<新市民伝>朝日新聞2006.07.01付
 椎名麻紗枝さん「銀行の貸し手責任を問う会」事務局長
 「押し付け融資」の被害を救え


朝日新聞2006.7,1付

 銀行がバブル期に持ちかけた過剰融資で多くの高齢者が借金地獄に陥った。「銀行被害者」を支援する弁護士だ。
 金融に詳しかったわけではない。中央大学を出て66年に弁護士登録。東京弁護士会に所属し、早い時期から医療過誤や被爆者の問題に力を入れた。薬害エイズの訴訟を進めていた1991年、「銀行にだまされた」という相談を受けた。
 小さな建設会社を経営する初老の男性。「借金はきらいだ」と断ったのに、銀行側に「株でもうけられる」と説得されて融資を受けた。自宅などを担保に膨らんだ26億円は、銀行側に任せた株取引の損と利払いで泡と消えた。
 調べてみると、億単位のこうした「押し付け融資」が珍しくない。標的は土地を持つ高齢者。「相続税対策」として株や変額保険、立体駐車場などへの投資を提案し、資金を貸す。使途の自由なこの「フリーローン」が全国に約100万件。それがバブル崩壊で返済困難になっていた。
 「放っておけない」と思った。戦後こつこつ働いて得た高齢者の自宅が「銀行を信頼したという落ち度」で奪い取られる。自殺者も出た。危険なフリーローンを放置した金融行政は薬害エイズと同じ構図に見えた。裁判官は勧誘の不公正さを問題にせず、契約書に印鑑があれば銀行側を勝たせることが多い。96年、被害者らと会を設立した。
 最近は被害者の保証人になった子どもらが、銀行の不良債権を買い取った債権回収会社から返済を迫られる。「銀行被害」は終わらない。
 日本の金融や裁判の制度は銀行にやさしく消費者に厳しい。その改革を訴え続けている。 (編集委員・辻陽明)