ビルマ(ミャンマー)の星座絵
パート1・何それ?

〜西山峰雄氏の研究による〜


 ビルマ(ミャンマー)と言われて思い浮かべるのものと言えば、アウンサン・スー・チーさんと『ビルマの竪琴』くらいで、「ビルマの星座絵」と聞いてイメージが思い浮かぶ人は、多分いないでしょう。 これを読んでいるあなたも、きっと「何それ? なぜビルマ?」と思ったことでしょう。 しかしビルマは、独自の星座を描いた絵が沢山残っている、世界でも稀な星座絵の宝庫なのです。

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1.きっかけ

 「ビルマは星座絵の宝庫」などと知ったかぶって書きましたが、このページを作るまでの経緯を考えると、僕も偉そうなことを言える立場ではありません。 それは、NPO法人・世界遺産ネットワークの一員として、2003年夏に東南アジアへ公式訪問をしたことに始まります(その時の写真は、ミャンマー編と、アンコール・アユタヤ編にあります)。 この訪問は天文ネタとは全く関係なかったのですが、ミャンマー中部の町アマラプラのパゴダの天井に、全く見たことのない星座絵を見つけて、そこにゾウや孔雀から、何の形か分からない絵まで描かれているのに遭遇して、大変驚きました(下図;パゴダとは仏舎利(お釈迦さまの骨)を納めた仏塔のことです)。 )。

 なぜそれほど驚いたかというと、このように全天の星に星座を設定して、それを1枚の図にまとめた文化の例を、それまで3つしか知らなかったからです。
 1. メソポタミア〜ギリシア〜西洋〜現在
 2. エジプト(デンデラ神殿)
 3. 中国
 もちろん、それぞれの民族は固有の星の名や星座名を持っています。 ただ、それはオリオン、すばる、北斗七星など目立つ星に限られ、全天の星ではありません。 古代ギリシアでも、ホメロスに出てくる星座名は、オリオン、シリウス、プレアデスの他、全部で10個程度に過ぎません。 現在まで伝わる、おひつじ座、おうし座などの黄道十二星座は、古代メソポタミアに始まり、それがギリシアに伝わったものです。
 日本の古典の中に見える星の和名も、すばる、彦星、夕づつ(宵の明星)程度で、あとは全て中国の星座を輸入しました。 例えば、高松塚古墳やキトラ古墳の星図も、中国が起源です(中国の星座については、大阪市立博物館の嘉数さんの中国星座への招待をご覧下さい)。 全天に星座を設定する、というのは、ある程度文明が進んでから、暦の作成や、太陽・月・惑星の観測と位置計算にともなって行われ、それらがセットになって周辺に伝わる、というのが基本的なパターンです。

 ところが今、このリストに
 4. ビルマ(ミャンマー)
が加わったのです。

2.西山峰雄氏との出会い

 旅行中は、天文ファンでこの星座絵を見たのは、僕が初めてではないかと思っていたのですが、帰国後、念のためインターネットで調べると、後藤修身氏のエーヤーワディのほとりビルマの星座に、西山峰雄さんによる詳細な研究を見つけて、また驚きました。

 その後、西山さんと連絡を取り合い、直接お会いしてお話を伺ったり、資料を見せていただきましたが、ビルマには僕が見た以外にも多数の星座絵があるとのことでした。
 西山さんは横浜市在住のアマチュア天文家で、小惑星6745番Nishiyamaは同氏の名前にちなんで命名されました。 実際にお会いすると、80才を超えているのが信じられないほど、お元気でパワフルな方でした。 西山さんは1989年に旅行でビルマの首都ヤンゴン(ラングーン)に行ったときに、黄道帯に西洋とビルマの27星宿が描かれた星図を入手し、帰国して大野徹氏(大阪外国語大学教授)の著書「ビルマの仏塔」に掲載されているアマラプラの星座絵を見て、この図を研究したいと思ったのがきっかけだそうです。
 そして、上記リンクに再録された「ビルマの星座」を『星の手帖』に発表しています。 その後も1992年、1996年にビルマを訪れ、各地で星座絵の採集、ビルマ語の翻訳などの研究を続けて来られ、その研究は海外の文献(Kelley & Milone, 2004, “Exploring Ancient Skies”)でも引用されています。
 現地調査で星座に詳しい人を紹介されても、軍事政権下で外国人との接触は嫌われていたので連絡がとれずに終わったり、翻訳といっても、現代の日本人が古文書の草書を読めないのと同じように、昔のビルマ文字を読める人は少なかったりと、苦労されたそうです(写真は、ビルマの占星術師に占ってもらった西山氏)。

注1) このページで紹介する研究は、西山峰雄氏が大野徹教授、高橋ゆり先生、大橋由紀夫先生を始めとする方々の協力で行ったものです。 筆者の役割は、西山さんから提供していただいた資料・写真をもとに、ビルマの星座絵を紹介することです。

注2) ビルマの現在の国名はミャンマーですが、両者は同じ語源で、現在も民族、言語を指す場合は、ビルマ族、ビルマ語という表現が使われています(ただし、人口の30%は、少数民族などが占めています)。 このページでは、「ビルマ」を用いることにします。

3.ビルマの星座案内(上)

 それでは、ビルマの星座について具体的に紹介して行きます。 ここで紹介する星図が描かれたチャウトージー・パゴダは、18〜19世紀の一時期にコンパウン朝(アラウンパヤー朝)の首都となった、ミャンマー中部の町アマラプラにあります。 チャウトージー・パゴダは1846年に建てられ、星座絵もこの時、描かれました。 当時は、イギリスの進出に苦しめられていた時期ですが、星座絵には西洋の影響は全く見られません。 星が丸で、明るさによらず同じ大きさなのも、ビルマを含めた東洋一般の描き方です。

 まず右図で中央下の亀は、オリオン座です。 オリオン座の主要な星に加えて、小三つ星も描かれています。 亀の右上の2匹の魚はヒアデス、その更に上の6個の星は6匹の雛をあらわし、すばるに当たります。 亀の上の黒い鳥は、伝説上の鳥ヒンダ(天竺鴛鴦)でぎょしゃ座、その左のカニは、おおぐま座からやまねこ座にかけての星に相当すると思われます。

 亀の左は船首で、上の2星はふたご座のカストル・ポルックス、中の2星はこいぬ座、下の2星はシリウスとその隣の星で、おおいぬ座の下半身は別の星座になっています。 現代ビルマの文学者ミン・トゥ・ウンさんの天文啓蒙書『天上の星ひとつ』では、ポルックスが「舟のへさき」、こいぬ座のプロキオンが「舟のへそ」、シリウスが「舟のとも(船尾)」となっています。 これでは舟が立ってしまいますが、実はこれらの星が東の地平線から昇る時の姿ではないかと考えています。 「やまねこランド」のほしはすばるを使って、ビルマの1月1日の午後8時すぎの東の空を再現すると、これらの星がちゃんと横になって、舟の姿に見えます(日本ではビルマよりも緯度が高いので、ふたご座(舟のへさき)が早く昇り、バランスが悪くなります)。 例えば古代エジプトのシリウスと同じように、夏、日の出前の東の空に舟が現われるのを、季節の目安としたのではないか、などと想像がふくらみます。

 左のマハムニ・パゴダの絵では、星は描かれていませんが、やはり亀と舟(ただし、左右逆)が描かれています。

 左の竜(又は、ヘビ)は北斗七星ですが、ひしゃくの向きは左右逆になっています。 また、右のゾウははくちょう座ですが、ゾウの輪郭に沿って星が並んでいるだけで、実際の星の配列には対応していません。 これは絵を描く人に、あまり星座の知識が無かったためだと思います。

4.ビルマの星座案内(下)

 左図中、左の二匹の雛は、ケンタウルス座のアルファ星とベータ星、右の船に乗る漁師は、みなみじゅうじ座ですが、図中の星は実際の星の配列には対応していません。 また、南十字の+型の星の配列は、あまり船と漁師には見えません。
 ところが、ビルマの緯度・北緯20度では、みなみじゅうじ座は地平線から10度くらいしか上がりません。 そして日周運動とともに、南十字の+が櫂をこぐように動きます。 そこで、地平線すれすれの星々を、船と漁師に見立てたのかも知れません。

 再び、「ほしはすばる」で、ビルマの6月1日の午後9時の南の空を再現しました。 星座線が引いてあるのは、上からうしかい座、おとめ座、ケンタウルス座、みなみじゅうじ座で、その左の明るい2つの星が、二匹の雛に当たるケンタウルス座のアルファ星とベータ星です。
(右図はマハムニ・パゴダの船と漁師)


 ここまで挙げた星座はどの星座絵でも共通ですが、同じ星々に対して異なった絵が描かれているものもあります。 さそり座は、今まで紹介した星座絵(A図)では、左のように孔雀と人物(アンタレス)、尻尾に分割されていますが、同じパゴダの別の絵(B図)では、右のように一匹の竜(ヘビ)になっています。 その上の傘は、へびつかい座の足に当たると思われます。
 また、おとめ座のスピカは、チャウトージーA図では左図のように虎ですが、B図では右図のように手のひらになっています。

 これらの星座絵は、マハムニ・パゴダをはじめ、他の寺院やパゴダでも、図案化されて描かれています。
 (右図は、マハムニ・パゴダの象(はくちょう座)と竜(さそり座))

5.ビルマの9大星座

 更にビルマには、独自の9大星座の体系があります。 それは、右図(チョウアゥンサンター・パゴダ)の内側の円にも描かれています。 時計の8時の方向のからすから、反時計回りにヒンダ(天竺鴛鴦とも呼ばれるビルマの伝説上の鳥)、蟹と続きます。 ただし、この絵では鷺と象が入れ替わり、髪飾りは円の中心に人物として描かれています。 かに、てんびんは、西洋の黄道十二星座と共通ですが、別の星座に設定されています。

ローマ字 ビルマ名 対応する星座名
Byain 鷺(さぎ) カシオペア座
Kyi からす ペルセウス座
Hamsa ヒンダ(天竺鴛鴦) ぎょしゃ座
Pazun おおぐま座の胴体,やまねこ座?
Chain 天秤 おおぐま座の足?
San Kyin 髪飾り かみのけ座
Kaungta 漁師 ヘルクレス座
Hsin はくちょう座
Myin ケフェウス座

 今まで紹介してきた、チャウトージー・パゴダの星座絵の中心付近にも9大星座が見られます。 ただし、上のイェーザジョー寺院とは反対回りです。 この内、蟹はおおぐま座の胴体にあたるらしいのですが、どう見ると蟹になるのかは、よく分かりません。 天秤は、おおぐま座の足の爪に当たると思います。 また、この図では、髪飾り(かみのけ座)だけ絵がありません。 9大星座ではありませんが、天秤の右の猿はしし座の大鎌です。

*                 *

 突然ですが、ここで問題です。 左図は、マハムニ・パゴダに描かれた黄道十二星座(おうし、おひつじ…)の一つですが、どの星座か分かりますか? 答えは、パート2で。





2004年10月10日 ベータ版
2006年3月20日 バージョン1.0
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 著作権について:このページの画像は西山氏の意向により、教育・研究・普及目的であれば自由に転載して構いませんが、その際は出所を明示してください。 ただし、著作権を放棄したわけではありません。

 画像について:このページのほとんどの画像は、西山氏撮影の写真を300dpiでスキャンして、縮小したものです。 元の画像(約1700×1200ピクセル)は300枚(約100MB)くらいあります。 興味のある方がおられましたら、実費でCDに焼いて郵送しますので、ご希望の方は筆者までメールでご連絡下さい。


パート1・何それ? (現在地)
パート2・なぜビルマ?
クリッカブル!ビルマの星座絵:ここまで部分的に紹介してきたチャウトージー・パゴダの星座絵(A図)の星座絵の西山氏による同定の一覧をご覧になれます。

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