喉元過ぎれば、熱さを忘れ


 決して起きてはいけない事が起こってしまった。
 りんちゃんママが倒れたのだ。

 りんパパ、忙しい性分。
 日頃は「漁師になるぞ!」と宣言した海辺に住んでいるが、「人間、温泉だ!」と叫ぶため、海と山とを行
ったり来たりしている。
 しっかし、一人ではいられない性。乳飲み子よろしく、りんママから離れない。とーぜん、りんママも同じ
ように動いていく。しっかも、この寂しがりは海でも山でも四六時中、宴会を開くので、りんママ、宿の仲居
状態の日々が何年も続いていた。

 そのりんママが、山で倒れ救急車で運ばれた。
 連絡を受けたりんこ。目の前が真っ暗。
 幸い意識はハッキリしていたので、何日かの入院で海に帰ることになった。
 が、長旅がこたえたか、海に戻ってすぐに、再び倒れてしまった。

 山にいる時は気丈にしていた、りんパパだったが、電話で様子を聞くりんこに
 「絶対、大事にするから!もう、これからは絶対、大事にするから!」と懇願した。
 りんこ、これには何故か笑えて『願い、しかとききおいた!』と神様になった気分だった。

 しっかし茨城くんだりで、のんびりしてる場合じゃない。りんこ、車を飛ばして駆けつけた。りんママより
も、りんパパのが心配だったのだ。
 りんママ、入院してる時は大丈夫なのに、自宅に戻ると調子が悪くなる。
 寝ている人の横で、熊のようにウロウロ歩き回る御仁のせいなのだ。
 これは、ながーく預かってくれる大病院に行かねば!

 りんちゃんの3兄弟。前にもちょっと紹介したが、みんな「ワシが!ワシが!」というタイプ。この騒ぎの
時も、みんながみんなして「金は全てワシが持つ!いくらかかっても構わん!りんこ!できるだけ良い病院に
行け!」と3兄弟とも騒いでいた。
 しっかし、こーゆー場合。男は実に情けない。ギャー、ギャー騒ぐだけ。実際動くのは、いつも長女のりん
ちゃんねーちゃん。
 この時も、大病院に行くため、りん姉のデリカをベッドにして、りんこつきそいで行こうとしていた。りん
パパ、怖くて行けない。

 りん兄から電話が入る。
 「りんちゃん?車代は後から俺に請求して。いくらかかってもいいから」と言って切れた。
 ねーちゃんに伝える。
 「この車に車代出す気なのかしら?」
 『さあ?でもせっかく出す!って言ってるんだから、この際、リムジンでも頼む?ほんで、後から100万
程、かかりましたっていっちゃろー!』

 病院に着いた。
 ヒョエー。みんな死にそうな人ばっか。野戦病院のようだ。
 ここでは、りんママ、かなり元気な方だ。若い兄ちゃんが、すごいスピードで走り回っている。レントゲン
技師さんも忙しそうだ。と思ったら、その兄ちゃん、脳外科のドクターだった。

 りんママのCTの順番が来た。
 廊下で待っていると、CT室から出てきた若いお兄さんとその奥さんに、先のドクターがドアの所で説明し
だした。
 「脳に腫瘍が出来てます」
 お兄さんは意識があるのか、よくわからないが、奥さん、ボーゼンとしている。そりゃそーだ。すっきりさ
わやかに、いきなし告知されても・・。

 そんな人ばっかのとこでは、りんママクラスは“鼻でフン忠臣蔵”だ。相手にされないのだ。
 りんこ、ドクターに食い下がった。
 『先生!死なない?絶対、大丈夫?』
 ドクター。良い人だった。
 「先の事は自分の事だってわからないけど、少なくとも、2週間後の検査日までは保証しますよ」
 再び走って去ろうとするドクターにりんこは言った。
 「先生、頑張れ!」
 ドクター「おう!ありがとう!」と言って、階段に消えた。

 よかった。取りあえず大丈夫そーだ。りんママもちょと、元気になったみたいだ。こーなると、お腹がす
く。オーシャンビューの病院とは思えぬレストランに入る事にした。
 りんこもねーちゃんも遠慮はない。一番高いのを注文。とーぜんのように、りんママの財布から支払われ、
病院会計に並んだりんこの右手には、りんママの財布があった。

 あれから、2ヶ月程たった。
 りんママは、お蔭様で自宅で一人で立って歩けるまで回復した。
 「治った!」と思い込んでいる、りんパパはあの日の約束はすっかり忘れ、羽を延ばして遊んでいる。
 「俺が出す!出す!」と言った義理兄・兄・たこゆき君からは、その後、お金の話は一切出ない。どいつ
も、こいつも、喉元過ぎれば!なのだ。

 しっかし、女親の不思議。
 なーんにもしなかった息子達なのに、娘よりも感謝感動している。なんだか、お変な感じだ。マッ、いっ
か。母親に涙目で感謝されたら、気持ち悪いから。今までどーり「なんなの!あなたは!」と怒られてる方が
嬉しいかも。
 あー、りんこも年、くった!


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