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 2006年ボローニャ歌劇場来日公演の主役はテノール!

2006年6月に来日するボローニャ歌劇場の注目は、主役のテノール。各演目への思いを書いてみよう。

1.《連隊の娘》フアン・ディエゴ・フローレス
このオペラの主役テノールであるトニオという役には高いCがたくさん要求されるので、なかなか歌いこなせる人がいないけれど、フローレスは間違いなく当代一番のトニオだろう。最近フローレスは、ベッリーニの《清教徒》の難役アルトゥーロなどにレパートリーを拡張して、一時期のロッシーニ・スペシャリストの枠を超えようとしているが、最近のライヴ音源を聴くと、正直言って、声の瑞々しさのピークは、やや越えたのではないかと感じられる。それゆえに今回のチャンスを逃してはならないという気持ちは強い。歴代のトニオ歌い、例えば、パヴァロッティやクラウスに比べると、声が軽い分、インパクトはやや弱いし、マッテウッツィのような超高音による派手なパフォーマンスをしないかわりに、最も洗練された歌唱スタイルを持っている。加えて歌と演技のバランスが良いから、安心して観ていられる。フローレスの栄光の時代をしっかりと記憶にとどめておくためにも、今回の来日公演演目の中でも一番重要なものといえるだろう。

2.ヴェルディ《イル・トロヴァトーレ》ロベルト・アラーニャ
直近の情報で、アラーニャの体調不良が血液面のシリアスなものとの報道がなされており、来日自体も危ぶまれてきてしまったが、アラーニャのようなリリコがマンリーコを歌うと言うことは、50年代、60年代の歌手黄金期にはあまり見ることの出来なかった現象だ。デル・モナコ、コレッリ、ベルゴンツィ、ボニゾッリらが一世を風靡した頃に比べると、最近のマンリーコは、リチートラにしろアラーニャにしろ軽量級、かつ音色が淡白で、この役に求められるパッションやスリリングさを表現するには、物足りなさを感じる。それでも、最近この役を各地で歌いこんできているアラーニャがどのようなマンリーコ像を描き出すのかは興味がある。どうか、体調を快復して、元気な姿で登場して欲しいものだ。

3.ジョルダーノ《アンドレア・シェニエ》ホセ・クーラ
1998年1月に初来日した時のクーラは、新しいリリコ・スピントの王道をいくスター誕生を感じさせ、久しぶりに大器が登場したと思ったものだった。その後、来日のたびに評判を落とすパフォーマンスを続けていることは、彼のファンである小生も認めざるを得ない。
50年代、60年代の黄金時代のスター・テノールたちのライヴ音源を聴くと、毎回全身全霊を込めた、明日はどうなってもいい、というような緊迫感、アタック感、スリリングさ、パッションを感じさせるパフォーマンスが実に多い。しかるに一時期からのクーラは、どうも歌唱が淡白になってきている。それは、発声技巧の課題なのか、精神的なものなのか定かではないが、せっかくの才能を十分に発揮できないもどかしさがある。今回のシェニエ役こそ、クーラの良い面を引き出せる役柄だと思うので、どうか気合の入った一期一会のパフォーマンスを期待したい。50年代〜60年代のデル・モナコ&コレッリ、70年代〜80年代のドミンゴ&カレーラス、そして我々日本人にとっては忘れがたい94年藤原歌劇団公演でのジャコミーニのような密度の濃い演奏に果たして遭遇することが出来るだろうか?クーラの真価を問われる舞台となるだろう。


 10月1日「フランコ・コレッリ・メモリアル2005」に出演するジュゼッペ・ジャコミーニについて

ジュゼッペ・ジャコミーニ(Giuseppe Giacomini)
1940年9月7日イタリアのPadua近郊Veggianoに生まれる。Elena Fava Ceriati(Padua),Marcello Del Monaco(Treviso),Vladimiro Badiali(Milano)の各氏に師事。ナポリ、ヴェルチェッリ、ミラノでの声楽コンコルソに優勝した後、1966年ヴェルチェッリ歌劇場でピンカートンを歌ってデビュー。73年ウィーン(《トスカ》)、74年スカラ座(《運命の力》)、76年メトロポリタン(《運命の力》、78年ヴェローナ・アレーナ(《アイーダ》)、80年コヴェントガーデン(《西部の娘》)でそれぞれデビュー。87年に初めてニューオーリンズでオテッロを歌う。

経歴初期はリリコ・スピントでもリリコに近い声質で、《ラ・ボエーム》のロドルフォなども歌っていたが、徐々に声に厚みを増し、80年代には本格的なドラマティコに成長していた。2000年を過ぎてからはオペラへの出演回数は減っているが、内容はより濃いものとなっている。近年はオテッロ、カニオ、サムソンなどドラマティコの諸役を中心に重要なプロダクションを重ねている。

《主な録音》
1.1971年ミラノ《フェドーラ》Bella Voce
2.1972年ファエンツァ《トスカ》GAO
3.1977年マルティナ・フランカ《ノルマ》Dynamic
4.1979年スタジオ録音《ノルマ》CBS
5.1981年ローマ《ファウスタ》It.OperaRarities
6.1984年メトロポリタン《運命の力》パイオニアDVD
7.1984年スタジオ録音《マノン・レスコー》RCA
8.1990年リヴォルノ《カヴァレリア・ルスティカーナ》Fone
9.1991年スタジオ録音 同上 Philips
10.1991年ボルドー《オテッロ》Forlane
11.1992年スタジオ録音《外套》Decca
12.1992年スタジオ録音《トスカ》Philips

上記のほかにボンジョヴァンニ社からアリア集2枚、愛唱歌集1枚、Pheonixから宗教曲集、Revelationからボリショイでのライヴ集CD、Belcanto Societyからマリア・キアーラとのジョイント・リサイタルのビデオがリリースされている。
海賊盤ではBensarから《イル・トロヴァトーレ》《ドン・カルロ》《トスカ》、Premiereoperaから《トゥーランドット》(DVD)《アンドレア・シェニエ》などがリリースされている。


 ラングドックが生んだ貴公子、ポール・アンリ・ヴェルヌ(Paul-Henri Vergnes)

◎Paul-Henri Vergnes Recital(Vol.1&2)(Odeon 1026&27)10インチ盤

現在フランスで使用されている言語は「ラングドイル」という北フランス起源の言語を基盤としたものだが、古代・中世フランスには「ラングドック」つまり「オック語」というものがあった。その呼称に由来するラングドック・ルッションは、皆さんよくご存知の南仏プロヴァンス地方のすぐ西側に位置している。Coteaux du Languedoc"Les Coulisses"など安価で美味しいワインの産地として有名なこの地方は、モンペリエ、カルカッソンヌ、ニームなどの古都もあるが、芸術文化好きには、モリエールゆかりのペズナス(Pezenas)やアルフォンス・ドーデーの寓話「キュキュニャンの司祭」に名を残すキュキュニャン、そして、フランスで最も美しい村と呼ばれる風光明媚なラグラース(Lagrasse)の村がある。フランス・オペラの黄金時代、すなわち1930年代が第一期、1950年代から60年代が第二期とすると、第一期と第二期の橋渡し役として活躍したテノール、ポール・アンリ・ヴェルヌは、1905年5月11日にラグラースで生まれた(彼の名前を冠した通りは、生地ラグラースではなくて、ペズナースの方に現存する)。

ヴェルヌは1924年から28年までパリのコンセルヴァトワールで学び、29年にパリ・グランド・オペラでグノーの『ファウスト』の表題役でオペラ・デビューを飾り、オペラ・コミーク座を中心に、ホフマン、デ・グリュー、ロメオ、ナディール、ジェラールなどの仏オペラの諸役で活躍した。この2枚のリサイタル盤は、1953年頃、つまり彼が40代後半の円熟期に録音した仏・伊オペラのアリア集である。
彼の陰影に富んだ独特のヴィブラートをともなう声が見事に記録されていて、彼の名前を偉大たらしめたブレス・コントロールの見事さを堪能することが出来る。特にマスネの『マノン』からのデ・グリューの「夢の歌」は絶品である。

20世紀フランスのテノールの系譜の中で、拙共著「栄光のオペラ歌手を聴く!」(音楽之友社)に書き漏らしたテノールたちについては、このHPの「フランコ日誌」に「テノールの殿堂拾遺」と題して随時補筆しているが、このヴェルヌも漏れていた一人。
アンリ・ルゲイについては既に「日誌」に書いたが、今後ギュスターヴ・ボティオー、ギー・フーシェ、ロジェ・ギャルドゥらについても触れていきたい。

ラングドックは、歴史的に面白いところで、古くはサラセン人をはじめとする回教徒たちの侵略、カタリ派中世異端審問、14世紀中ごろの黒死病の蔓延、近くはピカソやマティスの愛した港町コリウール、ポール・ヴァレリーゆかりのモンペリエ、数々のワイン畑という風に、旅心をくずぐるキーワードに満ちている。来年は、ヴァカンスに、これらの都市を訪問して、温故知新の慶びに浸りたいと思っている。




 《運命の力》Ne gustare m'e dato un'ora di quieteを聴き比べる

ヴェルディ中期の傑作《運命の力》にはサンクト・ペテルブルクでの初演版に始まり、今日最も一般的な1869年スカラ座上演版など色々な版があるが、そのスカラ座上演版では以下のようにテノールとバリトンの二重唱が3つの場面で用意されている。
@第三幕Amici in vita, in morte(
私達が生死を通して友であることを)の小二重唱及びSolenne in questo'ora(この厳粛な時に)に至る部分
A第三幕Ne gustare m'e dato un'ora di quiete(一時も心休まることがない)
B第四幕Invano Alvaro(アルヴァーロ、隠れても無駄だ)
この中でAの二重唱がよく省略されるのだが、手持ちのライヴ版からこの二重唱が省略されていない幾つかのセットを取り出して聴き比べてみた。この二重唱はB同様ドン・アルヴァーロとドン・カルロの決闘の二重唱なのだが、Bとはまた一味違った味わいがあり、特にテノールのパッセージにドラマティックで聴き応えのある部分があるので、《運命の力》を聴く時、テノール・ファンが身構えるポイントなのである。
今回用意したのは以下のテイクである。
(1)1952年11月29日メト公演 タッカー&ウォーレン(Music&ArtsCD-693)
(2)1953年ニュージャージー公演 デル・モナコ&ウォーレン(Legato LCD-118-2)
(3)1956年3月17日メト公演 タッカー&ウォーレン(MYTO 2MCD 943.106)
(4)1958年1月25日メト公演 ラボー&セレーニ(BONGIOVANNI GB1110-2)
(5)1962年10月1日コヴェントガーデン公演 ベルゴンツィ&ショウ(MYTO 3MCD 003.224)
(6)1965年2月6日メト公演 コレッリ&バスティアニーニ(G.O.P.706-CD3)
(7)1968年3月9日メト公演 コレッリ&メリル(MYTO 2MCD 945.112)
(8)1978年6月10日スカラ座公演 カレーラス&カップッチッリ(LEGATO LCD-141-3)

いずれも50年代から70年代にかけての名歌手による代表的ライヴ公演のもので、昨今体験出来ない迫力に満ちている(99年にスカラ座で聴いたリチートラなぞ、なんでこんな声に威力もなく、歌に迸る魂が宿らないテノールがドン・アルヴァーロを歌うのかと悲しくなったものだ)。
50年代の録音では、(1)と(3)のタッカーが激しさと哀愁のバランスが良く、ドン・アルヴァーロのメランコリックな気性を上手く表現している。(2)のデル・モナコはテノール・ディ・フォルツァの極致とも言うべき剛球型で、凄まじい声の威力だ。だが正直言って聴いていて相当こちらも体力を消耗してしまう。そこへいくと(4)のラボーのパトスに満ちながらもスタイリッシュな歌唱は、聴くほどに悲壮感が増し、運命の糸に絡まれて悶え苦しむアルヴァーロの心情がひしひしと伝わってくる名唱だ。
60年代は、ベルゴンツィとコレッリが代表的なドン・アルヴァーロだが、意外なことにコレッリはスカラ座ではこの役を歌っていない。(5)はベルゴンツィの数あるヴェルディ歌唱の中でも特筆すべき様式感の見事な熱唱である。この直前、父親を亡くし十分なリハーサルが出来ず、体調も直前まで悪かったそうだが、本番ではそんなことは微塵も感じさせない完成度である。ベルゴンツィとラボーのヴェルディ歌唱の確実さは双璧といえるが、この公演のテイクは音質も良いので、声楽学習者がお手本とすべき録音である。
(6)と(7)のコレッリは、デル・モナコほど剛球型ではないが、ロブストな声の質と鋼のような高音域の力強さで、ベルゴンツィやラボーに比べるとかなり武人的な印象を受ける。(6)では病が進行しているバスティアニーニを気遣っているのか、(7)に比べるとやや手心を加えているようだが、(7)では相手が元気なメリルなのでコレッリもフル・スロットルで爽快である。
今回8つのテイクを聴いてみて私が3つ選ぶとしたら(4)のラボー、(5)のベルゴンツィそして(8)のカレーラスである。それくらいこの78年スカラ座でのカレーラスの歌唱は素晴らしい。後年の「ヒョエー」と言った感じの高音の苦しい出し方がなく、パッサージョの切り替えもスムースで、高音に輝きと伸びがあり、持ち前の悲壮感あふれる表現力も相俟って、理想的な歌唱である。これもカレーラス生涯のベストに数えて良いものだと思う。カップッチッリとのバランスも良い。
ヴェルディが書いたテノールとバリトンの二重唱のなかでも特に濃密な内容のこの二重唱の魅力を上記代表盤で味わって頂きたい。


 モデナ版を基盤にパリ版の音楽をミックスした新しい『ドン・カルロ』

ヴェルディ歌劇『ドン・カルロ』(Naxos8.660096-98 3CD)
アルベルト・ホルドーガッリード指揮スウェーデン王立オペラ管弦楽団&合唱団 1999年12月及び2000年1月ストックホルムでのライヴ。

ヴェルディの歌劇『ドン・カルロ』には1866年までにヴェルディが作曲した版から1886年のモデナ(リコルディ5幕版)まで数多くのヴァージョンがあり、最近の上演では、更に複数のヴァージョンをミックスする場合が多く、目まぐるしい。

このたびナクソスからリリースされた新盤は、ストックホルムの王立歌劇場の新プロダクションのライヴで、主たる部分はモデナ版を基盤にしているが、それに加えて幾つかの場面で、パリの初演の際に用意された原典版、初演版の音楽を加えて、ドラマ的な不備を補う工夫がなされている。

モデナ版(リコルディ5幕版)に加えられた主な箇所は以下の通り。

1.第三幕第一場冒頭はオーケストラのみの前奏曲に代えて、初演版の導入とエリザベッタとエボリの会話に差し替えられている。

2.第四幕第二場ロドリーゴの死を嘆く部分は、モデナ版に代えて、パリ原典版にあったフィリッポの嘆きに差し替えられている。

3.第四幕第二場フィナーレの暴動の部分も、モデナ版に代えて、パリ初演版の音楽に差し替えられている。

4.第五幕のフィナーレは、モデナ版に代えて、パリ初演版の静かなエンディングに差し替えている。

以上の再構成・スコア校訂は、スウェーデン王立歌劇場の芸術監督フリードリッヒ・マイヤー・エーテル、演出部長のステファン・ヨハンソン、指揮者のアルベルト・ホールドーガッリードの共同校訂によるもので、
これによって、ドラマとしての必然性、連続性、感銘度が効果的なものになったといえる。
音質もよく、ソリストも北欧のキャスト中心でビッグネームは見当たらないが、かなりの実力者を揃えている。おすすめの一組である。



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