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(・・・・・・あれ、ここ、どこやろ?) 気が付くと、ポニーテールの少女は、奇妙な空間に立っていた。 暗い。暗くて何も見えない。わずかな光も見出せない。 なのに、自分の姿だけは、はっきりと見てとれる。 まるで、自分だけがスポットライトを浴びているかのように。 どこからか光が来ているのか、とも思ったが、どこにも見当たらない。 そこは、一切の音の排除された、無機質な空間だった。 「静か」・・・?いや、そう呼ぶには、ここは余りに不気味すぎる。 「何もない」のではなく、「何か以外は、一切存在しない」のだ。 彼女は、それを直感的に感じ取っていた。ここには何かある。 なにか、自分が決して触れてはならない何かが・・・。 一体、ここはどこなのだろう? どうして、こんな所に来てしまったのだろう? 突然放り出された環境に、彼女はただ立ち尽くすしかなかった。 と、その時、突然向こうに、見覚えのある姿が浮かび上がった。 「平次!!」 彼女は、声の限りに叫んでいた。 「よー、和葉、良う来てくれたなー。」 平次と呼ばれた青年は、いつも通り明るく、彼女に近づいてきた。 その顔は、いつもの見慣れたものと違い、すこし大人びて見えた。 センスの良さからか、白のタキシード姿がなかなか似合っている。 「平次、ここどこなん?私、なんでここにおるの?」 彼女は、不安げに平次に尋ねた。ここがどこなのかは知らないけど もう、彼女はこんな所にいたくなかった。 なんだか、早く出ないと、二度と元に戻れないような気がするから。 自分が、自分でなくなってしまうような気がしたから・・・・。 『だから、こんな所、早く帰ろうよ』 少女がこう言おうとした時、平次は、信じられない言葉を返してきた。 「何ゆうとんねん、俺の結婚式を祝いに来てくれたんやろ?」 「えっ・・・・・・」雷に打たれたように、凍りつく和葉。 「ほら、あれ見てみ」平次は、20mほど先の空間を指差した。 すると、さっきは闇でしかなかったはずの部分に 信じられないものが浮かび上がっていた。 森の中に建てられた、白い教会。そこで二人を待つ参列者。 高校の同級生や友人達、そして、平次の両親。 そして、平次の登場を待つ、ウェディンスドレス姿の女・・・・。 「あ、あの人は・・・・・?」和葉は震える声で彼女を指差した。 「『工藤』。俺の彼女や。まあ、これからは嫁さんになるんやけどな。」 平次は、照れくさそうに、顔をかいてみせた。 そんな・・・・・・・・・・・・・・どうして・・・・・・・・・? どうして私じゃないの・・、他の女と結婚なんかできるの? 私、何か言った・・・・?、平次に嫌われること、したの? 彼女の中で、彼女の全てが渦を巻いていた。 別に、結婚だけが人生の全てじゃない。そんなことわかってる。 だけど、あいつが、平次が結婚するんだとしたら・・・・・・・ 平次のことを幸せにしてやれるんだとしたら・・・・・・・・ 世界でたった一人、平次を幸せにできる女といえば・・・・・・ 「そんなん、私しかおらへんやんか!!!!!!!」 彼女は、教会に向って突進していった。 そうだ、こんな結婚、許されて良いわけがない。 きっと何かの間違いなんだ、きっと、きっと・・・・・!!! 「うぉぉぉぉぉりゃああーーーーー!!!!!!!!!」 少女は、ドレスの「新婦」に突っ込んでいった。 許さない、絶対に許さない!!! 平次を幸せにしてやれるんは、この私しかおらんのやから!! 式なんか絶対に起こさせない、ぶち壊しにしてやる。 少女は『工藤』の胸ぐらをつかみ、全ての力を込めて叫んだ。 「他の人なんか、絶対に認めへん。平次と私が結婚するんや!!」 緊急事態に、平次が飛んでくる。 「おいやめろ、やめるんや、和葉!!」 和葉、ついでに平次にも突っかかった。 「平次、私と、私と・・・・・・・・・」 「な、何や、何が言いたいねん?」 「私と・・・・・・・・!!!!」 和葉が「ケ」と言おうとしたその時 闇の世界に、横方向に一条の光が射し込んできた。 そしてその光は、中央から徐々に上下へ膨らんでいった。 そう、まるで、きつく閉じていたまぶたを開いたかのように・・・。 「あれ、ここ・・・・・・・・どこ?」 気が付くと、またもや違う状況になっていた。 ただ、こんどは、やけに周囲に現実味がある。 明け方の鳥のさえずり、窓から射し込む朝日、そして 見慣れた、平次家の客間の風景・・・・・・・。 そう、今は7月18日、日曜日。 昨日、みんな留守だと言うので、上がり込んで泊めてもらったのだ。 それで、一緒に料理作って、一緒に食べて、TV見て、 それで、平次が部屋に上がって、私はソファーで寝て・・・・。 平次といちばん一緒にいられる空間なのに、あんな夢の後だと なんだか、妙によそよそしく感じられるから不思議だ。 「よお、起きたか。なんかすごい夢見とったみたいやな。」 キッチンから、聞きなれた声が聞こえてくる。 「平次・・・・・・・・・・!!!!」 「おい、大丈夫か?汗、ビッショリやぞ。着替えるか?」 そう言って、平次は自分のTシャツを投げてよこした。 「ねえ、ひょっとして、今の・・・・・聞いてた?」 新しく着替えたTシャツから、少しだけ顔をのぞかせて聞いてみる。 平次のシャツは、やっぱり自分には少し大きい。 「何を?」特に表情も変えず、聞き返す平次。 「だから、夢のこととか、さ?」 「いや、なーんも、聞こえんかったわ。ずっと俺の部屋におったから。」 「あ・・そう。」少しがっかりした。けど、ちょっとホッとした。 (こんなん、平次には、死んでも言われへんもんな・・・・・・・。) いつかは言わなくちゃいけないけど、まさか、まさか・・・・ね? まさか、手をつないだことも、キスもしたことないのに、 プロポーズまがいのことなんか言うわけないよね?そうだよね? 和葉が、自分の希望的観測を確信へと持っていこうとした時、 平次が、言い放った。 「そういや、さっき、何て言ってたんや?すごい大声やったけど。」 「・・・・・・・!!!!!!!!」 「どないした、顔真っ赤っかやぞ。」 「なんでもない、なんでもない!!」ぶんぶんと首を振る和葉。 「・・・・そうか、俺の勘違いやったんやな。それならええんや。」 笑顔でキッチンに戻って行く平次。 彼は、二人分のコーヒーを手に、和葉の眠っていたソファーへ腰掛けた。 二人して、同時にコーヒーをのみ出す。部屋に沈黙が流れる。 家には、今二人だけ。明け方のコーヒー。そして隣り合う二人・・・。 バツが悪くなり、コーヒーをテーブルに置こうとする和葉。 しかし、平次もまた、同じタイミングで、カップを置こうとしていた。 「なんや、和葉、マネすんなや。」 「そっちこそ。」 「じゃあ、飲め。」 「わかった。」売り言葉に買い言葉。 一気に飲み干す和葉。そして、それを確認して これまた一気に飲み干す平次。 彼がカップを置いた瞬間、服部家の客間に再び沈黙が訪れた。 「ところで、今日、おまえヒマか?」 「え・・・・・、急にどうしたの?」 「ほら、親父達が出かけとるって言ってたやろ? 実は今日の夕方の便で 伊丹に降りる予定なんや。それで、迎えついでに、神戸にオープンした 【マリンフレンドパーク】、行こうと思ってるんやけど、どうする?」 「ええやん、行こう行こう!!」思わず、笑顔がこぼれる。 「ほな、おばちゃんに言うてこいや。ちょっと出かけてくるからって。」 「うん!!」すぐ隣の、自分の家に駆け出す和葉。 平次はそんな彼女が、たまらなく愛しかった。 確かにかなわん女やけど、あいつ、結構かわいいもんな。 そうや、今日のデート、ちょっとルート工夫して 映画館でも行ってみようか。あいつもきっと喜ぶやろうしな。 「OKだって!!!」和葉が息を切らせて帰ってきた。 「よっしゃいこか!」平次がすっくと立ちあがる。 「うん!!」和葉も、準備に取り掛かった。 着替えと、荷物の片づけの為、和葉は、いったん家に戻った。 一番大好きな服に着替えながら、和葉は一人、さっきの夢を思い出していた。 内容が内容だけに、さすがにちょっと赤くなってしまう。 待っててや、平次。いつか、きっといつか、私が平次の事を 一番幸せにしてあげられるってわかったら、ちゃんと言うからね。 「私と結婚してください」って・・・・・・・・・ね!!!! 「和葉ー、平次君が呼んでるよ。」 「あー、もうちょっと待ってー!!!」慌てて着替えを済ませる。 「おっそいなあ、何やっとんねん。」 「ごめんごめん、さ、行こう!!」 二人並んで、朝の街を歩く二人。朝もやの立ち込める風景を見ていると 昼間の喧燥が嘘のようだ。 「なあ、和葉。おまえ、何か欲しいものあるか?」 「そーやなー、ない事もないけど・・・・・・。」 珍しく、いたずらっ子のような笑顔で、答える和葉。 「何や?・・・まさかダイヤの指輪とか言うなよ。」 「これ!!」和葉は、そっと平次の右手を握り締めた。 「か、和葉・・・・。」 「今日ずっと、このままやで。」彼女は笑顔で、平次に宣言した・・・。 |