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臼井正+京都天文めぐり*平安京プロジェクトチーム |
これは2002年6月の観測結果ですが、その後2002年9月に新たな観測をして、その結果を太陽を使った方法を実際にやってみました(その2)にまとめました。 今となっては、そちらを読んで頂ければこのページは飛ばしても構わないのですが、試行錯誤の記録として残しておきます。(2003年5月付記)
平安京の東西南北はどうやって決めたのだろう のつづきです。 机の前であれこれ考えてもしょうがないので、まず、太陽を使った方位決定法を実際に試してみて、どのくらいの精度が出るものなのか調べました。 目標は、平安京の精度:1/1000(1000m行って1mずれる。角度にして0.06度)です。
1. 観測
観測装置は、京大宇宙物理学教室の冨田良雄さんに作って頂きました(左の写真)。 円盤の直径は約70cmで、以前、京都天文めぐりの企画で渾天儀を復元した時に、渾天儀のリングを切り出した後の残りの板です (本題とは関係ありませんが、渾天儀の復元についての記事は、こちらにあります)。> ポールの高さは約90cmで、円盤とポールとをつなぐ金具は旋盤で精密に作って頂きました。
(左)観測装置の写真。 ポールの手前にあるのは水準器。 円盤の下(水準器の右下)に写っている白い足(他に2ヶ所ある)についたネジを調節して水平を出した。 この写真では、ポールの根元から左やや上方に伸びている影の先端は円盤の外にあるが、この直後から観測が始まった。
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観測は、2002年6月6日に京大宇宙物理学教室の屋上で行いました。 この日は夏至に近く、太陽の赤緯方向のズレも無視できます。 基準線(後で出てくる図のy軸に当たる)として、建物と平行になっているとおぼしき屋上の段差(上の写真でかすかに右上に延びている線)を採用しました。 逆に言うと、この段差(あるいは、宇宙物理教室の建物)が南北からどのくらいズレているかを測ることになります。 観測方法は、10時42分0秒からちょうど3分ごとに、ポールの先端の影の位置を円盤上の紙にプロットしていく、という形で、南中前後の休憩をはさんで、13時30分前まで行いました。 当日はかなり暑かったですが、途中雲に遮られることもなく無事終わりました。(上)宇宙物理学教室の屋上で観測の準備をする筆者。右上の一番高い山は比叡山。
(2枚とも冨田良雄氏撮影)
2. データ処理
2−1. その1
データは以下の3つの方法で処理・解析をしました。
1つ目は、前に紹介したインディアン・サークル法そのものです。
まず、紙の上にプロットした観測点どうしをフリーハンドで結んで、太陽の影の軌跡を描きます。 次に、原点(ポールの根元の点●)を中心に適当な大きさの円を描きます。 すると、2つの線が午前と午後の2ヶ所で交わるので、その2つの交点を結んだ線が東西の線、その線に垂直な方向が南北線になります。 同じ事を、大きさの違ういくつかの円で行って、それぞれ東西線を引くと、見た目では全くの平行線に見えます。 基準線との角度のズレは、分度器ではそれほど細かく測れませんので、次のようにします。 2つの交点を結んだ線と、基準線に平行&垂直な線とで直角3角形を作って、直角をはさむ2辺の長さb、cを測ると、基準線との角度θは、tanθ=c/bからc/bのarctan(アークタンジェント)をとれば求まることになります。 すると、真の北は基準線(つまり、屋上の段差)より8.40±0.09度だけ西の方向にある、別の言い方をすると、基準線は真北から東よりに8.40±0.09度ズレている、という結果になりました。 宇宙物理学教室を含む京大の北部構内は、地図で見ても真北から東よりにズレていますので、まずは妥当な結果といえるでしょう。 (宇宙物理の地図は、こちらのページの下の方にあります。) 0.09度のズレは、1.5/1000のズレに相当して、平安京の精度には達していません。 しかし、今回は小さな観測装置だったので太陽の影の軌跡の長さは60cmくらいで、0.09度のズレというのは、60cm行って1mmズレる程度なので、決して悪いわけではありません。2−2. その2
2つ目は、上の方法をコンピュータ上で行う、というものです。
ポールの根元を原点、基準線をy軸、それに垂直な軸をx軸とした座標を決めて、観測した点のx-y座標を定規で0.1mmまで読み取っていき、コンピュータに打ち込みます。 これが、上のグラフの黒丸で(座標の単位はcm;それ以外の印は3つ目のデータ処理法に関するもので、今は気にしないで下さい)、x軸、y軸は宇宙物理の建物の辺と平行で、x軸のプラス側がだいたい東の方向、y軸のプラス側がだいたい北の方向になります。 すると、見た目にも基準線(y軸)と真の南北はズレていることが分かります。 各点の間は直線で結ぶ(補間する)ことにして、それと原点を中心とする円との交点を求めるわけですが、これは2次方程式を解くことに当たります。 こうして、少しづつ大きさの違う円と太陽の影の軌跡との交点を求める短いプログラムを書いて、南北の方向を出します。 すると、真の北は基準線より8.51±0.06度だけ西の方向にある、という結果になりました。 この0.06度はちょうど1/1000で、内部誤差は平安京の精度に達していると言えます。
以上の2つの方法で得られた角度は一致するはずで、実際、誤差の範囲内で一致しています。 1つ目の作図で求めた方が誤差が大きくなっていますが、これは1mm以下の精度で作図するのは難しいことが影響しています。2−3. その3
さて、データを色々いじっているうちに、どうもポールの先端(各観測点はポールの先端が投げる影をプロットしている)は、ポールの根元(座標系の原点)に一致していない、つまりポールは垂直から少し傾いているのではないか、という気がして来ました。
今までの方法はポールが垂直に立っていることを前提としていましたが、3つ目の方法では、基準線の南北からのズレだけでなく、ポールの先端の位置(つまり、ポールの傾き)も同時に推定できます。 まず、球面三角法と理科年表の数値から、各時刻の太陽の方位と高度を計算すると、本当は影の先端がどこにあったのかが分かります。 更に、この日の観測地点での太陽の南中時刻は11時55分23秒だと分かります。 すると、この南中時刻から前後に等しい時間間隔(例えばちょうど1時間前と1時間後)だけ離れた2点の影の位置が分かれば、その2点を結んだ線が東西の方向となります。 図では、太陽の軌跡の上で、B点が南中、A点とC点が南中から前後に等しい時間での影の位置で、AとCを結んだ線が東西線になります。 さらに、この時刻の太陽の方位角(太陽の真南からの角度)が分かれば、この2点(A,C)を結んだ直線を底辺として、頂角(∠AOB)が太陽の方位角(∠AOB=∠BOC)の2倍であるような二等辺三角形AOCが描けます。 この頂点がポールの先端に相当して、もしこの頂点が原点(ポールの根元;図の●)と一致しないならばポールが垂直から傾いているということが分かります。 (実際のポールはある半径をもった円ですが、太さのない線状のポールであるかのようにデータに補正を加えて計算しています)
少しづつ時間間隔をずらして二等辺三角形をいくつも作って計算した結果、ポールの先端は
(x,y)=(-0.53±0.04、0.61±0.04)(単位はcm)にある(前のグラフの原点のすぐ左上の+印)、つまり、ポールの根元から北西の方向に1cm足らず傾いていた(角度にして0.5度)ということが推定されます。 観測している時にはこうしたチェックはしなかったので、本当にこれだけ傾いていたかは分かりませんが、推定値の誤差が小さいことから、ある程度傾いていたことは確かだろうと思われます(冨田さんも、このくらいの傾きはあるかも知れない、とおっしゃっていました)。同時に、真北は基準線から西に8.62±0.06度の方向となりました(前のグラフの長い矢印)。 2つ目の方法結果と0.11度だけ異なるのは、ポールの傾きを考慮に入れたためで、これが一番正解に近いと考えられます。 ±0.06度というのは、ちょうど1/1000の誤差に相当するので、コンピュータの上では南北の方向が内部誤差1/1000の精度で決まったことになります。 ただし、古代には太陽の南中時刻や方位角を知ることは出来なかったので、このような方法は 使えませんでした。
最後に、計算で求めた太陽の方位角と高度から、ポールの傾きと基準線の南北からのズレを考慮にいれて、各時刻の影の位置を計算してプロットしたのが前のグラフの+印です。 黒丸の観測点と+印は、ほぼ一致していて、かなり正確に印をつけられていたことが分かります。 観測点と計算点の距離が観測誤差で、この誤差が南北の角度の誤差に伝播するわけですが、誤差の平均値を求めると、0.5mmとなります。 おおまかに言うと、午前と午後で50cm離れた観測点があって、その点が0.5mmの精度で決まれば、方位は1/1000の精度で決まることになります。 しかも、午前と午後で別々に求めると、それぞれ0.6mmと0.2mmとなって、慣れてきた午後の方が良くて、午前中の観測精度が全体の足を引っ張っていることになります (グラフをよく見ると、午前中(左側)にズレが大きい点があるのが見て取れます、か?)
注) ポールの垂直からのズレが方位の角度のズレに伝播する度合いは一定ではなく、太陽の影が長いほど、又、影の軌跡が直線に近い(春分、秋分ころ)ほど影響は少なくなります。 今回は夏至近くで、しかも南中の前後1時間半だけと一番影の短い時に観測したので、ポールの傾きの影響が南北のズレに一番伝播しやすかった、といえます。 つまり、今回と同じ観測装置でも、別の時期、または、同じ日でももっと影の長い時に観測すれば、0.11度よりももっと小さな影響しか出なかったはずです。
3. まとめ
太陽は角度にして0.5度という大きさをもって見えるので、ポールの影の先端も当然ぼやけます。 観測中、影の先端に点を打っている時には、このあたりかな?とあまり自信もなく打っていたのですが、データ処理の結果、実はかなり正確だったことが分かって驚いています。
基準線の真北からのズレは、上の3つの方法で、それぞれ、
1.8.40±0.09度
2.8.51±0.06度
3.8.62±0.06度
となりました。 2と3の±0.06度という精度は、観測時に影の先端をプロットする時の誤差を反映しています。 1では、±0.09度と若干大きくなっているのは、これに作図時の誤差が加わっているためです。 又、1と2は誤差の範囲内で一致しているといえますが、3と合わないのは、ポールが垂直から少し傾いていたためです。 このうち、観測時と作図時の誤差はランダムな誤差なので、繰り返し観測&作図することで減少していきます。 一方、ポールのズレによる誤差は系統的な誤差で、同じ観測装置を使う限り、残り続けます。 ただし、今回は基準線の方位を、別の方法(例えばGPS)で測ることが出来なかったので、誤差はあくまでも内部誤差です。今回は、コンピュータ上でポールの傾きを補正することによって(3番目の方法)、0.06度、つまり1/1000の精度を達成でき、古代に行われたかも知れない作図法(1番目の方法)でも、それに迫る精度が出ました。 今回は、観測装置も小さく、太陽の影も南中前後の短いものしか測りませんでしたが、古来、標準とされた八尺(2mくらい)のポールで、もっと長い影を測れば、精度はもっと上がるでしょう。 また、3番目のデータ処理では、午前より午後のほうが正確だったので、観測者が熟練することも必要だ、ということになります。
結論としては、もし古代に正確に垂直にポールを立てられれば、かつ、熟練した観測者が繰り返し観測すれば、こうした方法で平安京の精度で南北を決めることは、十分可能だと考えられます(古代のポールの垂直の精度については、昔のモノは残っていないので分かりません。 方法としては、重りをつけた糸を垂らしてポールと比較することによって、垂直を出したのかも知れません。)
今後の課題は、古代と同じ2mくらいのポールが、どのくらいの精度で垂直に立てられるかを確かめて、今回と同様に太陽の影をプロットすることです。 そうなると、かなり広い水平な地面(太陽が低いときの影を測るなら、差し渡し10mくらい)が必要になるなど(昔は、水を張って水平を出していた?)、大掛かりな観測になるでしょう。 それと平行して、周極星を使った方法も、実際にやってみたいと思っています。
2002年8月11日 バージョン1.0
2003年5月16日 バージョン1.01
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平安京の東西南北はどうやって決めたのだろう
太陽を使った方法を実際にやってみました(現在地)
太陽を使った方法を実際にやってみました(その2)
ピラミッドの東西南北はどうやって決めたのだろう