日売テレビ系列の夏の恒例番組「48時間テレビ」。 今年ここで、目玉企画として「ミステリーツアー」が実施されることとなった。 ルールは、日本国内を逃げ惑う犯人を10組の探偵が追跡するという単純なもの。 ふとした事からこれに参加することとなった、少年探偵団と平次たち。 次々と彼らに襲い掛かる暗号とトリック、ラブロマンス。 そして、ツアーの背後で取り交わされる黒い陰謀・・・。 はたして、犯人は無事にゴールへ逃げきれるのか? はたまた、逮捕を達成し、名誉と賞金を手に入れるものが現れるのか? 100万円を賭けた犯人と探偵の戦いが今始まった・・・・・。 〜第1章「全国大会への10枚のキップ」〜 【7月5日・学校の昼休み】 「昼休み」、それは人々の心がもっとも食と言う本能に傾きスポーツや楽しいおしゃべりに仕事のストレスを発散させる時。 それは、誰にとっても同じ事。そう、西の天才高校生探偵、こと服部平次にとっても・・・・・。彼も例外なく、仲間と一緒にパンをかじりながら、談笑にいそしんでいた。 と、その時、校舎内に大声が響き渡った。 「平次、平次、当たった、当たった!!!!」 この声のトーン、「平次」と呼び捨てにする態度、もしや・・・ 服部がその声の主を推理するのと同時に、彼女は教室に入ってきた。 そして彼女は、平次に向って、こう尋ねたのである。 「なあ、夏休み、ちょっと空けといてくれへん?」 これこそが、西の天才高校生探偵、服部平次のかけがえのない夏をグチャグチャにしてしまった騒動の始まりなのだった・・。 【同年6月3日】 梅雨前線の大暴れする中、自室で策を練る少女がいた。 関西弁で、ポニーテールの、唯一の平次の幼なじみ・・・ そう遠山和葉、その人である。 彼女は、せんべいをかじりながら、ある雑誌を広げていた。 TV雑誌「テレビマングース」である。最近女性を中心に人気を広げつつあると、評判の雑誌だ。どうやら、番組内で使用されたレストランやホテルの情報が詳しいのが当たったようだ。 彼女は、ふとあるページで目が止まった。広告ばかりが並んだページである。 そこには「ミステリーツアー・逃亡者を追え!!!」と書いてあった。 もちろん、普段の和葉ならば、こんなもの見向きもしない。 こんなのより、平次の活躍の方がよっぽどすごいに決まっている。 ただ、そこに書いてある事が妙に引っかかったのである。 『ツアー行程は、二人一組を原則とさせていただきます。なお、ツアー中の費用は、すべて当方で負担します。』 「これや!!!」和葉は思わず叫び、立ち上がった。 雷がとどろき、和葉の姿がシルエットになって浮かび上がる。 参加できるのは、全国で10組20名だけ・・・・・。 普通に考えれば、当たる可能性はまずないだろう。 しかし、彼女は違った。ハガキを書いて書きまくったのである。 寝る前に10枚、起きては5枚、休み時間に5枚、そして放課後は平次と一緒に100枚・・・・・・・。 ありとあらゆる努力の結果、ついに1000枚を書き上げたのである。 ・・・・・・そして、和葉の執念は見事、実を結んだのである。 【では、話を7月5日に戻そう】 「・・・おまえ、こういう事、めちゃめちゃ強いなあ。」 平次は、呆れ顔で言った。何もほんまに当てんでも良いやろうに・・。 「な、おもろそうやろ、な、な?」 満面の笑みで、平次に迫る和葉。こんな時は注意した方が良い。 平次の長年の経験が、そう呼びかけていた。もしここで断ればこの教室は、一転して、殺戮の場に化すかもしれない・・・。 (限界、やな・・・・・・)平次はふっと微笑んで窓の外を見た。 「ようし、行こう!」平次もついに観念した。 それを聞き、教室を飛び出す和葉。そして意気消沈の平次。 「おい服部、大丈夫か?なんか元気ないぞ。」同級生が声をかける。 (大丈夫なわけ、あらへんやろ・・・・・!!) 【7月5日・19時39分】 「ただいまー・・・・・・」無人の家に、平次、帰宅。 この光景にも、いい加減慣れてきた。 父は出張、母はPTA仲間と旅行で、留守にしている。 「ひとりぐらし」も今日で10日目。最近はこっちのほうが肌に合ってきていた。お決まりな静けさ、揺るぎ無い空しさ、 そしていつも通りの疲労感・・・・・。だが今日は少し違った。 あんな矢先である。何も感じるな、と言う方が無理である。 「まったく、和葉の奴・・・・・・」 カバンをソファーへ放り投げ、キッチンへ向う平次。 と、そこへ、聞こえるはずのない声が飛び込んできた。 「平次、おかえりーー!!」 「かっ、和葉!?・・・な、何しとんねん!!!」 「何て、晩ご飯作ってるんやんか。どうせ何もないやろ思うて わざわざ来てあげたんやんか。」 「いらんことすなよ!!」当然の発言である。 「カリカリせんといて。お母さんに言われたんや。『どうせ一人で ラーメンでも食べてるやろし、行ってあげて』って。」 「おまえの家のおばちゃんが?」 「ううん、平次のお母さんから。」 (いらんことしやがって・・・・・・)珍しく、平次、ガッカリ。 「あと一週間ほど、ひとりなんやろ?その間、私が来てあげる。」 「用事もないのに、上がらんといてくれ。帰ってくれへんか。」 「用事ならあるやんか、ほらこれ。」チケットを見せる和葉。 「そやけどな、これはやっぱりまずいやろ、な?」 「何がまずいん?」器用にチャーハンをひっくり返す和葉。 「だって、今日は俺しかおらんのや。そこに女が一人で言うのは・・・」 「よっしゃ、チャーハン出来上り!!ちょっと、そこの大皿取って。」 ・・・・平次がなかなかチャンスを見出せないまま、夕食は完成した。 「・・・・・なかなか上手いな、和葉。」 「・・・・・やろ、そやから言うたやんか。」 チャーハンを口に含みながら、しゃべる二人。 「・・・・・しかし、おいしいけどさ・・・」 「・・・・・文句は言わんといて!!」 そこには、山盛りのチャーハンだけが、乗っていたのだ・・・・・・・・。 「いやー、ごちそうさま!!和葉、おおきに。」 「おそまつさまでした。」 「じゃあ、この借りはいつか返すと言う事で・・、おやすみなさい。」 「ちょっと待ち、平次。逃がさへんで。」 「まだ用事があるんか?」イヤな予感が漂う平次。 「ミステリツアーの事やんか。」予感、大当たり。 「なあ、何で俺やねん。友達とでも行ってこいよ。」 「私は、平次といきたいんや!」 「嫌や、断る。たとえどんな事情があったとしても、な。」 「工藤さんが来るのに?」もちろん、ハッタリである。 「・・・・・え?なんでそれを先に言わんのや!!」 急に目が輝き出す平次。それを見逃さない和葉。 「で、そのツアー、どうしたら勝ちなんや?」 「ここに載ってるんやけど・・・・・・・・」 ルール自体は簡単なものだった。 まず、東京からタレントのマツモトキヨシがスタートしてゴールの大阪を目指す。 タレントはバス、電車、船、タクシーのみ使用でき、 途中、3個所のチェックポイントを通過するように決められている。 ゴールまで逃げ切れば、タレントの勝ち。 そして逃亡途中の彼を捕まえれば、参加者の勝ちである。 ただ、普通のツアーと違うのは、この様子が日売テレビによって全国へ生放送されるということである。 「なーんや、簡単やんか。俺らは新幹線とか使ってもええんやろ?」 「そうやけど・・」 「ほな、大阪で先回りしとこうや。そこで逮捕したら決まりや。」 「そんなん、なんか味気ないやんか。」 「そやから、ギリギリまで東京見物しよーや。」 「あ、そっか、そうやね。」ふと笑顔のこぼれる和葉。 「で、その間に俺は工藤に会ってくるから・・。」 「ちょっと、なんでそないなるんよ?」 「どうせ、あいつも東京におるって、間違いない。」 「どうして、言い切れるんよ、証拠でもあるん?」 「俺は、あいつの考えてる事が全部分かるんや・・。」 「!!!!!!!!!」突如、形相の変わる和葉。 「な、なんや和葉。なにかあったんか?」 「なんもあらへん!!!!!」怒り出し、帰りだす和葉。 「なあ、待てよ。ゆっくり話し合おうや。」 「放して!!」平次を振り払い、帰る和葉。 「こんなんで大丈夫なんやろか・・・・・」 もちろん、大丈夫なわけがなかったのである。 〜第2章「平次と和葉の事情」〜 【7月20日・ツアー開催当日】 ミステリツアー開催、当日。 その日は、恐ろしいほどに、さわやかな朝で、幕を開けた。 「えらいことになってもうたなぁ・・」頭を抱える平次。 和葉の事は嫌いやない、もちろん旅行に行けるのは嬉しい。 そやけどなぁ・・・・・・・、珍しく平次が頭を抱えている。 実は、これにはちょっとしたわけがあったのだ。 彼の頭痛の種は、昨夜の一本の電話から始まった・・。 【7月19日・ツアー開催前日・服部家・20時46分】 「平次、タオルつめたか、洗面用具は?」 旅の準備をする平次に、しつこく母が食い下がってくる。 「そんなんいらんわ、日帰りなんやから。」 「そやかて、いるかもしれんやんか。どこかに泊まったりして。」 「そやから、日帰りや、言うてるやろ、しつこいなあ。」 「わからへんで、男と女やもん。何があっても不思議やない。」 「な・・・・・・、何言うてるんや、そんなわけないやろ。」 ガラにもなく動揺する平次、それをみた母、畳み掛けに入る。 「けど、まんざらでもない、って思うてるやろ?」 「あのなあ、母親が言うセリフちゃうやろ、それ。 それに、ホンマにそないなったら、あちらの親御さんに申し訳ないやろ?」 「そんなことないよ、なあ、お父さん?」 「そうや、母さんの言う通りや。」父、服部平蔵、厳かに答える。 「あのなあ、親父、ふざけんといてくれよ。」 「ふざけてるのは、平次、お前の方やないのか? 和葉くんの事、どう思ってるんや?あの子は、ええ子やぞ。」 「そうよ、お前にはもったいないくらいに、いい娘さんよ。」母の援護射撃。 ・・・まったくもう。平次は心の中でため息をついた。 いったいうちの親の思考回路はどうなっているのだろうか? 息子が女とつきあっても、何も言わず 挙げ句には、彼女の両親までもが、結婚を望んでいる。 彼女の事は好きではあったが、周囲のプレッシャーを考えるとやはり素直になれる状況ではなかった。 「ええか、平次。彼女に怪我させるな、わかったな。」 「ああ、わかっとる。任しとき。」 「・・・・・・それでええ。」父は、階下へと降りていった。 「ちょっと平次、ここだけの話やけど・・・。」 「なんや、おかん?」 「もし・・もしやで、その、和葉ちゃんに誘われたら・・・・・別に外泊とかしても、構へんからね。これ、持って行き。」 「・・・・・3万円やんか!!あかんて、こんなん。」 「何言うてるの、お金ぐらい、いつでも返せるけどチャンスは2度とないかもしれへんねんで、持って行きなさい。」 「・・・・・わかった。」 「おーい、平次、和葉くんから電話やぞー。」平蔵の声が響く。 「はーい、今行きまーす。」 「あ、平次、聞こえる?」 「よう聞こえるわ。なんせ家が隣同士やもんな。」平次は苦笑した。 「実は、良い知らせがあるんやけど。」 ・・・・・嫌な予感がする。 「何?」 「あの企画な、日帰りやなくなってんて。2泊3日に変更やって。」 「・・何!?2泊3日って、どういう事なんや!!」思わず、声が高くなる。 「じゃあ、そういう事やからよろしくね、おやすみ。」 「おい、和葉、もしもし、もしもし!!・・・・・・切りよった。」 「おい、今のホンマか?」平蔵が素早く反応してきた。 「知らん、多分はったりや。」 「こりゃ大変だわ。遠山さんにご挨拶しておかないと。」母が騒ぎ出す。 「おかん、やめとけよ、みっともない。」 「だって、3日も一緒に寝るのよ?」 「誰も一緒に寝えへんわ!!」 【7月19日・ツアー開催前日・服部家・21時12分】 ≪ピンポーン≫・・・・服部家のチャイムが鳴った。 「もしもし、あ、遠山さん。どうぞお上がりください。」母、さわやかに応対。 数分後、服部家の客間は大混雑となっていた。 向かい合わせのソファーに、遠山、服部両夫妻が、そして食卓に、平次と和葉がスタンバイしていた。 「この度は、うちの和葉がご迷惑をかけますが・・・」遠山父、口火を切る。 「あ、いえいえ、うちの平次こそ、はしたない真似を。」服部母、切り返す。 「どうか、なにとぞ、うちの娘をお願いいたします。」遠山母、畳み掛ける。 「まことに、うちの平次にはもったいないお嬢さんで。」服部父、ダメ押し。 「ちょ、ちょっと待てや!!勝手に話、進めんなや!」平次、もちろん反論。 「そ、そうやわ。ミステリツアー一緒に行くだけやん。」和葉、援護射撃。 「ちょっと黙っとかんかい!!これは大人の話なんや。」遠山父、力押し。 「もしかしたら、二人は、一緒に行きたくないんか?」服部父、会心の一撃。 「そ、それは・・・もちろん、一緒に行きたいけどさ。」平次、痛恨の失言。 「ほな決まりやな、今日はこれくらいでお開きに・・」服部父、勝利宣言。 ・・・・そして、夜が明けたのである。 【7月20日・ツアー開催当日・家の前】 「どうか、娘をよろしくお願いします。」遠山母、まだ頭を下げている。 「お母さん、もうやめてよ、みっともない。」たまらず和葉がしゃしゃり出る。 「ええか、平次君、くれぐれも娘を傷つけんようにな。」 遠山父、平次にきつく言いつけておく。 「わかりました。・・・・・それじゃ行ってきます。」 「行ってらっしゃい!!」「頑張ってくるんだよ!!」「夜は長いぞ!!」 色とりどりの、元気あふれる応援を背に「平和」コンビは出発した。 【7月20日・ツアー1日目・09時15分・東京行きのひかり車内】 「なあ、和葉。」神戸名物【ぽかぽか弁当】をほおばりながら尋ねる。 「なに、平次?」さっきからずっとご機嫌の和葉が顔を上げた。 「いくらなんでも早すぎへんか?夕方に間に合えばええんやろ?」 「東京見物の時間が要るから・・・・」 「そんなん、ゆっくりできるやんか。3日目ギリギリでええんやから。」 「だって平次、工藤さんとずーっと、ご一緒なんやろ?」急に機嫌が悪くなる。 「あ、あほ、そんな、ずっと一緒な訳がないやろ?」 「ほんまやな、確かやね?覚えとくからね。 もし嘘ついたら、あらいざらい全部平次のおばちゃんに言うからね、ひどい扱いうけましたって。」 「わかった、わかった。やればええんやろ、東京観光?」 「さっすが平次、話が分かるやんか!!!」途端に機嫌が戻ってくる。 ・・・・・・アカン、マジで工藤に会う時間無いかもしれん。 【7月20日・ツアー1日目・09時18分・東京毛利探偵事務所】 「いい、お父さん?これが晩ご飯のシチューで、これがカレーの冷凍。 あと、素麺とかも買ってあるから、ちゃんと食べてね。ビールばっかり飲んでちゃダメよ。」 「わぁーってるよ、蘭。そこらのガキじゃあるめえし。」 と、言いつつ、中年の男性はビールを1巻空けてみせた。 この男性、端からみるとただのおっさんにしか見えないが、実は、天下の名探偵「眠りの小五郎」、毛利小五郎である。 「・・・・まったくもう、大丈夫なのかしら。」 と、腕組みをする娘。名前は毛利蘭。父親に似ず、なかなかの美人である。 「ちょっとコナン君、早くしないと遅れるよー。」 「あー、ちょ、ちょっと待ってよー。」3階から声が聞こえる。 「まったくもう、自分から行くって言っといて、どうして準備に手間取ってんのよ。」彼女はチケットを見やった。 『東京大阪ミステリーツアー・犯罪者を追え!!』と書いてある。 現在、集合場所のトロピカルランドに向うべく、準備をしているのだ。 彼女もまた、このチケットに当選したのだ。 いや、彼女と言うより、その同伴者の・・・・・・・ 「蘭ねーちゃん、お待たせー!」 そう、このトレードマークのスーツに片腕を通しているこの少年がこのチケットに当選したのである。 「あ、バスが来ちゃった。じゃあ、お父さん、行ってきます!!」 彼女は、少年の腕をひき、すぐ近くのバス停に向った。 「ちょ、ちょっ、蘭ねーちゃん・・・・・」 「何、どうしたの、コナン君?」 「集合時間は夕方でしょ、焦らなくてもいいんじゃないの?」 「そうもいかないのよ、今日は特別なの。」 「特別って・・・・・?」 「新一が来るかもしれないのよ、そこに。」 (ウソッ・・!!)一瞬、少年の顔が高校生のそれに戻る。 「・・・ねえ、蘭ねーちゃん、どうしてそう思うの?」 ”少年”は恐る恐る聞いてみた。 「昨日ね、新一から電話があったの。でね、その時にミステリツアーの話が出てきたんだけど、 新一の奴、妙に事情に詳しいのよね。だから、ひょっとしたら、どこかで会えるんじゃないかってね。」 (ヤベー・・、下手な事言わなきゃ良かったぜ。) 新一は、少し後悔していた。そもそも新一はこんな茶番みたいなゲームは好きではない。いつもならば、応募なんかするわけがないのだ。 しかし、コナンとして通う小学校で、3人のチビ探偵がそれを許すわけがなく、泣く泣くハガキを書かされ、見事(?)ご当選と相成ったのである。 しかも悪い事は続くもので、なんとくじ運の強い歩美までもが当選。 かくして、少年探偵団4名プラス保護者の蘭が、参加する事になったのである。 「それに、コナン君はまだトロピカルランド行った事ないでしょ? だから、探偵団のみんなと一緒に連れていってあげようかと思って。」 『トロピカルランド』・・・・・・・・・・・。 コナンの顔が、一瞬ひきつった。 忘れもしない、自分が、新一でなくなったあの遊園地である。 「ね、楽しみでしょ?」 「う、うん・・・・。」必死に笑顔を作るコナン。 「おーい、コナーン!」元太の声だ。朝から元気な奴だ。 「コナンくーーん!!」続いて歩美。 「遅いじゃないですか」最後に光彦。 (ハ、ハハハ、まさかこいつらとトロピカルランドに行くとはなぁ・・。) 珍しく、コナン、ひきつった笑いを浮かべている。 【7月20日・ツアー1日目・11時25分・平次と和葉、東京到着】 「うわー、あっという間やったなぁ。」 「そやから言うたやろ、早すぎるって。これからどうすんねん?」 「そーやなー、東京観光でもしようや。」和葉、早くもガイドブックを構える。 「だから、どこに行きたいんや?」 「そーやなー・・・・・・」ふっといたずらっ子のような、笑顔が走る和葉。 「いっぺん、『くどう』さんに会ってみよう!!」 平次の顔が、一気にひきつった。 【7月20日・ツアー1日目・10時48分・トロピカルランド】 「あ、見えてきたよ!!!」バス内に歩美の元気な声が走る。 「うわー、でっけー風船だな。」元太、アドバルーンに目を取られる。 「違いますよ、あれですよ、あれ。」光彦、遊園地の一方を指差す。 そう、そこには、日売テレビ主催の「48時間テレビ」の特設ステージが でかでかと用意されていたのである。いつもなら仮面戦隊ショーなどの演じられる舞台が、 今日から3日間、全国をつなぐステージとなるのである。 ステージのうえでは、脚本家や大道具のスタッフが忙しそうに働いていた。 遊園地内に設置された10基のオーロラビジョンに、ステージの様子が映し出されている。 19時ジャストの開始に向けて、準備は確実に進んでいた。 今回、コナン達の参加する「ミステリツアー」は、 実はこの番組内のひとつのコーナーとして企画されたものなのだった。 それで、逃亡劇が2泊3日の日程になったのである。「犯人追跡」と「2回のおとまり」。 すでに3人のチビ探偵達は、来るべき戦いに向けて、気合十分だった。 「いったい、どんな作戦で来るんでしょーね、犯人は?」光彦、興味津々。 「そーね、意外と女装なんかするんじゃないかな。」歩美、推理が膨らむ。 「怪盗キッドみたいに空を飛ぶんだぜ、多分。」元太、拍車をかけて行く。 「んなわけねーだろ、相手は普通のタレントだぜ?」コナン、呆れている。 「それもそうですね、けど、どこから逃げるんでしょう?」光彦、推理再開。 「まさか、1日目でいきなりゴールなんかしないよね?」歩美、少し不安。 「心配ねーよ、だって相手はタレントだろ。 いきなりゴールしたら番組的につまんないだろ? きっと、最終日のギリギリまで大阪には行かないよ。」 「なあなあ、光彦、犯人捕まえたら、賞金が出るんだろ?」 「ちょっと待ってください、はい、100万円もらえるようですよ。」 「えー、すごいじゃない、100万円だよ、100万円!!」 「俺たちの誰が捕まえても、みんなで山分けだからな。」元太、気合いが入る。 「ええ、もちろんですよ。少年探偵団は4人でひとつ!!」 「よーし、少年探偵団、がんばっていくぞ!!」 「オーッ!!!!!!」3人の元気が重なる。 (・・・・・・・・・)ジト目で見つめるコナン。 「よーし、それじゃあ、景気づけにうな重食いに行こうぜ。」 「元太君、遊園地にうな重はありませんよ。」 「ええ、そうなのか?つまんねーの。」つい、後ろ手に腕組み。 「パフェ食べようよ、パフェ!ここのパフェ評判なんだ。」 「いいですねえ、甘いもの食べると元気が出ますし。」 「コナンはどうする?」 「僕はいいよ、焼きそばとかで。ちょっと虫歯があるし。」 「えー、コナン君、虫歯があるのー?」 「だから、ごめんね、歩美ちゃん。」 「えー、つまんないなー。蘭さんは?」 「そうね、じゃあ、私も行ってみようかな。」 「4対1、多数決でパフェにけってーい!!」光彦、すかさず決定。 (・・・・・・・・・・・・・・・おまえら)コナン、2度目のジト目。 【7月20日・ツアー1日目・12時18分・東京毛利探偵事務所】 「こんにちはー・・・。」関西弁独特のアクセントで、和葉がドアを開く。 「ん、なんだ、おめーら」小五郎、すでに出来上っている。 「うわ、くさっ、酒臭!」和葉、たまらず鼻をつまむ。 「よー、おっちゃん久しぶりやなー。」平次、相変わらず愛想が良い。 「あ、貴様!!あの、大阪の探偵気取りのボウズか!?」 「あんたに言われとうないわ!それより、あいつは?」 「ああ、あの二人か?とっくに出かけたよ。なんでもここ2・3日は戻らないそうだ。」 「ええー?ほな『くどう』さん、ここにおらんの?」和葉、大声を出す。 「そうみたいやな、残念やったな。」平次、心にもない事を言う。 「そういや、あいつ張り切ってたな。なんか『ようやく彼に会える』とかなんとか、言ってたような気がするけどな。」 「!!!!!!!!!」和葉、怒髪衝天。 「へーーーえーーーーじーーーーー!!!!!!!」 「おいまて、待て、落ち着け、和葉!!!」 「これが落ち着いていられる、とでも言うんか!!」 「そやから、俺の話を聞け!!お前は勘違いしてるんや。俺には、『くどう』言う女はおらん。それはこの前に説明したやろ?」 「そんなん嘘や。絶対にうそっぱちや。平次、その女はいったい何なん?」 「そやから、違う言うとるやろ?それやったら、電話して確かめようや。おっちゃん、蘭ねーちゃんの電番分かるか?」 小五郎、黙って、机から住所録を取り出し、シエスタに突入する。 「えーと、070の3の・・・・」和葉、鬼のような形相で番号を押す。 【7月20日・ツアー1日目・12時20分・トロピカルランド】 ≪プルルルルルルルルルルルル・・・・・≫蘭の携帯が鳴り出す。 「はいもしもし?」 「あんたが工藤か?」ドスの利いた女の声が聞こえる。 「あのどちら様ですか?」蘭、少々困惑気味。 「私の事はええねん。あんたが工藤か?」 「いえ、私じゃないです。ちょうど今、探してるところなんですけど・・。」 「なんやて、今そっちに工藤がおるん?わかったわ、どうもありがとう。」 「あの、もしもし?・・・・・・・・切れちゃった。」 【7月20日・ツアー1日目・12時20分・毛利探偵事務所】 「おい和葉、みっともない真似よせや。」 「・・・・・・・・平次。」 「なんや、どうしたんや?」 「『くどう』の居場所が分かったわ。」 「そんなアホな・・・。」平次、苦笑い。 「嘘やない、確かに間違いないんや。さあ行くで、平次。」 【7月20日・ツアー1日目・13時10分・トロピカルランド】 「さあ、着いた、あとは『くどう』さんに会うだけや。」 「おい和葉、少しは落ち着けよ。」 「そんなノンビリしたこと言うてられへん。一気に決着つけたる。」 (ハハハハハハ・・・・)アカン、和葉の奴、イッてしまっとる。 「平次は向こうの顔知ってるんやなあ?」 「まあ、そら、知らん事も無いけど・・。」 「どれが『くどう』さんなん?」 「嫌や、言いたくない。」 「なんで?」 「大体、見つけてどうすんねん?どうせ、ケンカ売るつもりなんやろ?」 「当たり前やん。ここまで来て、逃げてどうすんのよ。」 「そやから、それが全ての間違いの元なんや。 ええか、元々お前がケンカせなあかん奴なんて、どこにもおらへんのや。 お前が会うたところで、どないもできへんねん。」 「ほな、会わせてや。特に問題ないんやろ?」 「だから、会わせられへんて。今の和葉会わせたら、絶対に大事になる。」 「別にええもん、さっきの彼女に、もっぺん電話すればええんやから。」 ≪プルルルルルルルルルルルルルル・・・≫ 『はい、毛利です。』 「さっきの者やけど、工藤さん、いはる?」 『いえ、まだ見つかんないんです。元々、絶対にここにいるわけじゃないし』 「はあ?どういう事なん?」 『ひょっとしたら、会えるかもしれないって、思ったんです。けどいなくて・・。』 (なんちゅう女や、友達待たせても何にも思わへんとは・・・・・。こらやっぱり、平次にはふさわしくない女やな。) 『あの、もしもし、もしもし?』 「どうもありがとう、ごめんな。」 「平次?」 「何や、和葉?」 「やっぱりなあ、工藤さんと会うのやめとき。平次のためにならへん。」 「ちょ、ちょっと待てや。なんでそうなんねん。別に会うくらいええやろ?」 「会いに行っても、無駄やと思うで。どうやら、人待たせても何にも思わへん人でなしみたいやし。」 「おい、工藤はそんな奴やないぞ。」 「ああそう、平次は私よりも、工藤さんを信用するん?ようわかりました。」 向こうヅネを思いっきり蹴り上げる和葉、平次から遠ざかって行く。 「おい、待てや、アタタタタ・・・・・・」 〜第3章「導かれし者達」〜 【7月20日・ツアー1日目・13時10分・トロピカルランド】 ≪ピンポンパンポーン・・・・・・・≫ 「お客様のお呼び出しを申しあげます。 日売テレビ主催・ミステリツアーに参加される皆様、 正面入り口裏、事務棟1Fロビーへお集まりください。」 「お、来やがったぜ!」 「いよいよですね、ワクワクしますね!!」 「私たちの夢とロマンの冒険が、今始まるのよ!!」 (始まんない、始まんない。)一人冷静なコナン。 「じゃあ、みんな準備はいい?」蘭はすっかり保護者きどりだ。 「はーーーい!!」 【そのころ、平次達は・・・・】 「おい待てって、和葉。俺が悪かった、悪かったから。」 「行きたかったら一人で行けば?工藤さんと一緒に。」 「そやから、それはないって。俺は和葉と一緒にいたいんや。」 「えっ・・・・・・、今、何て言うたん?」 「ほな行くぞ、呼び出しかかっとったやろ。」 「・・・・・・平次。」 【7月20日・ツアー1日目・13時15分・事務棟1Fロビー】 すでに事務棟の方では、イベントの準備が進んでいた。 司会のタレントを出迎えるもの、裏方のスタッフ達。 色々な人がいて、誰が誰やら分からない。 「あのー、すいません。ツアーに当選したものですけど・・・」 とりあえず、スタッフらしき人を捕まえる蘭。 「ああ、ミステリツアーの人?あなたが参加されるんですか?」 「あの、いえ、私じゃなくて、この子達なんです。私は保護者でして。」 「ああ、二人が代表なんですね。」 「いえ、全員です。チケットが二つも当たっちゃって。」 「へえ、珍しい事もあるもんだ。じゃあ、ペア分けはどうしますか?」 「え、ペア分け?そんなのあるんですか。」 「まあ、一応はミステリゲームですから、それなりにルールがありまして。」 「なるほど。ねえ、みんなどうする?」 「私、コナン君と一緒がいいな。」歩美が口火を切る。 「いえ、僕が歩美ちゃんをエスコートします。」光彦、異議あり。 「いや、歩美は俺とチームを組むんだ。」元太、更に異議あり。 「・・・・あのさあ、ジャンケンは?」コナン、やはり大人である。 「よーし、それでいこう。負けても文句無しだからな。」 「じゃんけーん、ほい!!」 ・・・・・結果、コナン・元太、光彦・歩美ペアが確定した。 「はい、それじゃあ、決定ですね。ではゼッケンをどうぞ。」 「おいコナン、俺たち7番だぜ、ラッキーセブン、幸先いいな。」 「あ、うん、そうだね。」(・・・・・・・こいつは) 「いいなあ、私たち8番だよ。」 「歩美ちゃん、8番って縁起が良いんですよ、末広がりって言って。」 「そうなの、やったぁ!!」 「はいそれでは、選手の皆さんは、番号別の控え室にどうぞ。」 「はーい!!!!!」 「あの、私は・・・・・・?」 「ああ、保護者の方は、一応ついていってくださっても結構ですよ。 それに彼らは、多分一緒に行動するでしょうしね。 ただ、公正さを期したいので、他の部屋でお待ちください。」 「ありがとうございます!!!!」 【7月20日・ツアー1日目・13時22分・事務棟1Fロビー】 「さあ、ついたで、和葉、ここみたいやな。」 「そうやね、なんか係の人、いっぱいおるしな。」 「すいませーん、ツアーの者やねんけど。」 「ああ、ご苦労様です。お二人で参加ですね?では、こちらのゼッケンをどうぞ。」 「うわー、平次とおそろいのゼッケンや!」 「当たり前やろ、同じチームなんやから。」 「では、2Fの控え室でお待ちください。」 【7月20日・ツアー1日目・13時27分・事務棟2F控え室】 「あ、この部屋と違う?」 「そうみたいやな。・・・・なんや騒がしいなあ。」 さすがは、西の名探偵。平次、人の気配に敏感である。 「きっと、他の人、到着してるんやで。私たち含めて合計10組も応募してるんやから。」 「あ、ここやな、俺らの控え室。9番て書いてあるわ。」 【7月20日・ツアー1日目・13時30分・事務棟2F控え室】 ≪ピンポンパンポーン・・・・・≫ 「各部屋で待機中の、ツアー参加者の方に申し上げます。 只今よりスタッフが、皆様に捜査資金50000円をお届けにあがります。 なお、この資金が尽きた場合、その時点で失格となりますのでご注意ください。 ちなみに、皆様の貴重品はゲーム終了まで当方が保管しますので、ご了承ください。」 「へー、50000円ですか、ずいぶん太っ腹ですね。」 8番控え室の光彦、反応が早い。 「けど、むやみに使ってたら、すぐなくなっちゃうよ。」 歩美、急にどうしたのか、少し弱気である。 「50000円だってよ、コナン!?」 「うな重なら、50回は食えるぜ。」コナン、すかさず釘を刺す。 「う、うな重、50回・・、うへうへ・・・。」完全にイッている。 「なあなあ、平次、貴重品没収されるんやて。」 「そ、そうみたいやな。」少し焦る平次。 アカン、下手したらオカンの3万円も没収されてまう・・。 どこに隠したらええやろ、 どうせボディーチェックもやるだろうし、いまさら部屋のどこかに隠すのも無理だろう。 恐らくスタッフは隠し物のできそうな箇所を、完全に把握しているだろう。 では、どこに隠すべきか・・・・・・、そうや!!! 「なあ、平次、なにしとんの?」隅でガサゴソする平次が気になる。 「ちょっとしたおまじない、や。」平次、振り向きざまに微笑む。 「失礼しまーす・・・・・。」ADらしき人物が入ってきた。 カバン、ボディーチェック、ベッドにシーツ、 ありとあらゆる隠し場所を物色した後、スタッフは5万円を置いて去っていった・・・・。 (クックック、大成功や!!)ひとりほくそえむ平次。 実は、3万円を「鉄の鎖のかけら入りのお守り」に隠したのである。 さすがにスタッフも、お守りの中までは調べなかったようだ。 (神様、かんにんな。全ては、和葉を守るためなんや・・・。) 【7月20日・ツアー1日目・14時00分・事務棟2F控え室】 「失礼します。」9番控え室に、また誰かが入ってきた。 「お時間です。」その男は、それだけ言い、アイマスクを見せた。 「これ、何ですか?」すかさず問う和葉。 「着けてください。」男は、他に何も言わない。 「やれやれ、来はったか。」平次、素直にアイマスクをつける。 「なんや、よーわからんな。」納得できないまま、和葉もつける。 そのころ、7番、8番控え室でも、同様だった。 ただ、相手が子供だけあって、ぜんぜん雰囲気が違っていた。 「うわー、真っ暗だ、まるで夜みたい!!」はしゃぐ歩美。 「ほんとだ、まったく前が見えませんよ!」騒ぎ出す光彦。 「うわー、なんか目をつぶってるみたいだぜ。」 「そーじゃねーと、意味ないだろ。」 スタッフに手をひかれ、部屋を出る挑戦者達。 すでに廊下では10組20人がスタンバイしており、かなりにぎやかな様子になっていた。 「ねえねえ、コナン君、いまどこ?」 「俺ならここだよ、多分3メートルくらい離れてるんだ。」 「元太くんはいますか?」 「俺なら、ここにいるぜ。」 「なんか、みんなすごい格好だね。」聞き覚えのある声がする。 「蘭ねーちゃん!」 「蘭さんも一緒に来てくれるの?」歩美、途端に表情が明るくなる。 「もちろん!!なんせ、みんなの保護者だもん。」 「やったぁ、これで、もう恐いもの無しだね。」歩美、元気百倍。 「では、参加者の皆様。これよりミステリツアーへご案内します。しばらく車中がゆれますが、ご辛抱ください。」 この言葉を合図に、挑戦者、及びその手を引っ張るスタッフが動き出す。 そして、彼らのたどり着いた先は・・・・観光バスだった。 【7月20日・ツアー1日目・14時30分・参加者移動バス内】 「はい、ではアイマスクを取ってください。」 やはり不慣れな環境だったのか、マスクを外せると聞いて車内にほっとした空気が流れる。 「あー、しんどかった。・・・あれ、何も見えないですよ?」 「ほんとだー、ねえ、コナン君、これ何?」 「マジックフィルム知ってるだろ?あれを逆に貼ったんだよ。」 「じゃあ、どこで降ろされるのか、まったくわかんないんですね。」 「まあ、スタッフが動き出すまでは、何もわかんないだろうな。」 その時、さっきのアイマスクの男がしゃべり出した。 「えー、はじめまして。電波少年プロデューサの土屋です。」 よほど大切な事なのか、妙に強調している。参加者のうち、数人からは、歓声がもれる。 こういったTVが嫌いな和葉は、アイマスクをつけて眠りはじめた。 「では、只今より、ミステリツアーを始めます。 断っておきますが、これより皆さんには小型カメラをカバンにつけて頂きます。 後に、ダイジェストとして放送する際に使わせていただきますので、ご了承ください。 では、これより、皆さんのスタートへご案内します。 それから、これが、タレントの第一チェックポイントを示す暗号です。一人一枚ずつ取ってください。 皆さんのスタートは、明朝6時ですので、注意してください。 それから、スタート以降は、ゴールまで自由行動ですので快適な旅をお楽しみください。」 そういって、彼は奇妙な言葉の書かれた紙を回した。 「・・・・・・・・・一体なんでしょうね、これ?」 「・・・・・ぜんぜんわかんないわ。元太くんは?」 「・・・あー駄目だ。俺もさっぱりだ。コナンは?」 「・・・・・・・・・・・・・解けたよ、簡単さ。」 「え、コナン君、もうわかったの?」 「ああ、ちょっとしたヒントさえあれば、簡単なんだ。」 「・・・・・・・・・そうかなあ?」再度、暗号を見る歩美。 そこには、こう書かれてあったのである。 『複数の地の中央にそびえながら、そのどれでもない。 春にだけ便りは届き、怒れるも、今は静か。 この地を極めし者は、波打たぬ白き海を見るだろう。』 〜第4章「二人の長い夜」〜 【7月20日・ツアー1日目・16時35分・参加者移動バス内】 ミステリーツアーのバスが出発してから2時間が経過した。 車内の参加者達は、土屋Pの暗号に苦戦していた。 すべては、彼の思惑通りに運ばれていた。 ・・・・そう、たった二人の探偵を除いては。 「ねえ、コナン君、どういうこと?」歩美はまだ、わからない。 「そうですよ、それにヒントって何ですか?」光彦も同様だ。 「それよりもさー、晩飯っていつなんだろ?」元太は問題外だった。 「良く考えてみてよ。東京から大阪まで3日で行くんだろ? だったら、1日目でどこまで行くのが普通だと思う?」 「それは・・・・・・、東京から大阪を3で割って・・」 光彦が、日本地図を思い浮かべて、考え始める。 「・・わかった!!長野か、静岡あたりね!」 「そういうこと、だから後は周辺で、標高の高い場所を考えればいいんだよ。」 「どうして、高いところが関係あんだよ?」元太、当然の質問。 「波打たぬ白き海、ってあるだろ。これは多分、雲海だよ。」 「あの、寒い朝にしか見られない幻想的なアレですか?」 「けど、高いところなんて、いっぱいあるじゃない。」 「そこで、1行目が重要になってくるんだ。 歩美ちゃん、日本で、どの都道府県にも属していない場所って知ってる?」 「え、そんなのあるの?日本だったら、どこかの県じゃないの?」 「ひとつだけあるだろ。日本のシンボルとして有名な場所だよ。」 「あ、ひょっとして富士山ですか?」 「そのとおりさ、光彦。富士山だけは、周囲のどの県の領域にも入っていないんだ。 どこの県にするかでモメたんだろうね。」 「じゃあ、春にだけ便りは届き、って言うのは?」 「富士山の山頂には、春の間だけ郵便局の出張所が建つんだ。 怒れるも今は静か、は、昔噴火したけど、今は休火山と言う事。」 「すっごーい、コナン君ってやっぱり頭いいんだー!!」 「これで、犯人確保も楽勝ですね!!」 「いや、そううまくは行かないようだよ。 あの人が俺たちをどこに連れて行くかで、展開は大きく変わるだろうしな。」 小学生達の様子をじっと眺める男性が後部座席に一人・・・。 そう、誰あろう、服部平次である。 (やっぱり解いてきおったな、工藤。それでこそライバルや。) さあ、土屋とか言うオッサン、どないする? このままやと、工藤か俺が、あんたのくだらんトリック、全部見破ったるで? ふと平次は、和葉の方を見た。 ・・・和葉はアイマスクをしたままで寝ていた。 よほど疲れていたのか、それとも昨日眠れなかったのか・・。 まあええ、暗号くらい、後でゆっくり話してやろう。 工藤の事がバレへんのやし、好都合や。 【7月20日・ツアー1日目・17時57分・1日目の宿到着】 バスは相変わらず、どこかへ向い走り続けていた。 先ほどの謎解きで疲れたのか、参加者達はみんな眠っていた。 と、その時、土屋プロデューサが突然マイクを握った。 「皆さん、起きてください。本日の宿に到着しました。明朝6時のスタートまでは、ここで休んでください。」 突然のボリュームに、目が覚める参加者達。 スタッフは、否応無しに彼らをバスからたたき出して行く。 アイマスクをつけられ、20分。ようやくの到着である。 ・・・・・・そこは、夏なのにひんやりとしていた。 いったいここはどこなのだろう?暗くて周りが見えない。 「ここが本日の宿、長野の龍泉洞です。それでは、宿泊用のシュラフを配給します。」 参加者達から、驚きの声があがる。それも当然だろう。 誰が、洞穴なんかで好き好んで寝ると言うのだろうか? ・・・・と、思っていたら、そうでないものもいた。 もちろん、少年探偵団のメンバーである。満面の笑みである。 「では、チーム別に、別々の穴でお休みください。案内します。」 龍泉洞は、中央に広い空間があって、周囲四方に細い穴が広がっていた。 ここでは、それを客室として提供しているのである。 むろん、夏は涼しく冬は暖かい。クッションさえ用意できれば、最高の宿なのである。 それぞれの穴にはちゃんと、密閉型のシャッターがついていて覗かれる心配も無い。 小さい穴でも、優に3人は寝られる広さだった。 ちょうど、キャンピング用のテントぐらいの大きさなのだ。 【7月20日・ツアー1日目・18時03分・平次&和葉部屋到着】 「では、9番の方、こちらへどうぞ。」スタッフが誘導する。 平次と和葉が、部屋へ入る。 「うわー、すごい・・・・・」和葉が、歓声を上げる。 洞穴とは言え、そこはバス、トイレ、TVが完備されており、なんだかビジネスホテルのような雰囲気だったのである。 しかも、晴れた日には、天井のシャッターを開けると満天の星空のおまけ付きである。サービスは、なかなかいいようだ。 「では、ごゆっくりどうぞ。それから、公正を期したいので部屋からは出ないで下さいね。」スタッフが去って行く。 「・・・・・・・・・・・・」残された二人、沈黙が漂う。 「あ、私、ちょっとシャワーもらってくるわ。」 沈黙を消すかのように、和葉しゃべり出す。 「わかった。俺は、明日の作戦でも立てとくわ。」 そういって、ベッドに寝転ぶ平次。 ・・・・・そういえば、犯人役のタレント、今どこやろ? 平次は、テレビを点けてみた。公共放送は無料なのである。 「・・・・・・・・・・!!!!!!!」 平次は驚愕した。さっきまでトロピカルランドのステージを写していたはずが、この部屋の映像に切り替わったではないか! しかも画面隅に「服部平次・遠山和葉チーム」と書いてある!! あわてて後ろを振り返る。たしかカバンに・・・・、あった!! かすかながら、「ONAIR」のランプが点灯している!! スタッフにつけられたカメラで、全国に中継されとるんや!!! 平次は慌てた。多分、本社の人間は、もう少しでカメラをきり変えてくれるだろう。ダラダラ写しても、仕方ないだろうし。 だが、もしも、それまでに和葉が風呂からでてきたら・・・!! どう考えても、一巻の終わりである。早くどうにかしないと。 だからと言って「風呂から出るな」とも言えない。 そんな事言えば、疑って、逆に早く出てくるに決まっている。 と、その時、シャワーの音が止まった。 (ヤバイッ、やばすぎるっ) 平次はしかたなく、嘘をつく事にした。 手を洗いに行くフリをして、風呂場へと向い、話しかける。 幸いな事に、風呂場は死角になって見えない。 中継の様子から見ると、音声までは拾えないようだ。唯一の救いである。 「なあ、和葉、いまフロントから電話があったんやけど、シャンプーて書いてある奴なあ、リンスかもしれへんねんて。」 「え、そうなん!?しゃーないなあ、持ってきてもらって。」 「ちょっと待っときや・・・・・・」 平次、受話器をつかみ、会話の振りをする。 「はい、はい、はい・・・分かりました。和葉、ごめん大丈夫やった。」 「ほんま?よかった。」和葉のほっとした声が聞こえる。 平次はTVを見やった。すでに中継は切り替わっていたようだった。 「助かった・・・・・・・」平次は、大きなため息を吐いた。 「なあ、平次?」声のする方を見て、平次はドキッとした。 和葉は、ガウン姿になっていたのである。 「か、和葉、何しとんねん?」興奮の余り、頭が白くなる・・・。 「何って、ただ置いてあったから使っただけや。」 平次は、ふと仕掛けられたカメラが気になった。 さっき、カバンはクローゼットに押し込んだし、もう大丈夫やろ。 「平次もお湯もらってきたら?結構気持ちええよ。」 そういって、備え付けのドライヤーで髪を乾かす和葉。 見た事の無い情景に、平次は少しクラッとしてきていた。 「なあ、平次、これ、どう思う?」ドライヤーを当てながら、尋ねる。 「な、な、何がや?和葉の事か?」 「ちゃうちゃう。ツアーの事や。ホンマに犯人、そこらへんを逃げ回ってるんかな?」 「さあ、どうやろな。電波少年の企画やし、ひょっとしたら嘘かもしれん。下手したら、こんな宿取ったのも、逮捕させん作戦かもしれへんな。」 「ふーん・・・・・。まあ、ええか。タダで旅行にこれたんやし。 この分やと、大阪までスムーズに帰れそうやもんな。なあ平次、みんなへのオミヤゲ、何がええかな?」 「そやなあ、明日の宿次第やな。どこへ行くかわからんし。」 「そうか・・・・。なあ、平次?」 「何や?」 「もし、平次の言う通り、ヤラセやったとしたら、真面目に推理しても仕方がないんやんな。」 「まあな。けど、そう決まったわけや無いけどな。」 「それやったらな、明日、どっか行ってみいへん?スペイン村とか。」 「えらい、急やなあ。犯人通ってくれる保証ないで。」 「そやから、推理を捨てたら、の話やんか。どう、行かへん?」 ・・・・平次は迷っていた。確かに和葉の言い分にも一理あったのである。 もし真剣勝負を挑むのであれば、何も宿を指定する事はないはずだ。 カンニングが恐いのなら、見張りをマンツーマンでつければ良いだろう。 ひょっとしたら、和葉の言う通りかもしれない。平次の心は揺れていた。 例え、後からスタッフに追求されたとしても、お金を返せば済む事だ。 おかんからの3万円もある事やし、ビビる必要も無い。 (・・・・まさか、こんな使い道があったとはな。)平次は苦笑した。 「どないしたん、平次?行くの、行かへんの?」 「・・・・・一緒に行こ、和葉の行きたい所へ」 「・・平次、ほんまにええの、推理ゲームは?」 「もうあんなの、どうでもええ。」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・平次。」和葉、三面鏡から振り返る。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・和葉。」二人の目が合った。 彼らが、目の前の相手に、そして自分自身に一番素直になれる時間が流れ始めた。 あれだけ軽口をたたきあってきた相手が、今はたまらなく愛しく思える。 平次をじっと見つめる和葉。思わず引き寄せられる平次。 二人の距離が徐々に縮まり、そして、平次の手が、和葉の両肩に下りた。 互いの顔が、近くに見える。思わず視線を逸らしてしまう二人。 今だ、今しかない。平次は決心した。こんなこと、今しか言えない。 普段は、悪口ばっかり言ってて、なかなか素直になれないけど、それは、和葉の事が嫌いだからじゃない。絶対にそんな事ありえない。 「和葉・・・・・・・・・。」和葉の背に回した両腕で、そっと抱きしめる。 「何・・・・・・・・・・?」すっかり上気して、答えるのがやっとな和葉。 「おまえが・・・・・・・・」なぜかこんなセリフがすらすらと出てきた。 「おまえが・・・・・・・?」少し期待を込めた目で、見つめ返す。 平次は、最後の言葉を言おうとした時、とんでもなく恥ずかしくなった。 何を言えば良いか分かってる。けど、声がうまく出てくれない。 これを言えば、きっと和葉は喜んでくれるだろう。そんなこと百も承知だ。 けど、声が上手く出てくれないのだ。ちくしょう、なんでこんな時に・・。 平次は、何度も挑戦した。何度も何度も挑戦した。しかし、声は出てこなかった。 「・・・・・ごめん、どうしても言われへん」平次はついにギブアップした。 「・・・・ううん、ええよ。わかってるから」今度は和葉が抱きしめてやる。 「・・・・・・・・・・・・・・・・和葉。」平次の顔に笑顔が灯る。 「やけど、罰として、キスは無しやからね。」和葉、いつもの茶目っ気を表す。 「おい、和葉、何やねん、その中途半端は?」呆れて聞き返す平次。 「大体な、素直に言わへん方が悪いやんか。」 「これやったら、素直に言えば良かったわ。」 「じゃあ、ちゃんと、今ここで言えるんか?」 ・・・・・・どうやら、9号室の夜は、まだまだ続きそうである。 【そのころ、少年探偵団のメンバーは・・・・・・】 「うわー、すごーい!!映画みたい。」 「なんだか、地底都市って感じですよね。」 「おい、ここを俺たちの秘密基地にしようぜ。」 「めぐるめくスリルとサスペンス!!、かっこいいー!!」歩美、昇天寸前。 「おいおい、ヒタるのもいいけどさ、そろそろ始めようぜ。」 「始めるって、何をですか?」 「明日の作戦だよ。向こうは富士山付近にいるのは間違いないんだ。作戦たてといても、損はないだろ?」 「けど、もうとっくにクリアしたかもしれないぜ。」元太、ナイス推理。 「大丈夫。それなら、第2の暗号が配られるはずさ。まだクリアしてねーよ。」 「なるほど、じゃあ、どうしたらいいんですか?」 「この時刻表の地図をみてごらん。東京から大阪までのルートは大きく分けて、中央本線と、太平洋ルートの二つなんだ。新潟ルートは遠すぎるからね。」 「けど、コナン君。いっぱいあって、どれ使うかわかんないじゃない。」 「大丈夫だよ、歩美ちゃん。だって犯人は、明日の晩もどこかで休むんだろ?」 「それはそうだけど・・・・。けど、それが何の関係があるの?」 「相手は、プロじゃなくて、番組内のタレントなんだぜ?だから番組の進行具合を見た上で、逃走ルートを決めるかもしれないって事。」 「あ、そうか!だとすると、明日泊まるのは・・・・・」 「名古屋か、それとも長野の西部あたりですか?」 「そういうこと。だから俺たちは、2ルートの合流点、名古屋で待てばいいんだよ。」 「どうして、富士山に行かないんですか?」光彦、当然の質問である。 「JR富士駅からは、長野ルート・東海道ルート両方に行けるからさ。犯人がどちらを選ぶかは、さすがにわからないからね。」 「さっすがコナン、やるじゃんかよ!!」デンとコナンの背中を叩く。 「ありがとう。だから、明日はみんな早めに仕掛けよう。犯人に先を越されたら、俺たちの負けだからな。」 「オーッ!!!」 ・・・・そして、それぞれの思惑を胸に、夜が明けた。 【7月21日・ツアー2日目・06時00分・龍泉洞前スタート】 ついに決戦の時はやってきた。 部屋から出てきた挑戦者達は、さまざまな表情をしていた。 暗号を解いて、自信満々のもの。 まだ解けずに、地図を広げているもの。 そして、準備体操を行っている4人の少年探偵と、保護者。 もちろん、指揮をしているのは元太だ。 更には、犯人の事などあまり頭に無い関西人・・・。 そう、服部平次と遠山和葉である。 二人とも、目に生彩が無い。クマまで作っている。 無理もない、あれからずっと夜更かしをしていたのだ。 「ふわぁー、平次、起きとる?」 「いや、もう、寝る寸前や。」 ≪えー皆さん、おはようございます。土屋です。≫ 携帯型スピーカーから、聞き覚えのある声が流れる。 ≪では、東京捜査本部からの情報をお伝えします。犯人はタレントのマツモトキヨシ、28歳です。 犯人は、昨夜19時に、トロピカルランド特設ステージに乱入して、 司会担当の島田紳助より愛用の腕時計、ロレックスを強奪しました。 犯人はそのまま、東武線に逃げ込んだ模様。足取りは依然、つかめておりません。 なお犯人は、途中、いくつかの変装を行う模様。 犯人を見つけた際には、彼の両腕をつかみ『マツモトキヨシさんですね。時計を返してください。』と叫んでください。 ただし、キーワードを間違えて叫んだ場合はその場で失格となりますので注意してください。≫ スタート地点に、ざわめきが走る。 土屋と言う男は、それを無視して更に進行を行う。 ≪では、5万円の資金で、犯人を捕まえてください。皆さん、スタートラインへどうぞ!!≫ パーパパパパ、パパパ、パパパ、パパパパーン!!! まるで競馬のレースのようなファンファーレが周囲に流れる。 一斉にラインに並ぶ挑戦者達。 スターターのタレントもスタンバイできたようだ。 誰もが、その瞬間を固唾を飲んで、見守っていた。 ≪それでは、参ります。ヨーイ、スターーート!!!≫ 花火の合図と共に、一斉に走り出す挑戦者達。 とりあえず向うのは、最寄りの自転車レンタル屋だ。 スタートから、300m程緩い坂を下ったところにある。 そこから、今度は最寄りの駅へと向うのである。 昨日、あらかじめ身長をチェックされたので、全員分は確実に用意できているのだろう。 まず、先頭を切ったのは・・・・、少年探偵団だった。 続いて、北海道からのアベックが続く。 やはり早朝のランニングは、年配者には辛いようだ。 「あった、あれだ!!」元太が下り坂前方を指差す。 そこには、派手な垂れ幕と共に、自転車が30台余りあった。 まずたどり着いたのは、コナンだった。 冷静に自分のゼッケンと同じ番号の自転車を見つける。 「元太、こっちだ、早く!!!」 「よし、乗ったぜ。」歩美、光彦も続く。 「みんなー、がんばってね。」誘導車から蘭の声がする。 さすがに、保護者はレースに入れてもらえないようだった。 「ようし、行くぜ、みんな!」 ここからは、一転して上りとなる。 今走ってるのを含めて、合計3つの沢を自転車で超えるのだ。 当然、小学生にはややハードと言わざるを得ないだろう。 ここで、先ほど出遅れた年配者達が追いついてくる。 やはり、年の功より亀の甲といったところか。 年配者VS小学生。その戦いは、今始まったばかりである。 「ふう、ふう、ふう・・・・・」元太、早くもバテ始めている。 「どうした元太、大丈夫か?」対してコナン、余裕である。 「無理しなくていいからね。」歩美もなかなか、良い感じである。 「元太くん、ギア、ギア!!」光彦、ギア切り替え部を指差す。 「え、ギアがどうしたって?」元太、どうした。ヘロヘロである。 「ギア6速になってますよ。」 「え、元太6速だったのか?」さすがにコナンも呆れる。 「あ、悪い、忘れてた。」慌てて戻す、元太。すると・・・・ 「あああああ、元太君、早すぎますよ!!」 元太は、はるか彼方に消えていった・・・・・・・・・。 【では、出遅れた平次達はどうしているだろう?】 「はあ、はあ、へーじー・・、しんどいー・・・。」 「はあ、はあ、・・・俺もや、夜更かしに登りはキツイで。」 「あ、もうすぐ下りみたいやで。がんばろう。」 「おお、ようやく向こうが見えてきおった。・・うん、あれ何や?」 ふもとの駅では、ちょっとした騒ぎが起こっていた。 なんと、到着した挑戦者達を、素直には構内に入れようとしないのだ。 「・・・・・おい、コナン、なんだよこの看板?」 「・・・・・また、暗号ですね。」 「・・・・・これ、クリアしたら、乗せてくれるのかな?」 「・・・・・そうみたいですね。」 四人して、立て看板を見上げる。そこにはこう記してあった。 『二つの星が北で重なる時、AとPの入れ替わる物は?』 遅れてきたメンバーも追いついてきた。 「あああ、早くしないと抜かれますよ。」光彦、焦る。 「なーんだ、簡単じゃねえか。行くぞ、みんな。」 「ええ、もうわかったんですか?」 「ああ、係の人に伝えてくるよ。」コナン、係員に耳うち。 「OKだってさ、さあ行こうぜ。」 「やったぁ、すごーい!!」 「でもコナン君、いったい何だったんですか、答えは?」 「時計、だよ。二つの星は長針と短針。北は12時の事。12時で、長針と短針が重なったら・・・・・・」 「AMがPMに変わる!!!」三人の声が重なる。 「そういうこと。あ、蘭ねーちゃんが待ってるよ。」 「みんな遅いよ、もう。で、どこに行くの?」 「名古屋!!!!!」4人の声が一つになった。 〜第5章「工藤は名古屋、俺らは伊勢へ」〜 【7月21日・ツアー2日目・06時20分・横川駅構内】 レーススタートから20分が経過。この時点で駅構内についたのは3組のみである。いや、細かく言えば、2グループである。 もちろん、その2組とは・・・・・・・ 「ところでよー、コナン。これからどうすんだよ?」 「東京へ戻ろう。」 「えええええええええ????」探偵団と蘭の悲鳴が轟く。 「何考えてんだよ、コナン。まさか逃げる気か?」 「ちがうよ、元太。よく見てみろよ、ここの駅名を。」 「横川ってかいてあるぜ、これがどうしたんだよ?」 「横川って駅名は、広島を除けば、群馬にしかないんだ。ここは、信越本線の横川駅、軽井沢駅の隣なんだ。ここからは、時刻表で説明するよ。」 そういってコナンは、ノートを取り出した。 (上野・東京ルート) 横川〜上野・・・・・・・・・1時間38分 上野〜東京・・・・・・・・・およそ06分 東京〜名古屋・・・・・・・・1時間36分 乗り換え時間・・・・・・・・およそ51分 合計時間・・・・・・・・・・4時間11分 (信越ルート) 信越本線で「篠ノ井」・・・・1時間29分 特急しなので「名古屋」・・・2時間52分 乗り換え時間・・・・・・・・1時間02分 所要合計時間・・・・・・・・5時間23分 「な、こっちの方が1時間ほど早いだろ?」 「なるほど、ぼくらは新幹線を使えたんですよね。」 「相手は新幹線は使えない。だから、追い越す可能性なら充分にあるんだ。」 「へー、コナン君って、鉄道にも詳しかったんだ。」 「え?あ、全部新一兄ちゃんから聞いたんだよ。」 コナン少年、慌ててフォローに入る。 「さあ、来ましたよ、東京行が。」 「よーし、少年探偵団、しゅっぱーつ!!!」 そのころ、平次達も東京へ向う事にしていた。 偶然にも、スペイン村行のルートが、同じパターンだったのだ。 「・・・・・平次、ごめんな。」 「どないしたんや、和葉?」 「なんかむりやり決めたみたいやから・・。」 「アホなこと考えんなや。どうせラストで捕まえたらええんや。それに、もしかしたら、犯人も来るかもしれんやろ?」 「そやな。・・・・ありがとう、平次。」 そのころ、犯人役のマツモトキヨシは客席でほくそえんでいた。 (まさか、この天才的な作戦を見破る奴はいないだろうな。) なにせ、相手の情報はこちらに筒抜け。 昨日の時点での、挑戦者達の様子は全て電話で教えてもらった。 おかげで、犯行声明文なんて書かせてもらった。良い記念だ。 後は、大阪まで逃げて、彼と100万円を山分けするだけだ。 番組の予算でも、一度「賞金」というフィルムをかぶせれば、懐に入れても、越権行為にはならないのである。 彼は、勝利を確信して目を閉じた。 そう、熱海発・鳥羽行のフェリーの客室で・・・・。 『7番のゼッケンをつけた眼鏡の子供は要注意だ。名古屋で待ち伏せをするそうだ。保護者が一人くっついてるから、目印にしろ。』 『OK,土屋プロデューサー。』 あーあ、それにしても、このフェリーの椅子、硬すぎるなぁ。 俺は一流芸能人だぜ?もうちょっとVIP待遇ってもんがあるだろうに。 ・・・まあいい。今夜当りは、ちょっと派手に遊んでやるとしますか。 逃走資金もあと7万円ほど残っているしな・・・・。 【そのころ、トロピカルランド・ステージでは・・・・・】 昨日のオープニングのPR効果もあってか、園内は、まさに芋を洗うような大混雑になっていた。 オーロラビジョンには、各チームの様子がありありと写っている。 コナンや平次達の「東京作戦」には、さすがに注目が集まり、本社スタッフも、カメラの切り替えに大忙しになっていた。 視聴率の推移から見ても、この2グループがやはり全国の視聴者のハートをつかんでいるようだった。 そう、大阪に陣取るこの二組の夫婦の注目も・・・・・・・。 遠山父「おお、服部さんの奥さん、二人が写ってますよ!!」 服部母「ほんまやわ、なんやあの二人、ええ感じになってるやん。」 服部父「おい、遠山、二人ひょっとして、手ぇつないどるん違うか?」 遠山母「あら、あの子ったら、なかなかやるやないの、ねえあなた。」 服部母「じゃあ、ちょっと出かけてきますね。」 遠山母「どうされたんですか、いい所なのに?」 服部母「ビデオテープ買ってこようと思って・・・・。」 遠山父「おお、そりゃあいい。二人もきっと喜びますよ。」 遠山母「永久保存版にして、結婚式で流しちゃいましょうか?」 服部父「ああ、それええな、ぜひやりましょう。」 服部母「じゃあ、行ってきますね。」 遠山母「行ってらっしゃい、質のええテープにしてくださいね。」 【少年探偵団・平次達、東京駅到着】 少年探偵団の面々は、扉が開くやいなや、強烈な勢いで降りていった。 慌てて追いかける蘭。その10秒ほど後、別の車両から二人が降りてきた。 なぜか、ふたりとも顔が真っ赤である。 「・・・・・そうなんやったら、そうって先言えよ。」 「・・・・やって、言える状況やなかったんやもん。」 よほど恥ずかしいのか、そっぽを向く二人。 ・・・・実は、途中でのこんな事件が原因だった。 東京行を選んだはいいものの、すでにヘトヘトだった二人。 当然、レールの周期的な音に誘われ、眠りに落ちたのである。 ふと平次が目を覚ますと、和葉はまだ寝ていた。 イビキをかくでもなく、よだれをたらすでもなく、半分開けた窓に、もたれるように眠る和葉。 すごく純粋でかわいい寝顔だった。 (和葉の奴、こうしてみると、結構かわいいやんか。) つい、赤くなってしまう平次。誰も見ていないのにあらぬ方に顔を向けたのはご愛敬といったところか。 (昨日、ちゃんと言うてやればよかったな・・・・。) 結局、あんなことがあって、興奮してとても寝られず、とは言っても、何を話していいかわからず、そのまま夜を明かしたのである。 そうや、せめて手のひとつでも、握っといたろ。 平次は、即座に作戦の実行に移った・・・はずだった。 待てよ、俺はどこに座ったらええんやろ? 向かい側から、窓枠の右手を握るのは、わざとらしい。 ならば、隣に座って左手か?いや、下手に今座ってる和葉の向かいを空けて、他人に座られたら、余計恥ずかしい。 (そうや、いっそのこと、俺も寝たふりしたらええんや。) 平次は、和葉と同様に窓枠に片手を乗せて、寝るふりをした。 幸い、窓枠中央までは和葉が腕を伸ばしている。 あとは、こっちが努力すれば・・・・・・、あと10センチ、・・・・あと5センチ、3センチ・・・・・届いた!!! ほんの指先だけだが、ちゃんと和葉とふれあっている。 平次は、なんだか嬉しくなった。和葉とふれあっている指先がなんだかすごく熱かった。直射日光で表面温度の上がった窓枠よりも、ずっとずっと熱かった。 (このままずっと触れとこ。)平次はそう考えていた。 だが、現実はそう甘くなかった。窓枠が熱すぎたのだ。 20分ほどこらえてみたが、いいかげん火傷しそうだ。 ヤバイかな?そう思った時だった。ふと和葉の方を見ると、彼女もなんだか苦しそうにしている・・・・・・・? 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あつっ」 平次の耳にかすかな声が聞こえた。まさか和葉か? 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あつっ」 また聞こえてきた。さっきよりもやや大きい声だ。 「もーーーーーーーーーーっ、熱いーーー!!!!」 ・・・やっぱり和葉だったようだ。 「もうええ加減にしてよ、すごく熱かったやんか。」 「そやったら、早い事、日陰に行けよ。」 「しゃーないやん、・・・平次があんな事するから。」 「あんな事って・・・・・・まさか、見てたんか?」 「見とったわ、一部始終、はっきりと見てました!」 【さて、東京駅に話を戻そう。】 「・・・ごめんな、和葉。」そういって手を握ろうとする。 「ごめん、今はやめといて。」 「どないしたんや、和葉?」 「さっき日焼けしたんか、すごいヒリヒリすんねん。」 「なーんや、そんなことか。驚かすなや。」 「元はといえば、平次のせいなんやからね。」 「何で俺のせいやねん?人の事言われへんやろ。」 「昨日、はっきり言うとったら、それでよかったんや。」 すざまじい勢いで、口喧嘩と移動を同時にこなす二人。 それは、東京駅にどうかんがえても似合わない光景だった。 【話は進み、少年探偵団、名古屋へ到着・・・・】 「・・・・・・・・・・・・・・・コナン。」 「・・・・・・・・・・・・・・何、これ?」 「・・・・・・・何、なんでしょう、ねえ?」 (・・・ハハ、ハハハハハハハハハ)コナン、呆れて何も言えない。
先ほど、バイトのスタッフの女性が、コナン達に渡した手紙である。 ワープロ書きはいいのだが、改行がひどくて読みにくい。 FAXで転送したらしく、字が一部崩れてしまっている。 「凸口」の部分は、手書きのようだ。 熱心に目を通すコナン。元太たちは、心配そうに眺めている。 「やられちゃいましたね。」 「まさか、ここまで読まれてたなんて・・・。」 「おい、どうするコナン、もう手掛かり残ってねーぞ。」 「いや、逆に残してくれたようだぜ、手掛かりをな。」 「おい、どういう事だよ。」 「まずは、これだよ。『追いつかれなどしない』」 「これが、どうしたの?」歩美、事態を飲み込めていない。 「追いつかれるかもしれない、って事は・・・」 「名古屋よりも、西のどこかにいるんですね!!」 「そうだ光彦、良い調子だ。次に『凸口』だ。」 「おかしいですね、デコボコは『凸凹』ですよね?」 「間違えちゃったんじゃないの?ここだけ手書きだし。」 「じゃあ、なんで『凸口』なんだよ?」 「きっと、この漢字を知らなかったんだよ。」 「けど、そんなの、ワープロで漢字にすれば、わかるじゃんかよ。」 「そこが、この犯人の甘いところさ。いいかい、まず彼は文面に『凸凹』という言葉を入れたかったんだ。 しかし、ワープロに慣れていなくて、どうしても変換ができなかった。 だから仕方なくそこだけ手書きに変更したんだ。 2文字分のスペースを空けてね。」 「けど、それなら『凹』も書けばいいじゃないの?」 蘭、やっと会話に入る。 「それが犯人の最大の誤算だった。 ワープロの活字は普通、大きくても8ミリ四方程度の大きさなんだ。 こんな狭いところに手書きでかくのはかなり難しい。幸い、凸は書けたものの、凹で問題が発生した。 字の形が複雑で、書ききれなかったんだ。だから、『口』でごまかしておいたんだ。 実際、この手紙の改行は、ひどいもんだろ?ワープロに慣れた人間なら、こんなヘマはしないさ。」 「なるほど、確かに改行の数が多すぎますよね。」 「けど、これだけじゃ、犯人がワープロが下手だってだけだぜ。」 「まだあるさ。犯人の正体を言ってないぜ。」 「えええええ????」一同、さすがに大口を開ける。 「ど、どういうことですか、コナン君?」 「4行目の『犯行現場にこだわった』で、わかったんだ。 おかしくないか?どうして俺たちが現場にこだわったように見えたんだ?」 「そういえば、おかしいよね。」 「きっと、僕たちが東京に戻ったからじゃないですか?」 「けどよコナン、俺たちトロピカルランドに行ってないぜ。」 「そこなんだ。俺たちがすぐに名古屋行きの新幹線に乗ったのを知ってれば・・」 「『現場にこだわった』なんて書くわけがない!!!」歩美、思わず叫ぶ。 「つまり犯人は、俺たちが東京へ行った事を知っていて、すぐに名古屋へ行った事を知らないんだ。」 「じゃあ、なおさらおかしいじゃねえか。どうしてこの手紙が届くんだよ?」 「それは簡単さ。いずれは名古屋方面へ向うのが予想がついてたからさ。 むしろ、引っかかったのは、『コンビ』なんだ。」 「『コンビ』?おかしいですね。だって僕たちはずっと4人で・・・。」 「だろ?本当に俺たちの姿を見たならコンビなんて書くわけが無い。蘭ねーちゃんもいたから、グループとしてみるのが普通なんだ。」 「じゃあ、犯人は俺たちを見た事が無いって事か?」 「少なくとも、俺たちの存在を知らないんだ。しかし暗号を解いた事を知っていて、東京へ戻った事も知っていて、すぐに名古屋へ向ったとは、知らなかった。」 「・・・・・・・なんか変じゃない?どうして、そんな事できるの?」 「どこかチグハグですよね。僕たちが東京に戻るまではちゃんと当てて、そこから先は、全然的外れになっている・・・・。」 「・・・・・・・・そうか、わかったぜ、コナン!!」元太、叫ぶ。 「え、ど、どうなんですか、元太君?」 「簡単さ。腹が減って、カンが鈍ったんだ。」頭を抱えるコナン。 「そ、そうじゃなくて、元々犯人は推理が上手いわけじゃないんだよ。」 「どういうことだよ。」否定された元太、やや不機嫌である。 「カンが鈍ったんじゃなくて、見られなかっただけなんだよ。」 「それじゃあ、犯人は超能力者なの?」 「そんなこと言ってないさ。単に俺たちを見張ってただけさ。」 「けど、見張るって言ったって・・・・・・」 「あ、カバンにつけてるカメラね!!」 「そういうこと。あの土屋って人は、後で使うだけだって言ってたけど本当は違うんだ。きっと、このカメラの情報と犯人がリンクしてるんだよ。」 「じゃあ、どうして、変な勘違いなんかしたんだよ?」 「つまり、この暗号を書いたのは、少なくとも俺たちが、長野から東京へ向う間だったんだ。そして、犯人はカメラの画像を見てはいない。だから、コンビと書いてしまった。だとしたら、犯人はどうやってカメラの情報を知る事ができたのか・・・・・・。」 「誰かが、情報を犯人に流しているんですね!!」 「そういうこと。さあ、移動しようぜ。」 「移動って、どこに行くの?」 「フェリー乗り場だよ。」コナン、会心の笑みがこぼれる。 【そのころスペイン村の平次達は・・・・・・・・】 「なあ、平次・・・・・・・・・・・」 「なんやねん、和葉。気色悪いなあ。」平次、かなり恥ずかしそうだ。 「何言うとんの、これぐらいせえへんと、不自然やで。」 「・・・・・・・・・・・・・・・・」無言の平次。 確かに、ピンクの闘牛士の帽子は、雰囲気にこそ合ってはいたが、身につけた平次には、なんともミスマッチな代物だった。 「なあ、かんにんしてくれや、和葉。」 「あかん。客のフリせんと、犯人に気付かれるで?」和葉にエクボが浮かぶ。 「そ、それはやなあ・・・・・」痛いところを突かれてしまった。 「あ、今度はアレ買お、アレ。」マスコットショップを指差してみる。 「おい、いい加減にしとけよ。そないに持ってかえってどうすんねん?」 「きまってるやん、みんなへのオミヤゲや。どうせ旅行してるのバレとるし。」 確かに、彼らのミステリツアーの中継は、視聴率30%を超えていた。 今度学校に行けば、ヒヤカシの嵐は覚悟する必要があるだろう。 「・・・ちょっと、こっち来い!!」急に和葉の腕をひく平次。 「き、急に何すんねん。」平次は、観覧車の方へ向っている。 (・・・・・・平次、意外と積極的やん。) 「なあ平次、時間はあるんやから、それは最後に・・・・・」 「おまえ、何言うとんねん。アレ見てみ。」コーヒーショップを指す。 「・・・・・・・・・・!!!!!!」和葉は、声が出なかった。 確かに作業員っぽく変装はしているが、マツモトキヨシに間違いない。 「店の方は、入り口が二つしかないわ。和葉は片方を塞いどいて。俺が一気に決着つけてくるから。」 「平次、合い言葉覚えとる?」 「『マツモトキヨシさんですね。時計を返してください』やろ?」 そういって、西側の入り口へ向う平次。 「ほな、お前はあっち側を頼むで。」早速西側を押さえる平次。 和葉も、東側を押さえた。ガラス越しに平次に合図を送る。 うなずく平次、さりげなく店内に侵入。と、その時・・・・・ 「あ、マツモトキヨシだー!!!!!!」突然、店内の子供が騒ぐ。 正体がばれた本人、急いで立ち上がり東口の方へ逃げ出す。 平次が駆けつけるのも間に合わず、犯人は和葉に向って突進した。 突然の体当たりによろめく和葉。お土産物が宙を舞う。 犯人はそのまま出口へと走り出した・・・・・。 「おい、和葉、大丈夫か、しっかりせえ!!」 「・・・・ごめん、平次。」 「そんなん、どうでもええ。大丈夫か?」 「許さへん。」 「え、和葉、今、何て言うたんや?」 「絶対に許さへん・・・・・・!!!!!」 そう言うやいなや、荷物を抱え走り出す和葉。 平次、慌てて追いかける。 犯人の姿が、まだ遠くに見えている。 今ならまだ間に合う。 そう思い、駆け出す和葉。 と、そこに、園内を巡る小型バスが通りかかった。 通り過ぎるのを待ってたら、とても間に合わない。 和葉は、あえてバスの正面を突破する事にした。 体力なら自信があった。当然、間に合うはずだった。 しかし、突如表れた地面の段差に足を取られてしまった。 うつ伏せに倒れ込む和葉。バスの車輪が迫ってきていた。 和葉、恐怖で体が動かない。早く逃げなくちゃ。 けど、けど・・・・・・。逃げる事ができない。 更に車輪が近づいてきた。運転手もブレーキを踏むが、まだ充分にスピードは残っている。 ぶつかる・・・・・・・・・・・!!!!!! 和葉が覚悟を決めて目を閉じたとき、彼女は突如宙に浮いた。周囲の景色がくるくる回り出した。 そのまま3メートルほど、前に進んで行く。 ふと彼女が目を開けると、そこには・・・平次がいた。 「アホ・・・・・。」彼の目は少し潤んでいた。 「助けてくれたの?」 「・・・・・・・・」 「・・・ありがとう」 「似合わん台詞やな」平次、苦笑してみせる。 「ほっといてやぁ。」和葉にも、笑顔が戻ってきた。 「あれ、どうする?」さっきの場所を、示す平次。 「あ・・・・・・・」バスにひかれた、無残なオミヤゲが散らばっていた・・。 【少年探偵団プラス1、鳥羽フェリー乗り場へ到着。】 「さあ、着きましたよ。ここがフェリー乗り場です。」 「うわー、磯のかおりがするー!!」 「けどよー、なんでフェリーなんだよ?」 「簡単さ。犯人は富士までたどりついた後、俺たちを見届けてから出発したんだ。他の挑戦者達は、みんな中央本線だったから、一番安全なのは、フェリーで、名古屋より西に逃げる事なんだ。」 「だから、ここに来たんですね。けど、フェリーなら他に港がありますけど。」 「富士から出発するフェリーが、最初に着くのがこの港なんだ。淡路まで乗れない事も無いけど、先回りされるかもしれないしね。」 「けど、犯人はもう降りたんじゃねーのか?」 「おそらく、そうだろうな。けど、降りたかどうか確かめる価値はあるぜ。」 そういって、コナンはチケット売り場へ急ぐ。 ・・・・数分後、コナンの推理が裏付けられた。 チケット売り場の女性が、2時間前に彼を発見していたのだ。 彼は、近畿日本鉄道、通称「近鉄」の乗り場を尋ねたそうだ。 「どこで降りたのかな?」歩美、時刻表を調べる。 「あ、あれじゃないですか?スペイン村。」さすが情報通。 「そうか、あそこなら、でっかいホテルもあるもんな。」元太、納得。 「じゃあ、私たちもそこに行ってみる?」蘭がすかさず提案。 「はーーーーーーーーーいっ!!!!!」もちろん、三人も大賛成。 【スペイン村敷地内、ホテルにて】 そのころ和葉達は、ホテルの一室に来ていた。 運良く、園内のホテルは空席だったのだ。 さすがに疲れたのか、ベッドに倒れ込む平次。 横では、さっき手当てを受けた和葉が眠っている。 どうやら、軽いねんざで済んだようで、明日からは問題ないそうだ。 (とにかく、無事でよかったわ・・・・・・・・・・・・) もう、夕暮れが近づいてきている。綺麗な眺めだ。 明日は激しい戦いになりそうだ。平次は体を休める事にした。 【少年探偵団、スペイン村入り口到着】 「見て見て、夕暮れよ!!!」 「なかなか綺麗ですねえ。」 「そういや、晩飯はどうする?」 「もう、元太君、ムードが無いんだから。」 「ごめんごめん。さっきから腹が減っちまって。」 「確かに、良い時間ね。ねえみんな、先にホテルをとろうか?遊ぶのは、それからでも間に合うみたいだし。」 「うわー、でっけー!!!!!」元太、シャンデリアに口、アングリ。 そう、ここはスペイン村唯一の最高級ホテル「リセ・レジェンナ」である。 ゴシック調の内装に、さわやかなパステルオレンジ・・・・。 まさに、地中海の風をそのまま再現したかのような、見事な装飾だった。 「なあ、早くご飯食べようぜ。」 「こちらでございます、どうぞ。」 一同は、ロビー奥のレストランへと案内された。 店内は、カウンター風の鉄板があり、シェフがスタンバイしている。 「・・・・・・なんだ、これ?」 「知ってる!これ、シェフが焼いてくれるんでしょう?」 「いらっしゃいませ。」料理長、うやうやしく頭を下げる。 ・・・・・1時間後、5人はすっかり満足していた。 「おいしかったですね、あの歯ごたえと、ジューシーさ!!」 「ぜんぜんしつこくないから、たくさん食べちゃった。」 「やっぱ、肉はガツガツ食うのが一番!!!」 (おいおい、ちょっとはダイエットしろよ、元太。) 「さすが、5つ星ね。」蘭、まだ食べている。 「すいませーん、後でうな重お願いしまーす」 「元太君、そんなのできるわけないですよ。」 「かしこまりました、後でお持ちしましょう。」シェフ、にこやかに答える。 (・・・・・・・・・・・・・・・・)頭を抱えるコナンと光彦。 「さあ、遊びに行きましょうか!!」蘭、妙に気合いが入る。 【そいでもって、遊び終わって、ホテルに帰ってきて・・・】 「いやー満足満足。メシは上手いし、風呂にも入ったし。」 「元太君、温泉に来たんじゃないんですから。」 「けど、ここのお風呂、広くてきもちよかったよね、コナン君?」 「え、うん、そうだね。」実は、水着着用の混浴だったのだ。 「それで、明日はどうするんですか?」 「ここに泊まってるのは、まず間違いないだろうけど。」 「じゃあ、ずっと見張っとくのはどう?」 「朝に出て行くとは限らないよ。深夜かもしれないし。」 「じゃあ、やっぱり大阪で最後の勝負なのね?」 「なんだかワクワクしますね。」 「犯人、どこにゴールするんだろうな?」 「TVつけようよ、TV。」歩美はTVをつけた。 あいかわらず、日売テレビは48時間テレビを続けている。 ふと、画面上のテロップに、全員の視線が集まった。 『ミステリツアー参加者の皆さんへ 明日、勝利の女神の元へ集合されたし。』 〜第6章「今度来る時は」〜 【7月21日・ツアー2日目・20時47分・少年探偵団チーム】 「なんだろこれ?」歩美は首をひねっていた。 「きっと48時間TVのイベントか何かじゃないですか?」 「じゃあ、やっぱり東京に、東京に戻るのか?」 「・・・・・・・・・」あごに手を当て、熟考するコナン。 部屋内に、沈黙が流れる。 「あのさあ、みんな。」5分後、口を開いたのはコナンだった。 彼は、時刻表を開き、ある場所を示してみせた。 そして、長い2日目が終わった・・・・・・・・。 【7月22日・ツアー最終目・06時21分・平次和葉チーム】 「ふわー、平次おはよ。」大きく伸びをする和葉。 「もう起きたんか。ゆっくりしてもええのに。」 「もう大丈夫や。それより、あいつの手掛かり分かった?」 「いや今朝、スタッフからは何も連絡が来てへん。」 「そっか。けど最後には、絶対に捕まえたるで。」 「おいおい和葉、最初とえらい態度違うやんか。」 「当たり前や、突然突き飛ばしといてからに。絶対ゆるさん。」 「そや、テレビでもつけてみよか?」 彼は、スイッチを入れた。各局、朝のニュースを流している。 次々とチャンネルを変える平次。「どこも大して、変わらんなあ」 NHK2チャンネル、TBS系4チャンネル、朝日系6チャンネル、フジ系8チャンネル・・・・・・・・・。 「あ、平次、これ!!!!」ついに和葉達も、発見したようだ。 「なんや、またトンチか。」平次、早くも推理に入る。 勝利の女神、大阪、・・・・・・・女神? 「おい和葉、女の神さんって、知っとるか?」 「自由の女神とかは?あれなら能勢の温泉に飾ってあるで。」 《筆者注意:能勢とは、大阪府北西部、兵庫との県境です。》 「それやったら勝利にはならへんやろ?」 「けど、他に女の神さんって知らへんで。」 「そんなことないはずや。きっと大阪人でなくてもわかるんや。そうやないと、暗号にする意味、あらへんもんな。」 「日本人みんなが知ってて、女の神さん。」和葉、手応えを感じる。 「そうや、ひょっとしたら七福神とちゃうか?」 「ということは、弁才天さん・・?」 「・・・・・・弁天町や!!!!」二人は同時に叫んでいた。 【7月22日・ツアー最終目・07時31分・少年探偵団チーム】 「さあ、いよいよ大詰めですよ。」 「今日で犯人を追いつめるわよ。」 「少年探偵団、しゅつどーう!!」 「オーッ!!!!」 (・・・朝から元気だねえ、全く) 「さあ、どこからいきましょうかねえ?」 「やっぱり、弁天町じゃないの?」 「けど、そのカメラ、犯人につながってるんですよ。」 「おい、どうすんだよ、コナン。」 「あえて、別のどこかに行こう。」 「え、それって犯人を警戒させませんか?」 「大丈夫だよ、光彦。このカメラ、音声は伝えないようだぜ?実際、聞こえなかったから、スタッフは昨日変に誤解したんだ。俺たちが、トロピカルランドへ向ったように、な。」 「そうだよな、電車の中で名古屋行きの事、いっぱいしゃべってたもんな。」 「じゃあ、どうしたらいいの?」 「タクシーを使おう。風景で行き先をばれないようにするんだ。」 「ついでに、どこかに遊びに行きましょう!!」 「私、神戸行きたい!!」 「神戸って、美味いもの、あるのか?」 「わかったよ、じゃあ、しばらく神戸に行ってみよう。」 【7月22日・ツアー最終目・08時15分・マツモトキヨシ】 「あいてててててて・・・・。」彼は、顔をしかめてみせた。 なんで、こんなカプセルホテルなんだよ? 昨日、正体がばれて逃げた後、また彼はスペイン村に戻っていた。 しかし、念の為、ツアーの客がいないか尋ねたところ、二組を確認。 急遽、大阪まで逃げてきたはいいが、深夜に飛び込めたのがカプセルホテルのみ、という始末だったのである。 「失礼します、まつもと様、FAXが届いております。」 ホテルの者が、ドアを叩いている。早速目を通す。 『事態は切迫している。ゴールを変更する事にした。 弁天町の事は忘れろ。捕まってしまうのがオチだ。 ゴールは在来線三宮だ。そこでバイトの女の子に付近ビルで自由の女神の扮装をしてもらう事にした。 午後5時、その事を全国に放送する。終了までの2時間でなんとかたどり着いてくれ。健闘を祈る。』 【7月22日・ツアー最終目・07時51分・平次和葉チーム】 「さてと、メシも食ったし、出かけよか。」 「いや、一回家に戻ろうや。ええかげんみやげが重たいし。」 「わかったわ。お母さんに電話してくる。」和葉、奥へ消える。 「あっ・・・・・そや、忘れてた。」フロントへ向う平次。 「すんません、昨日マツモトキヨシ、来ませんでした?」 「ええ。お来しになったようですよ。ただ・・」 「ただ、何ですか?」 「ツアーの方がいると聞いて、慌てて出て行かれました。」 「何やて!?いつかわかりますか?」 「確か、昨日の22時頃です。大阪へのアクセスを調べておいででした。」 「どないしたん平次、恐い顔して?」 「マツモトキヨシの手掛かりが見つかったんや。」 「じゃあ、家には帰らんとこか?」 「いや、家には帰っとく。大阪に逃げたそうなんや。」 「じゃあ、近所のおばちゃんとか誰か、彼を見たかもしれんね。」 「そういうこっちゃ、そうなら、家にも情報がきとるはずや。」 【7月22日・09時54分・少年探偵団チーム・神戸まであと20分】 「あ、見えてきましたよ、神戸の海です。」 「へー、なかなかかっこいいじゃん。」 「・・・なんかオシャレに変わったな。」 「何が変わったの?」コナンに尋ねる蘭。 「あ、あ、新一兄ちゃんがそう言ってたんだ。」 「確かに、3年前とは違うもんね。」納得する蘭。 「この辺りって、遊園地とかないのかな?」 「神戸ポートピアランドがありますよ。」タクシー運転手、答える。 「よーし、そこに行って、腹ごしらえだ!!」 【7月22日・10時41分・平次和葉チーム・快速で実家到着】 「ただいまー・・・・。」クーラーの冷気が二人を出迎える。 「あら、お帰りなさい。」遠山母が、それに気付く。 「おお和葉君、お疲れ様」服部父も、にこやかに迎える。 「平次君、ありがとうな」遠山父もすっかり上機嫌だ。 「あの、何のことですか?」平次、事態が飲み込めていない。 「決まっとるやろ、君の勇気に、みんな感心してたんや。」 「ひょっとして、昨日の事・・・・。」 「当たり前や。なんせ全国中継やからな。みんな知っとるで。」 思わず、ショックの余り、凍り付いてしまう平次と和葉。 (やっぱり、みんなアレを見とったんや・・・・・)平次、ガッカリ。 「そんなわけでな、ほれ、今日はごちそうや。」 「平ちゃんの為に、探してきたんよ、赤ダイ。」遠山母、嬉しそう。 「では、二人のこれからの幸福を願い・・・・」服部父、音頭を取り出す。 「カンパーイ!!!」父兄4人、一斉に杯を重ねる。 「よかったなあ、和葉。幸せにしてもらいや。」 「ちょ、何言うとるの、お母さん、やめてや。」 「遠慮するな、和葉。実に嬉しい事やないか。」 「おい、親父もなんか言ってくれや!」 「平次、これは既成事実なんや、そうやろ?」 「そうよ、お前が和葉ちゃんを助けたんよ。」 「・・・・こらアカンわ。和葉、行こか。」 「その方がよさそうやな。」家を後にする二人。 目指すは、JR弁天町駅だ。 「・・・永久の幸福を願い、カンパーイッ!!!」 【7月22日・11時39分・平次和葉チーム・尼崎駅到着】 尼崎駅は、平日昼間にも関わらず、混雑していた。 やはり、在来線の乗り換えを一手に引き受けているからか。 「あ、平次、あれ!!!」 「ああ、そうみたいやな。」そこには、マツモトの姿があった。 「なんでここにおるんやろ?大阪から弁天町やったら、環状線に一回乗ればええだけのことやん。」 「そういえばおかしいな、まあええ、捕まえたらわかる話や。」 「けど、こんな混んどったら、難しいやん。」 「わかってる。尾行して、逃げ道がなくなってからが勝負や。和葉、悪いけど、そこで待っててくれ。一度入り直す。」 「ああ、そうか。あれ、姫路行のホームやもんね。」 2分後、二人は改めてホームへ入り直した。 マツモトは、まだ動きが無い。 「ちゃんと、やっといたか?」 「もちろんやん。」姫路行のキップを見せる。 どこで降りても良いように、買っておいたのだ。 のんびり精算なんか、していられない。 「あ、電車、来おったで。」 「新快速やな、あ、マツモト乗るみたいやぞ。」 「やっぱり、神戸か姫路?」 「やろうな、行くぞ、和葉。」 【7月22日・12時08分・少年探偵団・ポートピアランド】 「いやー、最高だったぜ!!」 「トロピカルランドもいいけど、こっちも最高ですね!!」 「すごかったよね、あのジェットコースター!!!」 「あの赤い奴だろ、確かにすごいよな。」コナン、素直に認める。 「だって、最初、下が全然見えなかったもんな。」 「ほんと、垂直に落ちてるって、感じでしたよね。」 「さあ、みんな、そろそろお昼にしようか。」蘭、少し顔が青い。 「蘭ねーちゃん、大丈夫?」焼きそばを食べながら尋ねる。 「コースターは平気だったんだけど・・・」 「あ、ひょっとして、お化け屋敷?」 「・・・・・・・・うん。」 【7月22日・12時11分・平次和葉チーム・尼崎〜三宮間】 「やっぱり三宮やろか?」 「多分な。時間つぶして、それから弁天町に行くんちゃうか?」 「あ、降りるみたいやで。やっぱり三宮や。」 「よし、俺らも続くぞ。」 【7月22日・14時08分・少年探偵団・ポートピアランド】 「も、もう限界です・・・・・・・。」 「あたしも・・・・・・・・・・・。」 「俺もだ・・・・・・・・・・・・。」 「しっかりしろよ、みんな。」コナン、3人を気遣う。 あれから、調子に乗って、ループコースター、3Dシアター、コーヒーカップ、カーペット、逆バンジーにスカイウォーカーまでこなしていたのである。 「もう、あれはやめときましょう。」スカイウォーカーを指す。 今はやりの、釣り下げ型のアトラクションである。 地上30mまでまず釣り上げて、レバーをひくと一気に振り子のように、空中を飛ぶ乗り物である。 「じゃあ、もう少し落ちついたら、もう帰ろうか。」 「ふぁーい・・・・・・」 【7月22日・15時12分・平次和葉チーム・三宮周辺で尾行中】 「なあ平次、なんかおかしいと思わへん?」 「確かにそうやな、さっきからビル街ばっかり歩いとる。時間つぶせるような、遊び場所なんかないやろうに。」 「ひょっとしたら、ここにゴール、あるんと違うやろか?」 「そんな、まさか・・・・・・・。」 その、まさかだったのである。 「なあ、早よ捕まえようや。」 「あかん、今は危険や。逃げ道が多すぎる。」 「どっかで、腰落ち着けてくれたら、楽やのに・・・。」 「あ、ビルの中へ入っていきよった、和葉、追うで。」 「う、うん。」 マツモトはエレベーターを使うようだ。 現在、エレベーターは5F。あと20秒はかかりそうだ。 「よっしゃ、チャンスや。一緒に乗ってまおう。」 ついに、マツモトの背後をとった二人。 エレベーターが開き、三人が乗り込んでいった・・・・・。 エレベーターは、ゆっくりと上って行く。 どうやら、彼は45階をめざしているようだ。 平次達の事に、全く気がついていない。 背後で視線を交わす二人。右を平次、左を和葉が押さえる。 「マツモトキヨシさんですね。時計を返してください。」 二人が同時に、腕をつかみさけんだ。 顔の凍りつく犯人。と、そこへ突然扉が開いた。 7Fで乗り込む客がいたのだ。二人を振り払う犯人。 「あ、こら、待たんかい!!!!!!」 「平次、下へ逃げた!!」 「よっしゃ追うぞ、駅に行くぞ!!」 「なんで駅って、わかるんよ?」駆け降りながら、尋ねる。 「相手は、大阪の地理に詳しくないんや。一番楽なんは、遠くに逃げる事やろ?」 1階入り口にたどり着いた二人。 外の日光が、やけに眩しく感じられる。 「あ、おった!!!!」遠くで駆け出す犯人。 「どれに乗るつもりなんやろ?」走りながら、平次考える。 姫路方面か、大阪に戻るか、それとも環状線みたいなアレか・・・。 「ポートライナーちゃうかな?」和葉が「アレ」を提案する。 「なんで、そう思うんや?」 「この前、東京の親戚が来たんやけど、なんやあっちではポートライナーだけ、えらい有名やったもん。」 「どうやら、その推理、当たりみたいやな。」 マツモトは、阪急三ノ宮駅を、通り過ぎていったのだ。 【マツモト、ポートライナー三ノ宮駅に到着。】 顔パスで改札をくぐり抜け、ホームへの階段を駆け上がり、そして、そこで彼が見たものは・・・・・・・・。 「いやー、楽しかったなあ。」 「後は、マツモトキヨシを捕まえるだけね。」 「最後ですし、ガンバリましょう!!!」 ・・・・・・・ゼッケンをつけた子供たちだった。 しかも、そこには『7番の眼鏡の子供』!!!! 「あ、マツモトキヨシよ!!!」歩美、ついに発見。 「よーし、捕まえようぜ!!」走り出す元太と光彦。 それを見てコナン、もう出口専用通路を塞いでおく。 と、そこへ入り口から・・・・・・ 「こらー、待たんかい、マツモトキヨシ!!」平次の声が響く。 和葉は、昨日の傷が悪化して、走れなくなったのだ。 (ウソッ・・・・!!!!)今度こそコナン、目が点に。 完全に逃げ場を失ったマツモト、イチかバチがコナンに突進!! あわてて、身構えるもコナン間に合わない。(ヤバい!!!!) コナンは衝撃と痛みを予期して、目を閉じた。 だが、次の瞬間、倒れていたのは、マツモトキヨシだった。 「もうー、子供に突進するなんてひどいじゃないの!!!」 蘭の怒りの背負い投げが決まったのだ。恐怖に震えるコナン。 「今だ!」「今です!」「今よ!」「今や!」 3チーム、計5人が一斉に腕をつかんで叫ぶ。 「マツモトキヨシさんですね、時計を返してください!!」 【マツモト逮捕後、2時間後・・・・・・・・・】 ついにマツモトは逮捕され、2泊3日の戦いは終わった。 同時に逮捕した、ということで、100万円は3チームで分けられた。 「これでうな重、何杯食えるのかな?」16万余りを手に、震える元太。 「これこそ、探偵の醍醐味ですよねー。」笑いのとまらない光彦。 「これで、ママにピアノ買ってもらうんだ!!」歩美も嬉しそうだ。 そして、コナンも・・・・。彼も、満足した表情をしていた。 確かにお金も嬉しいけれど、それよりも・・・・。 彼は、夕暮れに包まれながら、蘭と仲間たちをみつめていた。 【さて、そのころ、家路につく平次達は・・・・・・】 「ついにやったな、平次。」 「ああ、最後は残念やったな、でも気が済んだやろ?」 「まーね。なんでここで足をつねるんやろ?」和葉、すこし残念そう。 「まあ、ええやんか。こうしてお金も入ったし、な。」 「なあ、平次。」 「なんや、まだ不満でもあるんか?」 「スペイン村、なんやけどさ。」 「なんや?」 「今度行く時は、もうすこしゆっくり行こうや、二人きりで。」 (終) |