ビルマ(ミャンマー)の星座絵
パート2・なぜビルマ?

〜西山峰雄氏の研究による〜


このページは、パート1・何それ?の続きですので、まずそちらをご覧になることをお薦めします。

6.黄道十二星座と28星宿

 下の絵は、マハムニ・パゴダにある黄道十二星座の絵ですが、私たちが見慣れている絵と少し違っています。 例えばふたご座は双子ではありませんし、やぎ座は全身が魚で、みずがめ座には人物がなく、逆にてんびん座には人物が加わっています。 また、おうし座・おひつじ座は、金牛宮・白羊宮とも言いますが、この図で白いのはおうし座の方です。 これらは、ヘレニズム世界からインドへ伝わった黄道十二星座が、インドで変形して、それがビルマに伝わったものです。 例えば、インドのやぎ座はインドのマカラという怪物で表されます。 というわけで、パート1の問題の答えは、やぎ座です。

おとめ しし かに ふたご おうし おひつじ
うお みずがめ やぎ いて さそり てんびん

 また、筆者がビルマの首都ヤンゴン(旧ラングーン)で買った刺繍にも(右図)、象の周りに黄道十二星座が並んでいます(時計の12時前のおひつじ座から時計回りに、おうし座、ふたご座と続く)。 店の人は、「1年(ワン・イヤー)」の刺繍と言っていました。

 ちなみに、黄道十二星座やホロスコープ占星術はインドから中国を経由して、平安時代の日本まで達していますが、これについては惑星の名、名(日本の方へ)に書きました。 日本の城の天守閣に乗っているシャチホコも、インド版やぎ座のマカラがモデルだと言われています。

 一方、インドには、黄道十二星座を受け入れる前から、インド固有の星座として、赤道付近に設定された27(又は、28)の星座があり、星宿(ナクシャトラ)と呼ばれています(詳しくはウィキペディア日本語版・ナクシャトラの項参照)。これは、月が約27日で恒星の間を一周して元の位置に戻ることから設定されたもので、中国の二十八宿と同様の体系ですが、インドと中国の影響関係はよく分かっていません。 又、インドでは28星宿以外の独自の星座は知られておらず、その他はメソポタミア・ギリシア起源の星座が使われています。

 このインドの星宿がビルマにも伝わり、それはチョウアゥンサンター寺院にも描かれています。 内側の円はパート1で紹介したビルマの九大星座ですが、外側の円にはインドの星宿が、1番アシュヴィニー(時計でいうと9時少し前の馬の頭)から反時計回りに、3番クリッティカー:すばる(7時半の6匹の雛)、6番アールドラー:オリオンの三つ星(6時過ぎの亀)などと続きます。 しかし、インドでの星宿のシンボルは、すばる=カミソリ、三つ星=宝石などで、ビルマとは異なり、ビルマはインドの星宿の体系と名前は輸入したものの、シンボルは独自に考えたのだと考えられます。 (西山著「ビルマの星座」のビルマ、インド星宿のシンボルもご覧下さい)。

7.ビルマ星座の源流

 ビルマ族は、もとは現在の中国・雲南地方に住んでいましたが、9世紀頃に現在の地に至り、そこで先住民族のモン族などから、仏教をはじめとするインドの文化を吸収して行きました。 これは、日本が中国から様々な文化を取り入れたのと同様ですが、星座については、日本が中国のものをそのまま受け入れたのに対し、ビルマではインドの星座を受け入れながら独自の星座を作った、という違いがあります。

 ビルマ族が初めて建てた国パガンの12世紀の碑文には、日本の十二支のように、12個の星座名で年を表したものが600件ほど見つかっているそうです。 これは、木星がほぼ12年で恒星の間を一周することから、インドで作られた年の表示法で、それがビルマに伝わったと考えられています(中国にも、同様の年の表示法があります)。 しかし、バガン王国はモンゴルの侵攻で滅び、この年の表示法も途絶えます。
(右図は、バガンのシュエサンドーパゴダ。 パゴダのテラスの端に座っている人の姿と比べると、その大きさが分かります)。

 モンゴルが撤退した後も戦国時代が続きますが、15世紀頃の詩文や経文の中に、黄道十二宮、インドの星宿、九大星座が出てくるので、1500年以前には、これらの体系が世に出ていたことが分かります。 しかし、一般の星座の記録はもっと新しく、1799年にイギリスのブキャナン船長が、68個の星座を報告するまで待たなければなりません。 そして、18世紀に建てられたコンパウン朝のもとで、チャウトージー・パゴダをはじめとして多数の星座絵が描かれました。

 黄道十二星座やインドの星宿はビルマの他、カンボジア・タイなどにも伝わっています。 しかし、他の国では自分たちで新たな星座を作ることはしなかったようで、なぜビルマだけが独自の星座を設定したのか、謎は残っています。

8.ビルマ星座絵めぐり(上)アマラプラ編

 ここからは、星座絵のあるビルマのパゴダや寺院を巡って行きます。


NASAのthe Blue Marbleより。 茶色っぽいところがエーヤワディー川両岸の平野。
チャウトージー・パゴダ(アマラプラ)

 チャウトージーは大理石という意味で、本尊が大理石でできていることから名づけられました。 ビルマ第2の大都市マンダレーから南に約10km行ったところにある小さな町、アマラプラにあります。 すぐ近くには、160年前に架けられた全長1.6kmの木造の橋、ウー・ベイン橋があります(左下の写真)。


 参道入り口のアーチ型の天井(上の右図)に、これまで度々紹介してきたチャウトージーA図(左図:既出)が描かれています。 図の左側のだ円が少し変形しているのは、開口部に向けて天井が少しV字型になっているためです。

 星座絵には、160の星座名・星名と47の星座絵が描かれています。 星座名との対応は西山さんによって研究され、その結果をもとにクリッカブル!ビルマの星座絵を作りました。
 パゥンデー・ポンチーさんの『星の見方と物語』には、「古代ビルマの天文学者は、天空の星を形によって158のグループに編成して子々孫々に残した。 しかし現代では端数の58ですら正確に指し示す人はいない」と書いてあるとのことで、西山氏は、この星座絵はこれらを全部描いたものだと考えています。

 語源的にはインドの星宿名が20%、パーリ語系が50%、ビルマ語系が10%、残りは系統不明ですが、9大星座は純粋なビルマ語、とのことです。 パーリ語は、サンスクリットと同じ系統のインドの言葉で、上座部仏教(小乗仏教)の経典はこの言葉で記されています。
 ビルマ以外の国で同様な星座が見つかっていない現時点では、パーリ語が分かるビルマの僧侶が、ビルマ独自の星座を設定したと考えるのが、一番自然でしょう。

 又、西山氏は、この図に木星と金星の名が書き込まれていて、2惑星がその位置に来たのは1853年10月28日頃で、着工年1846年とほぼ一致する、としています(詳細は、ビルマの星座の1章をご覧ください)。

 筆者が見たのはA図だけだったのですが、西山氏は、他にB図(上の左)、C図(同右)の2つの星座絵も見ています。 B図は、A図と同じく同心円状の星座絵で天球の経緯線が引かれていて、38の名前と46の星座絵がありますが、A図とはさそり座が一匹の蛇(時計の6〜7時の方向)で、おとめ座のスピカが手のひら(4〜5時の方向)で描かれている、などの違いがあります。 一方、C図は、経緯線が無く、天の赤道または黄道を中心線とした円筒図法で描かれていて、39の名前と32の星座絵があります(図の左右で色が違うのは、右側に白いものが塗られているためです)。

チョウアゥンサンター・パゴダ(アマラプラ)


 これは、西山さんがチャウトージー・パゴダへ行く途中で道に迷ったときに、偶然見つけたものです。 パゴダ自体はあまり立派なものではなかった、とのことです。 逆V字型の天井に向かい合わせに、ビルマの9大星座とインドの星宿の絵(左;既出)と、黄道十二宮の絵(右)と、が描かれています。
 このように、実際の星の配置を表わした星図ではなくて、主要な星座のシンボルを円形に配置したパターンもあります。

9.ビルマ星座絵めぐり(中)マンダレー編

マハムニ・パゴダ(マンダレー)

 ビルマ中部の大都市マンダレーは、京都のように町が碁盤目に区切られ、中心には19世紀のコウバウン朝の王宮があります(右図は濠越しに王宮と、マンダレーヒル:右奥:を望む)。 ただし、王宮は第二次大戦中に日本軍とイギリス・インド連合軍との交戦で焼失し、現在の建物はコンクリートによる再建です。 マンダレー郊外にあるマハムニ・パゴダは筆者も訪れたのですが、星座絵は見逃してしまいました。


 西山氏によると、星座絵はアーケードになっている西と南の参道途中の、小さな空間が上に広がった空間部の天井と壁に合計84枚以上も描かれています。 左図では、メインの参道が左右に走り、星座絵は正面手前と奥の逆V字型の天井の両面にあります。

 上と左の写真は別の絵で、亀:オリオン座:と曲線(天の赤道?)の位置関係が違っているのが分かります。 左の写真はカメラを真上に向けて撮ったもので、一番下の段には九大星座、一番上に黄道十二宮が、星座絵の中には惑星を表わす黄色の山車が見えます(例えば、亀:オリオン座:の右上には日月食の原因とされた架空の惑星ラーフ)。 左下で九大星座の天秤と猿(しし座)の間にある、ひしゃくの形に並べられた星は、太陽・月を含めた七惑星です。

ブッダ博物館(マンダレー)

 マハムニパゴダ内に新設されたブッダ博物館にも、内側から九大星座・インドの星宿・28の一般の星座が名称付きでシャンデリアのように天井に吊ってあります。 2番目の円の左上には、6匹の雛(プレアデス)、2匹の魚(ヒアデス)、馬の頭(おひつじ座)、亀(オリオン)、船(ふたご座など)と並んでいます。
 これは写真家の後藤修身氏からのご通知で、この原画提供者、現物作成者を尋ねたいと思っても手蔓がつかめなかった、とのことです。 しかし、現代でも古い星座の信奉者は仏像製作者の裏に隠れているものの、どこかにおられるのは確かです。

10.ビルマ星座絵めぐり(下)その他

シュエズィーゴォン・パゴダ(バガン)


 バガンのシュエズィーゴォン・パゴダ(左上図)は、現在も信仰の対象となっていて、パゴダは金箔で覆われています。 西山さんは境内北西隅の新しい宿坊(右上図)にも天空図(右図)を発見しています。 木造で20世紀に建てられたものだろう、とのことで、吹きさらしになっているので傷んでいます。 九大星座、インドの星宿、黄道十二宮、ビルマの八方角神のみで、一般星座はありません。 また、この絵だけ星が○ではなく、☆で描かれています。

 西山氏は、この他にも次の場所で星座絵を確認しています。

イエザジョー・パゴダ(パコック県)
 マンダレーの西北100kmのパコック県にあり、大阪外大の原田正美さんの情報によります。 画像は、「エーヤーワディのほとり」のイェーザジョー寺院の星座図 (D図)にあります。 青を背景として九大星座の絵が描かれ、その他の星座は淡い線図になっています。 円盤を載せている山車は、太陽と月です。

パヤ・トンズー・パゴダ寺院(アマラプラ)
 須弥山を描いた周囲に星座がありましたが、1992年に訪れた時には水漏れのせいでフレスコ画が剥落し、見る影もなかった、とのことです。

マンダレーホテル食堂天井(マンダレー)
 150平方メートルくらいの天井が、1平方メートル位に格子状に区切られ、そこに九大星座・黄道十二宮・インドの星宿、ビルマの八方位神とともに一般星座の木彫があります。

マハウィザヤパゴダ(ヤンゴン)
 パゴダ中心の半球状の天井の裏に38個の星座が極彩色で描かれています。 ここの星は乳白色電球で光らせてあります。 チャウトージーパゴダを模写すると聞いていたが、星座の数も少なく、またプレアデスは「六匹の雛」でなくインド風の「剃刀」であるなど、シンボルに差異があり、全く同一のものというわけではない、とのことです。

11.最後に

 西山氏の長年の研究でも、全てが分かったわけではありません。 特に、マハムニ・パゴダには多数の星座絵が残されていますが、それぞれは微妙に違っていますので、全ての星座絵の配置を確認して写真を撮ることも、今後の課題です。 これらの星座絵には惑星も描かれていますが、その意味も分かっていません。 絵の中のビルマ文字が読めればよいのですが、古代ビルマ語を読める人はあまりいないので、まだ十分ではないとのことでした。 又、政府の文化担当者を尋ねようとしてもそういう手蔓がありません。
 西山氏も筆者もビルマ文字は読めませんので、古代ビルマ文字に堪能な研究者の方との共同研究を希望しています。 また、ここで紹介した以外にも、ビルマ国内やその周辺で星座絵が残されているかも知れません。 どなたか共同研究をしてもよい、または他の星座絵を知っている、という方がおられましたら、筆者までメールを頂けるとうれしいです(メルアドはトップページにあります)。

資料室

西山氏作成のチャウトージー・パゴダの星座絵(A図)の同定の一覧の内、日本語と英語の部分はクリッカブル!ビルマの星座絵下のフレームでテキストに起こしてありますが、ビルマ文字はどうしようもないので、省略してあります。 以下は200dpiでスキャンした印刷用の画像で、ビルマ文字も含めた一覧表(さし絵付き)です。 サイズが大きいので、印刷してご覧ください。
   一覧・1    一覧・2    一覧・3    一覧・4    一覧・5    付図

一覧のサンプル

 西山氏作成の2つの表のスキャン画像も、同氏の許可を得て置いておきます。
東南アジアの27星宿(ナクシャトラ;6章参照)の名称の比較・一覧
1799年にイギリスのブキャナン船長(6章参照)が報告した68個の星座のリスト

星空の話(後藤修身氏のページ内):西山氏による『星の手帖』の原稿の再録+資料画像、表など



2004年10月10日 ベータ版
2006年3月20日 バージョン1.0
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 著作権について:このページの画像は西山氏の意向により、教育・研究・普及目的であれば自由に転載して構いませんが、その際は出所を明示してください。 ただし、著作権を放棄したわけではありません。

 画像について:このページのほとんどの画像は、西山氏撮影の写真を300dpiでスキャンして、縮小したものです。 元の画像(約1700×1200ピクセル)は300枚(約100MB)くらいあります。 興味のある方がおられましたら、実費でCDに焼いて郵送しますので、ご希望の方は筆者までメールでご連絡下さい。


パート1・何それ?
パート2・なぜビルマ? (現在地)
クリッカブル!ビルマの星座絵

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