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1.曜日の名前
一週間の曜日の名前は、英語(ゲルマン語系)とイタリア語(ラテン語系)では次のようになります。
日曜 月曜 火曜 水曜 木曜 金曜 土曜 英語での惑星名 Sun Moon(Luna) Mars Mercury Jupiter Venus Saturn イタリア語 domenica lunedi martedi mercoledi giovedi venerudi sabato 英語 Sunday Monday Tuesday Wednesday Thursday Friday Saturday イタリア語の曜日は、それに対応する英語(もとはラテン語)の惑星名(このページでは天動説の時代を扱うので、惑星に太陽、月も含めます)と、ほぼ一致しますが、日曜日は「主の日」、土曜日はユダヤの安息日(サバト)から来ています。 イエスが処刑されたのがサバトの前日(金曜日;13日かどうかは分かりません)で、復活したのがサバトの翌日とされているので、この日を「主の日」と呼んでキリスト教の安息日としたのでした(イスラム教の安息日は金曜日です)。 キリスト教世界では、サバトは悪魔の集会のことも指します。
ユダヤ教のサバトは、神が六日間で天地創造を終え、七日目に休んだことにちなみます。 古代バビロニアでは月の7日、14日、21日、28日を休日とした記録があり、これがバビロン捕囚(紀元前6世紀、新バビロニア王国によるユダヤ人のバビロンへの強制移住)などを契機に、月の呼び方(ニサン月:3〜4月に当たる:など)とともにユダヤに伝えられたらしいのです。 1ヶ月を4つに分けて、新月・上弦・満月・下弦の月に分けると、だいたい7日になるので、これを区切りにしたと考えられています。 ただし、太陽太陰暦の1ヶ月は29日か30日ですから、月をまたいで7日おきに休日がやって来るわけではありません。 又、一週間が7日になったのと、それにギリシア・ローマの神様の名前が現在の順序でつけられたのとは、分けて考えた方が良いでしょう。一方、英語の火〜金曜日は、惑星名と対応していません。 これらは、それぞれゲルマン神話の神、チィル(軍神)、オーディン(最高神)、トール(雷と農耕の神:サンダーthunderと同語源)、フレイア(愛と美の女神)に由来しています。 土曜日だけ、ローマ神話の神サトゥルヌス(ギリシア神話のクロノスに対応していますが、本来は農耕神)に由来しているのは、不思議な気がします。
日曜、月曜といった漢語の曜日名が唐代の宿曜道にあり、日本にも平安時代に入って来たことは惑星の名、名(日本の方へ)に書きました。 その他、世界各国の曜日の呼び方などについては、倉田さんの曜日の名前のはなしをご覧下さい。
2.曜日の順序
曜日の順序も、よく考えると奇妙です。 プラトンやアリストテレスの時代の惑星の順序は、地球に近い方から
月、太陽、水星、金星、火星、木星、土星
というものでした。 しかし、その後、
月、水星、金星、太陽、火星、木星、土星
という順序になり、これがプトレマイオスによって採用されます。 この順序は、「カルデア人(新バビロニア人の別名)の順序」と呼ばれますが、実際には、ギリシア人が惑星の公転周期によって、月(約30日)から土星(約30年)まで並べたものです。 ただ、天動説では太陽、水星、金星の周期は全て1年なので、この3天体の順序は観測からは決められません。 他にもバビロニアの順番など、いくつかのバリエーションがありますが、いずれも曜日の順序とは一致しません。その手がかりは、ディオ・カシウスの『ローマ史』にあります。 カシウスは、紀元160年ころ小アジア(トルコ)のニケーアで生まれ、父の後を受けて元老院議員となり、執政官(コンスル)にも選ばれました。 引退後に故郷へ帰り、ギリシア語でローマの歴史を書きました。 曜日の順序の説明は、紀元前63年の東方遠征の途中、エルサレムを攻撃したポンペイウスが、ユダヤ人は安息日には仕事をしないことを利用して、エルサレムの神殿を占領した、という記事のついでに書かれています。
以下、その箇所を試訳します(Caryによる英訳からの重訳です)。日々を惑星と呼ばれる7つの星にあてはめる慣習は、エジプト人によって始められたが、現在は全ての人に知られている。 私の知る限り、この慣習は古代ギリシア人には知られておらず、比較的最近のものである。 しかし、現在はローマ人自身をはじめとして一般に普及しており、今や昔からの伝統ともいうべきものになっているので、どのようにして決められたかを、ここで簡単に書こうと思う。
私はその起源について、2つの説明を聞いたことがある。 それらは多少の理論を含むものの、理解するのは難しくない。 もし、音楽の基礎をなすテトラコードの原理を惑星に適用すると、全宇宙は音楽的な間隔によって分割され、それぞれの距離を各惑星が回転していることになる。 最も外側の軌道を回る土星から始めて、次の2つを飛ばすと、4番目の天体、さらに2つ飛ばすと1番目の天体になる。 はじめに戻って、これを繰り返して、それぞれを7つの日に当てはめると、天の配列が音楽的な関係によって説明される。 これが、1つ目の説明である。
もう1つの説明は次の通りである。 1日の昼と夜の時間を、エジプト人が観測した惑星の周期の順序に従って、最初の1時間目を土星(クロノス)、2時間目を木星(ゼウス)、3時間目を火星(アレス)、4時間目を太陽(ヘリオス)、5時間目を金星(アフロディテ)、6時間目を水星(メルクリウス)、7時間目を月(セレネ)というように当てはめて行く。 このようにして、1日24時間を当てはめて行くと、次の日の1時間目は太陽となる。 同様に、次の24時間を当てはめて行くと3番目の日の1時間目は月となり、残りの日についても続けていくと、それぞれの日は曜日と同じ神に対応することになる。 これが伝統になった、というものである。文中、ヘリオスとセレネ以外はギリシア文字の大文字で始まっていて、ヘリオスとセレネは太陽と月を表わす普通名詞として扱われています。 又、カシウスは、エジプト人が始めたと語っていますが、アレクサンダー大王の武将プトレマイオスによる支配が紀元前304年に始まってからは、エジプトもギリシア化され、ヘレニズム文化が花開きました。 特に大王が建設し自らの名をつけたアレクサンドリアには大きな図書館が作られ、地球の円周の長さを推定したエラトステネス(前275〜前194)もその館長を務めました。 そこで、曜日に神の名をつけることがエジプトで始まったとしても、エジプト固有の文化というよりヘレニズム文化によると考えた方がいいでしょう(そもそも、神の名はギリシア・ローマのものですし)。
3.カシウスの2番目の方法
ここでは話の都合上、まず2番目の方法から説明します。 カシウスはプトレマイオスも採用した「カルデア人の順序」で、地球から遠い方からの順序、
土、木、火、日、金、水、月
を考えていますが、彼の説明通りに当てはめていくと、
1日目 2日目 3日目 1 2 3 … 22 23 24 1 2 3 … 22 23 24 1 2 3 … 土 木 火 … 土 木 火 日 金 水 … 日 金 水 月 土 木 …
となります。 ここで、同じ日の1時間目、8時間目、15時間目、22時間目は同じ惑星が入るので、表を縮めると、
1日目 2日目 3日目 4日目 5日目 1=22 23 24 1=22 23 24 1=22 23 24 1=22 23 24 1=22 … 土 木 火 日 金 水 月 土 木 火 日 金 水 …
となります。 つまり、曜日の名前は、
土、木、火、日、金、水、月
という配列を右方向に、間を2つ空けながら読んで行く、右端に来たら左端に戻る、というやり方で、導けることになります。4.カシウスの1番目の方法
1番目の方法は色々と説明が必要です。 まず、テトラコードとは語源的には四弦琴のことですが、音楽理論では両端が4度の音程で、中間に2つの音を持つ4つの連続した音のことを言います。 4度というのは音程の数え方で、ドとドのように同じ音が1度、ドとレが2度、ドとミが3度、ドとファが4度と数えていって、1オクターブの音程が8度になります。 4度や5度の音程は耳に快く響くので、協和音と呼ばれます。 このテトラコードがオクターブと共に、ギリシアの音楽で基本の音程になります。 ピタゴラスはドレミファソラシドの7音と、7つの惑星を対応させて、天球の音楽ということを考えました(これについては、天球の音楽に書きました)。
ゴドウィンによると、カシウスによる惑星と音階の一般的な解釈は、「カルデア人の順序」を音階に当てはめた、
7 6 5 4 3 2 1 土 木 火 日 金 水 月 シ ド レ ミ ファ ソ ラ
というものです。 土(シ)から日(ミ)までが1つのテトラコード(4度音程)で、日(ミ)から月(ラ)までが、もう1つのテトラコードになります。 シとド、ミとファが半音(ピアノではこれらの音の間には黒い鍵盤が無い。黒い鍵盤がはさまっているのが全音)なので、このように音階をとると、2つのテトラコードが半音ー全音ー全音という同じ組み合わせになります(古代ギリシアで基準となるのは、ラの音でした)。
カシウスの言う「2つを飛ばす」ということは4度の音程(テトラコード)を意味していて、シ(土)から4度上の音がミ(日)、そこから4度上の音がラ(月)、さらに4度上の音がオクターブ上のレ(火)となって、上で説明した2番目の方法と同じで、曜日の順序が出てきます。 つまり、一週間で4度音程の惑星の音楽を鳴らすことになります。
* * 最初に説明したカシウスの2番目の方法は、あちこちで目にしますが、この1番目の方法に触れている文献は、ゴドウィンの『星界の音楽』くらいしか見当たりません。 Webでは、ギリシア・ラテン文学の掲示板のplanetary nanmes for days of the week以下のスレッドでも、この話題が取り上げられていますが、いつ、誰が、どこで、に関してまだ諸説が入り乱れているようで、カシウスの2つの方法の他に、ミトラ教やエジプトのデカン起源という可能性も取り上げられています。
ともかく、曜日の順序は惑星を遠い方から並べて、右方向に間を2つ(左方向に間を3つ、でも同じことですが)空けながら読んで行く、という方法で導くことが出来ます。 しかし、その理屈は複数ありえて、カシウスも2つの説明を併記しているだけなので、どれかを特定することは現時点では出来ないでしょう。
5.ピタゴラス音律と曜日の順序
実は、土星と月のどちらが高い音か、それからどの惑星にどの音を当てるかは、色々な流儀があり、カシウスもそれについては明確には述べていません。 そこで、ゴドウィンが示した順序を逆にして、土星を1番高い音に当てはめることも出来ます。
7 6 5 4 3 2 1 土 木 火 日 金 水 月 ラ ソ ファ ミ レ ド シ
この場合、曜日の順序は、4度上がるのではなく、4度下がる系列で導くことが出来ます。 すると、以下で説明するように、この順序はピタゴラス音律で音の高さを決めていく順序に一致します。<ピタゴラス音律>
ピタゴラスは1本弦の琴を使って、弦の長さと音の高さの関係を発見しました。
例えば、どこも押さえないとドの音が出る琴があるとします。 すると、弦の1/2の所を押さえると1オクターブ(8度)高いドの音が、2/3の所を押さえるとソ(5度)の音が出る、という関係になります。 現代流に言うと弦の長さが音の波長、その逆数が音の振動数になって、弦の長さが長いほど低い音が出ます。それではレやミは、どこを押さえればいいでしょう? ピタゴラスは、4度下がる音の系列によって全ての音の高さを決めて行きました。 4度下の音を出すことは、弦の長さを4/3倍する(8度下げて(2倍して)、5度上げる(2/3倍する))ことに相当します。 弦の長さ1/2の1オクターブ高いドからはじめて、そこから弦の長さを4/3にすると1/2×4/3=2/3で、ドの4度下のソの音が、2/3の長さを4/3倍すると弦の長さは2/3×4/3=8/9で、これがソの4度下のレの音の高さが出ます。 更にこれを4/3倍すると32/27で、これがレの4度下のラの音になりますが、32/27は1よりも大きいので、1オクターブ上げて(1/2倍して)16/27が、オクターブ上のラの音になります。
これを、繰り返して行くとド、ソ、レ、ラ、ミ、シ、ファ、ドという順序で、次のようなピタゴラス音律と呼ばれる音の高さの系列が出来ます。 この順序は曜日の順序と同じになるので、こうした音の決め方と曜日の順序が関連している可能性もあると考えられます(ゴドウィンは、4度または5度の音程を順番に6つ並べると1オクターブの7つの音が得られる、としか書いていませんので、ピタゴラス音律と曜日の関係は、筆者がそこから拡大解釈したものです)。
水 金 日 火 木 土 (月) (水) ド レ ミ ファ ソ ラ シ ド 弦の長さ 1 8/9 64/81 3/4 2/3 16/27 243/128 1/2 右隣の弦の長さとの比 8/9 8/9 243/256 8/9 8/9 8/9 243/256 (注)その1:通常ピタゴラス音律は、5度上がる系列で説明しますが、4度下の音と5度上の音は、1オクターブ離れた同名の音になるので、同じ結果になります。
その2:実は、シからファの音は4/3倍になっていません。 ピタゴラス音律の場合は4度下の音を重ねて行くと、分母分子がどんどん大きくなって、最後につじつまが合わなくなる、という根本的な欠点があるので、通常ファの音は下のドの音を3/4倍して出します。
その3:ピタゴラス音律は、古代中国の三分損益法と同じです。 中国は、弦の長さでなく管の長さで音の高さを決めたのですが、三分の一減らす(損:2/3倍する)と5度上の音が、管の長さを三分の一増やす(益:4/3倍する)と4度下の音が出ます。 ただし管の場合は、管の長さと音の高さは一致せず、実際には開口端補正と呼ばれる補正が必要になります。付録.純正律と平均律
上に挙げたピタゴラスの音律は、ドとミなどの3度音程が64/81で、協和音にならないという問題があり、中世からは純正律と呼ばれる別の音律が使われるようになります。
ド レ ミ ファ ソ ラ シ ド 弦の長さ 1 8/9 4/5 3/4 2/3 3/5 8/15 1/2 右隣の弦の長さとの比 8/9 10/9 15/16 8/9 9/10 8/9 15/16
こうするとミの音も4/5と簡単な比率で表わせるので、協和音になります。 しかし、同じ全音でも、8/9と9/10という2つの音程が生じてしまいます。そこで、近代以降は平均律という別の音律が使われるようになりました。 これは、1オクターブの12音(ピアノの鍵盤で言うと黒い鍵盤も含めて)を12等分して、半音の高さの比を2^(1/12)=1.0594631...(この数の12乗すると、ちょうど2になる)としました。 この音律では、ドとソなどの音も簡単な分数で表わせず、少し協和音とはズレてしまいます。 しかし、この平均律が現在では一般に使われています。
* * 長々と書きましたが、音律の細かい値はどうでも良くて、強調したいのは近代まで音律の問題に数学者が悩まされた、ということです。 どの音律も一長一短があって、完璧な音律というのはありません。 現在は最後に紹介した平均律で統一されているので、こうした問題を気にすることもなく、音楽と数学はかけ離れたものになっています。 しかし、中世の大学の7自由学科の上級4科が、算術・幾何・天文・音楽だったように、音楽は音律を含めた音楽理論を学ぶ学問でした。 音楽理論と実際の楽曲の関係は、文法と文学作品の関係と同様で、前者の方が高尚だとされていました。 天球の音楽という現在では突飛な考え方も、こうした現在とは違う状況のもとで生まれ育ったのです。
* * 天王星を発見するなど数々の業績を残したウィリアム・ハーシェル(1738-1822)は、もとはオランダのオルガン弾きでしたが、大陸の戦争を避けてイギリスに渡ります。 そこで、勉強熱心な彼はロバート・スミス(1689-1768)という物理学者が書いた教科書『和声学 Harmonics』を読みました(ここにはスミス自身が考えた音律も提案されていましたが、こちらは普及しませんでした)。 この本に感銘を受けたハーシェルは、スミスが書いた別の本『光学 Optics』も読んでみました。 これは当時最も影響力のあった光学の教科書で、望遠鏡の作り方から宇宙の驚異の概説まで書かれていました。 ハーシェルはこの本を読んで天文学に目覚め、望遠鏡を自作しようと決心したのです。 この時代は、まだ音楽と科学のつながりが保たれていて、それがハーシェルの人生を変えた、と言えるでしょう。
主要参考文献
ゴドウィン 斉藤栄一訳 『星界の音楽』 工作社
永田久 『暦と占いの科学』 新潮選書
平凡社 『音楽大事典』
"Dictionary of Scientific Biography", 'Hershel, W.' と'Smith, R.'の項
Dio Cassius, English translation by Cary, E., "Dio's Roman History III", Cambridge: Harvard University Press
2003年5月16日 バージョン1.0
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