紳助プロジェクトPresents
Who are YOU?〜和葉の夏の思い出2〜 後編
Written by 紳助(FZJ05033★nifty.ne.jp)

*登場人物紹介

・服部平次
  大阪を代表する、高校生探偵。改方学園2年生。事件当時17歳。
  和葉とは、父親同士が大阪府警の同僚同士という間柄。

・遠山和葉
  服部平次の幼馴染。気の強さと行動力では天下一品。平次に片思い中。
  前編では、木村雅明と中井明日香を見事に巡り合わせた。

・木村雅明
  大阪日報文化部の記者。イベントで出会った明日香に一目ぼれ。
  和葉の尽力により、先日明日香と出会うことができた。

・中井明日香
  浪速大学文学部3回生。写真家を志す元気いっぱいの性格。

・服部平蔵
  服部平次の父であり、大阪府警本部長。
  厳格ながらも、息子の探偵振りには賛成。
  息子を和葉とくっつけてしまおうと、妻と画策中。



【2003年8月13日・寝屋川市遠山和葉邸】


和葉がカキ氷を作りに行ってから、10分が経過。
平次はさっき話題に出たアルバムをじっと眺めていた。

(・・・あのころの俺、確かに怖い顔しとるなぁ。)
西の名探偵、服部平次は思わず苦笑した。
さっき和葉に指摘されたのも、あながち間違いとはいえないなぁ・・・。
平次は、少しアルバム鑑賞を一休みすることにした。と、その時・・・。

「へーーえーーじっ♪」頬にヒヤリとした感触が走る。
「つ、冷てぇっ!!」平次、思わず飛び跳ねる。
頬っぺたに、いきなりカキ氷を押し付けられたのだ。
「はい、平次。メロンシロップで良かったよね?」
「あ、ああ。ありがとう。」ありがたくいただく。

「だらしないなあ、背後の気配に気がつかないなんて。
 それでも西の名探偵なん?」イチゴのかき氷をほおばりながら、和葉、少々呆れ顔。

「お前なあ、せっかく人が集中してアルバム見とるのに邪魔すんなや。」
「ふーーん。なんだかんだ言うて、結構マジに見てるやん。」
「当たり前やろ、だってお前あのとき・・・。」
どうしたのか、急にそっぽを向く平次。
どうやら、あの事を思い出したようだ。

「あの時・・・・何?」ふっと得意そうに平次の顔を覗き込む。
「し、知らん!!!」完全に顔が真っ赤である。
「教えてよー♪」
「言いたくない!!!」ついにムクれる平次。

まあ、彼が恥ずかしがるのも無理はない。
木村雅明と中井明日香の事件の後、あんな事があったのだから・・・・。

Who are YOU?〜和葉の夏の思い出2〜 後編

<第7章:二人の初デート>
【2001年5月26日08:12・遠山和葉邸】

花粉症の季節も終わり、いよいよ衣替えも始まりそうなある日曜日。
大阪で二人の女性が気合を入れまくっていた。
一人は、平次の(和葉の?)おかげで恋人が見つかった中井明日香。
そしてもう一人は・・・・。

「できたー!!三段重ねのお重やー♪」台所から歓声が上がる。
服部平次の幼馴染こと、遠山和葉である。
徹夜の成果が実って嬉しいのか、嬉しそうに重箱を眺める。
早速大事に包んで運ぶ準備をする。

「おう、これは大層な弁当やなー。」起きてきた父、ビックリ。
「だって、平次に食べてもらうんやもん。」和葉、満面の笑み。
「そうかそうか、平次君に・・・・。えっ、ちょっと待って。」
「どないしたん、お父さん?」

「これ、平次君が一人で食べるんか?」三段重箱はやや多すぎるような・・・。
「ううん。私と平次で食べるんやけど。」
「・・・二人で?」いやーな予感の遠山父。

「うん。」
「まさか、二人で指しつ指されつ・・・。
 いかんいかん、若い男女がそんなはしたないことを・・!!!」
「そら、今時当たり前やんか。じゃあ行ってきまーす。」
「こ、こら。ワシの話はまだ終わってない・・・・。行ってもうた。」

遠山父は、テーブルの上のメモを見た。
そこには、こう書かれてあった。


平次と一緒に神戸へ出かけてきます。
晩ごはんまでには帰ります。  和葉。

【2001年5月26日09:11・JR大阪駅新幹線ホーム】

ピンポンパンポン・・・・。
「まもなく、1番線に岡山行きひかりが参ります。
 白線の内側まで下がってお待ちください。」

朝の涼しさが心地よい日曜日。
一人の女性が大阪駅で、一台の新幹線を待っていた。

彼女の名は、中井明日香。浪速大学三回生である。
電車の中で知り合ったあの男性と、改めて会うためにやってきたのだ。

フワァーーーーン・・・・。
新幹線独特のサイレンと共に、徐々にその姿がホームに近づいてくる。
明日香は、車窓の中に目を凝らした。
1両目、2両目、3両目・・・・いた!!!
彼女は思わず、彼の乗る車両へと駆け寄っていた。

・・・・・そしてその頃、一組の男女がホームの一角でコソコソしていた。
西の名探偵の服部平次と、自称“最高のパートナー”遠山和葉である。

「あっ、来た来た!!!」和葉が西側の線路を指差す。
「あの中に彼がおるんやな?」
「うん、間違いないよ。あっ、降りてきた。」
「あっ、あの少し赤めの服の人が木村さんか。」

「さて、私らも行こっか。」
「やっぱり行くんか?」なんだか半泣きの平次。
「当たり前やん!!」和葉は、嫌がる平次の手を取り引っ張っていった。

“ええか、平次。探偵言うのは事件解くだけが仕事やないんや。”これは親父。
“依頼人さんが望ましい結果を手に入れるまでちゃんと見届ける。
 これが、ホンマの探偵なんよ。”これはオカン。
昨夜の両親のコゴトが脳裏に思い出される。

くっそう、和葉のやつウチの両親まで巻き込みやがって・・・。
和葉と一緒に雅明達を尾行する羽目になってしまった今、
平次は心の中でタメ息をつくしかなかった。

【2001年5月26日10:30・神戸ショッピングモール】

少し日差しの暑い昼下がり、2組のカップルは神戸のカフェテリアに移動していた。
アイスコーヒーを頼む雅明達。
そして、店の隅にはもちろん尾行中の和葉たち。

「いらっしゃいませ、何になさいますか?」
「えーーっっと・・・。」メニューを眺める平次。
「アイスコーヒーのLサイズ。」和葉が先にオーダー終了。

(えっ、こんな大きいの和葉一人で飲むんか?)
「ストローは2本で。」ためらいなく告げる和葉。
その言葉に、平次は呆然としていた・・・。

かくして、喫茶店の中は両極端な雰囲気となっていた。
かたや、楽しそうに話の弾む雅明と明日香。
かたや、コーヒーで一悶着の平次と和葉。

「さあ、平次も飲んで♪」
「・・・・パス。」こんな恥ずかしいの飲まれへん。
「あれー、どうしたのかなー、平次君♪」コメカミひくつかせた笑顔で迫る和葉。
「い、いただきます・・・。」
嗚呼、食べたくないものを無理やり口に入れるなんて、小学生の給食以来だぁ・・・・。

かくして、平次たちはともかくとして
明日香達のデートは実に順調に進んだ。
新しいショッピングモール、ワーナーマイカルの映画、きれいな夕日・・・。

元々、明日香は文学部。雅明は新聞社の文化部記者。
当然、俵万智の話題で色々と盛り上がったわけである。

もちろん、自分たちの多少(?)ギクシャクしたデートと比べて
ほんの少し和葉が悔しがったことは言うまでもない・・・。

<第8章:I miss YOU>
【2001年6月8日18:00・服部平次帰宅】

「ただいまー。」平次、いつもどおりに帰宅。
「お帰りー。」年休を取っていた父が出迎える。
「暑いー!!!」
思わず学ランを脱ぎ捨てる。
梅雨前線の近づく頃になると、冬服がとにかく蒸し暑い。

「なー、親父。今日の晩飯って何なん?」
「ああ、母さんお得意のアレや。」
「またアレか・・・。」これで5日連続だ。

「はい、ソーメンできたよ!!!」服部母、山盛りで差し出す。
「・・・俺、パス。」
「どないしたん?平次、ソーメン大好きやったやん?」
「・・・食欲ない。」そりゃそうだ。5日計15食連続だ。

「何、食欲がない!?こりゃ大変だ。」大げさなリアクションの父。
「もしかして、何か悩み事でもあるん?」心配げな母。
「ちゃうちゃう。ソーメン以外のモンが食べたいだけ。」

「ええっ、ソーメン以外?・・・何も作ってないよ。」
「やっぱり?」
“何でもいいから作ってくれよ!!”つい、思いが顔に出る。

「私のハンバーグ、食べてみる?」ふと、和葉が台所から顔を出す。
いつの間に、うちの家に隠れていたんだ?

「うわぁ!!!」いきなりの登場に驚く平次。
「あらぁ和葉ちゃん、久しぶりねえ。」白々しい芝居モードの母。
「おばさま、私ハンバーグ作っていたんですけど、一人分余ったんです。
 誰か、食べる人いません?」おいしそうな湯気を立てるハンバーグ。

「そーねー・・・。私はソーメン頂いたし・・・・。」
「わしもいらん。」服部父、即答。
「じゃあ仕方ないですね、平次食べて♪」
(やっぱり、そういうことか・・・。)平次はため息をついた。
このためにわざわざ15食連続ソーメンとは、いい度胸じゃねえか親父?

「はい平次、アーンして。」
「自分で食う!!」一気にかきこむ平次。
「おお平次、実にうまそうに食べるなあ。」意味深に微笑む服部父。
「せっかくやから、毎日和葉ちゃんに作ってもらおうかしら、平次のご飯。」
「ええな、それ。ついでに平次と一緒に生活でもしてもろて・・・。」

おい、ちょっと待て!!
なんでハンバーグ1個でそこまで話が進むねん。
勝手に人の縁談をまとめようとする両親に、密かにツッコミ。

「ところで、何か今日は話があるとか言うてなかった?」母、何かを思い出す。
「ああ、そうでしたね。実はこの前の事件のことなんですけど・・・。」

和葉は、雅明と明日香の一件について話し始めた。


【2001年6月2日10:00・2度目のデートはUSJ】

その日、明らかに雅明の様子はおかしかった。
せっかく俵万智の新刊を買ってきてあげたのに、なんだか嬉しそうじゃないし。
“とれたての短歌です。”の作品が好きだって言ってたのに
なんだか今日はそうじゃないみたいだし・・・。
一体、どうしちゃったんだろ?

「ねえ、雅明さん?」
「な、何?」声をかけるたびにビクついてみせる雅明。

「なんか今日すごく変だよ。何かあったの?」
「い、いや何もないよ。」
嘘だ。さっきからキョロキョロしてばっかり。
おまけに目元には激しいクマ。かなりの寝不足なのだろう。

「そ、そうだ。映画にでも行こうよ。」
「わかった。」まあ、後でじっくり追求してみよう。

その後彼は、映画館で見事に熟睡してみせたのだった・・・。



【平次たちの食事へ話を戻そう】


「ふーん、木村さんも疲れてるんやなー。」ハンバーグをぱくつく平次。
「そういう問題じゃないってば。」
「心配することいらんて。親しくなってリラックスしたんちゃうんか?」
「それやったら、不安そうにビクビクせんでもええやん。」少しムクれる。

「おいおい、お前がそないに入れ込んでどうすんねん。」平次、たしなめる。
「だって、せっかく二人がうまいこと行くかなって思ったのに・・・。」さらに膨れる。
「人の恋路を邪魔したるな。な?」
「そんな・・・。」

「ちょっと平次、せっかく来てくれた和葉ちゃんに失礼やないの?」
「そうやぞ、平次。それがご飯を作ってくれた人に接する態度か?」
「そやかて、2回目のデートで様子が違っただけやろ?どうでもええやん。」

そうなんかなぁ・・・。和葉は少し曇った顔で平次を見つめていた。



<第9章:奇妙な手紙>

【2001年6月9日08:32・朝日の差し込む和葉の部屋】

「さあ平次、始めよか。」デンとぶ厚いテキストを積む和葉。
「あぁ、今日中に仕上げないかんのか・・。」平次、ガックリ。
「さてと、今日はテキストの315ページ・・・・・。」

ピーンポーン♪
和葉がテキストを開きかけたその時、遠山家のチャイムがなった。
「はーい・・・。」階下に降りてゆく和葉。
これでしばらくは休憩できるな。平次は一息つくことにした。だが・・・
「あれぇ、明日香さん!?」和葉の声に、平次は玄関に駆け出した。

「どないしたんですか?」
「彼が・・」
「雅明さんが、何か?」もしかして、このパターンは・・・。
「彼、行方不明になっちゃったんです。」
また行方不明か・・・。平次はめまいを感じていた。
(そやから言うたやんか!!)和葉の視線が痛かった・・。

【とりあえず、応接間に上がって頂いて・・・・・】

「まずは、経過から教えてもらえます?」平次、探偵モードスイッチオン。
「2回目のデートのことは、ご存知ですよね。」
「私から話しました。」和葉が答える。あのハンバーグの時だ。

「彼の様子がおかしいんでしたっけ?」平次の視線が徐々に鋭くなる。
「ええ。それで思ったんですけど、ひょっとしたら・・。」
「ひょっとしたら、何ですか?」
「彼、ニセモノかもしれません。」
「はいっ!?」全く、この女性には驚かされてばかりだ。

「実は、帰り際にカマをかけてみたんです。」
「カマをかけた?」
「“とれたての短歌です。”ってご存知ですか?」
「知ってます。俵万智の歌集の一つですよね。」
「これなんですけどね。」明日香はバッグから1冊の本を出した。

“とれたての短歌です。” 写真家の浅井慎平と作家の俵万智の合作シリーズだ。
写真と恋愛短歌の組み合わせがユニークな作品である。

「初めてのデートのときに、この本の作品で盛り上がってたんです。」
「ふむふむ。」和葉母まで身を乗り出してくる。
「それが次のデートで、急に・・」
「そんな歌は知らない、って言い出したんですね?」さすが和葉、いいカンだ。

「なるほど。確かに変やなぁ。」平次も認めざるを得ない。
「念のために、作者名を隠してこの本を見せてみたんです。
 この本の写真って誰と誰が撮ったか知ってる?って。」
「彼は何と答えましたか?」
「名前は思い出せない、としか言いませんでした。」

この本の写真担当は、浅井慎平ただ一人。
名前を思い出せないとか言う前に、
写真担当が誰と誰かという問いかけ自体がおかしいのだ。
「しかし、彼はそのことに気が付かなかった・・・・。」
「それで、彼が偽者じゃないかって考えたんです。」

「偽者についてはわかりました。行方不明というのは?」
「彼、仕事が一段楽したからしばらく休暇を取るつもりだったそうです。
 “大物が釣れたんだ”って言ってました。」大スクープを掴んだのだろう。
「それで?」
「しばらく家でのんびりしてるって言ってたから、電話したんです。」
「ところが誰も出なかった。」

「それで悪いとは思ったんですか、彼の下宿に行ってみたんです。」
「下宿に入ったんですか!?」和葉、ビックリ。
「ええ、彼の部屋の合鍵持ってましたし・・・・。」
なんと手際の良いカップルなのだろう。
和葉は長年もたついている自分が腹立たしかった。

「と、とにかく、彼の家はもぬけのカラだったんですね?」
和葉、なんとか冷静になろうとする。
「そういう事です。」厳かにうなづく明日香。

「大体お話はわかりました。その小包はなんですか?」
「今朝、いきなりうちに届いたんです。」封を開ける明日香。
差出人は・・・・・木村雅明とある。

中身は、便箋と風景写真が6枚ずつだった。
「なんや、ただの取材の写真やんか。」手にとって見る平次。
「一見そう見えるんですけど、左下の隅を見てください。」指差す明日香。
・・・・全ての写真の左隅に、小さく白いシミが見える。大きさは1ミリ四方もない。

「何だろ、これ?」
「はい平次、虫めがね。」
「おお、おおきに。・・・・・あかん全然見えへん、小さすぎる。」
「パソコンで拡大しませんか?」明日香も口をはさむ。
「OK。やってみましょう。」三人は和葉の部屋にあがることにした。

「どう平次、できそう?」PC用スキャナーを準備する和葉。
「ああ、大丈夫や。」慣れた手つきでセッティングする平次。
「これが、写真のスキャン出力ですね。」左隅を指差す明日香。
「拡大してみましょう。」クリックするたびに、徐々にシミが拡大される。

2回、3回、4回・・・。徐々に形が明らかになる。
「なんだか、何かの文字みたいですよね?」

5回、6回、7回・・・。ついに限界までシミが拡大された。
元の状態と比べて、縦横共に20倍以上になっている。
「なんだか、拡大しすぎてよく見えないですね。」
シミと元の写真部分が混ざってしまっているのだ。

「コンピュータで画像処理をしてみましょう。」
“画像処理”、“エッジ処理”、“クラスタリング:再起NN法”・・・。
見たこともない言葉の中を、平次はすいすいと選んでゆく。

「さあ、シミの正体が出てくるで・・・・・。」
平次は、印刷のボタンをクリックした。
プリンタのから吐き出される紙に、三人の視点が集中する。

ピーガチャ、ピーガチャ、ピーカチャ・・・・・・。
プリンタの出力に三人は言葉を失った。
くぎで引っかいたような書き方で、こう書かれていたのだ。

「オレヲタスケテクレ」

「・・・・明日香さん。」
「はい。」
「この事件、お引き受けしましょう。」
西の名探偵、服部平次の久々の出動だった。

<第10章:傷>

【2001年6月10日18:30・服部平次帰宅】

平次が奇妙な依頼を引き受けてから一日が過ぎた。
なにやら深刻な顔をして便箋を見つめる平次。
この便箋のどこかに、彼の居場所を示す手がかりがあるはずなんだか・・・。

「ただいまー・・・。」帰宅した父親の声が聞こえる。
「お帰り。」
「平次、ポストにこんなん入ってたぞー。」封筒を差し出す父。

「ああ、おおきに。」寝転んでたソファから起き上がる平次。
父から渡されたのは、「Music−Gift」と印刷された青い封筒・・・???
差出人は和葉のようだ。中身は・・・・1枚のMD?

(和葉のやつ、一体何のつもりや?・・・まあええわ、後で聞いてみればわかるわ。)

「なあ平次?」ネクタイを緩めつつ尋ねる父。
「なんや親父?」
「和葉ちゃんから聞いたんやが・・・・・。」

「ああ、事件の依頼のこと?悪いけど・・・」
「わしがいくら言うても、一度受けた依頼は断らない、やろ?」
「そういうこと。」
「あまり無理するなよ。」
「わあっとるわ。」再び便箋に目を戻す。

「なあ平次、もう一つええか?」
「今度は何?」
「この前、うちの交番に妙な落し物が届いたんや。
 もしかしたら、お前の事件に関係あるかも知れへんぞ。」
「落し物?」
「みょうちくりんな傷のついた、プロ仕様のカメラや。」
平次は思わず、ソファから飛び起きていた。「親父、見せてくれ!!」

翌日の晩、平蔵は問題のカメラを持って帰ってきた。
大阪府警本部長ならではの特別処置の結果であった。
早速カメラに飛びつく平次。

「このカメラなあ、京都の橋のたもとに落ちてたんや。
 シャッターの部分とかへしゃげてるやろ?
 多分、橋の上から落してしもて、壊れたんやろうなぁ。」
「シャッターに血痕までついとるなぁ。」
「ああ、A型の血液とまではわかってるわ。」雅明と一致している・・??

「で、妙なキズってのは?」
「そこのメインのレンズの右下や。」
平次はレンズを眺めてみた。レンズの右隅に小さなキズが7つ並んでいる。

「で、これを拡大してみたらな・・・。」「“オレヲタスケテクレ”の左右逆にしたやつが見えた。」
「その通り。」
「親父、このカメラしばらく借りるで。持ち主に心当たりがあるから。」
「おお、好きにせい。」

<第11章:解読>

【2001年6月14日21:15・平次の部屋】

平次が父からカメラを借り受けて数日が立った。
あの夜から彼は、暗号解読に躍起になっていた。

学校を定時で帰って、すぐに暗号とにらめっこ。
そろそろ体が夜型生活に慣れ始めてきていた。
朝起きれないせいで、大好きな剣道もしばらくお預けのようだ。

彼の机の上には、和葉から送られたMDが一枚。
仕事が終わったら聞くつもりで、あれからずっとほったらかしだ。
「仕事もいいけど、たまには休んでや。」
彼女特有の丸文字がなんともまたこそばゆい感じだ。

“オレヲタスケテクレ”なんとも引っかかる言葉だ。
何かのメッセージを、暗号で伝えようとしているのだろうか。
アルファベット、ローマ字、電話番号・・・。
考えうる変換パターンは全て試してみた。
だが、これという答えは出てこない。

写真のほうからも考えてみた。
6枚の写真はそれぞれ
「NYのジャンボクリスマスツリーの写真」
「イタリアの街角の写真」
「上海雑技団の練習中の写真」
「韓国の靴屋さん」
「ロンドンのカフェ」
「北海道漁港、カニのセリ風景」

地名、写真の撮影方法などから色々と推理を試みてはいた。
撮影者の身長、写っている人や風景から考えうる日時、6箇所の共通点・・・。
しかし、これもまた失敗に終わった。
どうやら、写真のほうは”オレヲタスケテクレ”以外に得られるものはないようだ。

(そもそもなぜ“オレヲ”なんだ?)平次は、ふと疑問に思った。
明日香から聞いたところ、彼は一人で仕事するタイプらしい。
何かの事件に巻き込まれたと考えた場合、やはりそのときも一人であった可能性が高い。
助けてほしい人物が自分ひとりである以上、“オレヲ”と書く必要はないはずだ。

それに、彼が言っていた“大物を釣り上げた”ことも気になる。
恐らく何か知ってはいけない裏情報を掴んで、襲われたのだろう。

裏情報を掴んで何者かに襲われた場合、もっとも有効な手は一つ。
犯人を示す情報を外部に示すことである。
もちろん犯人だって、みすみす自分たちの情報を漏らすはずがない。
きっと、木村がうまくこの中に情報を紛れ込ませているのだろう。

(うーん・・・・。新聞記者か・・・・。)
一体彼なら、どんな情報を伝えようとするだろう。
新聞など情報の伝達に関わるものには、ある常識が備わっている。
すなわち“5W1H”だ。
“いつ、どこで、誰が、誰の、何を、どうした”・・・。


5W1H、5Wと1H、5と1・・・・・!!!!

平次はもう一度便箋を読んでみた。
読める・・・・読める!!!!!!!

「おい親父、大変や!!!すぐにパトカーを用意してくれ!!!」

その後、平次は府警本部に向かう車の中で和葉のMDを聞いてみた。
MDを入れて、電源押して、再生を押して・・・・・。

液晶ディスプレイの文字を見て、平次は驚いた。
そこには、ロックがたった一曲入っているだけだったのだ。

改めてディスプレイを眺める平次の目に、曲名が輝いて見えた。

“ゲンキダシテ”(大黒摩季)



<第12章:作者からのメッセージ(後半編)>

失礼いたします。再び著者の紳助です。
さて、この長きに渡る物語もいよいよ終わりが見えてきました。

後半のテーマはズバリ「暗号解読」です。
今から順番に、誘導形式で問題を出します。
慌てず冷静に、一つ一つつぶしていってください。

では日本国中の探偵の皆さん、準備はよろしいでしょうか?
あなたの英知で、ぜひこの謎をぶち破ってください。
(第1問)
なぜ“オレヲタスケテ”なのか?
なぜ“タスケテ”だけではないのか?
そこから導き出されるキーワードを答えなさい。
(第2問)
第1問のキーワードと“5W1H”。
両者の共通点として浮かび上がるのは、次のうちどれ?
<A>色
<B>数字
<C>動作
<D>形状
(第3問)
木村雅明から中井明日香宛に送られた便箋と写真の小包。
そして、京都で発見されたカメラ。
第2問から得られたキーワードは、次のどれに対応しているのか?

<A>便箋
<B>写真
<C>カメラ
<D>京阪電車
(最終問題)
手紙の真のメッセージは何か?
時間はタップリあります。じっくり考えてみてください。

それでは、以下に問題の便箋の内容を示します。
これと、以前に提示したカメラなどの記述によって
推理に必要な情報は全て用意されたことになります。
よく読んで参考にしてください。

木村雅明から送られた6枚の便箋
お元気ですか?
あの打ち合わせから、もう半年ですね。
例の写真が仕上がりましたのでお送りします。
基本的に、便箋1枚と写真1枚の組み合わせなので
そこのところ、よろしくお願いします。
では、各写真の解説です。

今年のクリスマスの
「スペシャル・カウントダウン」とか言う
イベントの準備風景です。全く持って、派手な装飾ですね、これ。
次の写真いきますね。
なんとも楽しそうな表情の人が多いですよね。
実はこれ、私の後ろのほうに大道芸人がいたんです。

丁度4ヶ月前に、京都で
この人のライブを見たのですが、やっぱりこういう芸当は
イタリアで見るに限りますね。お客さんのノリが違います!!!
次はオススメ!!
ここから気持ちがこもっているせいか
やけに文章が長いです。
ごめんなさいね。

さて、これは上海雑技団の練習風景です。
みんな、実にいい顔してるでしょ?
今の日本にかけているもの、
「ソウル」って言うんですか?
(別にこれ、ダジャレじゃないっすよ。)

そういうものが、ここには流れてます。
その道のプロがこぞって
互いの技を競い合うからこそ、得られるものなのでしょうね。
心から、この取材に出てよかったと思える瞬間でした。
さあ、次はいよいよ韓国ですよ。
ブーツがたくさん並んでいますよね。

今、韓国では高下駄ブーツが流行ってるんです。
丁度日本よりも数年遅れて伝わっているようですね。

写真の右隅に若い店員さんが見えますか?
この人、実は靴屋専属の
「足裏マッサージ」の方なんです。

ただ靴を売るのではなくて
売った後のフォローも考えているんです。

具体的には、靴を買ったときのレシートと引き換えに
30分間マッサージをしてくれるんです。
とっても気持ちが良くなる
夢のようなマッサージでした。

ああ、この感動を皆さんに分けてあげたい・・・。
次の写真は、英国カフェ。
ゆっくりとした時間を過ごしたい人には
ぴったりな場所です。

ただコーヒーを飲むだけでなく
実にさまざまな“おつまみ”が置いてあるんです。

もしかしたら、驚かれたかもしれませんね。
実は、コーヒーの文化が生まれてから実に300年。
バッハやカンタータの時代からの蓄積によって
さまざまなおつまみが出来てきたんです。

大量の薬を運んできて
ずん胴鍋の中で野菜と一緒に煮込み、コーヒーに添えて出す・・・。
なんだか中国の“医食同源”みたいですけど
意外とうまいんです、これが。

是非、次回の取材の際には一緒に行きましょう。
ラストはうちの実家にも関連のある話題です。
ズバリ、ズワイガニ漁です。
ズワイガニといえば、もちろん松前港です。
朝も早いうちから、元気いっぱいな漁師の声で
大変にぎわうそうです。

見てください、このカニの大きさと色つや!!
もう見ているだけで、ヨダレが出てきそうでしょ?

焼きがに、ゆでがに、刺身、そして何と言っても
珍味中の珍味、カニの氷締め!!!!!
もう、体が震えるほどうまいです。

裁きたてのカニをすぐに氷水で締めるんです。
すると浸透圧の関係で、カニの身がプクプク膨れるんです。
こんな珍味を経費でいただけるなんて、実に楽しい職場ですよここは。

というわけで、取材写真でした♪

では、さようなら。
2001年5月 木村雅明 拝

<第13章:平次の推理(後半の正解)>


【2001年8月25日・京都大橋】

カエルの鳴き声もうるさいある夏の夜、平次は京都にいた。
ふと、京都大橋のたもとから携帯電話をかける。
(プルルルルルル・・・。)

「もしもし?あ、平次やけど。準備は?・・・できた。
 OK。よろしく頼むで。」携帯を折りたたむ。

暗号を解いてからはや2ヶ月強。
いよいよ探偵稼業を始めて以来、最大の大捕り物が始まるのだ。



【2001年8月25日23:47・京都三条の料亭】


平次が勝利を確信してからおよそ3時間。
都会の喧騒を忘れさせてくれる、静やかな竹林の一角に1台の車が到着した。
「いらっしゃいませ。」料亭の女将が頭を下げる。
「世話になるぞ。」そういって、後部座席から一人の男が現れた。
彼の名は飯田義明。知る人ぞ知るテロ組織日本支部の幹部である。

「こちらへどうぞ。」
女将は敷地内に設けられた橋を伝って、予約された部屋へと案内した。
この料亭は、東京の「龍水亭」に習って、敷地内に川を設けている。
そして更に・・・・。

「こちらの通路から、お部屋へどうぞ。」
なんと敷地内の通路の上にガラスをはめ込んでいるではないか。
ガラスを通じて足元に見える川の流れがまた風流だ。

「ほほう、これはまた風流やな。」
水の上(正確にはガラスの上)をあるく飯田。
ガラスを通じて伝わる水の冷たさがなんとも心地よい。

通路を渡り終え、彼がついたのはなんとも静かな和室だった。
「お待ちしておりました。」背広の男がすでに下座でスタンバイ。

「おお、高松君やないか。」知ってる顔に思わず緊張も解ける。
京都近辺では名の知れた麻薬ブローカーだ。

「例のもの、もって来てくれたか?」ツバを飲み込む飯田。
「もちろんですよー♪」カバンを取り出す高松。

お互いのカバンを交換し、いよいよ開けてみる・・・。
「おおおお!!!」両者の口から歓声が漏れる。
「ありがとうございます。こんなに高く買い取って頂いて。」
「いやいや、こちらこそすまんね。こんなにたくさんの薬。」

「じゃあ、契約成立、ってことでいいですね?」
「もちろんだとも。さあ、今宵はじゃんじゃん飲むか!!!」
手をパンパンとたたく飯田。京都名物舞妓さんを呼ぶ合図だ。

静かに障子が開き・・・・・入ってきたのは服部平蔵だった。
「え、ええええっ!!!!」驚き慌てる両者。

「フンッ、久しぶりやなご両人。
 高松、医療物取扱法、及び未成年保護条例違反。
 飯田、お前は道路交通取締法、及び刑法231条(拉致監禁)、
 更に業務妨害の罪で逮捕する!!!!!!」
「どう、道路交通取締法!?」
「じゃかましい!!今年の2月に西三荘の道路壊したやないか!!」

その後の詳細はここに書かないほうがいいだろう。
ただし警官と犯人の争いの中で、歴史的価値の高い掛け軸や絵皿が
瞬く間に壊された事だけは記しておこう・・・。

【2001年8月26日01:14・服部平蔵邸】

「いやー、捕った捕った。大漁や!!」いつになくゴキゲンな服部父。
なにせ一日で、麻薬取引の大物とテロ組織幹部を捕まえたのだ。
さてと、平次に連絡したろうかな・・・・。

実は平蔵が逮捕した“テロ幹部”は、木村雅明を誘拐した犯人だったのだ。
読者の皆さんは、“大物を釣り上げた”という木村の言葉を覚えていることだろう。
彼が組織の麻薬取引をかぎつけたので、あっさり拉致監禁されたというわけだ。

彼にとって幸運だったのは、さらされた時に6枚の資料写真を持っていたことだ。
これを楯にして、見事に外部との通信手段を残すことに成功していたのだ。
“私は、この写真に関する打ち合わせを終える事を条件に仕事の契約をしている。
 今、もしくは近いうちに私を殺せば編集部は怪しがるぞ。”

(オレヲタスケテクレ?ああ、あれは何者かに狙われたときの為の作戦です。
 これだけ、キツイ物に触れる業界ですから、みんなあらかじめ防護策は取っているんです。
 実際に掲載するときには、写真の端5mmは使わないですからね。)
これが、無事に救出された直後の木村の談話である。

ちなみに、彼の替え玉として活躍したニセ者は組織捜索と同時に逮捕されている。
なんでも、雅明の持った情報を得るためにわざわざ明日香に接近したのだそうな。
整形までして声まで変えて、全く持ってご苦労なことである。

では、平次がいかにしてこの大捕り物にこぎつけたか説明しよう。
まず始めに手をつけたのは“オレヲタスケテクレ”。

通常、助けを求める場合は余計なことは書かないものだ。
下手に書けば、それだけ組織に感づかれる可能性が増えるからだ。
書いたからには、やはりそれなりの理由があるのだ。

今回、問題だったのは“オレヲ”。
なぜこれをつける必要があったのか。
答えはいたって単純だった。英訳するときに情報を補う必要があったのだ。

“オレヲタスケテクレ”・・・・英語に直すと“HELPME”。
この6文字がどうしても必要だったのだ。
“タスケテクレ”だと“HELP”となり“ME”が抜ける危険がある。

今回用意された便箋は6枚、そしてメッセージが6文字・・。
もうお分かりだろう。各便箋と6つの文字がそれぞれ対応していたのだ。

「H」はアルファベットで8文字目。
「E」は5文字目。
「L」は12文字目。
「P」は16文字目。
「M」は13文字目。

そこで、1枚目の8行目、2枚目の5行目、3枚目の12行目
4枚目の16行目、5枚目の13行目、6枚目の5行目を取り出してみよう。

1枚目・・・今年のクリスマスの
2枚目・・・丁度4ヶ月前に、京都で
3枚目・・・その道のプロがこぞって
4枚目・・・とっても気持ちが良くなる
5枚目・・・大量の薬を運んできて
6枚目・・・大変にぎわうそうです。

すなわち、「12月25日の4ヶ月前に、京都で気持ちよくなる薬が売買される」。
後は、父親の協力を借りて、京阪近辺の麻薬ブローカーを当たればいいわけだ。
そう言って、周囲に関係者に雄弁に語る平次。

(ふふん、平次のやつ女心がわかってないなぁ・・・。)
そう思い、和葉は平次に耳打ちをした。

(もう一つの謎、教えてほしい?)平次の顔色が変わった・・・。

<第14章:和葉の推理(後半の正解2:もう一つの謎)>

【2001年8月26日19:00・ドルチェ・リーヴァ】
事件のドサクサが終わった翌日、和葉はある場所に平次を呼び寄せた。
「よーっし、準備は完了!!早く、平次のやつ来ないかなーっ・・・。」
ふっと背伸びをして彼の到着を待つ。

ここは兵庫県三田市の“阪急NEWグランピア”。
大阪でも話題のレストラン“ドルチェ・リーヴァ”を抱える名門ホテルだ。

ここの売りといえば、ピアノの生演奏、六甲の夜景、
そして何といっても大阪で、いや近畿で一番おいしいフルコース!!!
(今日こそは、平次を口説き落とすんや♪)

17歳の少女、遠山和葉は高らかな希望と野望に燃えていた。

丁度その時、一人の少年がホテルへと到着した。
「なんや和葉のやつ、えらい大げさなとこえらんだなー・・。」
事件の打ち上げなんやったら、簡単な居酒屋でええのに・・。

わけもわからず最上階のレストランに通される平次。
そこで平次は驚くべきものを見ることになる。
「へいじっ♪」

彼の目の前に立っていたのは・・・・、美しい女性だった。
顔こそは普段の和葉と変わりはないが、服装は全く普段と異なっていた。

二の腕、肩、そして両足のラインがすっきりと出るデザインの真っ赤なドレスだった。
ドレスに覆われていない部分が、ドレスの赤さとコントラストとなって際立っている。
(き、きれい・・・・・)言葉を失った平次。どんなもんだと得意げな和葉。

「さあ、食べよっか!!!!」
「お、おう・・・。」
予約したテーブルにつく二人。

「なあ平次、事件の謎聞きたい?」
「おう、聞かせてくれよ。」
「食事が終わったら聞かせてあげるね。」
「おいおい、もったいぶるなよー。」

その後、二人の夕食は和やかな雰囲気で進んだ。
落ち着いた雰囲気、きれいな六甲の夜空、そして澄んだ音色の演奏・・・。
和葉はとっても幸せだった。そして平次も幸せだった。

 「お客様、本日のワインはこちらでよろしいでしょうか?」テイスティングの催促だ。
 「平次、ちょっとやっといてくれる?」和葉はロースとビーフと格闘中。
 「OK.」慣れた手つきでグラスを回し、ワインの香りを楽しむ平次。
(・・・意外とやるやん、平次のやつ。)

「いかがでしょう、お客様。」
「はい、ごっつ美味しいです!!」
・・・和葉は一瞬失神しそうになった。”ごっつ”って何やねん、”ごっつ”って・・・。
「もー平次、これぐらい勉強しといてよー。」
 アタシの彼氏ともあろうものが・・・。いや、まだ彼氏じゃないんだけどね。

「いや、ゴメンゴメン。」ひたすら苦笑い。
 たまにはオシャレに決めたいんだしさぁ。しっかりしてよね、平次。

「お客様、デザートはいかがされますか?」
「じゃあ、これを二つ。」慣れた雰囲気でオーダーする和葉。
 ちょっとお預けを食わされてじれったそうな平次君。
「おい和葉、そろそろええやろ?」
「ああ、謎解きのこと?」
「ええよ。」
そういって、彼女はキャンドルの炎越しに謎解きを始めた。

「いい、平次?単純に考えてね。」
「おお。」
「HELPME、なんやけど・・。」
「あれがどうかしたんか?」
「実は、もう一つ仕掛けがあったんよ。」
そう言って、和葉はあの6枚の便箋を広げてみせた。

「H」はアルファベットで8文字目。
「E」は5文字目。
「L」は12文字目。
「P」は16文字目。
「M」は13文字目。

そこで、1枚目の8文字目、2枚目の5文字目、3枚目の12文字目
4枚目の16文字目、5枚目の13文字目、6枚目の5文字目を取り出してみよう。


1枚目:「お元気ですか?あの打ち合わせから、もう半年ですね。」→「あ」
2枚目:「次の写真いきますね。なんとも楽しそうな表情の人が多」→「い」
3枚目:「次はオススメ!!ここから気持ちがこもっているせいか」→「ら」
4枚目:「さあ、次はいよいよ韓国ですよ。ブーツがたくさん並ん」→「ブ」
5枚目:「次の写真は、英国カフェ。ゆっくりとした時間を過ごし」→「ゆ」
6枚目:「ラストはうちの実家にも関連のある話題です。ズバリ、」→「う」


順番に読むと「あ」「い」「ら」「ブ」「ゆ」「う」・・・!?

「つまり、新聞記者の木村さんならではの茶目っ気も入ってたんよ。
 ・・・並べると、何て読める?」
 平次がふと顔を上げると、心からうれしそうな和葉の笑顔が見える。

「・・・・・・」なるほど。これをやりたくて、俺をここに誘い出したんやな。
「ねえ、言うてよ。」人生最高の笑顔で迫る和葉。
「・・・・・・和葉、出よう。」
無言で彼女の腕を取る平次。

「え、出るって・・・?」まだ料理は途中だよ?
「もちろん、ここを出るにきまっとるやないか。」ヘルメットを和葉に差し出す。
「だから、なんでここを出るんか、って聞いとんの。」
「お前なぁ・・・。」ポリポリ頭をかく平次。
(そないな大それたことを、俺がこんな場所で言えるとでも思っとるんか?)

「けど・・。」
「心配すな、少し外出するだけや。」再度、ヘルメットを差し出す。

「・・・わかった。」メットを受け取り、ドレスのまま歩き出す。

「あの、お客様、どちらへ?」レストラン支配人が駆け寄る。
「ああ、ご心配なく。少しだけ出てきます。デザートは少し待っててください。」
「は、はぁ・・。」
呆然とする支配人を尻目に、和葉たち二人はメットをかぶり駐車場へ向かうのだった。


【第15章:プレゼント】
【2001年8月26日21:45・三田の農村】

平次は無言でバイクを運転した。
「ねえ平次、どこに連れ出すんよ!!」答えない平次。

三田の国道をすこし離れて、少し暗いせせらぎに連れ出す。
あたりは街灯すら見当たらなくて真っ暗だ。川の音しか聞こえない。
タバコを取り出す平次。ついでにライターも取り出す。
「ちょ、ちょっとタバコはあかんて。」たしなめる和葉。

「ええから見とけって。」
タバコに火をつけて、周期的に息を送る。
暗闇の中で、まるで赤信号のごとくタバコの火が点滅する・・・。
そう、まるでアレのように・・・・・・。

「もうすぐやぞ・・、5、4、3、2、1・・・・」
火のついたタバコ、くるくる回す平次。

「ゼロッ!!!」バババババッッ!!
「うわぁっ!!」突然、目の前がまぶしくなった。叫ぶしかない和葉。

数百、数千、いや数万匹もの蛍がいっせいに輝きだしたのだ。
周期的に、青白くほのかな照明を投げかける蛍たち。
見慣れた幼なじみの顔が、ほんの少し違って見える。

「どうや和葉、ここは俺だけが知ってる穴場なんや。」
「すっごーーい・・・。」和葉、ただ呆然。

「・・・・和葉」
「何?」

勇気を決する平次、和葉の耳に口を寄せる。
「一回しか言わへんから、よく聞いとけよ。」
「・・・うん。」
「・・・・・・・・・・・」

本当に小さな声で、6文字の言葉を口にする平次。
そして幸せそうに顔を赤らめる和葉。
ここに遠山和葉の大冒険は幕を閉じたのであった。

「さあ、レストランに帰ろう。冷たいデザートがお待ちかねや。」
「そやね!!」

【最終章:デ・ジャブ】

「愛してる。」
人はなぜ、この言葉を口にするとき優しくなれるのだろう。
人はなぜ、この言葉を口にするためにずっとずっと遠回りしなければならないのだろう。
どうしても言いたくて、けど言えなくて。だからこそ絶対に伝えたくて・・・・・。

これは、そんな思いから始まったある事件をつづった物語である。

(本作品、前編冒頭より)


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