「ひらめの5枚おろし」

先日、「ひらめ」のプレゼントを頂いた。
とてもうれしいかった。「ひらめ」など今まで釣った事もなければ、魚屋さんで刺身になったのを
たまに買うぐらいの付き合いしかない。ましてや40cmくらいの大物でしかも2枚。
私は自慢気に子供達に見せびらかした。自分が釣り上げたわけでもないのに、
子供相手になんとも大人気ない母親である。
私は集まってきた三人の子供達に、まな板の横幅いっぱいの「ひらめ」を指さし、
「これなんの魚?」と聞いた。その質問をした私の心底には、きっと「かれい」
というだろうという期待があった。なぜなら、「かれい」なら、あのままの姿でから揚げにしたり、
塩焼きにしたり、そのたびに「この魚なんていう名前?」と聞かれ、「かれい」と答え続けた私だった。
たとえ「ひらめ」を食べたとしても、もうすでに刺身になった姿で、「ひらめ」の本当の姿を知るよしもない。
「かれい」しか答えられないだろうと思ったからだ。

私は心地よい笑みを隠しきれなかったが、それはつかの間の優越感だった。
子供達は魚を囲むように覗きこみ、そして声を揃えて「ひらめ!」と答えるではないか。
私は意外な返事にすぐ返答ができず、目を丸くしていたに違いない。
子供達はそんな私の表情より、本物の「ひらめ」に夢中になっていた。「すげーー大きい」を連発し
私の許可もなく、「ひらめ」に触り「すげーこの歯、さすが「ひらめ」やね」と自分達で勝手に盛り上がっていた
私は「どうして「ひらめ」を知っとると?」と聞くと、即答で「目が左にあるけん、「ひらめ」、お母さん
それくらい知っとうよ、常識やん!」と言われてしまった。私は「へぇーよく知っとるねぇ」と半ば落胆しながら答えた
追い討ちをかけるように、6歳の末っ子が、「お母さん、おちゃわん持つ方が左とよ」と自分がいつも言われるように
言うではないか、あーやられたと思いながら「そうね。はいはい」と答えておいた。

一通り騒ぎ、少し安心したのか、「お母さん、早く刺身にしてよ」と言い出した。子供達はさしみが大好物なのだ。
私は、もちろんこんな新鮮な魚、そして「ひらめ」は刺身が一番だと思っていたが、さて、どうやって刺身にしょう。
普通のアジやサバのような魚なら、刺身にする事はできるのだか、こと「ひらめ」はどうしたものか、以前「ひらめ」
のような魚は5枚おろしにする、というのはよく聞いていたのだか、どうやってするのだろう。
私は一応お姑さんに尋ねてみることにした。子供達に「おばあちゃんを呼んでおいで」と言うと、子供達は
獲物を発見し知らせる犬みたいに、それぞれ「おばあちゃーん」と言いながらドタドタ走って行った。
しばらくすると、お姑さんが子供達と一緒に台所に現れた。そしてすぐ「ひらめ」を見ては「大きか魚やねェー」と
驚いていた。すると子供達が「ばぁちゃん、この魚なんか知っとぉ?」と、やはり得意そうに質問している。

あーー、やはり血は争えない。私は情けない気持ちと何やら可笑しささえ込み上げ、それでもお姑さんの
答えを意地悪くも少々期待して待っていた。そしてお姑さんは一言「かれい」。子供達の期待を裏切らなかった。
待ってましたとばかり子供達、音声多重放送のようにそれぞれが、「あのねばぁちゃん、目が左に寄っとるやろ?
だけん「ひらめ」とよ。」とワイのワイの話している。そして最後の止め、末っ子のあの言葉、「ばぁちゃん、おちゃわん
持つ方が左とよ」。私は笑いをこらえるのに必死だった。しかし、お姑さんは孫との付き合いも慣れたもので
「そうね。はいはい」と、私と同じように答えていた。

子供達は「ばぁちゃん、これ刺身にして!」と言ったが、お姑さんは「ばぁちゃんは、60年生きとるけど、「ひらめ」
を刺身にした事はなかとばい」「しかし、この刺身は美味しかろうなぁ、楽しみやなぁ」と居間に消えて行った。
そして、子供達の目が私に向けられた、もう目が語っている。「お母さん、刺身」。
子供達は魚をさばく所を見るのが好きだった。包丁を握った私の傍に三人の顔が並ぶ
私はとにかく5枚におろす事だけを考えた。
頭を落とし、背骨にそって包丁を縦に入れ進め、尻尾までで止める。そして縁側の方からも削ぐように刃を入れた。
後は、普通の魚をさばくようにやると、意外とうまくできた。新鮮だったから骨離れもいい。
短時間で、綺麗にさばけたのである。終始子供達は無言で私の手元を見つめていた。
5枚におろしたのを刺身にして完成。なんとも言えない達成感。素人ではまず、さばくチャンスもないだろう「ひらめ」
を、子供達の目の前で私が刺身に出来たのである。喜ぶ子供達。
その日の夕食はいつになく、豪華な夕食となり「ひらめ」を家族全員で堪能した。私も子供達にとっても
忘れられない出来事となっただろう。こんな素敵な思い出づくりのチャンスを下さった友人にとても感謝します。

1999.12/22.物語り・エッセイ


HOME