しみし、ふるさとの宿。 もぐら
ふるさとの宿は秋とて月なくて、宵より虫の声ばかりなり。 もぐら
日々忘れ行きけるふるさと、如何ならむ。今宵の月は誰か見るべき。 もぐら
忘れじ、と人の言ふさへかなしくて、ただありあけの月をし見たり。 もぐら
儚かりし都ゐなれば、下り来し東になべてを忘れけるかな。 もぐら
物故者、と名簿に残りし友の名を見つつ、我また同じぞ、と思ふ。 もぐら
化野ゆ煙上がらば我と思へ。淀し濁らば我と思へ、と。 もぐら
憂きことは憂きことゆゑにえ忘れで、吉き事ゆゑに忘れけるかな。 もぐら
忘れむ、とねがへど、憂き世は憂きことの忘れえぬこそかなしかりけれ。 もぐら
   
Brix度計は早々箱に納め、実験試料で乾杯しにけり。 もぐら
河童らしき男の子ひとり傘をささず、紫陽花の花集めてゐたり。 もぐら
真正直に生き来しゆゑに何も要らず、ひたすらけふを楽しむのみなり。 もぐら
日食はおろかや洋食和食さへ、夢と消えたるけふの曇天。 もぐら
港区にゐ給ひしとふ芝女王、ジュリアナ東京、歴史書に入る。 もぐら
身に覚えあり、とふらしき小石ども、抛ればずぶずぶ沈み行くなり。 もぐら
屁理屈を捏ねつつ無罪を得む、とする人は、それ以て有罪とすべし。 もぐら
   
深海魚よりのQあり、日食は如何なるものか、と。答へに窮す。 もぐら
もしも蛍、突然変異にて光失さば、ただの虫けら、見る人も無し。 もぐら
愚かなりし人はし、ひたすら懸命にありたるなり、と言ふばかりなり。 もぐら
萬象は光がゆゑにあり、といふ真理を今朝も思ひけるかな。 もぐら
あるがままにあるものを、何か理屈捏ね、粒子量子と言ひ立つるなり。 もぐら
越寒を旨しと一合、久保萬を旨しと一合、一合一合。 もぐら
食物に好き嫌ひ×、と言ふ人の、酒に好き嫌ひ多きが不思議。 もぐら
光速は定数にして速度ならず。速度とふものの迷信のひとつ。 もぐら
とんぼなど採るとふことに興味なき我ゆゑ指に止まるなるべし。 もぐら
ふる里に民芸酒場の需要無し。我が生家はし結局毀たる。 もぐら
冷夏ゆゑ、蝉、刻、処をわきまえず、油蝉、つくつく、と鳴くなり。 もぐら
ねえちゃんのカラオケ半音調子はずれ、賢き機械も付いて来る得ず。 もぐら
どら猫がそら来た象、とマイク握り叫べど、廻りは虎ばかりなり。 もぐら
   
停電じゃ、停電じゃ、とて、パソコンに書きかけ名句、消え去りにけり。 もぐら
みんみん、と鳴くか、はたじじ、と鳴くか知らず、今年の夏は暑しとぞ思ふ。 もぐら
尖んがりてゐる我嗤ふ顔をして、秋茜ひとつ我が指にゐる。 もぐら
   
梅雨明けの集中豪雨と予報婦は言へど、我が家の盥のみなり。 もぐら
訳も知らず警報出せども、意味知らぬ役人ゐしかば、馬耳に東風。 もぐら
何ひとつ言ふことはなく、何ひとつ欠くることなき赤のままかな。 もぐら
隠元豆、摘めども摘めども生ひ来る不思議を、バタにて炒めあげけり。 もぐら
木槿喰ひしならむ一頭荒れ馬の、馬子振り捨てて街道西へ。 もぐら
何のかの、と言ひつ言はれつ学生ら、試験済まさば全部忘れむ。 もぐら
一割は覚えて呉れよ、と教師心あれども、世間の常識強しも。 もぐら
あと四五人なれば、櫓の上にても、八木節うたふを倦み果てにけり。 もぐら
荒海をものともせずに佐渡上空、テポドンらしきの飛び行くらしも。 もぐら
   
恋ひて恋ひてかひなきものとは知りながら、散るべき花をなほ恋ひわたる。 もぐら
知らぬ火の燃ゆるがままに恋ひわたる櫓楫もやがて絶えむとぞ思ふ。 もぐら
咲きまがひ散りまがひつつ恋ひまがふ花とはしらで、なほ恋ひわたる。 もぐら
見じ、と言ひ、見むと言ひてし花さへも、散り果てぬべき春ぞかなしき。 もぐら
春遅し、夏や来じ、とふ風凄き北国ふるさと、けふ往なむかも。 もぐら
   
明日から永久だよ、という人に:昨日をわすれてはいけません。 もぐら
早飯に早弁当を喰ひしころの先生、何も文句を言はざり。 もぐら
重ね重ね年を重ぬるばかりにて、すこしも利口にならざる老いかな。 もぐら
呑み呑みてきのふはいづこと忘るるを、大哲学と思ひけるかな。 もぐら
百薬も効無きなれば、せめて酒の一滴、痩身に入らむか、と思ふ。 もぐら
なほも年の改まりゆき、妻も我もまた一年の齢増したり。 もぐら
光あれ、と言ひしがゆゑにある光、消さうとせぬに消ゆる悲しさ。 もぐら
とんぼひとつ指先へ止まるほどの風の無き、物思ふ秋の光は。 もぐら
百萬の黄金の光に照らされて、世の中とふもの見えずなりたり。 もぐら
けふとふはきのふならじ、と思へども、明日はしはかなきものと思ほゆ。 もぐら
   
人の世に嘆きの絶えぬごとく、けふも袖濡らしつつ降り止まぬなり。 もぐら
もどかしく思ふと雖、一生は一生にして代へ難きなり。 もぐら
ひとつ二つ紫陽花咲けども、なほも夏の心地さへせぬ山の宿かな。 もぐら
降るを待ち晴るるを待ちて儚きは、人の世ゆゑのほだしなりけり。 もぐら
梅雨末期豪雨の兆しのありけり、と西より黒き雲は押し寄す。 もぐら
日食は見えず昼食どきなれど、中華定食売り切れ、といふ。 もぐら
病室の天井、パソコン画面のごと見ゆれど、キー無く指また動かず。 もぐら
腹切りて麻酔は覚むれど、痛きあまり土木工事の夢ばかり見つ。 もぐら
命ありしことを医師らに感謝しつつ、多少の過誤には目をつぶりけり。 もぐら
検査とて廊下をゆけば、窓越しに何も見えざり。霧深し、とふ。 もぐら
けふも雨、明日も雨か、と思ふほど梅雨は長かり。夏なほ遠し。 もぐら
遠峰に朝陽やうやく出でしならむ、隣室老婆の影は長かり。 もぐら
   
良くなるか、悪くなるかは知らねども、新年やはり新年なりけり。 もぐら
無謀なる力を力と誇りゐても、誰も、無意味、と諫めざりけり。 もぐら
古きことを担ぎ出して力得む、とする輩らを許せし愚昧。 もぐら
戦争が快楽なりし頃ありき。今なほさり、と思ふもあれど。 もぐら
戦敗より戦勝よりも永く記憶すべきは、それにて死せし人がこと。 もぐら
人思ふごとくに我は思はざり。その逆もまた真にてあるべし。 もぐら
うつしよのごときの夢をあまたたび見るやうになりて、我老いにけり。 もぐら
最上野に夏近ければ、月山の残雪さして馬登り行く。 もぐら
ありし、とふことのみ思ひゐて、春はきのふ境に往に行きしなり。 もぐら
   
いつまでも絶対はじけないシャボン玉。幸せ、と同じ。あるはずもない。 もぐら
古稀といへど珍しくなく、喜寿といへど悲しみばかりの人にてありけり。 もぐら
いろいろと交通手段の増えしかば、自転車に乗る、減りにけるかな。 もぐら
   
里人のゐ寝つる村々被ひつつ、冬の白きは降りまさるなり。 もぐら
年明けはえ知らずあるべき野の鳥ら、さあれ日の出は言祝ぐらしも。 もぐら
あと幾つかは知らねども、はつ春の祝ひは老いにも嬉しかりけり。 もぐら
脱営の兵二三あり、と噂のみ伝はり、黒々、兵行進す。 もぐら
桃の樹のひとつ春をし知らぬごとくゐしが、やうやく蕾持ちたり。 もぐら
静かならぬうつし世ゆゑに、思はじ、としても思ほゆることのみ多し。 もぐら
湖面、いつか高きブッシュに隠れ見えず、下山路背高き疎林に入りたり。 もぐら
   
米山ゆ夏雲湧きて、三階節文句通りの夕立なりけり。 もぐら
命産みし我等より出で、あらたなる命産まむ、と出で立つ子ろはも。 もぐら
松山の城に登りて、微かなる梅の香かぎつつ、うどん喰ふなり。 もぐら
囂々と音立て湧きくる赤き湯に、明日の命を育まむかも。 もぐら
萬骨も、一将さへも枯れはてて、いくさの野には雪の降り積む。 もぐら
戦争をもてあそぶことのあはれさを、思ひ知りける二十世紀かな。 もぐら
屍を積みゐし頃は忘れはて、派兵の何の、と酔ひゐたるかも。 もぐら
   
春ゆゑのもの思ひにはあらねども、埋れ木さへも花咲かむとす。 もぐら
降り降らぬ春雨ゆゑに、青柳の絲さへ濡れぬに絶ゆるなりけり。 もぐら
蚕つむぐ白絹ならで、人思ふこころゆ出でし絲のありけり。 もぐら
そ、と走る蛍の光を誰々の魂か、と思ひてかなしかりけり。 もぐら
思ふごとく思はぬごとくゐしことの、蛍となりて翔び出づるかな。 もぐら
物思ひの尽きずありける暁を、嗤ふがごとき西山の月。 もぐら
   
昔とは変れる声のほととぎす、偽り多きけふのきぬぎぬ。 もぐら
ひとゆゑの命ならねど、さ牡鹿の鳴く夕べこそあはれなりけれ。 もぐら
見むとしてえ見ぬ明日はしあらずとも、人ゐしきのふぞうれしかりける。 もぐら
浮く舟の行方も知らずただよふを、ただ世のさだめと思ひけるかな。 もぐら
人しらぬままにさ寝てし裳裾さへ、露に濡れゐる白き有明。 もぐら
こなたとも彼方とも知らで浦廻漕ぐ、破れ小舟こそあはれなりけれ。 もぐら
   
ほのかなる歌つぶやきてゐる我を醒ますがごとく、自衛隊機翔ぶ。 もぐら
突撃、と言ひて、儚き勇気振るひゐたりし若きを思ひ出づるかな。 もぐら
海砂の灼くるがごとくにありけり、と秋立つ浜に波帰る見つ。 もぐら
参考書かかへて満員電車ならむ、子とふは常にあはれあはれなり。 もぐら
試験の出来、思ふごとくにあらざりしならむ、帰りし子、眼うつろなり。 もぐら
戦果かくかくとふあれど、その中に帰り来べきの子の名前なし。 もぐら
   
きのふまでゐし人のゐぬけふとふは、なべての失せしごとくに思ほゆ。 もぐら
原作者よりも長寿にゐたまひて、なほなほ演じ給はむ人はも。 もぐら
なにゆゑか、海の幸とふ嫌ひなり、我はし山の民とふならねど。 もぐら
出雲崎の街の屋根屋根雪置きて、荒波さへも静かなりけり。 もぐら
酔ひて泣き、泣きつつなほ呑む苦酒のいつかは尽きて、我は眠らな。 もぐら
泣くゆゑは多くしあれど、泣くすべを知らねば、ひたすら苦酒を呑む。 もぐら
   
つづく 2009春 |09/12|09/11|09/10|09/09|09/08|09/07| |総目次 |入り口|頭へ【TAB】|スクロールはTAB↓|シフトTAB↑|目次は
-*-2009/11/30-*-(C)1991-2009 藤井 陽一 もぐら MAG00736@nifty.ne.jp