2.漢方薬と現代薬と、どちらを選ぶのか

(1)消化器科・循環器科


 本場中国では、現在、医師の数でいうと、約8割が西医(現代医学専攻)、2割が中医(中国医学・漢方医学専攻)といわれてます。病院もその割合であるわけですが、病院の入口は右側の受付は現代医学、左側の受付は漢方医学となっている施設もあります。
 日本の場合、大病院で漢方薬が使われ始めても、まだそこまではいっていません。しかし、大病院でもいずれはそうなることだろうと、私は思います。50年くらいはかかるでしょうが。
 当院にこられるみなさまは、ほとんどの方が漢方的治療を求めて、わざわざそのためにいらしてるわけです。ですから今さらどんなとき漢方(薬とハリ)がいいかなどとここで述べるのは、釈迦に説法のようですが、一応、考えて みましょう。

 なかなか一口でいうのは難しいのですが、病気とか病人とかいわれる範囲を二つの円の重なりで示してみると、
              

 
の範囲は漢方治療を望まれた方がよいと思われる範囲。
 
は、漢方治療は少し無理で、専ら現代医学的手法に頼った方がいいと思われる範囲。
 
の範囲は、AとBが重なっています。これは、漢方的手法と現代医学的手法を同時に使用したらよいのではないかと思われる範囲

というように区分けしてみましょうか。

 まず、食欲不振から下痢や便秘に至る、口からお尻までの消化管、及びそれに接続する膵
臓や胆のう・肝臓、一口で言って消化器系のほとんどの病気は、普段、グラウンドで生活されるのがよいでしょう。たまには、検査もかねてへ出かけましょうか。もちろん、緊急手術が必要な大出血や癌などのときは、当分グラウンドということもありましょう。
 その次、動脈硬化や高血圧など心臓血管系いわゆる循環器科といわれるものはどうでしょうか? これも脳卒中や心筋梗塞の時の緊急の処置は、さすがに
でなくてはならないでしょうが、その他はほとんどグラウンドで生活されたらいいでしょう。ただし、循環器科の場合はグラウンドで生活されたほうが望ましい方が、消化器科よりは多いかもしれません。

(2)泌尿器科、アレルギー科

 血液が腎臓というフィルターを通るあいだに、必要なものと不要なものとに分けられ、不要なものが尿です。尿は腎から尿管を経て、膀胱に貯まり、その後尿道を通って排泄されます。この道筋を一口に尿路といいます。

               

 男性の前立腺は尿道を囲むようにありますから、それらを含めて、この尿路全般の病気を扱うのが、泌尿器科。昔は泌尿器科というと淋病などの性病が多かったのですが、それらはもちろん、以前は全部漢方薬で対処しておりました。抗生剤を使える現在では、性病一般はグラウンド専門といってよいでしょう。
 慢性化したもの、例えば、膀胱炎を年に4回以上も繰り返すような方は、グラウンドで、それこそ体質改善されるのがよいでしょう。加齢や冷えに伴う頻尿や、前立腺肥大のつらい排尿障害も、Aがよく効きます。尿路結石の相談もよく受けますが、これはがよいでしょう。

 最近は中年の女性の、くしゃみなどに伴い「おしっこがもれてしまう」という症状の相談がふえ、大学病院に専門の外来ができた所もありますが、まずを試されてはいかがでしょうか。

 その次に、アレルギー外来はどうでしょうか。お子さんが多いのですが、最近は成人にもひろがっています。喘息・鼻炎などの呼吸器系アレルギーとアトピー皮膚炎と称する皮膚のアレルギーが中心です。

 この領域は、にあまり有効な手立てがないので、の株が相対的に上がっているといった感じもあります。喘息の重積発作などの場合は、に入院する必要がありますが、ほかは全てで頑張るべきだと思います。

 特に、で副腎皮質ホルモン(ステロイドホルモン)を多用されてた方はグラウンドに来て、これを切るとき、リバウンド現象で大変辛い思いをされることが多いのですが、それを乗り切りさえすれば、軽快されてゆく方が多いのです。現代医療の中で、が最も期待され、かつが活躍しうる場がアレルギー科だといっても過言ではないかもしれません。

(3)皮膚科、婦人科

 皮膚科。現在いちばん話題になっているのは、前回アレルギー科で紹介したアトピー性の皮膚炎でしょう。子供ばかりでなく、一定の年令に達した大人に急に発症することも多く、原因もわからず、治療法も確立していない、誠にやっかいな病気です。ストレスが増悪因子のひとつであることは確かなことですので、どうか焦らず、ひらきなおって腹を据えて漢方薬を服用してください。よくなる方もたくさんいるのです。その他、慢性の蕁麻疹、ニキビ、乾癬、水虫、 痒症なども、コートがよいでしょう。特に若い方のニキビはコートでは根治が難しいので、是非コートでプレーされることを望みます。

               

 婦人科。漢方薬(コート)が最も得意とし、コートにはない卓効をあげる例が多いのが婦人科領域です。現代医学()では考えられもしない「ふる血」()という考え方。では病因として全く考慮されない「冷え」という考え方。そもそもは、ホルモンがどうこう、というよりもずっと昔に成立した医学ですから、素朴な「ふる血」とか「冷え」といった考え方を中心にして婦人病に対処してきました。これがかえって、現代的なホルモン療法よりも優れた効果をあらわすことが多いのです。不妊症、月経緊張症(生理痛)、病院ではすぐに手術を勧められる子宮筋腫など、を試みられたらいかがでしょうか。婦人科は、を中心にして、の力を時々借りる、即ちコートに属している方々が、いちばん「生き上手・病み上手」な患者さん、といえると思います。

(4)糖 尿 病

 糖尿病外来をのぞくと、ずいぶん混雑しています。糖尿病がみつかった頃は、1〜2週間入院して、奥さんと一緒に食事指導も受け、そのときは神妙にそのつもりになってみたものの……。
 現実の生活では、おつきあい、外食が多く、とても1,200Kカロリーなんていってられません。月に1回混んだ病院で待たされて、血糖降下剤をもらって服用し、何とか辻つまを合わせている。こんな糖尿病の方がとても多いのではありませんか? 漢方医学では、2,000 年以上も前から糖尿病のことを消渇[ショウカチ] (のどが渇く消耗性の病気)と呼び、治療法を挙げてますから、かなり昔から認知されていた病気だとわかります。以前の糖尿病は水をガブガブ飲み、飲んだそばから甘いおしっこ(糖尿)を多量に出してしまい、痩せて死んでしまう、というものでした。血液の中の糖分(血糖)、ひいては尿の中の糖分(尿糖)を下げるのが、インスリンというホルモンであるということが判明して以来、またインスリンの他にも血糖降下剤が開発されて以来、糖尿病といってもさきほど述べたような、みるみる痩せていって死んでしまう、という恐ろしい病気ではなくなりました(薬の開発により病像が変遷するといいます)。

 かつて読売巨人軍で活躍したガリクソン投手は、毎朝インスリンを体内に入れないと死んでしまう、インスリン依存性の糖尿病です。つまり自分の身体でインスリンを製造する能力がないのです。こういう方は、フィールド(漢方薬だけ)では生活できません。
 一般的に、多くの糖尿病の方は、ガリクソン投手とはちがって、インスリン非依存性の糖尿病です。自分の体内でインスリンは生産されているのですが、不十分なのか、またはインスリンが働きにくい状態をつくっているかです。

                

 こういう圧倒的大多数の方は、まずでもでもでもない(薬に頼らない)食事の内容の変更と、運動の励行(万歩計を持ち歩く、その他)が最も重要ですが、その後、いきなりで血糖降下剤を服用するのでなく、その前にの漢方薬ですませられないか、とワンステップおくことは、薬づけになる割合を大幅に減らすことのできるとても大切な手段のように思われます。勿論、フィールドで生活している方もたくさんおられます。

 ところで、医師が貴方の生活を知る間もなくバトンタッチして、主治医がクルクルと変わる大病院の外来で、どうして糖尿病の方が適切なアドバイスを得られるでしょうか。貴方の生活ぶりをよく理解して、しかも数年にわたっておつきあいのできる、身近な主治医をきちんと作ること、あなたが主治医を作り、上手に利用することが、治療の第一歩であることを忘れずに。

(5)リュウマチ様関節炎

 リウマチ外来。ここも待合室がいっぱいです。まったく多い病気ですね。特に女性に多い。出産や閉経など、女性の生涯のいくつかのイベントの時期に発症することが多いのも特徴です。ひたむきに、手抜きなく一生懸命に、家事や仕事に打ち込んでいるような方に発症しやすく、また皮肉にも、そうした義務から開放されたとたんに発症することもよくあります。 関節が痛んだり腫れたりするのが、すべて関節リウマチというわけではありません。他の関節炎は概してなおしやすいので、診断をきちんと受けることです。もし、「関節リウマチ(らしい)です」と診断がついたら、その日から守るべきことが3つあります。

[1]寒さから関節を守る。保温用サポーターや、使い捨てカイロ(最近は布地にピタリとはりつく薄型も発売されています)を上手に利用すること。

[2]湿気から身を守る。フトンをよく干す。水仕事のあとには、必ず熱めのお湯をボールに入れ、手首から先をつけてジーンと赤みがさすまで温め、それから乾いたタオルでよくふく習慣をつけること。

[3]10割人生の方は8割人生にペースダウンすること。


 先述したように、主婦としても、キャリアウーマンとしても完璧にやり通す10割人生の方を関節リウマチは好むようで、しばしばそういう方を選んでとりつきます。とりつかれたら、10割人生はもうやめてしまいましょう。8割くらいにペースダウンして、2割は関節リウマチの居住権を認めること、関節リウマチの顔を立ててやることです。とりつかれてしまった自分も、とりついた関節リウマチも共に「許さん」と10割人生を頑張り抜くのも、ひとつの立派な態度ではありますが、だいたい関節リウマチという炎症に油を注ぐことになり、失敗することが多いようです。

 さて、関節リウマチの半分以上の方は、だけで十分生活できると思います。他の方はとなりますが、漢方薬やハリを上手に利用することで、現代薬物の占める割合をずいぶん減らして生活することが可能です。既に副腎皮質ホルモン(プレドニン等)を服用されている方は、漢方薬はその離脱のお手伝いをしますけれども、あわてると失敗します。

(6)偏頭痛・三叉神経痛・ムチ打ち

 痛み(ペイン)のおはなし。特に主として体の表面に近いところの痛みのおはなしです。 これらは命には別状ないけれども、とてもつらいし、長期にわたる慢性の頑固な痛みになると、性格まで憂鬱になってくる方も多いのも止むを得ないことと思います。外見が何ともないと他人にはわかってもらえないし、つらさもひとしお。身体の上からざっと挙げてみても、[1]偏頭痛、[2]三叉神経痛、[3]ムチ打ちなど、[4]肩関節周囲炎(四十肩・五十肩)、胸背部に多い[5]帯状疱疹後遺症の痛み、それから最も多い[6]腰痛(慢性・急性ふくめて)、腰から脚へかけて痛む[7]座骨神経痛、それから何と診断してよいかわからない、みなさんがよく言うところの[8]神経痛、中年以降の女性に圧倒的に多い[9]股関節炎や[10]膝の腫れ痛み(変形性膝関節症)などなど。

[1]偏頭痛

 前駆症状(目がバチッと光る)があり、嘔吐を伴うような典型的な偏頭痛は、原因としてアレルギー説を私は支持します。市販の鎮痛剤で効くなら、その時々に服用するのは止むを得ないでしょう。漢方薬を服用してその場で治まるということは、あまりありません。少し長期の服用が必要です。何故なら、女性に多いことから考えても、また閉経後は急速に減少していくことから考えても、アレルギーの引き金のひとつに女性特有のホルモンの問題があることは確かだと思うからです。→(フィールド)
 同じ偏頭痛でも、肩から後頸からはってきて、後頭部がはり痛むという、いわゆる筋緊張性頭痛は、漢方薬が効きやすいし、こった筋肉をほぐすという意味でもハリ治療の直接の対象となります。→(フィールド)

[2]三叉神経痛

 
重症の方は、専門のペインクリニックでブロック等の治療をお勧めしますが、これとて全例有効というわけにいかず、漢方薬やハリ治療をもとめて戻ってくる方も多くいます。日常生活を何とかやっていける程度のものは、〔漢方薬+ハリ〕がいいでしょう。→(フィールド)

[3]ムチ打ち等

 
外傷後の首の痛み、腕のしびれ等は、しばしばX線写真で「頸椎がズレている」と整形外科医が言うようです。
 どうするのかというと「牽引」。
 身体の痛みの原因を、簡単なX線撮影で写る唯一のもの、「骨」の変化で説明しようとする悪習慣が、未だに整形外科領域ではあるようで、患者さんから話を聞くたびに、情けない思いがします。A領域でやればいいのに、と思うことが多い領域です。→(
フィールド)

(7)五十肩・帯状疱疹・腰痛・座骨神経痛

[4]肩関節周囲炎(四十肩・五十肩)


 もちろん現今では六十肩・七十肩の方がざらです。診断名としては肩関節周囲炎と呼びます。周囲というところがミソで、じつは膝関節炎なども膝関節周囲炎という方が適切です。「関節の痛み」というビデオででも述べていますが、人間の関節(ジョイント)はとても不完全で、周囲の筋肉や腱がカチッと固めているから、ようやく関節の用をなしているのです。当然、無理がかかり炎症を起こすのもここです。当院でハリや投薬で痛みを軽減してからとことん暖めれば、ほとんど短期間によくなります。よく四十肩はほっておいてもいずれよくなると、放置している方がいますが、早く治した方がよいはずです。→(フィールド)

[5]帯状疱疹後遺症

 最近は帯状疱疹がやたら多いという印象をもちます。これは幼い頃にかかった水痘ウイルスが身体に潜んでいて抵抗力がおちたときに身体の表面に繁殖する病気です。ウイルスですから直接に効くお薬は何もありません。皮膚科などでお薬を出したり、クリームを出したりしますが、じつは何もしない方がよいのです。こすったり、薬をつけたり、洗ったりしないように。いじるとあとで恐ろしい痛みがでてきます。当院は投薬のみで後遺症の痛みをほとんどなくしています。→(フィールド)

[6・7]腰痛・座骨神経痛

 腰痛の中にはギックリ腰のようないわば腰関節の捻挫と、腰椎の中心から両方の足へ伸びている座骨神経がどこかで圧迫されておこる座骨神経痛があります。椎間板ヘルニアは、この座骨神経痛の原因のひとつです。100の腰痛のうち、座骨神経痛は10くらい、そのうち椎間板ヘルニアが原因なのは1つくらいといわれています。腰痛というと、骨の写真をとり、すぐ椎間板ヘルニアだという整形外科医が多くて、皆さんも腰痛はみんなヘルニアと思っているようですが、それは間違いです。いずれにせよ、腰痛を起こしたら丸まって寝ていることです。歩けるようになったら来院してください。ほとんど問題なくなおります。→(フィールド)

(8)神経痛・股関節炎・変形性関節炎

[8]神経痛

 一昔、二昔前までは、「神経痛です」という患者さんが多くいたものです。大腿の中心などが、ズキーン、ヅクヅクという何ともいやな痛みにみまわれ、なるほど「神経痛」という呼び名がふさわしいけれど、はてさてどうしたものやら。明治初期にナーヴ(nerve) という医学用語を「神経」と翻訳しました。それまでの医学の主流であった漢方医学の用語から神=心=気といった「神」と、経脈とか経穴(ツボ)とかの「経」をとって、気のようなものが流れる道として「神経」という用語を作ったのです。
 この「神経」というコトバは、作られてまもなくから、早くも精神・気持ちとかいったニュアンスを帯びるようになり、「神経衰弱」などという言葉も精神科で使われ、三遊亭円朝はこの意味での神経をモジって、『真景(神経)累が淵』という怪談をつくり大評判をとりました。皆様も「食欲がないのは神経のせいでしょうか?」などとよく使いますよね。

 話をもどして、「神経痛」には、ものとしての神経が痛んでいるというのと、それはとてもいやな痛み、神経(気持ち)が滅入るような、参っちゃうような痛みであるとの両方の意味合いがこめられているようです。座骨神経(の)痛(み)、三叉神経(の)痛(み)と診断できるもの以外に、何とも診断しがたいような「神経痛」を訴える方は、最近ではとても少なくなりました。
 これは居住環境や労働環境の変化で、身体を芯から冷やす機会が大幅に減ったことによると思われます。ホカロンの発明も大貢献したでしょう。漢方薬では、大熱剤といって身体を強力に温めるブシとかカンキョウという薬の出番です。→(Aフィールド)

[9]股関節炎

 中年以降の女性に発症しやすい、まことにやっかいな病気です。最終的には股関節の形成術をすることになる方もおられますが、手術をしても何年くらい効果をもたせられるか、まだ不確かなものですから、相当の年令になるまでは勧められません。漢方薬とハリ治療で何とかもたせている、患者さんに頑張ってもらっているといった現状です。→(Cフィールド)

[10]変形性膝関節症

 これも中年以降の女性に多い膝が腫れ痛むというものです。右が痛いと左を主に使いますから、そのうち左も腫れてきて、膝をかばっているとそのうち腰が痛くなる、といった具合でなかなか始末がわるい。
 よく「水がたまる」といいます。すぐ水を抜く整形外科医が多いのですが、この水は炎症という火事のあとに残った灰のようなものですから、水を抜いてしまえばカマドの灰を掃除したようなもので、また新たに燃え上がりやすくしているようなものです。当院では原則として水を抜くことなくずいぶん多くの膝をなおしてきました。
 骨切り術をすすめられたほどのすごいO脚になった患者さんで、手術をせずに頑張った方がいます。初めは、六本木駅から当院まで20分以上かかってやっと歩いてきましたが、今では7〜8分でサッサと歩いて来られるようになりました。→(Cフィールド)