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【2月13日・金曜日22時30分】 「よっしゃ、準備完了っ!!」 夜遅く作業を進めていた「少女」は満足げな表情で、その手を止めた。 彼女の手の内には、一枚のチョコレート・・・・。 そう、明日はバレンタインデー。 最近、いささか子供じみてきたイベントだが せっかくのチャンスだ、活かさない手はない。 ドサクサにまぎれて、サラッと渡せばいいのだから。 もう、私は、去年までの私じゃない。 一年ごとに悔しい思いを重ねてきて、成長したんだから・・・。 そう、自分に言い聞かせてみる。 (平次の奴、どんな顔するんやろうなあ・・・・) ふそ、そんなことを思い浮かべては顔のほころぶ和葉。 「バレンタインデー」その日はもう、目前にまで迫っていた。 彼女は、部屋の電気を消し、ベッドへ入った。 もう胸がドキドキしている。はたして眠れるだろうか? (待っててや、平次、ビックリさせたるからね。) 彼女は、枕元の「彼の写真」にキスをして眠りに入った・・・。 【同じ頃、東京毛利探偵事務所では・・・・・・】 「ようしっ、これでOK!!」 やはりこちらでも、来るべき時に備えての準備が進んでいた。 冷蔵庫の奥に隠したチョコレートを見て、微笑む蘭。 かねてからの計画は、これで完璧だ。 (後は・・・・・・・・フフフッ)思わず顔がほころぶ。 そして、蘭はやや浮き足立ったステップで、自分の部屋に戻っていった・・・。 【夜が明けて、2月14日土曜日、大阪遠山家】 「な、な、な、なななななな、ないーーーーーー!!!!!」 朝起きて、和葉は早速パニックに陥っていた。 無いのだ。あれだけ準備して作り上げたチョコレートが。 確かに昨日寝る時に、自分の部屋の机の上においていたのだ。 だが目が覚めると、忽然と消えている・・・・・・。 (どないしよう、せっかく、平次の好みも考えてこしらえた ホワイトチョコやったのに・・・。待てよ、まさか・・・) 1階へと駆け出す和葉。「犯人」の心当たりがあったのだ。 「なー、お母さん、昨日私の部屋に入った?」台所の奥に問いかける。 「いや、入ってへんけど?何かあったん?」問い返す母。 「い、いや、何でもない。ただ、ちょっと気になって・・・。」 「なんやの、もう、変な子やね。」思わず微笑む母。 やはり、母ではなかったのか? 「あ、そうや。」 「どないしたん、お母さん?」 「平次君へのチョコやったら、犬の散歩のついでにポストに入れといたよ。」 「ええええええええ!!!!!!」 「何よ、朝から大声出して。」 「いらんこと、せんといてよ!」 「ええやんか、どうせ渡すんでしょ?」 「別にあいつに渡すとは決めたわけちゃうもん!!」 「なら、誰にわたすん?」 「ほっといて!!!」怒りのあまり、ご飯をかき込む和葉。 【さてその頃、東京では・・・・・・・】 「フヮーーー・・・・」コナン少年、お目覚めである。 なんとも目覚めの悪そうな顔だ。まあ無理もない。 今日はあのバレンタインデーなのだから。 (あーあ、寿命1日縮めていいから、明日にワープしたいぜ・・・) かなわぬ願いを思い描く「工藤新一」。 スゴスゴと、食卓へと向かう。 「あ、コナン君、おはよう。」蘭の声がする。 部活があるわけでもないのに、もう制服に着替えている。 いや、今日ばかりは「戦闘服」と呼ぶべきだろうか。 (ハー・・・・・・・・)思わずため息を吐くコナン。 長い付き合いだ。大方の見当はついている。 低血圧なくせに、今日はやけに元気が良いし、昨日は昨日で 何度も冷蔵庫を覗いてるし・・・。十中八九間違いない。 「行ってきまーす!!」食事中のコナン少年を尻目に 元気良く飛び出す蘭。新一は思わず頭を抱えていた。 (博士、俺そっくりのロボットでも、早く発明してくれよ・・。) 「ジリリリリリリリリリ!!!!!!」 そこへ、少し旧型の黒い電話が鳴り響く。 音といい、場所といい、どうやら事務所の電話のようだ。 こんな朝早くから、何事だろう? 「はい、毛利探偵事務所です。」コナンが取る。 「おお、工藤、助けてくれ!!!」平次のようだ。 「おいおい、どうしたんだ、こんな朝早くから?」 「なあなあ、工藤、聞いてくれ、緊急事態や!!」 「だから、どうしたんだよ?」 「か、和葉が・・・・・、その・・・」 「なんだよ、はっきり言えよ?」 「和葉がチョコレート置いていったんや!!」 「・・・・・・・・・・・はあ?」呆れるコナン。 「なあ、工藤、俺どうしたらええやろ?」 「どうするも何も、良かったじゃねーか。もらっときなよ。」 「そんなあっさり、突き放すなや。これまでこんな事なかったから 正直、もうどうしていいかわからんのや。」 「おい服部、まさか、初めてもらったのか?」 「ああ、そうや。たのむ、助けてくれ!!!」 「自分で頑張れよ。」そう言って、電話を切るコナン。 「おい待てって、おい、工藤・・・・・・」 彼の呼びかけもむなしく、電話は切られた。 全く・・・・、冗談じゃねーぜ、こっちは貰えずに困ってるのに・・・。 少しふてくされる新一。なんとも大人げない。 さてと、まだ時間があるし、飯でも食い直すかな・・・。 そう思い、冷蔵庫を開ける新一。「・・・・・・・・・アレ?」 実は、あのチョコがまだ残っていたのだ・・・。 【東京、毛利蘭の通う高校・・・・・・】 いつごろ気付くのかな・・・・。そんなことを思い 彼女はソワソワしていた。なにせ、今ぐらいしかチャンスが無いんだから。 彼女は、園子のヒヤカシを聞きながら、そんな事を考えていた。 【そのころ、大阪、寝屋川高校では・・・・・】 「・・・・・・・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・・・・・・」 2年D組の教室は、熱い沈黙に包まれていた。 (服部、イケッ・・・・!!!) (今がチャンスだ・・!!!!) (和葉、ファイト!!) 実に様々な暗黙のメッセージが教室中に流れている。 廊下を通りかかった生徒も、思わず足を止めるほどの雰囲気である。 実は、このような事態が発生したのは、以下のようなわけだったのである。 まず、真っ先に教室に来たのは和葉だった。 そして、友人が来て、話をしていて、そのうちに段々と 教室内で、「水面下のカケヒキ」が始まり出して・・・・。 ここまでならば、よくある光景である。だが、ここからが違った。 平次が、到着した直後にこう言い放ったのである。 「和葉、ちょっと顔貸してくれ。」 そうして、人気の無いところへと消えて行く二人・・・・ 当然、クラスメートは大騒ぎとなった。 あーんな話や、こーんな事をしてるだろう、と憶測が飛ぶ。 と、5分ほどたって二人が帰ってくると、和葉が泣いている・・・? 静まり返る教室。思わずクラスの男子が、服部と小さな声で話をする。 「おい、服部、お前何やったんだよ?」 「・・・正直に言うただけや。」 「何?」 「いらんことするな、って言うたんや。」 「お前、それひょっとしてチョコレートの事か!?」思わず大声になる。 あまりのことに、冷たい視線が平次に集中する。 「ああ・・・・・、そうや。」重たくうなずく平次。 「服部君、なんでそんなことするんよ?」ついに女子が怒り出した。 「しゃーないやろ、そうとしか言いようがなかったんや!」 「しゃーないこと無いわ!!服部君、人の気持を何やとおもってるんよ?」 そうだそうだと言わんばかりに、騒ぎ出すクラスメート。廊下まで響く騒ぎである。 「おい、みんな落ち着けや!!」異常事態に慌てる平次。 しかし、もう群集の怒りは収まりそうに無い。 「あんた、自分のことを何様と思ってるん!!!」 「推理ばっかりやってるから、女の気持がわからんのや!!」 「和葉は、本気で服部君が好きなんよ!!」 「もうー、ええから、黙れーーーーーーーー!!!!」 5分ほど過ぎて、ようやく、教室の騒ぎも静まってきた。 和葉に詰め寄る平次。「おい和葉、どないしてくれんねん、この騒ぎ?」 「・・・・・・・・・・・」相変わらず沈黙を続ける和葉。まだ泣いてるようだ。 「おい、なんかしゃべれや。」せっつく平次。早く事態を収拾しないとまずい。 「・・・・・・それだけ?」 「おい、今、何言うたんや?」 「言いたいことは、それだけか!!!!」 そう言って、和葉は平次に殴りかかった。 (ヤバイッ!!!) とっさに、左にかわし、右の手首をつかむ平次。 ちょうどダンスを踊るような体勢に持ち込んで行く。 しかし、机と机の隙間が狭すぎたため、次の瞬間、二人は 和葉を下にして、机の上に寝転ぶようになっていた。 体と体が、そして互いの顔が限りなく接近して行く・・・・。 (オォォォォォォォ!!!)思わぬ展開に色めきたつ教室。 ・・・・・・・・・・そして、「熱い沈黙」となったのである。 ・・・・・教室内に、数秒ほどだろうか、沈黙が流れた。 そして、体を離す二人。固唾を飲んで状況を見守る周囲。 パァァァンーーー!!!!!!! 豪快な平手と共に、駆け出して行く和葉。 そして、左頬に豪快な手形を刻み、立ち尽くす平次・・・・。 思わず周囲は彼に集中砲火を浴びせた。 「今のは、やっぱり触れとったんか?」 「じゃあ、やっぱりキスしたことになるの?」 「キスの味はどうでしたか?」 いささか子供じみた質問に対しても、彼は終始黙っていた。 いや、黙るしかなかったのである。 なにせ彼は、接近直前にすでに失神していたのだから・・・・・。 【東京、毛利蘭の通う高校】 プルルルルル・・・・・。 休み時間に蘭の携帯が鳴り出す。 「はい、もしもし・・・・・。ああ、お父さん?」 「おい蘭、なんなんだ、あのマネは?」 そう言って冷蔵庫のチョコをほうばる小五郎。 「お母さん、今日出張で日本にいないのよ。だから 代わりに渡してくれって、頼まれてたの。」 「ケッ、冗談じゃねえ!!ちょっと口直しに麻雀行ってくっから 晩飯、俺の分は無しでいーぞ。」 「お父さん!!!!」 そして、更に数分後・・・・・・・・・。 プルルルルル・・・・。またも携帯が鳴り出す。 「もしもし・・・・、新一!?」 「よー蘭、久しぶりだなー。」 「”久しぶり”じゃ、ないでしょ!!」怒りが爆発する。 「ごめんごめん。ああ、そう言えば、さっきコナン君と会ったんだけど なんか嬉しそうにしてたぜ。ありがとう、って言ってたよ。」 「あ、そうだ。新一、今日は戻ってこれそうなの?」 「ゴメン、今日も無理なんだ。」 「ふーん・・・・、わかったわ。じゃあチョコは無しって事で。」 「お、おいおい!!」 「冗談よ、冗談。新一の家のポストに入れといたから後で取りに行ってね。 早くしないと溶けちゃうからね!!」そういって、微笑みをもらす蘭。 もちろん、この日の夜、毛利家から一人の少年が雪の中を 一往復しては、ダッシュで帰ってきたことは言うまでもない・・・・。 |